デジタルトランスフォーメーション (DX) の具体策として、サブスクリプションビジネスを検討している企業も多いだろう。
お客さまとの継続的な取引関係を構築でき安定収益を確保できることが大きなメリットであるが、契約や請求といったバックヤード業務が煩雑になるなど、越えなければならない課題もある。
KDDIでは、BtoB向けサブスクリプション支援サービス「AXLGEAR (アクセルギア) 」を提供するAXLBIT株式会社 (以下、AXLBIT) とともに、お客さまのサブスクリプションビジネスを支援している。
長谷川 章博 氏
2008年に設立されたAXLBITは、当初ホスティングやクラウドインフラの構築・運用を中心に事業を展開していた。そんな同社がサブスクリプションビジネスの支援に大きく舵を切ったのは2015年。BtoB向けサブスクリプション支援サービス「AXLGEAR」の提供を開始したのがきっかけだ。
AXLBIT 代表取締役社長の長谷川 章博 氏は、「ITシステムなどさまざまな資産の『所有から利用へ』という流れが加速するなかから生まれたのがサブスクリプションの概念です。
しかし、実際にこのビジネスモデルを運営するために必要となる管理業務は非常に煩雑で、特にベンチャーのような小規模な企業が個々に対応するのは困難です。そこに着目して開発したのがAXLGEARです」と当時を振り返る。
AXLGEARは、お客さまごとに異なる条件に対応しなければならない契約管理、お客さま管理、料金計算、ワークフローなどの煩雑な業務を自動化することで業務効率を高めるプラットフォームだ。従量課金や年契約の保守料金、支払いタイミングや日割りの処理、特価対応を行った既存契約など、多様な案件に対して柔軟な管理が可能となっている。
また、豊富なAPIを利用して基幹システムとの連結を可能とするほか、お客さま接点を強化するための機能も搭載している。
こうした特長を持つAXLGEARを幅広い企業へ普及させ、ブランド力を高めていくためにはプラットフォームのさらなる拡大を図っていく必要がある。そうした中で出会ったのがKDDIだった。
「KDDIが持つ幅広い製品・サービスと私たちのAXLGEARを一体で提供すれば、スピード感をもって市場にアプローチすることが可能となります」と長谷川氏は語る。
KDDI ソリューション事業本部 DX推進本部 5G・IoTサービス企画部長の野口 一宙は、「KDDIでは、既存の売り切りモデルのビジネスから、よりよいサービスを継続的に提供する『リカーリングモデル』(注1) への転換をご支援するさまざまなサービスを揃えています。その意味で、AXLBITとKDDIが目指す世界観は共通しており、同時に私たちの製品ポートフォリオを補完するソリューションとして、AXLGEARには大きな魅力がありました」と語る。
こうして2020年2月、KDDIがAXLBITに資本参画する形で両社のパートナーシップがスタートした。
野口 一宙
両社のパートナーシップにより、AXLBITの「AXLGEAR」とKDDIの「KDDI 請求管理サポート」を一体化したサービス提供も行えるようになった。
「KDDI 請求管理サポート」は、au携帯電話において多様な料金プランや毎月のコンテンツ決済 / 請求を着実に運用する中で培ってきたバックヤード業務のノウハウおよび基盤システムを、継続利用型の請求システムとして体系化してお客さまに提供するものだ。
前述したように「AXLGEAR」はサービス管理から契約管理、料金計算までの業務を担っているが、この後に続くプロセスとして「KDDI請求管理サポート」が、与信、請求、入金回収、督促、問い合わせ、データ参照・更新などの業務を担うわけだ。
「SaaS型で手軽に利用できる『AXLGEAR+KDDI請求管理サポート』が、お客さまのサブスクリプションビジネスの運営全般をワンストップで支えます」と野口は強調する。
これらのバックヤード業務を、仮に自社で組織体制を整え、システム構築をするとなると、かなりの時間と費用を要してしまう。
「そもそも企業にとってバックヤード業務はビジネスの目的ではありません。そこに無駄な時間をかけるより、提供するサービスそのものの企画やブラッシュアップに全力を注ぐべきです」と長谷川氏は語る。
加えて念頭に置いておく必要があるのは、サブスクリプションビジネスは「成功が約束されたビジネス」ではないということだ。試行錯誤を繰り返していく中で、自社の成功パターンを見いだしていく必要がある。
しかしバックヤード業務を処理する組織体制やシステム構築にコストをかけてしまうと、どうしても柔軟性が失われてしまう。膨大な先行投資を回収することが義務づけられ、「失敗が許されないプロジェクト」となることで、プロジェクトに関わるメンバーは委縮し、発想も硬直化してしまうだろう。
企業ができるだけ身軽な状態でサブスクリプションビジネスに臨めるようにするためにも、「AXLGEAR+KDDI 請求管理サポート」が大きな役割を果たすというわけだ。
すでに多くの企業がAXLGEARとKDDI請求管理サポートを活用して、サブスクリプション型サービスへと乗り出している。
建築機器の製造・販売を主な事業としている製造業A社様もその1社だ。
「従来の売り切り型ビジネスから脱却してサービス主体のビジネスモデルへの移行を目指す、いわゆる『モノからコトへ』のDXを推進するために、当社のサービスを採用していただきました」(野口)
定額の保守サポートの範囲内で消耗品などを定期的に届けるサービスを提供している企業は珍しくないが、A社様が目指すビジネスは、保守サポートに加えて稼働状況の取得や位置情報による紛失防止などのさまざまな付加価値を提供しており、これとは一線を画している。
「保守サポートは基本的にすでに販売した製品の価値を維持することを前提としていますが、これに対してサブスクリプション型サービスでは、『多品目』『多価 (格)』『多チャネル』(注2) という特徴を生かしながら、アップセル、クロスセルを促していきます。お客さまとの継続的な接点をつくり、関係性を発展させていくことこそが、サブスクリプションビジネスにおいて重要なことです」(長谷川氏)
このような実績を重ねつつ、AXLGEARとKDDI請求管理サポートはさらなる機能拡張を図っていく。
AXLGEARについては、複数のサービスを横断的につなぐ流通プラットフォームに発展させていく構想があり、流通業界向けに特化したサービス管理機能や契約管理機能、料金計算の拡充を図る計画だ。
「中期的には、AXLGEARにデータが蓄積された段階で、それらのデータに対して機械学習による分析をしたいと考えています。分析によって得た洞察をもとに、サービス利用者さまに対して的確なアップセルやクロスセルのリコメンデーションを行ったり、離脱を防止するコミュニケーションをとったりできるようになります。また、サービスのグローバル展開を進めたいという思いもあり、これについてはぜひKDDIの力を借りたいと思っています」と、長谷川氏は今後を展望する。
一方、KDDI請求管理サポートについても、2023年10月から始まるインボイス制度をはじめ、制度改正に迅速に対応させるなど、随時機能を拡張していく。
「BtoBのお客さまだけでなく、BtoBtoCのビジネスを展開しているお客さまのニーズにもお応えすべく、リカーリングモデルの強化を進めていきます。そうした中で、例えばKDDIが保有するコンシューマーのau IDをホワイトレーベル化し、厳重な個人情報保護を行った上でのデータ分析により、お客さま接点強化から決済までリカーリングビジネスを行うために必要な機能の拡充を進めていきます」と野口は語る。
今後さらに市場規模が拡大するとみられているサブスクリプションビジネス。AXLBITとKDDIでは、両社のサービスと蓄積してきたノウハウで、サブスクリプションビジネスを展開する企業をしっかりと後押ししていく。