消費者ニーズの多様化により商圏環境が大きく変化する中、定量的な人流データに基づく戦略立案の重要性が高まっている。こうした背景のもと、KDDIは企業・自治体向けに「KDDI データイノベーションフォーラム 2026」を開催した。本フォーラムでは、現場で培われた知見や社内外データを活用し、意思決定の質とスピードを高める実践事例が共有された。本記事では、講演で語られた事例と、会場で展示されたソリューションを通じて、データ活用の“いま”をレポートする。
2026年1月23日、KDDIは企業・自治体向けに「KDDI データイノベーションフォーラム 2026」を開催した。本フォーラムは、位置情報データ活用サービス「KDDI Location Analyzer」(外部サイトへ遷移します) や、興味関心事・行動傾向・決済データなどの1st partyデータを活用した「KDDI Retail Data Consulting」(外部サイトへ遷移します) の導入検討者に向け、データ利活用の最新事例と今後の展望を共有する場として企画された。
前回 (2025年1月開催) の反響を受け、今回は第2回の開催となった。
本レポートでは、ヤマト運輸株式会社 (以下、ヤマト運輸)、株式会社ローソン (以下、ローソン)、JR西日本SC開発株式会社 (以下、JR西日本SC開発) による講演セッションに加え、「KDDI Location Analyzer」の新機能の見どころを交えながら、データが意思決定をどのようにアップデートしていくのかをひもといていく。
ヤマト運輸の登壇セミナーでは、同社CRE戦略部 CRE戦略課長 吉田 昭太 様が、拠点戦略における位置情報データ活用の取り組みについて語った。
講演の冒頭では、宅急便事業のこれまでの歩みに触れ、「弊社の宅急便サービスは、2026年1月20日に開始から50周年を迎え、2024年度には年間約23億個を扱う事業へと成長しました」と振り返った。
今や社会インフラの一つとなった宅急便事業において、ヤマト運輸は市区町村単位で拠点ポテンシャルを可視化し、人口や事業所数に加えて観光需要などの地域特性も定量化することで、営業所への持ち込み個数を予測するなど、多角的なデータ分析を行ってきたという。一方で分析粒度には限界があり、最終的な判断は現地調査や担当者の経験に頼らざるを得ない点が課題だったと吉田様は振り返る。エリア評価は高かったものの、実際の人流を十分に捉えきれず、期待した成果につながらなかったケースもあったという。
こうした課題を背景にヤマト運輸が導入したのが、面のデータに加えて「点」として人流を把握できる「KDDI Location Analyzer」だ。吉田様は、10mメッシュの高解像度で分析できる点や、直感的に操作できるUIなどを評価ポイントとして挙げた。導入後は、持ち込み・集配個数の自社データと、本サービスで取得した交通量・人流データを組み合わせて分析を実施。「面」で選定したエリア評価に「点」としての人流データを重ねることで、物件選定の解像度が大きく向上したという。吉田様は、「現地調査前のスクリーニング精度が上がり、情報収集の負荷を大幅に削減できました。また、これまで肌感覚に頼っていた判断を、データで裏付けられるようになった点も大きなメリットです」と、その効果を強調した。
最後に吉田様は、今後の展望についても触れた。宅急便事業にとどまらず、ネコサポ (地域密着型サポートサービス) や手荷物預かりといったサービスの拡充、インバウンドや観光需要を捉えた「手ぶら観光」ニーズへの対応など、拠点開発の幅を広げていく方針だという。さらに、鮮度の高いデータを活用し、街の変化に即応する拠点開発を進めていく考えも示された。講演の締めくくりには、「自社データと外部データを組み合わせることで、かなりの確からしさが得られる。ぜひ『KDDI Location Analyzer』を使ってみてほしい」と来場者にメッセージを送った。
「コンビニを出店するとしたら、AとB、どちらの立地が好ましいでしょうか」講演の冒頭で投げかけられたこの問いは、会場の関心を一気に引きつけた。
本セッションには、ローソン 開発本部 開発統括部 マネジャー 髙野 智慎 様と、KDDI株式会社 AIビジネス企画部 副部長の麻生 大亮が登壇。
パネルセッション形式で、ローソンの店舗開発におけるデータ活用の現在地が語られた。
まず髙野様は、冒頭の質問を例に挙げながら、立地判断では交通量だけでなく、信号機の位置や道路への出入りのしやすさといったさまざまな要素が来店心理に大きく影響すると説明した。実際、同じエリア内でも立地条件によって、売上が大きく変わるケースがあるという。そのうえで「ローソンの店舗開発において、位置情報データを活用した分析は欠かせない」と語り、エリア特性の把握から立地ポテンシャル評価まで、「KDDI Location Analyzer」を活用していると説明した。
本サービスの利点として挙げられたのが、過去にさかのぼって人流データを取得できる点と、人の動線を可視化できる点だ。髙野様は、「指定期間の人の流れを抽出できるため、人流の変化を踏まえた分析が可能になります。
