「GIGAスクール構想」によって学校教育のIT化が進められている一方、学校現場の教職員の働き方改革はあまり進んでいないのが実情だ。教育DXに注力するKDDIでは、2022年6月にモチベーションワークス株式会社 (以下、モチベーションワークス) と業務提携し、フルクラウド統合型校務支援システム「BLEND」とKDDIのサービスをセットにし、校務の効率化とセキュリティの両立を実現するサービスの提供を開始した。学校現場における校務の課題や、BLENDが教職員にどんな価値を提供できるのか、モチベーションワークス執行役員副社長の野本 竜哉 様に話を伺った。
文部科学省が2019年12月に発表した「GIGAスクール構想」では、児童・生徒に1人1台の学習端末が与えられることや、学校におけるネットワーク環境の整備とクラウドの積極利用などが掲げられ、着々と整備が進められている。
その一方で、教職員のITを活用した働き方改革はあまり進んでいないのが現状だ。ある調査結果では、2021年の公立学校教職員の1日の平均勤務時間は10時間を超えており (注1)、長時間労働の是正は喫緊の課題になっている。
野本 竜哉 様
「日本の先生方は忙しすぎて、“余白”が足りなくなってきています。もともと校務の量が多いうえに、ここ数年は、コロナ禍への対応で、児童・生徒の健康状態の確認や、教室等学校内の消毒なども加わり、より一層負担が増しています。校務を効率化するためのIT化もまだまだ不完全な状況です」と話すのは、モチベーションワークス 執行役員副社長の野本 竜哉 様だ。
野本様の言う“余白”とは、「教職員の時間的・心理的な余裕」のことだ。余白があってこそ教職員は、次代の教育に求められる新たな知識や経験を深め、それを日々の授業や学校行事に生かしたり、児童・生徒はもちろん、保護者との関わりを深めることもできるようになる。
学校の“余白”を取り戻したい。教職員の校務に関わる時間を削減させたい。そうした想いから開発されたのが、モチベーションワークスが提供するフルクラウド統合型校務支援システム「BLEND (ブレンド)」だ。
「弊社にはITに詳しい社員だけではなく、学校・教育業界出身の社員が多数在籍しており、学校現場の実情にあった機能を開発・提供し、先生方の校務の効率化をお手伝いしています。従来からある校務支援システムの多くは、オンプレミスで運用され、職員室など校内の決められた場所からしかアクセスできませんでした。BLENDはフルクラウド型のため、教室、自宅、修学旅行先などどこからでもアクセスでき、教室で出欠を直接登録したり、保護者からの連絡をリアルタイムに確認したりすることもできます」
(野本様)
主な機能には、図1にあるように、出欠管理、成績管理、帳票管理、日々の健康報告やアレルギーなどの健康情報を管理する保健機能などのほか、コロナに伴う日々の検温機能、アレルギー申告、さらには、学校からの手紙の受信やアンケートへの回答などを保護者のスマホアプリから行える機能を標準提供している。これにより、これまで別々のシステムになりがちであった情報をBLENDで一元管理することが可能になる。
前述したように、BLENDの最大の特長はフルクラウド型であるという点だ。ではなぜ、これまでの校務システムはオンプレミス型が多かったのだろうか。
「児童・生徒の成績をはじめ、学籍や保健といった情報は“機微情報”です。これらを適切に保護するため、校務支援システムのネットワークと、児童・生徒が学習で利用するネットワークは切り分ける必要がありました。
しかし、その弊害として、例えば先生方が自分のPCで作成した教材を児童・生徒に配布する場合でも直接転送はできず、上長の許可をとったり無害化処理をしたりするなどの手間が必要だったのです。これが大きな時間の無駄になっていました」(野本様)
そこでBLENDでは、金融機関レベルのセキュリティを実装。クラウドサービスでありながら児童・生徒の個人情報を確実に保護し、端末を操作する教職員および保護者にとって容易で快適な操作を実現している。文部科学省の「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」との適合度も高く、クラウド時代の安全性を先取りしたサービスとなっている。
BLENDの導入効果について、「実際にBLENDを導入したある学校が、出欠機能について計測したところ、従来は入力や集計等に月間86.5時間を要していたものが、BLEND導入後に約8割減少したという結果があります。
また、運用コストについても、オンプレミスベースで校務支援システムを利用していたときから、約8割減少したという報告があります」と野本様は話す。
豊富な機能と使いやすさで校務の効率化を支援し、すでに数多くの学校で導入が進んでいるBLENDだが、今回KDDIと提携することによって、インフラ面でのセキュリティも強化されることになった。
KDDIで事業企画を担当する山田 健人は、「KDDIは、従来から全国の学校のICT化をご支援し、GIGAスクール構想の推進についても貢献してきました。2022年5月に発表した中期経営戦略においても『サテライトグロース戦略』を打ち出し、『DX』や『教育』は重要な注力領域としています」と話す。
山田 健人
また、モチベーションワークスとの提携のきっかけについて山田は、「これまでは、児童・生徒、教職員のみなさまが利用するデバイスの提供や、学校におけるネットワーク設備などのICTインフラを提供してきましたが、そうした学校現場での関わりができたときに聞こえてきたのが校務負荷の高さでした。ICTインフラだけでなく、さらに教育現場と深く関わり、学校の働き方改革を実現したいと考え、今回の提携に至りました」と振り返る。
教育分野へのより踏み込んだサービス提供というところでパートナーとして浮上したのが、モチベーションワークスであり、BLENDだったというわけだ。
具体的には、BLENDを「KDDI ビジネスオンラインサポート」や「KDDI Business ID」と連携することで、現場の先生が複数IDを管理する負担の軽減や、2段階認証などが可能となる。同時に学校現場のゼロトラスト化を推進し、教職員がどこでも安心して校務ができる環境を構築。これにより働く場所の制約をなくしながら、セキュリティも向上させ学校現場の働き方改革を実現する。さらにその先には、児童・生徒の個別最適化学習や、学びの高度化に貢献するという目標もある。
最後に、今後の展望について二人に聞いた。
「BLENDは、校務についてはおおむねカバーして教職員をご支援していると自負しています。しかし今回のコロナ禍や、学習指導要領の改訂など、学習現場には急な変化が生じることもあります。そのような場合にもアップデートで機能を追加して、柔軟に対応していきます。クラウド型ですので “完成”というものはありませんが、校務支援システムとして常に“最強”であることを目指していきます」(野本様)
「これまで企業さま向けで培ってきたノウハウを活用しながら、ぜひ教育現場の働き方改革を実現したいと考えています。それにはゼロトラストセキュリティの考え方が欠かせません。教職員の働き方、働く場所の自由度を高めながらセキュリティも高め、どこからでも安全で快適に校務をこなせるような環境を提供していきたいと考えています」(山田)
リモートワークに代表されるように、ここ数年で企業の働き方改革は大きく進化した。
しかし、学校の現場における教職員の働き方改革はまだ十分ではないと言わざるを得ない。未来を担う児童・生徒を指導する教職員の“余白”を広げるために、モチベーションワークスとKDDIの今後の取り組みに大きな期待が寄せられている。