2021年6月、KDDIは主要鉄道路線の「鉄道路線5G化」宣言を行い、山手線と大阪環状線の全駅で5Gネットワーク構築が完了したことを発表した。そのなかでも「大阪環状線」は5Gネットワーク拡大の試金石となる重要なエリア。どのような困難に遭遇し、どう乗り越えたのか。KDDIの企画担当者と実際の5Gエリア構築を進めるKDDIエンジニアリング担当者に話を聞いた。
――大阪環状線の5Gエリア化における担当業務を教えてください。
相馬 技術企画を担当しています。弊社内で議論された要望を踏まえて技術的な課題やコスト、必要な装置を検討し、建設部門と連携して5Gエリア化を進めています。
平 関西エリア全体の品質向上を担当しました。大阪環状線の5Gエリア化状況を現地調査により把握して、建設部門や営業部門と共有し、基地局の建設促進や周辺基地局の設定調整を行いました。
山下 基地局とネットワークを結ぶ回線の開通業務を担当しました。工事会社との調整、スケジューリングなどを主に担当しています。
市川 基地局の設計と現地確認業務を担当しました。ガイドラインに沿い基地局が建てられているかの確認や、基地局の工事を行う工事会社の窓口も務めています。
――5Gエリア構築において、大阪環状線をエリア化することになった理由を教えてください。
相馬 匡靖
相馬 4G時代から、鉄道路線や主要駅など人が多く集まるところからエリア化を進めてきました。5Gの特性を生かした利用方法として高画質動画の視聴が挙げられ、特に電車の中で見る方が多いことが分かっています。
また、山手線や大阪環状線のように利用者が多く、注目度が高いところからエリア化を行いたいという思いもありました。それらを踏まえ、両路線の5Gエリア化をいち早く完了することができました。
平 大阪環状線は関西でも特に多くの人が利用する路線です。エリア品質向上の担当者として、大阪環状線を利用するお客さまにいち早く5Gの快適な通信を届けたい、という思いがありました。また、KDDIが5Gのエリア化をどんどん進めていることをお客さまにお伝えするためにも、他社に先駆けてエリア化したいと思っていました。とはいえ、大阪駅のようにエリア対策が非常に難しい駅もあります。
相馬 私も以前は平さんと同じく、本社側でエリア品質管理を担当していました。大阪駅は四方を建物に囲まれていますし、基地局を設置する場所も少ないため、駅から離れたところ、高いところから電波を発射する必要があります。大阪駅だけでなく東京駅や新宿駅など「マンモス駅」と呼ばれるところはどこもエリア化が難しいです。駅構内が広いうえに人が多いので基地局を増やす必要がありますし、これらの装置が多くなると電波干渉 (注) が起きて速度が出なくなり、負のスパイラルに陥る恐れもあります。
平 裕二郎
――実際にはどのような難しさ、技術的課題がありましたか。
平 大阪駅のエリア化でとても重要だったのは、プラットホームを確実にカバーするための基地局設置でした。近隣の建物オーナー様との交渉がメインとなりますが、5Gの基地局を設置するご了解はいただけるものの、他社も同じ建物に基地局設置を予定しているため、細かい場所の調整や交渉があったりします。
また部材が入手できずスケジューリングに思わぬ時間がかかることもあり簡単には進みませんでした。それでもオーナー様への説明を重ねた上で、強固な信頼関係を築き協力を得た上でいち早くエリア化を実現することができました。
市川 5Gの基地局設置は、既存の4G基地局のスペースを活用することが多いのですが、重量オーバーしないか確認したり、別の設置場所を探したり、より軽量で小型な基地局に交換するなど、細やかな確認や調整が必要になります。
相馬 5Gの場合、大容量通信を実現するためにサイズの大きいアンテナを用いる場合があり、基地局の重量は大きな課題となります。また、基地局間やセンター設備を結ぶネットワーク回線も、4Gより通信容量が大きい回線を引く必要があります。
山下 ネットワーク回線の問題は非常に大きいですね。基地局側が開通していてもネットワーク側の準備ができていないとお客さまにサービスをお届けできません。
相馬 基地局の建設と大容量のネットワーク回線の構築を同時に進め、そのマッチングを図ることも5Gエリア化のポイントになっています。
平 5Gエリアでは「パケ止まり」といわれる事象があります。5G電波が弱くなったときに、4Gに切り替わらずに通信が全くできない状態になることです。そこで試験環境を作り、名古屋、広島、福岡のメンバーも交えて、パケ止まりを回避するための試験を徹底的に繰り返し行いました。試験環境内で何回も歩いて行ったり来たりして、本当に問題が起こらないかを確認しました。
山下 怪しい人ですね (笑) 。
山下 直樹
平 怪しかったでしょうね。それに、12月から1月の真冬に外で何時間もいるので、とにかく寒かったです!(笑) でもその甲斐あって、問題事象を発見し開発部門にフィードバックして対処してもらうことができました。
――大阪環状線の5Gエリア化を終えての感想を教えてください。
山下 5Gエリア化に向けて、ネットワーク回線切り替えの第一弾が大阪駅で、実施したのは金曜の深夜でした。非常に大きい駅ですし、無事に切り替わるかどうかドキドキしながら待機していました。深夜2時に切り替えが始まり、4時ごろに「無事終わりました」とメールが来たときは、ホッとしました。
平 私も、大阪駅のホームで5Gエリアの通信品質を体感できたときは、うれしさがこみ上げてきました。関連部門、パートナーの方々など、一緒に対応を進めてきた皆さんには、感謝の気持ちでいっぱいです。
市川 大阪環状線エリアはビルが密集していて、オーナー様との交渉に時間がかかります。その中で早期にエリア化を進められたことには、手応えを感じています。パートナーである工事会社の方々が、厳しいスケジュールの中でも対応してくださったことが本当に大きいですね。
相馬 基地局を早期に立ち上げられたのは現場で作業を担当した皆さんのお陰でもあります。大阪環状線や山手線はお客さまの関心が高く、これらの路線で5Gを提供できていることは利便性の向上につながります。それは私たちのモチベーションになっています。
山下 5Gエリアの通信結果について定期的な共有会があり、エリア化された場所を知ることができました。身近な場所で5Gエリアが広がり、お客さまに快適な通信を提供できていると思うと、とてもやりがいを感じます。大阪環状線の5Gエリア化は一つの区切りですが、まだ未対応の場所がたくさんあります。迅速に、5Gエリア化を進めていきたいと思います。
市川 将伍
――今後の抱負をお聞かせください。
相馬 これからはVRや自由視点動画など、5Gの特性を生かせるサービスがたくさん出てくると思います。そうなったときに、KDDIの通信品質に感動していただけるようにしたいですね。より早くKDDIの5Gをお客さまに体感していただけるよう、エリア化を加速していきたいと思います。
市川 5Gエリア化を通じて、さまざまなことが実現できるようになると思いますし、社会によい影響を与えられたらと思っています。計画達成に向けて、着実に進めていきます。
山下 5Gが当たり前になったときに、どんな斬新なサービスが生まれるのか、とてもワクワクしています。現在、5Gのエリア化は都市部から中心に進められていますが、早く日本全国で使えるよう5Gエリアの拡充に努めたいと思います。
平 5Gが当たり前の時代は近いうちに実現します。その未来に近づくために、いち早くエリア化を進めていきたいですね。また、5Gの早期エリア化と同様に、4Gのさらなる品質向上も重要です。4Gの通信品質を高めつつ、さらに5Gも当たり前のように使える。そんな通信環境を実現していきます。