物流を今後も持続可能なものとするには、現状の課題に対し、業界関係者が一体となり“協調”していくことが重要である。
物流業界の社会課題解決を目指すWAKONX Logisticsは、本記事で紹介するNexa Wareと連携し、倉庫業務を効率化させるソリューション提供やインターネットのパケット交換の仕組みを物流に応用し、配送効率を高めるフィジカルインターネットの推進に取り組んでいる。
労働力不足の進む日本市場──。
長く叫ばれてきた物流業界の2024年問題は未だ根本解決のいとぐちは見えず、高齢化の進んだ先の2030年問題は深刻さを増す。
機械導入や自動化による省人化が求められるが、物流企業のみで解消に取り組むのは容易ではない。
そうした状況下に、通信大手のKDDIが、搬送システムなど物流機器を開発・提供する椿本チエインと提携。
「物流×通信」による物流倉庫DXに挑むジョイントベンチャー(JV)「株式会社Nexa Ware(ネクサウェア)」を設立した。
社長・副社長にはそれぞれ、椿本マシナリー(椿本チエイン子会社)SE部長の北村隆之氏と、KDDIモビリティビジネス開発部長の古茂田渉氏が就任する。
「通信とDX」により物流倉庫はどう変わるのか。業界が抱える大きな課題をいかにして解決し得るのか。両社へのインタビューを通し、その可能性を探る。
――物流業界の人手不足は長く問題視されてきましたが、いまどのような状況にあるのでしょうか。
古茂田 いま物流2024年問題や2030年問題に象徴されるように、労働力不足が進んでいます。
そうした日本において物流は、社会課題であると同時に、あらゆる企業における経営課題でもあります。
加えて倉庫や輸送などの物流現場は、慢性的な人手不足に陥っています。
これに付随して、物流業界に見られるもう一つの大きな課題が、DXの遅れです。
デジタル活用による業務の自動化や効率化が進んでいないために、ほかの業界に比べて多くの人手が必要となり、労働力不足がますます深刻化しているのです。
ここには物流業界が抱える構造的な問題があります。
北村 物流において「倉庫」の現場は長時間労働が発生しやすい環境です。
倉庫で扱う荷物の量は一定ではなく、時期によって大きな波があります。
しかし、慢性的な人手不足が続くなか、荷物の量が増えたからといって急に従業員を増やすこともできない。
したがって、繁忙期は残業でカバーするしかないという状況が全国的にあります。
――なぜ通信事業者であるKDDIが、こうした物流課題に取り組む意思決定をしたのですか。
古茂田 物流において、KDDIが持つDXの強みが貢献できると考えたからです。
KDDIが持つ「通信インフラ」や、通信事業者として培ってきた「保守・運用」といったオペレーション、「データ分析技術」などを活かして、物流現場の自動化や効率化を推進する。
これによって2024年問題や2030年問題の解決に貢献できると考えたのが、大きな理由です。
ただ、KDDIは物流倉庫事業の経験やノウハウを持っていないため、業界固有の知見やソリューションを持つパートナー企業との共創が不可欠です。
そこで、マテハン*メーカーとして物流倉庫で使われる機器やシステムについて豊富な知見を持ち、エンジニアリング事業にも取り組んでいる椿本チエインにお声がけしたのです。
北村 椿本チエインはものづくり企業として、さまざまなマテハン機器を組み合わせて物流業界向けのシステムを開発し、倉庫業務の省人化や効率化を図ってきました。
しかし私たちの取り組みを高度化し、より多くの現場へ広げていくには、データの共有化やシミュレーションなどのデジタル技術が必須となります。
KDDIから協業の提案をいただいたとき、組めば面白いことができそうだと直感しました。
椿本が持つハードウェアのノウハウと、KDDIの通信やソフトウェア技術を組み合わせることで、これまでにない物流ソリューションを生み出していきます。
――物流機器メーカーは数あるなか、JVの提案先を「椿本チエイン」に絞った背景とは?
