物流業界は、EC市場の拡大や人手不足、環境負荷の軽減といった課題に直面しており、従来の手法では対応しきれない状況にある。このような変革の波の中、KDDIは物流DXを推進し、革新的な技術で業界の課題解決に取り組んでいる。
その中心には、AIやIoTを活用した「フィジカルインターネット」の導入、リアルタイム監視システムの構築、さらには倉庫自動化を実現する株式会社Nexa Ware (外部サイトへ遷移します) (以下、Nexa Ware) の設立がある。KDDIが目指すのは単なるデジタル化ではなく、業界全体の生産性向上と持続可能な物流システムの確立だ。本記事では、2025年2月に行われた最新の物流DXとその実証事例について詳しく掘り下げた講演をレポートする。
物流業界は現在、大きな変革の波の中にある。EC市場の急成長や人手不足、環境負荷軽減への対応といった課題が山積し、従来の方法では対応しきれない状況にある。
そのため、AIやIoT、データ分析技術を活用した「物流DX (デジタルトランスフォーメーション)」の推進が不可欠となっている。
KDDIは、企業の成長と社会課題の解決を両立するために法人向け事業ブランド「WAKONX」を立ち上げ、その一環として物流分野に特化した「WAKONX Logistics」を展開している。この取り組みでは、通信技術、データ基盤、AIを活用し、物流の効率化と高度化を推進している。
物流DXの目的は単に業務のデジタル化にとどまらない。業界全体の生産性向上、物流の持続可能性確保、そして最終的には消費者への安定したサービス提供を目指している。
WAKONXとは、通信基盤やデータ分析基盤などを共有し、その基盤の上で「WAKONX Logistics」、「Retail」、「Mobility」といった領域ごとに特化したAI・DXソリューションを開発提供するものである。
KDDIは、「お客さまの事業成長や社会課題の解決に貢献する」ために存在し、「企業や社会活動における血液であり、経済の生命維持装置である物流が社会課題そのものである」という考えから、WAKONX Logisticsとして保管ソリューション (倉庫自動化など) や輸送ソリューション (遠隔監視) を荷主企業さま/3PL企業さま向けに提供している。
WAKONX Logisticsの全体像
WAKONXは、「協調と競争」という2つの使命を担っている。物流業界においても、個社ごとの投資に基づく競争だけでなく、協調して課題解決をする動きがはじまっている。
例えば、食料品業界では、大手各社が共同出資し新会社を設立し、共同配送・標準化・ノウハウの展開を進めている。また、事務機器業界では、複数の複合機メーカーが参画し、共同配送を検討している。
そして、IT・家電や電子機器の業界においても、今後は競合他社が協力し、業界全体で物流を共同化していく流れが加速すると予想されている。
こうした物流業界の「協調」の動きに対して、KDDIは共通の課題を解決するための基盤やサービス提供の準備を進めている。
WAKONX Logisticsでは、KDDI社内でのコンシューマ、コーポレート、ビジネスといった部門を超えたコラボレーションに始まり、まずはKDDIの物流部門をパイロットのお客さまに見立て、物流ソリューションをパッケージ化して提供し、フィードバックのサイクルを回すことで、物流ソリューションをより洗練させていく。
さらにはWAKONXの使命に従い、洗練された我々の物流ソリューションや自動化設備、配送網などの物流アセットをシェアリングし、KDDIを含む複数の企業間でのコラボレーションを促進する。
これにより、共同で物流コストを削減し、自動化と効率化を極限まで高めることに挑戦している。
KDDI自身が「協調」を実践
物流の効率化を進める上で、倉庫の自動化は不可欠な要素となっている。「従来の倉庫運営では、人手による作業が多く、業務の負担が大きかった。しかし、労働力不足が深刻化する中で、より生産性の高い仕組みを構築することが求められている。」と指摘するのは、Nexa Ware代表取締役社長の北村 隆之 氏だ。この課題に対応するため、KDDIは椿本チエインと共同で「Nexa Ware」を設立し、次世代型の倉庫自動化ソリューションを提供している。
北村 隆之 氏
Nexa Wareの大きな特長は、「ベンダーフリー」の考え方に基づいている点にある。特定のメーカーに依存せず、倉庫の環境や業務内容に応じて最適なマテハン機器やロボットを選定し、柔軟な倉庫設計を実現することが可能だ。また、機器の導入だけでなく、運用や保守までをワンストップで支援する体制を整えており、継続的な業務改善にも対応できる。倉庫の自動化を進めるにあたり、データ分析の活用も重要な要素となっている。Nexa Wareでは「Nexa Warehouse - Optimizer」というソリューションを導入し、倉庫内の作業データを収集・分析することで、より効率的な業務フローの構築を支援している。このシステムを活用することで、倉庫内の作業工程を可視化し、どの部分に課題があるのかを明確にすることができる。
また、注文数や作業の進捗データをもとに適切な人員配置を行い、必要なリソースを最適化することで、作業効率の向上につなげている。さらに、出荷作業の完了時間を事前に予測し、業務計画の精度を高めることで、全体の運用をよりスムーズに進めることが可能になる。
