2025年6月12日、国内有数のインターネットテクノロジーイベント「Interop Tokyo 2025」が開催され、KDDIは講演と展示の両面から「通信×AI」を軸にしたインフラ戦略を披露した。講演では、KDDI ビジネス事業本部より柳澤 健之、中島 康人が登壇し、データセンターの進化とAI活用の最前線について解説。展示では、NVIDIAの最新GPU「NVIDIA GB200 Grace Blackwell Superchip」の現物展示や、KDDIグループの提供するさまざまなAIサービスのデモが行われ、来場者の注目を集めた。本レポートでは、講演内容と展示の見どころを交えながら、KDDIが通信とAIで実現しようとしている“次世代インフラ”の全体像をひもといていく。
2025年6月12日、KDDIはインターネットテクノロジーイベント「Interop Tokyo 2025」に登壇・出展。
「通信×AIが事業成長に導く──AI時代を支えるデータセンターの進化と未来」と題した講演および展示を通じ、同社が描くAI時代のインフラ戦略と最新ソリューションを惜しみなく紹介。
講演には、KDDI ビジネス事業本部からグループ戦略本部 テレハウス企画部長の柳澤 健之、プロダクト本部 AIビジネス推進部長の中島 康人の2名が登壇。それぞれ「データセンターの進化」「AIインフラのビジネスへの活用」を中心に、KDDIの通信基盤を強みにしながら、企業のAI活用を支援する全体戦略を語った。
展示ブースでは、NVIDIAと連携した次世代チップ「NVIDIA GB200 Grace Blackwell Superchip」の実機展示が注目を集めたほか、リテール向け店舗開発ソリューション「KDDI Retail Data Consulting」をはじめとしたさまざまなAIサービスを体験型デモで紹介。AIインフラとAIサービスの両面から、具体的な価値が体感いただける内容となった。
柳澤 健之
「AI時代の到来により、データセンターに求められる役割は、これまで以上に重要になっています」──KDDI ビジネス事業本部 グループ戦略本部 テレハウス企画部長の柳澤 健之は、講演の冒頭でそう語った。
データセンターとは、企業や組織のサーバーやネットワーク機器を安全に収容し、安定稼働させるための専用施設だ。電源や冷却設備、空調、セキュリティ、通信インフラといった環境が整備されており、近年ではGPUを搭載して運用するケースも増えてきている。KDDIは、その中でも通信事業者とクラウド・コンテンツ事業者をつなぐ「コネクティビティDC」を中心に展開。柳澤はKDDIが展開するコネクティビティDCについて「例えばauのスマートフォンユーザーが快適に動画やコンテンツを楽しめるように、通信経路を最適化する役割を担っている」と説明した。
KDDIは「Telehouse (テレハウス) 」というブランドでデータセンターをグローバルに展開している。1989年にニューヨークでスタートしたTelehouseは、現在では国内外に45拠点以上を構え、3,000社以上の企業に利用されている。また、グローバル全体のコネクティビティシェアで第4位、通信事業者としては第1位だ。
とくに注目すべきなのが、2023年5月にタイ・バンコクで開業した「Telehouse Bangkok」だ。タイ国内の主要キャリアとの接続をいち早く実現し、わずか2年足らずで国内コネクティビティ1位のポジションを獲得した (注1) 。なお、 「Telehouse Bangkok」では4ルートからの通信回線引き込みを先駆的に実施し、相互接続のしやすい環境を提供。「開業当初は当然ゼロの状態からスタートしましたが、他社の既存データセンターを追い抜きトップに立ちました。当時は、4ルート構成を組むためにかなりの苦労がありました。日本では一般的になりつつある構成ですが、バンコクではまだ事例がなく、初の試みだったと考えています。これは、KDDIとしても非常に感慨深い成果です」柳澤は当時を振り返った。
さらにKDDIは、ロンドン、パリ、カナダ、タイをはじめとした各地でコネクティビティNo.1のデータセンターを展開。欧州・北米・アジアの三極体制を構築し、グローバルでの存在感を高めている。2023年度には、KDDIのDC事業の売上高が1,000億円を突破するなど、順調な成長を見せている。
