あらゆるモノがインターネットにつながるIoT (Internet of Things:モノのインターネット) の活用が、さまざまな業界や業務において広がっている。
2007年に創業したエコモットは、センシングから通信端末、SIM、セキュリティ、クラウド、アプリケーション、運用保守まで一気通貫のインテグレーションで、数多くの実績を上げてきた。
2019年1月にKDDIグループに加わった同社の事業内容、今後の展望を聞いた。
エコモットは、「未来の常識を創る」というミッションを掲げ、IoT×AIの活用を通じてさまざまな社会課題を解決することを目指して、数多くのソリューションを提供してきている。
札幌を拠点としている同社が最初に手掛けたサービスが、融雪システム遠隔監視ソリューション「ゆりもっと」だ。これは、12月から3月までの冬の期間、駐車場や道路に積もった雪を溶かすロードヒーティングの設備を24時間体制で監視するもので、一体化したモバイル通信端末とカメラを現地の融雪用ボイラーと接続し、遠隔制御することが可能となる。「ゆりもっと」のボイラーの制御判断は、監視オペレーターの属人的なノウハウに依存することなく、AIによる画像解析と現地の気象情報などを加味して行われ、一般的な降雪センサーによる自動制御と比べても高いエネルギー効率を実現する。
2021年12月時点で「ゆりもっと」は北海道および北東北の都市部マンションや商業施設、病院などを中心に2,400箇所以上へ設置されており、これらの物件における燃料コストを平均42%削減 (エコモット社調べ) する大きな成果を上げている。
そんなエコモットがKDDIと資本業務提携を結んだのは2019年1月のことだ。エコモット IoTインテグレーション事業部 部長の内藤氏はこのように振り返る。
「弊社はIoTソリューションを展開するにあたり、遠隔制御に不可欠なインフラとして、KDDIならではのセキュアな通信回線を使用しています。つまりエコモットは、もともとKDDIユーザーという立場にありました。この関係性が大きく深化するきっかけとなったのは、私たちが開発した『FASTIO』(ファスティオ) というIoTプラットフォームが『MCPC award』(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム)のグランプリおよび優秀賞を2015年12月に受賞したことです。
KDDIから『このプラットフォームを利用したIoTサービスを、ぜひ一緒に作っていきませんか』というオファーを受けたことで、両社の距離はぐっと近づきました」
内藤 彰人 氏
こうしてエコモットはKDDIグループに加わり、タッグを組んで多様な業種のお客さまに対してDXを支援していくパートナーとなった。KDDI ビジネスIoT推進本部 IoT営業推進部 営業3グループ グループリーダーの下井もこの協業に向けて、次のように期待を寄せている。
「国内のIoT専業ベンダーは、デバイスのみ、アプリケーションのみ等、特定レイヤーに集中したビジネスを行っているケースがほとんどです。これに対してエコモットは、センサーやカメラから通信端末、SIM、セキュリティ、クラウド、アプリケーション、運用保守まで垂直統合したワンストップサポートを提供しているのが強みです。KDDIにとってこれ以上に心強いパートナーは他にありません」
エコモットは先に紹介した「ゆりもっと」のほかに、どんなIoTソリューションを提供しているのか改めて見てみよう。モビリティサービスの分野では、「Pdrive」というモバイル通信を搭載したドライブレコーダー型デバイスを2022年2月時点で約2万台提供している。
國塚 篤郎 氏
「スマホサイズのデバイスを車に取り付けるだけで、走行距離や運行経路のほか急挙動 (急ハンドル、急ブレーキ、急発進) などの危険な運転を記録して可視化し、ドライバーの安全意識を向上させることで交通事故を削減します」(國塚氏)
こうしたパッケージサービスおよびSIサービスの基盤となっているのが、前述の「FASTIO」だ。IoTで多様なデータを簡単に取得することが可能となった今日だが、そのデータはスピーディーにビジネスに活用できなければ意味がない。
「弊社が10年以上にわたって培ってきたセンシングのノウハウを生かし、クラウド上に蓄積したモノやコトのデジタルデータをダッシュボードで可視化。さらにAIで解析して現実世界へフィードバックするというサイクルをFASTIOベースで構築することにより、お客さまの多様な課題を解決します」(國塚氏)