物流現場では、自動搬送ロボット (AGV) の活用が進んでいるが、これらの機器を効果的に運用するためには、リアルタイムでの監視が必要となる。Nexa Warehouse - Optimizerには、AGVの稼働状況を管理する機能も備わっており、機器の配置や運用計画を最適化することができる。これにより、無駄な移動を削減し、作業効率を向上させるとともに、設備の負荷を軽減することが可能となる。
Nexa Warehouse - Optimizer の提供サービス
Nexa Wareは、物流DXの実現に向けて複数の物流センターで先進的なソリューションを導入している。実際の現場でどのような成果が生まれたのか、いくつかの事例を詳しく見ていく。
まず、鈴与株式会社 様の物流センターでは、AGVを活用した仕分けシステムが導入された。このシステムでは、入荷した商品を小型AGVに積載し、各仕向け先へ自動で仕分ける仕組みが構築された。従来の仕分け作業では、作業員が各仕向け先ごとに手作業で分類しなければならず、時間と労力がかかっていた。しかし、AGVの導入により、商品が自動で適切な仕向け先へ搬送されるようになり、作業時間が短縮された。さらに、仕分け処理量は従来比で20%向上し、物流のスピードと精度が大幅に改善された。
この仕組みは、デジタルアソートシステム (DAS) と連携しており、リアルタイムで仕分け状況を把握できるため、作業効率のさらなる向上が期待されている。
次に、株式会社流通サービス 様の物流センターでは、化粧品通販向けの出荷ライン自動化が進められた。このプロジェクトでは、ベンダーフリーの考え方を取り入れ、最適なマテハン機器を組み合わせることで、高効率な出荷システムを構築。具体的には、小型AGV330台、ソーター、封函機、コンベアなどを導入し、BtoC向けの自動出荷ラインを確立した。
この結果、出荷能力は30%向上し、人員は27%削減、コストは18%削減されるという大きな成果を上げた。また、エネルギー消費量も40%削減され、環境負荷の低減にも寄与している。さらに、AMR (自律移動ロボット) 20台を活用し、BtoB向けの出荷ラインも同時に構築され、物流の多様なニーズに対応できるシステムが整った。
一方、スマートフォン出荷を行うKDDIの物流センターでは、業務効率化に向けた取り組みが行われた。特に、新型スマートフォンの発売時には出荷量が急増し、通常の出荷体制では処理しきれない事態が発生しやすい。この課題を解決するため、KDDIはNexa Wareと共同で物流工程のデータ分析を行い、出荷作業の最適化を進めた。具体的には、ピッキング、仕分け、ROM書き、封函といった各工程のデータを収集し、業務のボトルネックを可視化。その結果を基に、シフトシミュレーションを活用して作業員の配置を最適化し、工程ごとの作業スピードを効率化した。
この取り組みにより、出荷量は従来比1.4倍に増加し、物流センターの業務効率が大幅に向上した。
野口 一宙
「物流DXの推進により、KDDIはさらなる自動化と標準化を目指している。特に、倉庫の完全自動化、物流アセットのシェアリング、データ連携の最適化という3つの領域に重点を置き、今後の展開を進めていく」と物流の未来を語るのは、KDDIビジネス事業本部 プロダクト本部 副本部長の野口だ。
倉庫の完全自動化に向けた取り組みでは、AIとロボット技術を活用し、人の手を介さずに24時間稼働できる倉庫の実現を目指している。これまでの物流現場では、人員不足が大きな課題とされてきたが、無人化によってその問題を解決することができる。また、デジタルツイン技術を導入することで、倉庫の運用データを仮想空間上で再現し、作業の効率化や最適化を図る。これにより、リアルタイムでの業務改善が可能になり、生産性の向上が期待される。
物流アセットのシェアリングも、今後の物流改革において重要な要素となる。これまで各企業が個別に管理していた物流資産を共有することで、業界全体のコスト削減と効率化を図ることができる。例えば、共同配送の仕組みを導入することで、配送のムダを省き、輸送効率を最大限に高めることが可能になる。
さらに、物流BPO (ビジネス・プロセス・アウトソーシング) を推進することで、企業が物流業務をアウトソーシングし、本来のコア業務に集中できる環境を整える。これにより、物流業務の最適化と企業の競争力向上が同時に実現される。
データ連携の最適化にも注力し、物流全体の統合的な管理を進めていく。AIを活用した需要予測や最適ルートの提案により、配送のスムーズな進行が可能になり、遅延リスクを低減する。これまで属人的に行われてきた作業も、データを活用することで効率化され、より正確な業務運営が可能となる。さらに、AIシミュレーションを活用することで、物流拠点間の動線を最適化し、よりスムーズな物流ネットワークの構築を目指す。
KDDIは、持続可能な物流の未来のために、WAKONX Logisticsの取り組みを通じて物流業界のデジタル変革に必要な機能・アセットを提供していく考えだ。物流の完全自動化とデータドリブンな業務運営の実現により、より効率的で高品質な物流サービスを提供し、企業と消費者の双方にとってメリットのある社会の構築を目指していく。