2021年7月、KDDIは多様化・高度化の一途を辿る通信サービスや、今後予測される大規模自然災害に備え、通信設備の運用監視部門を東京・多摩に新設した。同年11月には、大阪の運用拠点もリニューアルし、2拠点での運用を開始。これまで人手に頼っていた運用監視を自動化するなど、業務体制も刷新した。
新たな拠点の開設と、それに伴う従来型の運用業務からの脱却——「スマートオペレーション」と名づけられたプロジェクトの全貌を紹介する。
KDDIは24時間365日、お客さまが快適かつ安心・安全に通信インフラを利用できるように、監視やメンテナンス、トラブル発生時の即時復旧対応といった運用体制を整備してきた。
あらゆるものやサービスが通信で接続されるのが当たり前の時代となり、最近ではリアルとバーチャルが融合する「Society 5.0」が一層現実味を帯びてきている。加えて、新型コロナウイルスをきっかけに、自宅やサテライトオフィスなどのオンラインでの働き方も急速に浸透した。さらには5Gが本格的に広まるなど、通信サービスのニーズはますます増えるとともに、多様化・高度化の一途を辿る。
こうした背景により、人の手に頼っていた従来の運用監視業務は限界を感じるようになっていた。本課題解決に取り組むKDDI株式会社 技術統括本部 次世代自動化開発本部 プロセス統合推進部 プロセス統合企画2グループ グループリーダーの藤田 亮は次のように話す。
藤田 亮
「これまでの運用監視は、情報の統制、サービス影響判定、復旧判断など、知識と経験を有するメンバーによる“匠の技”によって行われてきました。しかし、ニーズの増加・多様化によって対応すべき領域が急速に広がるなか、さらに人手が必要になることは明白でした。また、人事異動等による体制変更・スキル継承も必要となり、抜本的な改革が必要でした」(藤田)
そこで2016年、「スマートオペレーションプロジェクト」がスタートした。目指したのは、これまで特定のメンバーのスキル・知見に依存していた業務を、誰でもスマートに行える体制を構築すること。まずは、それぞれの匠の技を可視化することから始まった。
具体的には、匠の技の業務フローを定義し、システムとして稼働するようにプログラミングしていった。例えば「電源が落ちた」というアラートが出たときの対応であれば、それは停電なのか、現場作業員のアクションによるものなのか、他の原因なのか、人が推測・状況確認していたフローを、システム化していくイメージである。
「安心・安全な通信インフラを保つために、基地局設備やコア設備、回線設備など、多様で複雑な設備の運用・監視を行っているため、業務フローを改めて洗い出すと、その数は約2,000にも及びました。これらをシステム要件に落とし込むと、約40,000件にのぼりました。数が多いことも大変ではありましたが、Quality・Cost・Deliveryのバランスをとりながら、運用監視メンバーの要求をクリアする舵取りに苦労がありました」(藤田)
プロジェクトのキックオフから約5年。運用監視業務をシステム化することで、スマートなオペレーションを実現する「スマートオペレーション基盤」が完成し、東京・多摩に新たな運用監視拠点「多摩第5ネットワークセンター (多摩第5NC)」が開設された。
スマートオペレーション基盤により、これまで人が行っていた不具合の発生箇所の検知・特定~復旧方法の判断までのフローを、自動かつワンストップで実行できるようになった。担当者はシステムから示されたオペレーションが適切であるかどうかを判断し、正しければ処理の実行ボタンを押すだけ。迅速かつ精度の高い復旧が可能となったのである。
運用開始からまだ数カ月であるが、すでに成果が出始めている。システム化したことにより、従来のおよそ半分の人員で対応できることに加え、復旧に要する時間は以前と比べて最大40%短縮された。まさしく「ネットワーク運用・監視のDX化」が実現されている。
新センターでは、部門ごとに分かれていたフロアが一つに集約されたことにより、情報共有などのコミュニケーションロスが減った。広大なワンフロアの監視室前方には、48のモニターから構成された縦約2m×横約20mの大画面が設けられ、運用・監視に必要なさまざまな情報がタイムリーに映し出されている。
そして東京の拠点開設から4カ月後、大阪の拠点である「大阪中央ネットワークセンター」も同様のスマートオペレーション基盤を実装し、新たなセンターへ生まれ変わった。
「これまでの大阪拠点は、東京のバックアップという位置づけでしたが、スマートオペレーション基盤を備え、オペレーション体制を刷新したことで、東京拠点と完全に同期し、運用監視業務を2拠点で並行して行う体制へと変わりました。これまではハード面での冗長化 (注1) に留まっていましたが、ソフト面、オペレーションの冗長化まで進化することができました」(藤田)
