従業員のエンゲージメントを高め生産性向上をめざす思考転換は急務に!
「これから持続的に成長できる会社」と「足踏みする会社」「衰退に向かう会社」の違いはどこか?
先駆的なチャレンジを実践する企業の取り組みからのヒントともに、トークライブを交え、徹底考察します!
従業員を「付加価値を生み出す資本」と捉える「人的資本」の考え方が重要となっている中、社員エンゲージメントを高め生産性向上を目指す思考転換が急務となっている。
2024 年 2 月 8 日、エグゼクティブ向けセミナー「価値と差別化を生み出す、従業員のチカラ 〜今後の競争力を左右する「社員エンゲージメント」と「組織力」〜」が開催され、経営視点からの社員エンゲージメントにフォーカスした考察が展開された。
ファイザーは企業目的として「患者さんの生活を大きく変えるブレークスルーを生み出す」を掲げ、その目的達成のために人事戦略を作っている。
ベースとなるのが「社員の潜在能力を解き放つ」こと。基本戦略は「環境の整備」「社員の成長機会の提供」「エンゲージメント向上」「リーダーシップ開発」の4点だ。
1点目の「環境の整備」は社員の活動の妨げになっている事象の解消だ。
例えば、業務プロセスにおける代表的な手続きである定例会議は減らせると相原様は語る。
「会議の参加人数、所要時間、開催頻度をそれぞれ減らす。10人参加を5人に、1時間を30分に、毎週を隔週にすることで、いずれも 50%減らせます。こうして一つひとつを見直しました」
相原 修 様
「Log in for Your Day ― 自分の1日を自分でデザイン」をコンセプトに働き方改革にも取り組んだ。
これは、服装を自由に決められる「服装を自分でデザイン」、フレックスタイムにおけるコアタイムを廃止し、働く時間を自由に決められる「働く時間を自分でデザイン」、月4日以上出社すればあとは自由という在宅勤務制度「働く場所を自分でデザイン」の3つで構成される。
休みも充実させた。1日の勤務時間を長くして、祝日とは別の会社指定休日を増やし、会社指定休日は本社社員で年間9日間まで増加。この数年は有給休暇の取得率向上にも取り組み、2022 年度時点で79%まで取得率は上がったという。
2点目の「社員の成長機会の提供」で最も大切なのは、成長のための対話とした。
上司と部下の1対1の対話をベースに、その上で4つの方向性を念頭に置きながらキャリアを創る「ジグザグ成長キャリアパス」の考え方を打ち出している。方向性は、まだここで頑張ろうという「ベストになる/現在の職務での成長」、部門内もしくは同じ専門領域で違う職務に就こうという「次の経験/水平 (横) 異動」、部門もしくは専門領域を超えて異動しようという「部門をまたがる異動/斜めの異動」、同じ専門領域で一つ上のポジションに上がろうという「次のレベル/垂直 (縦) の異動」の4つ。
自分の今の状況と今後のキャリアを考え、次のステップをこの4パターンから選ぶ。
キャリアを創るのは自分自身であり、上司や会社はそのサポート役であると相原様は強調する。
「原則として一般社員から日本法人の社長まで全てのポジションは、社内公募 (ジョブポスティング) により異動します。そして、社内出向 (Secondment) も様々な職務を経験するための重要な仕組みです。期間は9〜12カ月が原則で、最長18カ月まで、業務時間の50〜100%を社内の他部署の業務に充てます。中には日本とニューヨークの仕事が半々の人もいるなど、多様な経験を積む機会となっています。さらに、社内出向よりもライトに他の仕事を経験できるグロースギグ (Growth Gig) という仕組みもあります。1回限りのプロジェクト参加から通常業務の最大30%、最長12カ月まで。副業を社内で行うようなイメージです」
3点目の「エンゲージメント向上」も社員が自分の力を発揮するために大切な要素だ。
「毎年エンゲージメント調査を行い、課題を明らかにして改善するサイクルを繰り返しています。加えて、社員一人ひとりが認められる仕組み『Bravo』を作りました。上司はもちろん同僚も含めて、いいと思ったら世界中どこからでも誰に対してでも『Bravo』を贈り合い、互いに認め合うことができます。潜在能力を解き放つには、認められた実感が不可欠なのです」
4点目の「リーダーシップ開発」については外資系企業らしさが反映されている。
推奨されるリーダーシップ像は、大胆に決め、実行できる人。その振る舞いのためには、普段から部下の話を聴き、「なぜ?」「何を?」がはっきりわかり、共感できるビジョンをしつこく語り続けることが重要だという。
「当社は上司と部下の対話を重視し、本当の意味の 1-on-1ミーティングを大切にしています。上司は聴き役に徹し、部下が本音で何でも話せる機会にすることが肝要です」
これらの機会を提供することによって、さまざまな経験を積みながら自分のキャリア形成につなげていく。ひいては各社員が成長し、力を発揮していくことが狙いだ。
「このように多様なアプローチから社員エンゲージメントに注力することで、最大で唯一ともいえる経営要素である社員の能力を高め、その潜在能力を解き放つことができるのです」と締め括った。
KDDIの売上高の約16%を占めるビジネスセグメント。その中心を担うのがソリューション事業本部だ。村山はその中のソリューション推進本部で、SE部隊と商品企画・開発部隊、総勢1,500人弱を率いる。
彼はビジョンとして「業界最強のSE集団」を明示し、次のミッションステートメントを掲げる。
村山 敏一