また、会場では「AI需要の増加とデータセンターの電力消費を背景に、より大電力容量を持つAI特化型データセンターの必要性が高まっている」という話も来場者の関心を集めていた。
「経済産業省資源エネルギー庁の予測によれば、データセンターの電力消費はこのまま増え続けると、2040年ごろには現在の日本全体の電力需要 (約1兆kWh) を超える可能性があります。(注2) つまり、生成AIの普及が進むにつれ、データセンター単体で国全体の電力レベルに到達してしまうかもしれないという、深刻な課題に直面しているのです」と柳澤はデータを引用しながら、AI時代におけるデータセンターの消費電力の予測について説明した。
さらに、AIデータセンターでは、高度な計算処理を効率的に行うためにGPUが搭載されているため、1ラック当たりの消費電力が130kWを超えるケースも現れている。そのため、従来の空冷設備では冷却が追いつかず、水冷対応が必須となっているという。水冷技術は水や冷媒の特性を活かして熱を効率的に逃がす仕組みで、チップに直接冷却液を循環させることで、冷却にかかる電力を最大63%削減できるという試算も出ている (注3) 。KDDIでは、冷却技術についても最適な方式の組み合わせや運用効果を確認しながら、新たな冷却手法の検証と実装を進めている。
そして、KDDIでは、最先端GPUサーバーに対応したAIデータセンターの検証環境を渋谷に開設。さらに、大規模な生成AIモデルを高速に開発できるデータセンターを東西に整備した。再生可能エネルギー由来の電力を100%使用し、水冷技術も導入することで、電力消費を抑えた持続可能なインフラ構築を目指す。
具体的には、大阪・堺では潤沢な電力と広大な敷地を活用し、「NVIDIA GB200 NVL72 プラットフォーム」を導入したAIデータセンターを2025年度中に稼働予定。さらに、東京・多摩「Telehouse TOKYO Tama 5-2nd」は、2027年秋の開業に向けて準備が進められている (注4) 。
講演の後半では、KDDI ビジネス事業本部 プロダクト本部 AIビジネス推進部長の中島 康人が登壇。KDDIが進めるAI事業の全体像と、その基盤となる「WAKONX (ワコンクロス) 」の構想について語った。
中島はまず、「少子化問題や労働力人口の減少といった、日本社会が抱える構造的な課題に対しても、通信とAIの力で貢献していきたいと考えています」と企業への取り組みだけでなく、社会問題を解決するAIサービスの実現について語った。そして、日本企業が本格的にAIを活用できるように、KDDIは「AIインフラ」「AIモデル・プラットフォームの開発」「AIサービスの実装」などのAI基盤の整備に取り組んでいるという。「これまでは限られた企業しかAIインフラを活用できませんでしたが、我々が国内でGPU基盤を整備することで、より多くの企業がAIにアクセスできる環境を提供したいと考えています」と中島は述べた。
中島 康人
また、KDDIは、GPUの需要に柔軟に対応できる体制を構築しながら、生成AIの基盤モデルの開発を促進するため、「さくらインターネット」と「ハイレゾ」と3社で協力しながらニーズに応じて計算資源を提供する基本合意書を締結。実際にこの取り組みに対しては、顧客からも安価での利用や、国内に閉じた基盤取り扱いデータの拡充など、高い期待と評価の声があるという。
中島の講演の後半では、KDDIが支援するAIの実装事例が複数紹介された。いずれも、KDDIの通信・GPU・セキュリティを基盤に、社会課題解決や業務効率化を目指すユースケースだ。
1つ目の事例は、LLM (大規模言語モデル) を開発している「ELYZA (イライザ) 」との協業だ。LLMを開発するためには相当数の計算資源が必要になるが、KDDIがGPUを供給することで、ELYZAが効率的にモデルを開発できるようになるという。AIアプリを簡単に作成できる法人向け生成AI活用SaaS「ELYZA Works」の準備を進めながら、生成AIの業務活用や業務の効率化を支援している。