情報が共有・同期されるのはもちろん、業務上のコミュニケーションもシームレスに取れるよう、両拠点にはデジタルホワイトボードなどの設備を揃えた。東京と大阪の2拠点で、情報のオープン化が実現された。先述した「復旧に要する時間は最大40%短縮」は東京単体での成果であるため、これから大阪拠点が稼働していくことで、この数字がさらに高まることが期待される。
スマートオペレーション基盤の導入によって削減された時間や人材などのリソースは、障害予測など、トラブルの予見に充てることで、さらに安心・安全な通信インフラの提供につなげていく。
今後は、運用監視業務で課題を抱えている企業に対し、スマートオペレーションをソリューションとして展開することで、社会全体の通信インフラの盤石化に貢献していくことも視野に入れている。
今回、東京・大阪のほか全国に12あるネットワークセンターや、自宅、サテライトオフィスなど、場所にとらわれずリモートで運用監視業務が行えるようになった。高度な技術を導入し、セキュアな環境を維持していることは言うまでもない。
この環境づくりには、KDDIが2020年7月に発表した「KDDI新働き方宣言 (注2)」も反映されている。新センターに併設されたオフィスではフリーアドレスを採用し、画一的ではなくデザイン性の高いミーティングスペースやカフェなども完備。座席数は従来と比べて5割減となっている。
運用監視業務だけでなく、お客さま対応業務においても、DXが推進されている。KDDI株式会社 技術統括本部 エンジニアリング推進本部 KDDIエンジニアリング サービス運用本部 サポートセンターの山崎 勝也は、お客さま対応のDXの成果について次のように話す。
「私たちは『すべてをお客さま視点』で業務を見直し、『お客さま視点のDX』を進めてきました。これまでは、お客さまのご不満が顕在化するまで気付けないケースもあり、リアルタイムに気付き、問題が大きくなる前に対処する仕組みが必要でした。今回、自動化したことで、どこで、どのようなお問い合わせがきていたり、故障が発生しているかなどがリアルタイムに分かるようになり、関係者とも共有することが可能となりました。その結果、設備故障などのトラブルの復旧時間も大幅に改善されたと感じています」(山崎)
山崎 勝也
運用・監視や体制の改善に求められるのは、5Gネットワークや「KDDI Accelerate 5.0」(注3) を支えることだけではない。気候変動による大雨・台風や巨大地震など、大規模自然災害が発生した際の安定した通信サービスの維持や、迅速な復旧を可能にすることもまた、重要なポイントだ。
2011年の東日本大震災をきっかけに、KDDIでは大規模自然災害も含めたさまざまなトラブルへの対策を、翌2012年に設けた運用管理部門「特別通信対策室」を中心に推し進めてきた。
無線基地局は、災害時に電力が途絶えた場合でも稼働できるように、蓄電池を備えている。さらに、ポータブル発電機や電源車などの非常用発電施設も日々増設するほか、発電機を動かすための燃料を備蓄する燃料補給車も確保している。光ケーブルについても、車載型基地局や可搬型基地局の増大や、船舶に基地局を搭載することで、さらなる冗長化を推し進めている。
機材 | 2011年 | 2021年 | |
---|---|---|---|
陸 | 車載型基地局 | 15台 | 50台 |
可搬型基地局 | - | 137台 | |
電源車・非常用発電機 | 55台 | 822台 | |
基地局バッテリー24時間化 | - (バッテリー3時間が前提) |
2,200局 | |
水陸両用車/四輪バギー | - | 2台/4台 | |
海 | 船舶型基地局 | - | 出動航行履歴2回 |
空 | ヘリコプター基地局 | - | 実証実験中 (実用化には法改正が必要) |
実は今回、新しいネットワークセンターの立地に多摩を選んだことも、災害対策を考えてのことである。海抜100m以上と水災害に強く、地盤も一帯の中でとても強い部類に入る。加えて、建物には免震構造を採用している。
さらに、災害時に基地局へアクセスする手段として、オフロードバイクや水陸両用車、4輪バギーといった特殊車両も導入。ドローンを活用して、微弱電波地域を探し出し対応する取り組みにも着手した。
5G・IoT・ビッグデータ時代の今、暮らしやビジネスのあらゆるシーンにおいてますますニーズが高まる安心・安全な通信インフラ。当社では、この通信インフラを力強く支える運用・監視の改善を今後も積極的に行い、お客さまのご要望・課題に真摯に向き合って、さらにご満足頂くために取り組んでいく。