<本稿は、「ダイヤモンド・オンライン」に掲載された記事を転載しています。>
KDDIグループ最大級のビジネスイベント「KDDI SUMMIT 2024」が2024年9月3、4日に開催された。同社は、特に注力する六つのテーマについて業界課題や社会課題に応えるため、同年5月にAI時代のビジネスプラットフォーム「WAKONX (ワコンクロス) 」を始動。すでに数多くの活用事例が生まれている。本稿では六つのテーマの中から、イベントで行われた「モビリティ」関連の講演およびディスカッションの内容を採録。事例紹介と併せてKDDIグループが目指すモビリティ社会の将来像をレポートする。
「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる。」を2030年のビジョン「KDDI VISION 2030」に掲げるKDDI。このビジョンを具現化するビジネスプラットフォームとして、同社が始動させたのが「WAKONX」だ。
「WAKONX」の最大の特徴は、AI enabledな三つの機能群である。
KDDIグループがグローバルに展開する膨大なIoT回線や、スマートフォンといったマルチなコンタクトポイントから収集したデータを24時間365日運用・保守する「Network Layer」、大容量・大規模な計算基盤を活用して、収集したデータをセキュアに蓄積・融合 ・分析する「Data Layer」、そして、DXに必要なAIやソフトウェアを業界ごとにファインチューニングして提供する「Vertical Layer」で構成されている (図1参照) 。
KDDIは、このプラットフォームを通じて、主に「モビリティ」「物流」「小売・流通」「BPO (業務アウトソーシング) 」「放送」「スマートシティ」の六つのテーマが抱える業界課題や社会課題の解決に貢献することを目指している。
「WAKONX」の講演の中でも、自動運転やドローンなどの先端テクノロジーが次々と投入され、従来の「移動」「運搬」の概念が大きく変わろうとしている「モビリティ」関連の取り組みには、多くのイベント参加者が注目していた。
その取り組みについて、「KDDIと共に進化するモビリティ社会」と題する講演を行ったのは、KDDI ビジネス事業本部モビリティビジネス本部副本部長の相澤 忠之氏だ。モビリティと通信といえば、車がネットワークに接続する「コネクティッドカー」が思い浮かぶが、実はKDDIがモビリティと関わってきた歴史は長い。
「2000年代初めにテレマティクスサービスを開始して以来、20年以上の歴史を歩んできました。特に、国内の主要自動車メーカー向けにグローバル通信プラットフォームの提供を開始した19年以降、KDDIがサポートするコネクティッドカーの数は全世界で累計2800万台以上と、爆発的に増加しました」と相澤氏は説明する。
相澤 忠之氏
この膨大な数のコネクティッドカーから日々送信されるデータを収集・加工・分析することで、高付加価値なモビリティサービスの提供が可能になる。これがモビリティ領域におけるKDDIグループの大きな強みだ。
KDDIがサポートするコネクティッドカーは、日本のほか、北米、中国、欧州など、世界83カ国・7地域へ広がっている。各国・地域における回線調達や、通信機接続支援、運用設計、法規制調査などのコンサルティングを行い、現地の通信事業者とも緊密に連携することで、ワールドワイドな通信プラットフォームを構築しているのだ。
「急速に拡大するコネクティッドカーの安全・安心な走行や、便利で快適なカーライフを支援するため、5拠点のグローバルオペレーションセンターで24時間365日運用・監視し、万全な体制を整えています」と相澤氏は語る。
今後も、生成AIの実装で実現する自動運転技術の進歩や、SDV (ソフトウェア・デファインド・ビークル) の浸透など、コネクティッドカーはますます進化を遂げていく。KDDIグループはそれらの最新テクノロジーを開発する先進企業と緊密に連携しながら、モビリティの発展に貢献していく方針だという。目指すのは、AIと通信が溶け込むモビリティ社会を支える存在だ。
モビリティという概念の範囲は、車に限ったものではない。KDDIはコネクティッドカーや自動運転だけでなく、ドローンや水空合体ドローン、物流DX (倉庫内の運搬装置の自動化など) 、ロボティクスと、あらゆる「動くもの」を進化させることで、社会課題の解決や新体験の創出を目指している (図2参照) 。
いずれも、「WAKONX」のアセットを通じて車や運搬装置などに搭載されたIoTからデータを収集し、外部データとの組み合わせなどによって、適切なサービスをリアルタイムに提供するのが基本だ。
「交通インフラや車の稼働データをリアルタイムに連携して事故や渋滞の発生を抑制するほか、電力の需給バランスに応じてEVの充放電を制御し、再生可能エネルギーの効率的な消費を実現するなど、社会課題の解決につながるソリューションの実現を目指しています」(相澤氏)
建物のメンテナンスや倉庫内作業のロボット化、貨物の混載・共同配送による物流の効率化など、KDDIが視野に入れるモビリティ変革の領域は広範囲にわたる。「既存領域の変革だけでなく、自動運転タクシーやエアモビリティ (空飛ぶ車) など、新しい価値の創造にも積極的に貢献していきたい」と相澤氏は抱負を語った。