さらに、居住者・勤務者・来街者別の人流データを把握できることで、分析精度が大きく向上しました」と述べた。取得したデータは、新店オープン前後の検証や、将来を見据えた戦略立案にも活用しているという。導入効果として特に即効性があったのが、業務効率の改善だ。髙野様は「新規出店の検討では、長時間に及ぶ現地調査が必要でしたが『KDDI Location Analyzer』を活用することで調査時間を大幅に削減できました」と語った。
ここで麻生から、「このような新しいツールを業務に定着させるうえで、難しさはなかったのでしょうか」と質問が投げかけられた。これに対し髙野様は、導入時に6時間程度の勉強会を実施したものの、操作説明自体は10分もかからなかったと振り返る。
「UI・UXが非常に分かりやすく、直感的に理解できるツールだと感じています」と述べ、現場への浸透のしやすさを強調した。
講演の締めくくりとして「判断の際に経験や勘を重視する人もいますが、データを軽んじている人はいません。データは判断を後押しする重要な存在です。」と語り、経験知とデータを掛け合わせることで、より確かな意思決定につながるという考えと、判断を支えるデータの価値や重要性を伝えた。
本セッションでは、JR西日本SC開発 カンパニー統括本部 開発戦略部 部長の舟本 恵 様が登壇。商業施設を取り巻く環境変化を踏まえ、今後の施設運営やテナントリーシングに求められる考え方と、同社が実践する最新のマーケティング手法について紹介した。
従来の商業施設は「施設が集客し、テナントが販売する」というBtoBtoCの構造のもと、来館者数の多さが売上につながると考えられてきた。しかし、スマートフォンの普及等により消費者ニーズは細分化・多様化し、マスマーケティングが機能しにくくなった結果、来館者数は必要条件ではあるものの、十分条件ではなくなったと舟本様は指摘する。さらに、建設物価の上昇を背景に、テナントの出店判断がより慎重になっている点も課題として挙げられた。
こうした背景を踏まえ、舟本様は商業施設におけるマーケティングのあり方についても言及した。「マーケティングの理想は、来店者一人ひとりに合わせて商品や体験を提供する“パーソナライゼーション”にあります。ただ、売り場面積やテナント数に限りのある商業施設において、それを実現するのは現実的ではありません」そこで提示されたのが、マスマーケティングとパーソナライゼーションの中間に位置づけられる「ローカライズ」という考え方だ。地域生活者に共通するニーズや価値観を捉え、それを施設づくりに反映していく手法である。
また、現在の商業施設業界はテナントの売り手市場にあり、ディベロッパー自身が主体的に地域生活者のニーズを把握し、そのニーズに合致したテナントを誘致・マッチングする“プラットフォームビジネス”へ進化する必要があると語った。その具体策として、同社独自の商業施設開発におけるマーケティングフローが紹介された。なかでも重視しているのが、競争地位戦略の選定と、グループインタビューによる定性的情報の収集だ。例えば、経営資源が限られた小規模施設では、特定層に絞るニッチャー戦略を選択し、さらにグループインタビューで生活者の声を集めることで、提供価値を明確化し、テナントの成功確率を高められるという。
この取り組みにより、テナントとの出店交渉は従来の「ぜひ出店してください」という関係から、「この施設には出店した方がよいと思いますよ」と提案できる関係へと変化していく。一方で、マーケティングフロー全体に相応の時間と労力を要する点は課題として挙げられた。舟本様は、「今後はKDDIと連携し、AIを活用することで、マーケティングプロセス全体の効率化を図っていきたい」と展望を語り、講演を締めくくった。定性データの分析高度化を通じ、商業施設が地域生活者とテナントをつなぐプラットフォームへと進化するうえで、AIの重要性は今後さらに高まっていくだろう。
会場では講演の合間に、「KDDI Location Analyzer」の新機能を中心とした展示デモを実施した。従来の人流分析に加え、来訪前後の立ち寄り行動や宿泊エリア、回遊データなど、来訪者の行動プロセスをより立体的に捉えるための新機能が紹介された。
2026年1月21日に提供開始 (注) した「前後立ち寄り分析」は、特定の目的地に対して「どこから来て、次にどこへ向かったのか」を可視化し、回遊性を踏まえた施策検討をサポートする機能だ。市区町村単位での来訪・移動傾向を把握できるため、広域での人流分析にも活用できる。
さらに、2026年3月下旬リリース予定の「宿泊地分析」「発地分析」では、来訪者の宿泊エリアや宿泊施設タイプ、発地分布を明確に把握でき、観光プロモーションやターゲット施策の最適化にも役立つ。来訪前後の行動から滞在・移動までを一連の流れとして捉えられる点に、多くの来場者から関心が寄せられた。
本フォーラムを通じてあらためて感じられたのは、多くの企業が成長に向けて戦略的にデータを活用しているという点だ。現場で培われてきた経験や感覚に外部データを掛け合わせることで、意思決定の確度とスピードを高めている姿が共通して見られた。人流データをはじめとする客観的なデータは判断を置き換えるものではなく、判断を前に進めるための拠りどころとなっている。自社の戦略や課題に照らし合わせたとき、データ活用で何を変えられるのかを考えるきっかけにもなるだろう——
KDDIは今後も、現場実装を見据えたデータ利活用を進めていく。