「ビジョン実現のため、組織や役職を超えた活発な会話や意見る交換が行われ、お互いが尊敬し、期待し合い、協力を惜しまない。そんな職場づくりを行います。そして全員全力でお客さまを理解し、寄り添い、お客さま事業への貢献を果たします。また、ベンチマークは社内ではなく社外に置くことが重要です。ビジョンとミッションステートメントをこのように明文化して伝えることを大切にしています」と村山は強調する。
7年前の本部長就任時、組織は重大な課題を抱え試行錯誤の最中にあったという。かつてSEの職域はシステム作りに限られ、品質と納期を優先事項として取り組むのがセオリーだった。しかし、顧客ニーズの変化によってプリセールス活動も担当するようになり、さらにソリューション構想から実運用まで一気通貫で顧客をサポートする役割へと活動内容は多様化していった。組織は急拡大したが、SEは長時間労働が常態化してしまった。
「社員に幸せに働いてもらいたいと考えました。そこで、まず取り組んだのが『業界最強のSE集団』というビジョンを固め、“最強の心技体”を定義すること。心はお客さまに向かう姿勢、技はスキル、体は組織力です」
村山は心・技・体それぞれの要点を解説する。
まずは「心」。組織を一つにまとめるには、能動的に動くための大義が不可欠。その大義として「お客さまビジネスに全力で貢献すること」を掲げた。村山が実行したのはひたすら現場に出て、大義を発信し続けることだ。それは7年経った今も変わらない。
次に「技」。知識の習得だけでなく、現場でお客さまビジネスに貢献する実体験を重視する。ベテラン社員が培ってきた知見を机上だけでなく、現場での実践を通じて後進に伝授していった。研修で習得した知識は現場で発揮してこそ、血となり肉となる。
最後に「体」。組織力向上のためにコミュニケーションのあり方とマネジメントスタイルの変革が必要だった。グループリーダー86人にひたすら「自ら現場に降りて話を聴くこと」と伝え続けた。それまでの「報告に来い」「やっておけ」という文化を一新し、ライン長が現場に降り、縦横のコミュニケーションを活性化させることで、組織パフォーマンスを最大化していった。
その結果、社員のエンゲージメントスコアは高水準を維持。
現在、全社で3位、1500人規模の組織の中ではトップ (2023年12月時点) 。業績も右肩上がりを継続し、お客さまのNPS (顧客ロイヤルティの指標) も上昇しているという。しかし、この取り組みに終わりはない。
「社員のエンゲージメントの状態を見ると、ありがたいことに『ビジョンへの共感』『仲間との信頼関係』『裁量やチャンスがある』などが高評価です。その一方で、『達成感や自己成長を感じていない』『成果が適切に評価されていない』という声もあります。これらの課題を解決していくことで、さらにより良い組織にできると信じています。強い組織作りの第一段階は完了しました。第二段階は放っておいても動き出す自律型組織にすることです。不確実性の高い環境で、日本の未来を紡ぐためには不可欠なテーマだと考えています」と意欲を見せた。
PHONE APPLI 藤田様が強調するウェルビーイング経営のポイントは大きく3点だ。
藤田 友佳子 様
1点目は、「ビジョンと位置付け」の明確化。
①ウェルビーイング経営は会社にとってMUSTなのか、あったら良いというレベルのNICE TO HAVEなのか。
②事業戦略に組み込まれているのか、組織文化に位置付けているのか?
「おすすめは、①と②の両方を視野に入れて、経営トップからきっちりとメッセージとして発信すること。そうしないと、重要なのはわかるけど他に優先することがあるでしょとか、流行に乗ってウェルビーイングと言ってるだけで経営陣は本気じゃない、と思われてしまう恐れがあるからです」
2点目は、「目指すべき人物像」の明確化。
各ポジションについて会社として目指すべき人物像を明示し、従業員一人ひとりが自分自身のスキルや能力を正しく理解できれば、「自ずと自分が目指したい人物になるために、ギャップを埋めようと自律的に行動して成長できます」と藤田様は話す。
「PHONE APPLI では、自社の『PHONE APPLI PEOPLE』というサービスを活用し、全社員のスキルを可視化しています。
例えば、営業を希望している新入社員が営業2年目の社員のプロフィールを見ると、今後必要となるスキルをイメージできます。将来的に営業のマネージャーになりたいのであれば、今の営業マネージャーのスキルを見て、現在不足しているスキルを磨こうと自発的に行動するきっかけになります。また、各部門がどのような業務を担当し、そのためにはどんなスキルや資格取得が推奨されるかといった情報公開も大切です。PHONE APPLIでは社内公募に『PHONE APPLI PEOPLE』を活用し、従業員が自律的にキャリアを選択できる環境を用意しています。これもウェルビーイング経営の一貫と言えます」
3点目は、「社員の多様性に向き合う視点」だ。
社員のウェルビーイングを向上させるためには、社員一人ひとりの価値観を理解する必要がある。
PHONE APPLIでは、ウェルビーイング経営には4つの要素「対人関係」「環境」「仕事」「未来」が重要と捉え、この4要素からなる三角形のバランスが人によって多種多様であることを、会社が理解しなければならないと考えている。
社員を理解することで、すべき施策を最適化できるからだ。
「従業員のウェルビーイングと組織の成長を両立した経営を目指すには、一体どうすればいいのでしょうか? 従業員が同じ方向を向いて組織のビジョンに共感しているか、従業員が自律的に行動できるように会社側が仕組みと仕掛けを作っているか、従業員と信頼関係を築けているか、この3点に尽きるのではないかと考えています」
ウェルビーイング経営に唯一の正解はない。PHONE APPLIの事例をヒントに、自社にとっての正解を探ってほしいと強調した。