古茂田 パートナーを探す過程で、我々が特に注目したのが、椿本グループが「ベンダーフリー」でのエンジニアリング事業に取り組んでいることです。
これは倉庫に機械やロボットを導入する際に、複数のメーカーやベンダーの製品を組み合わせて調達できるということを指します。
物流領域への参入にあたり、私たちなりに事業戦略を検討するなかで、倉庫事業者が選択できるマテハンメーカーや製品は「導入可能な組み合わせが限定されている」ことが課題であると捉えました。
特定メーカーの製品だけでシステムを構築すると、メーカーが全体の設計から導入・品質保証まで担ってくれるものの、製品の選択肢は同じメーカーの提供するものに限られてしまう。
逆にバラバラなメーカーから自由に製品を選ぶと、システムの立ち上げから品質まで、倉庫事業者が自力で管理し、責任を負わなければいけません。
しかしマテハンの専門知識を持たない企業にとってはハードルが高いため、本当はほかに使ってみたい機器があっても、特定メーカーが提案する製品から選ぶしかないのです。
その結果、現場に最適な機器を最適なコストで導入できないなど、倉庫業務のDXが進まない要因の1つになっていると考えます。
椿本チエインは、こうした問題を解消する「ベンダーフリー」なマテハン導入を可能にしているのです。
北村 椿本チエインはメーカーですから、当初はあくまで自社製品を軸としたシステムを提供していました。
しかし物流市場のニーズが多様化し、こまやかで柔軟な対応が期待されるようになると、自社製品にこだわっていてはお客さまが満足する仕組みを作るのが難しくなる。
そこで、場合によっては我々の製品を候補から外す可能性も許容して、お客さまの理想形が実現できるメーカーやベンダーの製品を集めて「各現場に最適化された」システムを作れるようにしようと。
つまり徹底してお客さま目線に立つ方針にシフトしたのです。
これによって、ベンダーフリーでの提供が可能になりました。
お客さまに妥協を強いるよりも、我々が責任を持ってベンダーフリーの取りまとめ役を担えばいい。
こうした我々の思想に共感していただき、KDDIの通信やソフトウェア技術を掛け合わせることで物流倉庫DXを進めようと生まれたのが新会社「Nexa Ware」です。
――物流に「通信」が加わることのメリットは、具体的にどこにあるのでしょうか。
古茂田 まず挙げられるのが自動化を圧倒的に加速させられることです。
近年は物流倉庫でもAGV(無人搬送車)や AMR(自律走行搬送ロボット)などの導入が進んでいます。
しかし倉庫内のWi-Fi環境が十分でないために、電波が届かない場所があったり、一度に多くの台数を動かすのが難しかったりするケースが少なくありません。
まずは現場のネットワーク環境を整備するだけでも、かなりの業務効率化につながると見込んでいます。
北村 従来の物流倉庫は、ベルトコンベアのような大型設備を「有線」でつないで物を運んでいました。
それを部分的にでも「無線」ロボットに置き換えれば、工事が最小限で済むため、短期間での導入を実現できるようになります。
ロボット台数の増減も容易に調整できるため、激しい物流波動に対応しやすくなりました。
小型ロボットなら場所もとらず、初期投資も抑えられるので、小規模事業者でも自動化システムを導入しやすいというメリットもあります。
古茂田 さらには複数の倉庫同士をネットワークでつなぐことにより
「拠点をまたいだ連携」も可能になります。
1つの企業が複数の倉庫を持っていた場合、それぞれの拠点を個別に運営するケースが多いのが現状です。
しかし倉庫間でクラウド連携してデータを共有すれば、より効率的な運営が可能になります。
たとえば在庫管理についても、倉庫間で情報をシェアすれば「即日配送に対応するには、どの倉庫が、どれくらいの在庫を持つのが適正か」といった分析ができるため、余剰在庫を減らして全体を最適化できるのです。
将来的にはデジタルツイン(現実空間の情報をデジタル空間で再現する技術)も活用していきます。
お客さまにとって最適な自動化ソリューションをバーチャルでシミュレーションして、新しいデジタル化の仕組みを提案することも計画しているのです。
