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価値観の多様化や労働人口減少、業務の高度化など、社会とビジネスの前提が大きく変わりつつある今、通信を通じた新たな価値創出が注目されている。KDDI SUMMIT 2025では、通信を軸にした次世代の都市モデルや、進化した働く空間・訪れる空間づくり、通信が溶け込んだ新しいデバイスの姿が示された。本レポートでは、ピックアップした3つのセッションと展示ブースを通じて見えた“社会の未来像”をお届けする。
2025年10月28日~29日、「KDDI SUMMIT 2025 つなぐチカラを進化させる ~ともに、夢中に、未来を創ろう~」をテーマに、KDDIグループ最大級のビジネスイベントが開催された。本イベントは、KDDIのビジョンや事業戦略、アセットを社内外に発信し、未来を共創するパートナーシップを加速させる場として位置づけられている。会場には、多くのビジネスパーソンやパートナー企業、主要メディアが来場し、基調講演やセミナー、展示を通じて、次世代社会に向けた共創モデルが示された。
通信が社会にどのように溶け込み、新たな価値を生み出していくのか――。「スマートシティ」「働く空間の進化」「通信が溶け込むデバイスの未来」の3つのテーマに焦点を当てて、その未来像を紐解いていく。
現代の日本は、価値観やライフスタイルの多様化の一方、労働人口減少により、従来通りに一人ひとりに合わせたおもてなしで、施設やオフィス利用者の満足度を維持・向上させることが難しくなっている。加えて、十分な接客体制の維持や人材育成が困難になるなど、街運営にも新たな課題が生まれている。このような背景のもと、通信とデータを活用して街体験を高度化する「スマートシティ」への取り組みが進められている。
「都市のイノベーションを地域へ ~スマートシティが導く新しい社会~」と題した本セッションでは、ビジネスイノベーション推進2部 部長の保科 康弘が登壇し、KDDIが描く次世代都市モデルと社会実装の取り組みについて紹介した。保科は冒頭、スマートシティが生み出す価値について「訪れる人には“利用者に合わせて最適な体験を提供する”ハイパーパーソナル体験を。働く人には“街がワーカーの能力を引き出す”ハイパーパフォーマンス体験を実現する」と説明。訪れる人・住む人・働く人それぞれにあわせて、街が価値を提供する姿を提示した。
高輪ゲートウェイ駅前に広がる「TAKANAWA GATEWAY CITY」では、KDDIが実験者として街づくりに参加しており、すでにさまざまなサービスが実装されている。例えば「TAKANAWA GATEWAY CITYアプリ」は、利用者の行動データをもとに、最適なタイミングで飲食やイベント、移動情報などをレコメンドする仕組みだ。毎朝コーヒーを購入する利用者には、改札を抜けた瞬間にカフェクーポンを提示し、帰宅時に電車遅延が発生した際には、TAKANAWA GATEWAY CITYに留まって楽しめるスポットを案内するなど、今まさに知りたい情報を街がリアルタイムで届ける。保科は本アプリの価値について「“あのタイミングで知らせてくれたらよかったのに”という経験は、誰しも一度はあるはずです。必要な情報を、必要な瞬間に受け取れる仕組みを導入したことで、一般的なアプリのバナー広告に比べてクリック数が4倍以上 (注1) に拡大しています」と説明した。さらに「企業の皆さまが発信したい情報を新しい発見としてお客さまへお届けすることで、街のにぎわい創出や商業店舗の売上にも寄与していきます」とも語った。
また、イベント集客や混雑緩和に活用できる未来予測ダッシュボードも紹介された。人流や天候、イベント傾向など多様なデータを活用し、来訪者の動きを予測することで、適切な人員配置や導線設計、販売促進施策につなげることが可能だ。さらに、分析レポートの自動生成機能もある。これらは、継続的に学習し、予測精度を高めていく仕組みとなっている。
加えて、AIサイネージによる接客アシストでは、売り場のレコメンドを自動化。おすすめ商品の提案や、出来立て商品のリアルタイム告知などを行い、スタッフの負担を軽減しながら顧客体験の向上を図る。また、多言語対応も可能であり、インバウンド客へのおもてなしの質的向上も期待できる。
今後は、これらの知見を高輪以外の地域へ展開し、規模や地域特性に応じた都市モデルに反映させていく方針だ。離れた場所同士をシームレスにつなぐワークスペースや、教育格差の解消につながる学習環境の連携など、多岐にわたる活用領域が想定されている。高輪での実装経験と学習内容を他都市へ展開し、そこから得たフィードバックを再び高輪に戻す。この循環を高速に繰り返すことで、日本、そして世界の都市価値の向上に貢献していく。
最後に、保科はスマートシティ推進における共創の重要性に触れた。「スマートシティ構想は、KDDIだけで実現できるものではありません。通信やデータに加え、住民や来訪者の行動や声が重なってこそ、真の価値が生まれます。高輪での取り組みを通じて、そのことを強く実感しました。これからも皆さまとともに創り上げていきたいと思います」と締めくくった。
少子高齢化が進む日本では、2040年に労働人口が約1,200万人減少すると予測されている。人手不足の深刻化に伴い、長時間労働の常態化やワークライフバランスの悪化、有能な人材の不足など、さまざまな影響が企業に及ぶ可能性がある。このような状況を打開するための一つの解決策として、限られた人材でも高い生産性を実現できる空間づくりが求められている。