続いて2つ目は、「AIロボット協会」との連携による取り組みだ。AIとロボット技術を組み合わせ、現場で得られるロボットの動作データを収集・活用する大規模なエコシステムの構築を進め、小売、物流、医療など多様な分野で、日本が抱える課題解決に資するロボット導入を目指すという。KDDIは、計算基盤提供事業者の1社としてAIの実装・運用を支援。具体的には、業界の垣根を超えたデータ共有・収集、基盤モデルの開発とオープンソース化、そしてスケーラブルなAIロボットエコシステムの構築といった取り組みが進行中だ。このような取り組みは、コンビニの人手不足や、物流現場における業務負担の軽減など、日常に直結する課題の解消にもつながっていく。中島は、「WAKONXでは、コールセンターや金融機関におけるモデル開発、セキュリティや設備の異常検知など、さまざまな業界に対しても支援を行っています」と、GPUやAIインフラの提供を通じた幅広いサポート体制についても言及した。
KDDIの講演では単なる技術紹介にとどまらず、講演を聞く参加者へAI活用のヒントとなるよう、「実際にどんな課題がどう変わるのか」を提示。KDDIはこれからも「WAKONX」を通じて、GPUに加え、高度な通信環境やセキュリティ、柔軟なネットワーク設計などをトータルサポートすることで、AIビジネスのさらなる加速と、社会課題の解決に貢献していく。
展示ブースでは、講演でも紹介されたAIインフラの構想やサービスが、実際に体感できるように設計。
AIデータセンターの模型を正面に構える展示ブースの中で、特に来場者の注目を集めていたのが、GPUの最新モデル「NVIDIA GB200 Grace Blackwell Superchip」の現物展示だ。「これが実物か」と足を止める来場者も多く、国内でも現物がなかなか見られないチップの展示は、AIインフラ面でのKDDIの取り組みの本気度を象徴するものとなった。
また、展示のもう一つの目玉は、AIサービスの実演デモだ。その一つであるWAKONX Retailのサービス「KDDI Retail Data Consulting (外部サイトへ遷移します) 」のデモ機では、例えば「女性社会人向けのカフェを出展するのに適した場所は?」と自然言語で入力すると、AIが最適な候補エリアを即座に分析する。結果は地図上でハイライト表示されており、視覚的にも直感的にも理解できるUXを実際に体験できた。位置情報や属性データをもとに、ユーザーの問いに対してリアルタイムに分析結果を返すインタラクティブなAIツールは、「出店戦略やマーケティング支援にもなる」と来場者の関心を大きく引いた。
なお、本サービスは2025年6月30日から、GPSデータをもとに店舗の集客範囲を可視化し、より正確な消費者行動情報を反映した商圏データを提供する「実勢商圏」機能を提供開始している。
KDDIは、AIインフラの「基盤提供」だけでなく、「実装」までを見据えたサービス展開を一体で行っていることを、展示という場を通じて体現。講演では語りきれない技術の実像や、ユーザー体験としてのAI活用のイメージを伝える機会として、展示は強いインパクトを残した。
KDDIは、通信とAIの融合によって、日本企業のビジネス変革と社会課題の解決を支える“次世代のインフラ”を描いている。
講演では、グローバルで進化を続けるTelehouseブランドの歴史と強みを背景に、日本国内でのAI対応データセンターの整備が着実に進んでいることを紹介した。
さらに、KDDIはAI時代のビジネスプラットフォーム「WAKONX」を通じた、通信・GPU・ネットワーク・セキュリティなどを組み込んだトータルサポートが強みだ。ELYZAやAIロボット協会との実装事例からも見えるように、単なる技術提供ではなく、社会に根ざしたAI実装を進めている。
展示ブースでは、NVIDIAとの連携による「NVIDIA GB200 Grace Blackwell Superchip」やAIサービスの実演により、来場者にとっても「KDDIがどこまでAIを現実にしているか」を体感いただける機会となった。
通信を軸にAIをつなげることで事業成長と社会課題の解決を支援していく――KDDIの挑戦は、今後も続いていく。