未来はどのように変わるのか。「Society 5.0」という言葉には、人間中心の社会を目指す革新的なビジョンが込められている。サイバー空間と現実空間を融合し、少子高齢化や環境問題といった課題を解決しながら、より豊かな社会を創造する。
その具体像は、スマートシティの実現により形を帯びつつある。私たちの生活はどのように変革されるのか。Society 5.0がもたらす新たな社会像に迫る。
Society 5.0とは、サイバー空間 (仮想空間) とフィジカル空間 (現実空間) を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会を指す。この概念は、2016年に閣議決定された「第5期科学技術基本計画」において内閣府が提唱したものだ。
人類社会の発展段階を振り返ると、以下のような進化を経てきた。
Society 5.0が提唱された背景には、少子高齢化による労働力不足、地方の過疎化、エネルギー・環境問題など、日本が直面するさまざまな社会課題がある。複雑化する社会問題に対して、最先端技術を活用することで解決を図ろうとする試みだ。
新時代の社会の姿として位置付けられているSociety 5.0は、IoT (Internet of Things) やAI (人工知能) 、ビッグデータなどの先端技術を駆使し、これまでの情報社会 (Society 4.0) では実現できなかった新たな価値の創出や社会課題の解決を目指している。
Society 5.0の概念を都市に適用したものが、「スマートシティ」だ。スマートシティとは、ICTやIoT、AI等の新技術を活用し、都市機能を効率化・高度化することで、さまざまな社会課題の解決を図る未来都市のことを指す。
Society 5.0が目指すスマートシティでは、多くのサービスの提供が期待されている。
都市のあらゆる要素がデータでつながり、リアルタイムで情報が共有・分析される。これにより、交通渋滞の緩和、エネルギー利用の最適化、災害対策の強化など、多岐にわたる課題に対して、効果的なソリューションを提供することが可能となる。
これらの特徴を総合的に実現することで、人々の生活の質を向上させると同時に、技術と人間が調和した持続可能で快適な都市環境を創出することを目指している。
まち全域に設置されたセンサーやIoTデバイスから収集された膨大なデータが、AIによって分析されることで、データ駆動型都市管理の実現が期待されている。その情報は多くの分野において活用が可能と考えられ、その利用価値をいかに見出すかが重要な課題である。
その中でも特に注目すべき分野として、モビリティ、物流・小売業が挙げられ、その革新と進化に対する期待が高まっている。
例えば、人流および車両のビッグデータと、過去の事故情報といったオープンデータをAI分析して危険地点を見える化するなど、モビリティ分野での活用は始まっている。
また、ドライバー不足による「2030年問題」を抱える物流業界においても配送の最適化は喫緊の課題であり、これは小売業においても当てはまる。自動運転やドローンによる配送、自動配送ロボットの活用などはこの先大きく進化が予想されている。
それ以外にも、AIによる需要予測や在庫管理の高度化により、必要な商品を必要なときに届ける効率的な物流システムが構築されつつあり、大手コンビニエンスストアではAIを導入したことで発注業務の生産性が向上し、欠品率も減少したと報告されている。
これらが実用化された時、我々の生活に大きな変化が生まれることは間違いなく、未来の都市を形作る重要な要素となる。
モビリティ、物流、リテール (小売業) の分野における未来は、どのような都市機能の効率化と市民生活の質向上といった変革を果たすのか、考察してみる。
これらの技術革新により、都市生活はより便利で効率的になるだけでなく、環境負荷の低減や社会課題の解決にも貢献すると期待される。スマートシティにおけるモビリティ、物流、リテールの進化は、Society 5.0が目指す「人間中心の社会」の実現に向けた基盤であり、未来の都市づくりに欠かせない要素である。
Society 5.0の実現に向けては、技術的な課題だけでなく、社会制度や人材育成など多岐にわたる課題が存在する。まず、データ利活用とプライバシー保護の両立が重要な課題となっている。個人情報の保護とデータの利活用によるイノベーション創出のバランスをいかに取るかが問われており、適切な法整備と市民の理解促進が必要である。
次に、サイバーセキュリティの強化が不可欠である。IoTデバイスの増加に伴い、サイバー攻撃のリスクが高まっており、強固なセキュリティ対策が求められる。また、AI、IoT、ビッグデータなどの先端技術を扱える人材の育成が急務であり、それに伴う教育システムの改革も必要とされている。
さらに、新技術の導入に対する不安や抵抗感を払拭し、社会全体でSociety 5.0を受け入れるための土壌づくりも重要な課題だ。
政府はこれらの課題に対し、「統合イノベーション戦略」を策定し、産業界、学術機関、官公庁が連携してSociety 5.0の実現に向けた取り組みを推進している。また、「スーパーシティ構想」など、先進的な技術やサービスの社会実装を加速させるプロジェクトも進行中だ。
その中でも、通信インフラは、Society 5.0が描くデジタル社会の構築と持続可能な未来の実現に不可欠な要素である。KDDIは、安定した通信の提供とデジタルデバイドの解消を重要な課題と捉え、日々取り組んでいる。
KDDIは、Society 5.0が描く未来社会の実現に向けて、積極的な取り組みを展開している。その中核を担うのが、2024年5月に始動したビジネスプラットフォーム「WAKONX (ワコンクロス)」だ。
「WAKONX」は、KDDIが持つ顧客基盤、AI、クラウド、大規模計算基盤、さまざまなネットワークなどのアセットを活用し、パートナー企業との共創により、業界別プラットフォームを構築・提供するものだ。これは、まさにSociety 5.0が目指す、サイバー空間とフィジカル空間の高度な融合を具現化したものといえる。
「WAKONX」は、以下の3つの機能群から成る。
これらの機能を通じて、「WAKONX」はさまざまな産業分野でのデジタルトランスフォーメーション (DX) を加速させ、Society 5.0の実現に貢献していく。
「WAKONX」のプラットフォームを活用することで、都市のインフラ管理、交通システムの最適化、エネルギーマネジメント、防災・減災システムの高度化など、多岐にわたる領域でイノベーションを創出することが可能となる。
例えば、IoTセンサーからリアルタイムで収集されるデータをAIで分析し、交通流の最適化や省エネルギー化を図ることができる。また、災害時には、さまざまなデータを統合・分析することで、被災状況の把握や影響予測などが可能となり、迅速かつ効果的な対応が行える。
KDDIは、「WAKONX」を軸に、パートナー企業や自治体との連携を強化し、Society 5.0が描く未来のスマートシティの実現に向けて、積極的に取り組んでいく。
Society 5.0とそれに基づくスマートシティの概念は、テクノロジーの力を借りて、人々がより快適で活力に満ちた生活を送ることができる社会を目指すものだ。それは単なる技術の進歩ではなく、人間中心の社会を実現するための新たなパラダイムシフトと言える。
モビリティ、物流、リテールなど、あらゆる分野で革新的な変化が起こり、私たちの生活は大きく変わっていくだろう。同時に、環境問題や少子高齢化など、現代社会が直面する多くの課題の解決にもつながることが期待される。
しかし、その実現には技術的な課題だけでなく、社会制度の整備や人々の意識改革など、乗り越えるべきハードルも多い。産業界や学術機関、官公庁、民間が一体となって、これらの課題に取り組んでいく必要がある。
KDDIの「WAKONX」のような取り組みは、Society 5.0の実現に向ける重要な一歩だ。今後、こうした取り組みがさらに広がり、深化していくことで、私たちの暮らす都市や社会全体が、より豊かで持続可能なものとなり、人間らしさを尊重した生活環境へと進化していくことだろう。