KDDIとの協業のもと、FASTIOをベースに開発されたのが、「KDDI IoTクラウド Standard」である。
「センシングデータをクラウドに蓄積したり、可視化したりすることはFASTIOで実現できていましたが、プラスアルファでKDDIから寄せられたのが、『監視カメラ映像の保存・管理や過去画像の検索、比較などもできるようにしてほしい』というリクエストです。これを受けてエコモット側でFASTIOのカスタマイズを行い、大幅に機能強化されたのが『KDDI IoTクラウド Standard 』です」(内藤氏)
池澤 舜
KDDIの池澤は、この新しいソリューションを手にしたことで、今後のDX支援ビジネスの展開にどのような変化が起こるのか、次のように見据えている。
「『KDDI IoTクラウド Standard 』は高機能ながら非常にシンプルにできており、初めてIoTを導入するお客さまへのエントリーモデルとしてご提案することができます。
また、より大規模なIoTやAIのシステムを求めるお客さまに対しては、そのままエコモットのSIサービスへシフトすることも可能で、これまでは導入が困難だったお客さまの案件も共同受注できるようになると見込んでいます」
エコモットとKDDIの協業は、すでに企業向けのIoTシステムでも数多くの成功事例をもたらしている。
製造装置メーカーA社の案件では、エネルギー設備のモニタリングシステムを構築した。A社は早くからメンテナンスサービスに注力しており、その新たな付加価値として顧客の工場で稼働している数多くの設備をクラウド上で集中管理したいと考えたのである。
「A社のお客さまは中小企業も多いことから、できる限り安価にサービスを提供する必要があり、個別開発ではコストが見合わなくなります。かといってパッケージでは機能不足でA社の要望に応えきれません。そうした中で行き着いたのがエコモットのFASTIOをカスタマイズするという方法でした。これによりA社の課題に応えつつ、リモート監視するシステムを実現することができました」(下井)
下井 智裕
話は前後するが、このA社の案件で行ったFASTIOのカスタマイズが、前述した「KDDI IoTクラウド Standard 」の開発へとつながっている。また、2019年10月に北海道で各国要人を招聘して行われた「G20観光大臣会合」では、車両の位置情報を把握するための技術協力を行った。
「『KDDI IoTクラウド Standard 』に通信機能付きGPS端末を組み合わせた位置情報パッケージ『ここルート』を提供することで、車両の位置情報のリアルタイム把握を実現。併せて車両が設定した地点を通過したタイミングでメールを自動送信する機能も供しており、運営負担の大幅な軽減につながったと評価をいただきました」(内藤氏)
そのほか次世代会議サービスの実証実験において、エコモットはAI画像解析技術を提供するなど、協業のテーマそのものも大きく広がっている。
今後に向けて、エコモットとKDDIの協業はさらに拡大していくことになる。
内藤氏は「IoTパッケージ製品の共同開発、『KDDI IoTクラウド Standard 』のお客さま向けカスタマイズ、大規模IoTインテグレーション事業の共同受注といった活動を引き続き強化していきます。また5Gなど新技術に対する情報連携や実証実験などにも積極的に参加し、今後の市場に投入するサービスを共同で構築していきます」と意気込みを示す。
「これまでエコモットは、どちらかといえばDXのD (デジタライゼーション) の領域に注力してきました。今後はX (トランスフォーメーション) の領域にも踏み込んだ体制を整え、KDDIとともにお客さまのよりコアな課題解決に貢献していきたいと考えています」と語るのは國塚氏だ。
もちろんKDDI側のモチベーションも高まっている。
「お客さまのDXに成功をもたらす、よりよい提案ができるよう、エコモットと互いに切磋琢磨しつつ新しい技術をどんどん取り入れていきます。さらにこの協業に他のグループ会社も巻き込んでいくことで、ソリューションの幅を広げていきたいと考えています」(池澤)
「DX支援の目的は、端的に言えばお客さまの売上利益の向上に貢献することにあり、その意味でも今後ますます必要になるのがスピード感をもった対応力です。常に市場の動きを見ながら時代にマッチしたソリューション開発を行ってきたエコモットのノウハウと、KDDIのコンサルティング力のシナジーを発揮することで、お客さまの高まるご期待に応えていきます」 (下井)
いくつかの共同プロジェクトを経験し、エコモットとKDDIの信頼関係が深まることで、両社の協業体制はより強固なものになりつつある。