新型コロナウイルスによる初回の緊急事態宣言発令から1年 。経済の先行きはいまだ不透明で不確実性の高い時代が続く。喫緊の課題が山積している企業の間で、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進の機運は日ごと高まっている。あらゆる企業がDXの恩恵を受けるためにはどのような取り組みが必要なのか。そのヒントを探るべく、KDDIはオンラインセミナーを開催した。
オンラインセミナーは「KDDI SOLUTION DAY 2021 ~不確実性の高い時代のビジネス共創とDX~」と題して、2021年3月12日に配信。全13講演で構成され、セミナー参加者は興味のある講演を自由に視聴することができた。社内外から15名が登壇し、それぞれの専門分野で培われてきた知見を参加者と共有、本記事ではその一部を紹介する。
不確実性の高い時代に、新たな価値創出の光明を見出す
基調講演テーマは「不確実性の高い時代のビジネス共創とDX」。
KDDI サービス企画開発本部長の藤井 彰人と、東京大学大学院 情報学環 准教授の高木 聡一郎氏が、「DXを加速するために必要なことは何か」を考察した。
講演の冒頭、藤井は昨今のコロナ禍を鑑みて、これまで世界が危機的な状況に陥ったとき、ビジネスにどのような変化が起こったのかを振り返る。
「2001年にアメリカで同時多発テロ事件が起こったとき、旅行・航空関係の需要が急落した一方で、監査システムやセキュリティなどのテクノロジーが大きく進化したとされています。 また、中国で2002年ごろに重症急性呼吸器症候群(SARS)が発生した際も同様で、eコマースが急激に広がりました。危機によって既存技術の進化が後押しされたのです」
そうした過去の事例を踏まえ、藤井は逆風が吹く今こそ、ビジネスを根本から見直すべきだと力を込める。
「コロナ禍から1年、我々は何が一時的な変化で、何が持続的に拡大していく変化なのかをビジネスの観点から見極めていかなければなりません。そして今後、デジタルをうまく活用した企業が、業種の壁を越えて拡大していくことになるでしょう」
藤井 彰人
さらに、日本企業におけるIT予算の用途についての調査結果を紹介。それを踏まえ、デジタルによる多面的な視点から新規ビジネス創出を行う「ビジネスIT」と、既存業務の効率化やデジタル化を進める「コーポレートIT」を融合してDXを推進していくことが日本企業にとって重要だということを説いた。
「従来はビジネスITのみがDXだと捉えられていました。しかし、ニューノーマル時代において、変化に対応して事業を成長するためには、その足腰となるコーポレートITも含めDXを加速させていく必要があると考えます」
DX推進を加速させるデフレーミング概念
では、具体的にどのような方向でDXを進めていけばよいのか。
基調講演の後半では、高木氏が「デフレーミング概念」から、DXの本質をひも解いた。「デフレーミング」とは、高木氏が考案した造語。「伝統的なサービスや組織の“枠組み”を越えて、内部要素の組み合わせや、カスタマイズをして、ユーザーのニーズに応えること」と定義されている。
高木氏はDXによって、デフレーミングと関係する分野である「事業ドメイン」「ビジネスモデル」「組織運営・働き方」に変革が起こると提言する。
高木 聡一郎氏
「事業ドメイン分野では、従来の業界や事業の内部要素を分解して柔軟に組み合わせる『分解と組み替え』が起こります。例えば、中国発のメッセンジャーアプリ『WeChat』には送金機能が備わっており、これは『メッセージング』と『送金』の2つの要素を組み合わせた好例です。
ビジネスモデル分野では『個別最適化』が進んでいます。画一的な製品を大量に生産するのではなく、それぞれのユーザーにパーソナライズ、カスタマイズしたサービスを届けることが重視され、これによりユーザーとの関係性が持続できるのです。
また、組織運営・働き方分野では、企業という枠を越えて個人が活躍する流れに移行しています。自律性と柔軟性への希求が高まり、フリーランサーが増加しているという調査結果もあり、それに伴って個人の活動を支えるコワーキングスペースのようなコミュニティが重要になってきます」
最後に次の言葉でDXを検討する企業にエールを送った。
「デフレーミングは、新しいアイデアを創造するフレームワークです。不確実性の高い時代だからこそ、今までの思い込みを脱し、各分野において新たな結合を考えることが大切です」
高木氏の講演を受けて、藤井は次のように意気込みを語る。
「我々の事業も、得意分野を持ち寄ることでお客さまの期待を超えるサービスを提供していきます。そして、ビジネスや人をつなぎ、次のステージへと後押しするようなDXパートナーを目指します」
およそ4時間にわたって配信された「KDDI SOLUTION DAY 2021 」。
DX推進がいまだ過渡期の日本において力強く歩みを進めるためには、本イベントで取り上げたように業種・業界の垣根を超えたパートナーとの「共創」が欠かせない。
KDDIは今後もDX推進に必要な技術を先鋭化させ、パートナーの伴走者となってニューノーマルの時代を切り開いていく。
示唆に富んだ数々の講演は、目まぐるしく変化するビジネスシーンの道しるべになってくれるはずだ。