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セキュリティ脅威の最新動向、ゼロトラストとは?

セキュリティ脅威の最新動向、ゼロトラストとは?

人々の働き方が大きく変わる中、サイバー攻撃被害深刻化一途をたどっている。個人情報流出のみならず、業務停止サプライチェーン混乱など、その影響拡大するなかで、いま、企業経営者セキュリティとどう向き合うべきなのか。サイバーディフェンス研究所 専務理事/上級分析官名和 利男 様と、KDDI ソリューション推進本部  ゼロトラスト推進部  副部長 藤田 英世に、経営層が講じるべき具体的アクションについて語ってもらった。

  • 記事内部署名役職取材当時のものです。

「20年前の対策」を続ける日本企業

――働き方の多様化が求められ、さまざまな場所で働くことができる仕組みが整ってきましたが、それに伴いセキュリティ脅威着実に増してきました。サイバー攻撃によってサプライチェーン停止業務継続困難になるケースも多々見受けられます。こうした状況を踏まえ、いま企業経営陣認識すべきセキュリティ最新動向について、教えてください。

株式会社サイバーディフェンス研究所
専務理事/上級分析官

名和 利男 様

名和様 まず知ってほしいのは「悪意ある者(によってつくられた)のエコシステム (注1) 」の存在です。いま世界では、数十万人規模レイオフ(一時解雇)が行われています。不景気再就職先もない。この職を失い、追い込まれた人の中で一定割合の人がサイバー犯罪に手を染めるようになってきているのです。彼らは生活のために、寝る間を惜しんでITの勉強をし、わずか数カ月でサイバー攻撃者となる。このようなケース加速度的に増えてきています。

こういった攻撃者は、最初からセキュリティ堅牢なITインフラなどは狙わず、まずは小さなWebサイトを狙って経験を積みます。つまり、中小企業のWebサイトです。サプライヤーでもある中小企業一つを攻撃されることで、大企業サプライチェーン全体停止余儀なくされ、自社サービス提供不能になる。これは2022年、大手自動車会社経験したケースです。この「悪意ある者のエコシステム」を理解することで、これから先々の脅威がどんどん増えていくこと、その対策必要であることが想像いただけるようになるかと思います。

注1) ここでは複数の企業や人々が犯罪行為を通じて結び付いてできあがった経済圏のことを指す。

悪意ある者によってつくられたエコシステムの存在 コロナ禍に伴う景気の悪化→数十万人規模でのレイオフの進行→職を失った人々がITスキルを取得→生活費を稼ぐためにサイバー攻撃者になる→中小企業のWebサイトで実績を重ねやがて大企業を狙い始める

そして、このような攻撃経験した企業ほど「ゼロトラスト」の重要性を感じています。「ゼロトラスト」とは「すべてを信頼しない」という考えの下、セキュリティ対策を行うという概念を指しており、「境界内部安全、外は危険」という従来の考え方とは一線を画します。クラウドサービス利用テレワーク増加など、社内外境界線を引くことが難しくなる中で、「ゼロトラスト」によるネットワーク構築重要性を増しています。

――現在日本企業セキュリティに関する認識についてはどのように見られていますか。

名和様 今でも、10年や20年前コンプライアンス規定ガイドライン準拠していれば安全、と思い込んでいる日本経営者非常に多いと感じます。

会社として、セキュリティに対する姿勢問題です。情報システム部の敵は、本来攻撃者であるべきですが、自社事業部門が敵になっている企業散見されます。事業部門が扱うサービスプロダクトセキュリティ原因とされるインシデントが起きても、ネガティブ情報社内外に広まることを恐れて、情報システム部門には全く情報共有されないケースも少なくないのです。情報システム部が会社を守りたいと思っていても、守らせてくれない状況があると言っても過言ではありません。

現代インシデント一つひとつの影響範囲甚大化しています。サイバー攻撃発端として倒産事業撤退した企業は少なくありません。情報システム部門だけでなく、経営者事業部門にこそ、ゼロトラストセキュリティに関する理解を深め、委託先サプライヤーも含めてゼロトラスト導入推奨いただくべきと考えます。

コロナ禍がゼロトラストを加速させた

――KDDI では早々に「ゼロトラスト」の概念を取り入れ、セキュリティに関する変革を行ったとのことですが、その背景概要について教えてください。

藤田 我々がゼロトラストセキュリティスムーズ導入できた背景には、コロナ禍以前から「人材ファースト企業変革する」というスローガンのもと、人事制度改革や働き方改革社内DXを進めていたことがあります。今回ゼロトラストを形にするために行ったことは次の3つです。

一つ目は、働き方の多様化対応したこと。社内には育児中の方もいれば、海外在住の方もいます。コロナ禍を経てオフィスという環境境界がなくなり、場所時間を問わず働ける環境にすることは必須でした。

二つ目は、クラウド利用拡大に於けるセキュリティ対応です。弊社システムクラウド移行加速していたため、どこでも使える利便性担保クラウド接続時における安全性両立必要でした。