北村 これまで我々はマテハンを現場に導入し、立ち上げから保守、運用までサポートしてきました。
Nexa Wareではさらに、マテハンをネットワークで連携し、収集したデータを分析・可視化して、さらなる省力化や効率化を実現できるシステムへとアップデートしていきます。
このサイクルを回しながら、お客さまにずっと寄り添っていく事業を目指したい。
倉庫業務の自動化ソリューションの開発・構築から運用・保守までワンストップで提供していくのが、Nexa Wareのビジネスモデルです。
――倉庫の自動化はこれまで多くの企業が取り組んでいますが、まだ国内のほとんどの倉庫は機械導入や自動化が進んでいません。デジタル化のハードルをどう越えていきますか。
古茂田 倉庫では紙や人力などアナログな運営が多いため、デジタルなデータを提供していただくことが最初の関門になります。
現場でシステムを使っていても、データ分析に足るだけのログがなかったり、そもそもデータを出力するインターフェース自体が存在していなかったりするケースが多くあります。
そのため初期段階では、現場の方々に手作業でデータの加工や取り出しをお願いする場面も出てきてしまうでしょう。
しかしそれぞれの現場に慣れ親しんだやり方がありますから、我々がいきなり乗り込んで「デジタルで現場を改革しましょう」などと語っても、簡単には受け入れてもらえません。
情報通信を扱ってきた我々は「データさえあれば多くのことが変革できる」と考えます。
ただ一方で、現場では作業員の方々の経験に依存するケースも多いと感じています。
倉庫の自動化を進めるには、まず現場の方たちとすり合わせを行う必要があります。
各倉庫の業務やオペレーションに即したデータの活用法を提案し、理解していただくことが不可欠となる。
ここを丁寧に進めなければ、机上の空論となり、その先に進めません。
北村 倉庫には大量の情報が存在しますが、紙の管理や人の感覚で捉えられている場合が多い。そうしたアナログな情報をデジタル化しなければならない。
また、デジタル化されているデータもありますが、ざっくりとした“平均値”を出す程度で、正確な分析に耐え得るものではありません。
たとえば「100人で1万点の商品を出荷した」ならば、単純計算で一人あたり100点の作業量ですよね。
でも実際は120点分をさばいた人もいれば、80点しかさばけなかった人もいるはず。また時間帯によっても差があります。
こうしたバラつきをなくし、人や時間帯による差が生じた要因を分析できれば、適正な人員管理が可能になるでしょう。
――まずは現場の理解と、アナログ情報のデジタル化が不可欠であると。
北村 そこを乗り越えた上で、マテハン機器、システム、ネットワークを三位一体で提供できるのが、Nexa Wareの最大の強みです。
自動化を進める企業には、ロボット開発や、ネットワーク構築をするプレイヤーもいますが、あくまで個別の提供にとどまります。
物流倉庫のDXに必要な要素をワンストップで提供できることで、これまでにないスピードと確実性で新たな物流倉庫DXを実現できるはず。
数値目標としては、創業5年目となる2028年度に80億円の売上達成を掲げており、その先には「24時間無人化」された自動倉庫の実現も視野に入れています。
古茂田 KDDIは中期経営戦略で「サテライトグロース戦略」を掲げています。
通信を核に、DX、金融、エネルギー、LX(ライフトランスフォーメーション)、地域共創という5つの領域を注力領域として事業拡大していくというものです。
物流業界におけるDXは、長時間労働の解消、道路渋滞の緩和、CO2排出量の削減にもつながり、一般家庭にも便利なサービスが提供できるようになるなど、関わる人が多いだけに社会に与えるインパクトも大きい。
KDDIにとって物流事業は未開の地であり、挑戦しがいのある領域です。
物流は社会にとって血液であり、物流が止まれば社会が止まる。物が滞りなく運ばれることで、企業活動や個人の生活がもっと便利で快適になります。
物流倉庫のDXを起点に、さまざまな社会課題を解決し、よりよい未来を作っていく。それがNexa Wareの目指すビジョンです。
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