モビリティ領域の一つとして、KDDIグループが取り組んでいるのがAIドローンの活用である。
22年にKDDIスマートドローンを設立し、ドローン事業を本格的にスタート。24年5月には米国最大級のAI搭載自律飛行型ドローンメーカーのSkydioと業務資本提携し、同社が開発した最新のAIドローン「Skydio X10」を活用した社会課題解決を加速させる取り組みを行っている。
「Skydio X10は、高度なAI映像処理によりリアルタイムに空間を把握し、障害物を自動回避しながら自立飛行できる機体です。モバイル通信にも対応予定で、現地にいなくてもドローンを遠隔運用することができます。また、可視光と赤外線を用いた「NightSense」を搭載し、暗所・夜間飛行も可能です。老朽化したインフラの点検や、建設現場・プラントの監視、災害発生時の被害状況の把握などにドローンが活用されていますが、Skydio X10ならこれらの作業をさらに効率よく行うことができます」と講演で語ったのは、KDDIスマートドローン社長の博野 雅文氏だ。
博野 雅文氏
さらに同社は、ドローンオペレーション人材育成の事業として「KDDIスマートドローンアカデミー」を全国に展開している。この秋、三井不動産と日鉄興和不動産が共同開発した街づくり型物流施設「MFLP・LOGIFRONT東京板橋」内に開設される「板橋ドローンフィールド」に、KDDIスマートドローンアカデミー東京板橋校を開校する。都内最大級のドローンフィールドであり、都市部では貴重なドローンの実証実験の拠点として期待される。
「ドローンを開発するスタートアップ企業などが集うコミュニティの場も設け、さまざまなユースケースをパートナーさまと共に考え、AIドローンが開く未来を考えていきたい」と博野氏。パートナーと共にドローンのビジネス共創をより一層加速させる予定だ。
板橋ドローンフィールドを開設した三井不動産ロジスティクス本部ロジスティクス事業部長 兼 イノベーション推進室長の大間知 俊彦氏は、「当社は物流施設だけでなく、荷主や3PL向けの物流ソリューションも提供することで、付加価値の向上を目指しています。ドローンによる物流の効率化もその一つ。今後も物流業界の人手不足をはじめとする社会課題の解決に向けて、KDDIとの連携を強化していきます」と語った。
大間知 俊彦氏
物流業界と同じく、人手不足が喫緊の課題となっているのが、地域の公共交通だ。バスやタクシーではドライバーの高齢化が進み、約15年間で2万キロメートル以上ものバス路線が廃止される (注1) など、極めて深刻な状況である。
その課題解決のため、KDDIグループは高速バス事業者WILLERとの共同出資で22年4月にCommunity Mobilityを設立。「相乗り型オンデマンドサービス」で地域公共交通の効率化を図り、運行の担い手として1種免許ドライバーを活用する事業に取り組む。
相乗り型オンデマンドサービスとは、利用者がアプリで予約をすると、指定された時間にオンデマンド車両が指定の場所で利用者をピックアップし、目的地まで送迎するものだ。これを実現するため、Community Mobilityは「mobi」というAIオンデマンドアプリを開発。すでに全国30エリアで実証実験を行っている。
「このサービスを持続可能にするために欠かせないのが、ドライバーの確保です。そのため、1種免許ドライバーの採用や育成についても、各自治体やNPO、現地の地域交通事業者などと連携しながら一気通貫でサポートします」と語ったのは、Community Mobility副社長の松浦 年晃氏である。
松浦 年晃氏
具体的な取り組みとして例に挙げたのが、茨城県つくば市における相乗り型オンデマンドサービスの事例である。つくば市は、国のスーパーシティ構想に沿って街づくりを進め、人口増加率は全国の市で1位を誇る (注2) が、それでも公共交通のドライバー不足は非常に深刻だという。そこで、23年に相乗り型オンデマンドサービスの実証実験を実施。さらに25年1月からは、つくば市に土浦市、下妻市、牛久市を加えた4市で自家用有償旅客運送による実証実験を開始する予定だ。そのドライバー確保のため、24年10月に1種免許ドライバーを採用・育成する「ドライバーバンク」を提供する。
楠田 悦子氏
モビリティジャーナリストの楠田 悦子氏は、この取り組みについて「1種免許ドライバーは、仕事によほど魅力がないと確保が難しい。つくば市の取り組みが全国のモデルになれば」と期待を示した。
一方、利用する市民の立場から「Community Mobility には、1種免許ドライバーでも利用者が安心して乗れるような仕組みを整備してほしい」と要請したのは、つくば市の五十嵐 立青市長である。「つくば市民から寄せられる不満の1位は公共交通についてです。長期的に持続可能な仕組みを整備することによって不満解消を目指したい」と語った。
五十嵐 立青氏
モビリティ関連の課題解決に向けたKDDIグループの取り組みや、それを支える「WAKONX」への社会の期待は、今後ますます大きくなっていくに違いない。KDDIグループとしてもそれに全力で応えていく構えだ。