KDDI株式会社
ソリューション推進本部 ゼロトラスト推進部
副部長

藤田 英世

三つ目が、サイバー攻撃高度化への対応です。弊社ではゼロトラストモデルの「セキュアPC (注2) 」を全社導入し、未知攻撃にも対応できるようにしています。セキュア PCはコロナ禍前から導入計画を立てており、ちょうど準備ができたところでコロナ禍となったので、結果として一気全社展開することになりました。

注2) 特にセキュリティ対策強化を入れ安全状態確保された端末やPC。KDDIではお客さまの環境に合わせたセキュアPCの構築販売を行っている。

――「ゼロトラスト」は比較的新しい概念であることから、誤解を招きやすい側面もあると思います。「ゼロトラスト」を正確理解する上で、経営者が押さえるべきポイントは何でしょうか。

名和様 KDDI 社のようにコロナセキュリティ対策加速させた事例は、日本国内でもよく見受けられます。しかし、そのやり方は二極化しています。旧来のやり方を踏襲している企業も多いのです。

システムを変えるということは、その上で動いている「業務プロセスも変える」ということ。それを理解していない経営者から「そこまでは聞いていなかった」「ソリューション導入すれば実現できると思っていた」といった声を聞いたことがあります。プロセスを変えるには強い覚悟必要ですが、それを実行しなければゼロトラスト仕組みを導入しても効果がなくなってしまうのです。

経営層からのメッセージ発信が重要

――「ゼロトラスト」の実現には、どのようなポイント意識すべきでしょうか。

藤田 前提として、ゼロトラストはあくまで手段です。その先にある目的最初明確にしておくことこそが重要です。その上で、ゼロトラスト実現に向けたポイントは3つあると思います。

一つ目は、ゼロトラスト経営課題であると認識すること。セキュリティ事故発生すると、レピュテーションが大きく崩れたり、サプライチェーン影響が出たりします。弊社では社長が「KDDI新働方宣言」という形で声明を出しました。この宣言実行するにあたり、どのような環境必要で何に取り組むべきかということを検討した結果ゼロトラストの考え方に行き着いたわけです。経営層一声非常重要であると考えます。

二つ目は、セキュリティが「攻めの投資」であると認識すること。セキュリティは守りのコストでもなければ、生産性利便性トレードオフ関係でもないです。ゼロトラストセキュリティ仕組みを使うことで、新しい働き方を守り、結果として生産性利便性が高まると考えれば、セキュリティは「攻めの投資」の一部と捉えることができます。例えば、ID認証基盤導入は、アクセス権限取得必要となる本人認証ユーザー複数種類要求する多要素認証安全性を高めつつ、一度ユーザー認証処理複数クラウドサービス接続可能となるシングルサインオン利便性を高めることができます。

三つ目に、ゼロトラストは一つのプロダクトサービス完成できるものではありません。企業によっては、段階的導入をせざるを得ない場面もあるでしょう。手前味噌ですが、弊社自分たちでゼロトラストを作り上げた実績がありますので、お客さまの環境にあわせてゼロトラストへの道のりを伴走するコンサルテーションロードマップ作成支援を行っています。

コンサルティングサービス:ワークショップ/企画、構想→システムインテグレーション:設計、構築→運用支援
KDDIではゼロトラストを企画から運用までトータルでサポートする

――経営者今後セキュリティとどう向き合い、どのような経営アクションにつなげるべきか、総括メッセージをお願いします。

名和様 2011年に発生した東日本大震災の後、いくつかの企業防災対策湯水のようにお金を使い、訓練もきちんと行いました。また、日本では消防法に基づいて現場従業員資格を取り、消防訓練をすることが一般的であるなど、他国と比べると過剰にも見える対策をしています。ただ日本人は、地震火災が多くの人命を奪うことをどこの国よりも知っている。だからこそ、強制的防災勉強をさせたり、防災対策仕組みを導入させたりするのです。

ここから言えるのが、「想像力」の大切さでセキュリティも同じです。特に、リスクマネジメントにおいては、意思決定者想像力非常重要だと言われています。ネット上に出ているインシデント報告氷山一角であり、ヒヤリハットを含め日々相当数インシデント発生しています。セキュリティに関しても自分家族従業員、お客さま、株主被害に遭う、会社利益が吹っ飛ぶことを自分ごとに感じることによって、もっと強化されると思います。

藤田 昔はサイバー攻撃というと、その標的国家機関大手企業に限られていました。しかし、最近ニュースをみると、中小企業ターゲットにされているので、誰もが標的になり得ることを肝に銘じる必要があると感じます。

また、繰り返しとなりますが会社としてセキュリティ対策強化に取り組む際は、人事制度や働き方の変革という点でトップから号令を出すことが重要だと思います。その中の一要素として、ゼロトラストセキュリティがあるという見せ方こそが、ゼロトラスト成功のための第一歩になるはずです。