このテーマで登壇したのは、執行役員常務 ビジネス事業本部 副事業本部長の那谷 雅敏だ。那谷は、空間づくりのキーワードとして「柔軟性」と「進化」を掲げ、まずは働く環境の変遷を例に挙げて振り返った。1990年代は、タイムカードやスケジュールボード、FAXなどアナログ中心の働き方が主流だったが、2020年代には会議予約や出退勤管理、入退館ゲートなどのデジタル化が急速に進展した。そしてこれからは、社員の居場所の可視化や、社内郵便のロボット配送、設備や空間の自律的な最適化など、人とテクノロジーが共存する新たなワークスペースが当たり前になると述べた。
この“空間の進化”を実現するため、KDDIは通信・ロボット・AIを起点に、働く空間と訪れる空間をトータルで支援する「KDDI Smart Space Design」を2025年8月に始動させた。那谷は「現在のオフィスではWi-Fiやロボット、入退館・顔認証システムなど、多くの機能が通信と連動しています。ならば、通信を長年支えてきたKDDIが、コンセプト策定から運用まで一気通貫でサポートすべきだと考えました」と語った。
具体的には、通信の配線ルートの検討が不十分なまま設計を進めると、適切な場所にWi-Fiのアクセスポイントを設置できないケースが生じてしまう。また、ロボットの導入に際しても、企画・設計段階からロボットの動線を考慮した空間づくりをしなければ、ロボットがオフィスを自由に動き回ることは難しいという。
一見、ファシリティとの関連性が薄いように見えるKDDIだが、実は1980年代から海外でオフィス内のサーバー構築を手掛け、2021年からは内装デザインも行ってきた実績がある。こうした海外の知見と、日本の高度なテクノロジーを掛け合わせ、より進化したソリューションの展開を目指している。
さらに、2026年6月にはオフィスレイアウト自動生成AIをリリース予定だ。デザイナーや建築士の思考プロセスをAI化し、通常1カ月かかるレイアウトや見積もりの作成を約15分で完成できるツールを、企業に無償で提供する。
那谷は最後に「働く空間 (オフィス・ビル・倉庫・工場等) と訪れる空間 (店舗・スタジアム・コンビニ等) のすべてに通信を融合させ、パートナーとともに価値を創り続けていきます。高輪本社は現在ショールームとしても活用されているため、体験されたい方はぜひお問い合わせください」と、共創による価値創出への思いを改めて示した。
最後に、お客さま企業の製品価値の最大化に向けた通信一体型のビジネスモデル「ConnectIN」について、IoT営業推進部 副部長の岩本 克彦が語った。
KDDIのIoTへの取り組みは約20年前にさかのぼる。見守り端末やセキュリティ機器を皮切りに、電力・ガスのスマートメーター、近年ではコネクテッドカーへと提供領域を拡大してきた。製品にIoT回線を導入してきた実績は国内No.1 (注2) であり、2025年夏には累計6,000万回線を突破している。また、単なる回線の提供にとどまらず、つないだ先の運用支援までをワンストップで対応できることも、KDDIの強みだ。
通信の価値をこれまで以上にお客さま企業に活用いただくことを目的に、KDDIが2025年1月に発表したのが、新たなビジネスモデル「ConnectIN」だ。従来の月額課金モデルではなく、KDDIとメーカー企業が販売台数に応じて利益を分配するレベニューシェアを採用し、多額の初期投資リスクを両社で軽減する。すでに法人向けPCでは、2023年に株式会社日本HPと連携し、5年間の容量無制限の通信利用権を内包したPCを展開し、大きな反響を呼んだ。その成功例を受けて、2025年1月には、さらに多くのメーカーの賛同を得て「ConnectIN」ブランドを立ち上げ、今なお広がりを見せている。
また、「ConnectIN採用PC」は導入企業にもメリットがある。
管理者にとっては、PCに容量無制限の通信利用権が内包されることで通信コスト削減が見込めるほか、物理的なSIMやモバイルWi-Fiルーターの手配が不要となり、運用管理の負担も軽減される。
一方、利用者の観点からみると、KDDIのアンケート調査では、7割以上のビジネスパーソンが外出先でのインターネット接続にストレスを感じていると回答しているが、「ConnectIN採用PC」の普及により、こうした課題の解消も期待される。
岩本は「まだ始まったばかりの取り組みではあるが、今後もさまざまなメーカーやサービスのIoT化を支援していきたい」と締めくくった。
スマートシティのブースでは、最先端の街づくりの事例紹介に加え、「TAKANAWA GATEWAY CITYアプリ」のデモも行われていた。高輪ゲートウェイ駅の改札を通過すると、その時に開催されているイベントや店舗の混雑情報、さらには個人の興味関心に合わせた情報を、アプリを通じてプッシュ通知で受け取れる仕組みを紹介。この仕組みに対して、来場者からは自身の興味関心に合わせた通知が届くことに関心が寄せられ、自身のTAKANAWA GATEWAY CITYアプリとSuicaの連携を早速試したいという声もあがっていた。
ブース全体を通じて感じられたのは、通信を起点に、社会とビジネスの両面で課題を解決するKDDIの姿勢だ。通信とデータがもたらすさまざまな可能性を感じられる場になっており、来場者が「自分ごと」として感じられる体験型の展示が多数並んでいた。
KDDI SUMMIT 2025では、通信とデータを起点に、社会やビジネス、都市、働く環境がどう進化していくのか、その未来像が多角的に示された。
これからもKDDIは、行政や企業、住民など、多様なステークホルダーと連携しながら、社会にとって重要な価値を共創していく。今回のイベント内でのセミナーや展示は、未来への変化がすでに始まっていることを強く実感させるものであった。