KDDIの法人事業は「お客さまとともに考え、ともに歩む」という言葉を掲げている。
背景には、お客さまのビジネスの成長に貢献するパートナーでありたいという強い思いがある。
そのための取り組みの1つがNPS (Net Promoter Score) を基にしたエンゲージメント向上だ。
個々のお客さまの評価や期待を起点に全社的な改善サイクルを回し、 お客さまのビジネスに対する理解と提供価値の向上に努めている。
―― KDDIの法人のお客さま向けページに「お客さまとともに考え、ともに歩む」という言葉が掲載されています。
どのような思いがあるのでしょうか。
森 お客さまのミッションや課題に共感し、ビジネスの成功を支援するパートナーになりたい──。このような思いを言葉に込めました。
お客さまがKDDIのサービスを利用するのは、あくまでもビジネスのゴールにたどり着くためです。例えば、多くのお客さまが取り組んでいるDX。変革を実現するには、ITやネットワークなどが必要ですが、それらを利用すること自体が目的ではありません。
そのため、KDDIがお客さまから選ばれ続けるには、お客さまと同じ目線を持ち、徹底的に寄り添い、課題を共有し、解決に向けて一緒に取り組む必要があります。もし課題が明確になっていなければ、そこから一緒に考える。そしてどのようにすればゴールに到達できるかを一緒に検討し、そのための取り組みにチャレンジし、互いに成長していく。これこそがKDDIのあるべき姿だと考えています。
森 敬一
実は私は前職でKDDIの顧客の立場でした。その頃の経験を思い出して、お客さまがKDDIに何を期待しているかを徹底的に考えました。
特に現在は、新型コロナウイルスの感染拡大によって、将来像を描きにくい経済環境になっています。
ですから、ともに考え、ともに歩むことが、さらに重要になっていると感じています。
――ともに考え、ともに歩むためにどのような取り組みを進めていますか。
森 まずはお客さまがどんな課題を抱えているのか、KDDIに何を期待しているのかを知らなくてはなりません。
そのためにNPSを軸にした取り組みを進めています。
NPSとは、企業やブランドに対する愛着や信頼を推奨度として測る指標で、お客さまとの関係性の見える化やエンゲージメントの向上に役立てられています。似たような指標にCS (お客さま満足)があり、KDDIも定期的にCS調査を活用しています。CSがデータを集計してお客さま全体の満足度をスコアリングするのに対し、NPSは個々のお客さまに当社自体、お客さま接点、製品、サービスなどをご評価いただき、それをスコアリングするという違いがあります。どちらも大事な指標ですが、お客さまとともに考え、ともに歩む上では、個々のお客さまに真摯に向き合うためにNPSを活用しています。
――具体的には、どのように活用しているのでしょうか。
那谷 KDDIは10年以上前からお客さまの声を基にサービスを改善する仕組みを構築してきました。通信は重要なビジネスインフラですから、信頼していただける高品質なサービスを提供するため、ご要望を反映していく改善活動が必須です。
NPSを活用した取り組みでも同様に、アンケートを通じて寄せられたご要望や期待に対して組織的に改善サイクルを回す体制を構築しています。改善対象となる領域は、KDDI 法人営業担当者やフロントSEが対応できるものから、全社的に対応が必要なものまで幅広くありますが、どのようなものにも迅速に取り組めるようにしたいと思っています。NPSを採用したのは2016年からですが、すでに数万社のお客さまから評価をいただき改善へとつなげてきました。
那谷 雅敏
――改善につなげるためにどのようなことを意識していますか。
那谷 最も意識しているのは全社的な意思統一です。NPS導入当初は、NPSを「自分に対する評価」と考える営業担当者もいました。
そのため、取引があまりうまくいっていないお客さまに対しては、アンケートを依頼することを渋ってしまう場面もあったようです。
しかし、社内での啓発活動を続け、今ではNPSは法人事業全体の評価であり、会社の価値を高めるために欠かせないものと認識されています。お困りごとやKDDIへの期待、ご要望をお持ちのお客さまがいたら、それはむしろ改善や新たなご提案のチャンスだと考えています。
例えば、以前あるお客さまから「請求書が見にくい」というご要望をいただきました。当然、営業担当者だけで対応できるものではありませんが、関連する複数の部門が連携して、KDDIの請求書フォーマットを見直し、最終的に変更に至りました。
NPSが低ければ改善する。これは当然ですが、NPSが高かった場合も、なぜ高いのかを分析して共有します。
こちらも「担当者個人の手柄」で終わらせてしまうのではなく、成功体験をノウハウとして全社で活用していくためです。
――現場をはじめKDDI全体の意識が変わってきているのですね。
那谷 個人ではなく、組織で取り組もうという意識が高まっているのは間違いありません。以前、通信事業は市場シェアの拡大が最優先で、営業担当者は「足を使って稼げ」というように、より多くのお客さまに会うことが大切だという時代がありました。しかし、今重要なのは市場シェアの拡大ではなく、個々のお客さまのビジネスに貢献することであると、誰もが考えるようになっています。
そのため、今年度から営業の新しいスローガンとして「いざ、現場へ、その先へ」を打ち出しています。ここでいう現場とは、製造業のお客さまなら工場、小売業のお客さまなら店舗といったようなお客さまのビジネスの最前線のことです。訪問件数ではなく、より深いところまでお客さまを理解することを目指す。プロジェクトに関わる社員が積極的にお客さまのビジネスの現場に足を運び、ビジネスを肌で感じ、どんなことに困っているかを知った上で、それを解決する提案を行っていくためのスローガンです。
――ともに考え、ともに歩む姿勢が成功につながった事例をご紹介ください。
那谷 道路舗装などを手がける大成ロテック様と行った、アスファルト合材の受発注システムの共同開発があります。道路の舗装工事は夜間、休日に実施されることも多く、あらゆる時間帯で製品の受発注に対応する必要がありました。ここでの課題は、労働力不足の深刻化により現場と工場の両方での負担が大きいことです。
そこで、クラウド上に受発注システム「アスプラネットシステム」を構築し、工場側の受注情報や出荷情報の確認はもちろん、現場からの発注、見積書の作成依頼などもクラウドで行えるようにしました。お客さまの困っていた課題を理解し、効率化、省人化、利便性の向上に貢献した、まさに「ともに考え、ともに歩む」を形にできた好例だと思います。
プロジェクト終了後、大成ロテックの社長様から「ありがとう」と言われたことが強く印象に残っています。そして現場では、ご提供中の携帯電話も無事に継続利用いただけることになりました。まさに本業のパートナーとして認めていただけた瞬間だと感じました。
実際、大成ロテック様からは、次のチャレンジに向けたご相談をいただいています。
――今後の展望をお聞かせください。
那谷 お客さまの事業の目的を把握してサービスをご提供することで、KDDIそのものに価値を感じていただけるのではと思っています。
これからも多くの「ありがとう」をいただけるよう、お客さまの現場を知り、ご要望に耳を傾け、お客さまの事業に貢献していきます。
そしてお客さまの事業の成長がKDDIの成長に結びついていく、そのような事業モデルを確立していきたいと思います。
森 国内の現状を見渡すと、地方には地方の、都市部には都市部のさまざまな課題があり、種類も教育、医療、介護など多岐にわたります。それらの社会課題を企業や自治体とともに解決していくことがKDDIに課された大きな使命です。
お客さまとともに、未来を見据えた挑戦を行い、社会の持続的成長に貢献するサービス、製品を提供し続けていきたいと考えています。
ぜひ今後のKDDIにご期待ください。