このページはJavaScriptを使用しています。JavaScriptを有効にして、または対応ブラウザでご覧下さい。

サイバーインシデント初動のリアルと求められる組織力

サイバーインシデント初動のリアルと求められる組織力

KDDI株式会社株式会社ラック (以下、LAC) が主催するセキュリティセミナー攻撃多様化時代を生き抜く組織力」が2026年2月5日に開催された。
当該セミナーでは、第一部にて、国立研究開発法人情報通信研究機構サイバーセキュリテ研究所 ナショナルサイバートレーニングセンター長の園田 道夫 氏から、「いつ・どこで・なぜ気づけなかったのか」「企業としてサイバー攻撃にどう備え、どう初動対応すべきか」をテーマランサムウェア被害時初動対応現実具体的事例をもとに講演いただき、第二部では「サイバー脅威への備え方:〈内製×外部連携〉の最適解を探る」をテーマ参加者同士によるディスカッションが行われた。

  • ※ 記事内の部署名、役職は取材当時のものです。

ランサムウェア被害の深刻化とインシデント認知の課題

国立研究開発法人情報通信研究機構サイバーセキュリティ研究所 ナショナルサイバートレーニングセンター長の園田氏によると、近年ランサムウェアによる被害拡大一途をたどり、被害額増大だけでなく、事業継続企業価値に対する長期的影響無視できない状況となっているという。

こうした被害最小化すべく重要になるのが、インシデントに対してどの時点対応開始できるかという点だ。
しかしながら、インシデント発生時点をどこに定義するかは難しい問題である。理論上攻撃者侵入マルウェア実行時点と考えられるが、現実的把握できるのは、実害顕在化し、被害確認された段階である場合が多い。そのため、被害範囲最小のうちに初動対応開始すること、すなわち、認知をいかに早めるかが重要であると指摘された。

園田氏の登壇中の様子
国立研究開発法人情報通信研究機構サイバーセキュリティ研究所
ナショナルサイバートレーニングセンター長
園田 道夫

事例に見る認知の遅れと初動対応の難しさ

被害に遭ったある医療機関事例では、正式インシデントとして組織的意思決定が行われたのは業務開始直後 (8時台) であったが、実際にはその数時間前から (早朝5時台) 攻撃兆候が現れていたことが後に判明した。
業務開始時混乱の中で、複数異常の兆しがよくあるシステムトラブルとして認知され、インシデントとして認識されなかったのである。またエスカレーション方法整理されていなかったことが、初動の遅れにつながった。

さらに、前年に別の医療機関酷似した侵害事例発生していたにもかかわらず、その教訓十分に活かされなかった点も反省点として挙げられた。

これらの事例は、情報兆候存在していたとしても、それを「インシデント」として結びつけ、迅速意思決定するための体制プロセスが整っていなければ、初動対応は遅れてしまうことを示している。


組織的な「認知力」を高めるための取り組み

講演では、インシデント認知力を高めるための具体的な取り組みも紹介された。
ある企業では、経営層も巻き込んだ抜き打ちのインシデント対応演習実施し、実際インシデント発生時心理的業務的インパクト疑似体験することで、認知重要性を強く意識づける効果があったという。

また、別の医療機関訓練では、ランサムウェア被害を模した状況にもかかわらず、現場がそれを異常認識できず見過ごしてしまうケース発生した。しかし、この「気づけなかった経験」そのものが大きな学びとなり、現場主導での訓練意識向上につながった側面もあり、その点は好事例として紹介された。

これらを踏まえ、組織的認知力向上には次の要素重要だと整理された。

システム面:
異常を可視化し、判断材料を提示するなど人による検知を補う仕組み
SOCなど外部サービスの活用も選択肢の一つ
人的面:
「おかしい」と感じたら即座に共有する文化。自己正当化せず、異常を異常として扱う訓練

初動対応を支える事前準備と予防策

インシデント発生後初動対応円滑に進めるためには、事前の備えが欠かせない。
まず重要なのが、ログ取得保全である。後から正確タイムライン再構築できるよう、ログ適切保存し、攻撃者によって消去されにくい場所管理する工夫が求められる。
加えて、想定ケースに基づいたマニュアル整備有効だ。すべてのインシデントマニュアルどおりに進むことはないが、判断の拠り所として機能し、初動時の迷いを減らす効果がある。
さらに、困ったときにすぐ相談できる外部専門家支援先を、平時から確保しておくことも重要である。


被害発生確率を下げるための教訓

近年事例では、リモートアクセス機器脆弱性攻撃経路となるケースが多く見られる。これらは特別存在ではなく、多くの機器には、定期的アップデートが行われなければ、脆弱性悪用される一般的ソフトウェア搭載されているという認識十分でなかった点が反省として挙げられた。

また、業務上やむを得ず外部との接点が多くなる環境では、複数の「抜け穴」が生まれやすい。サプライチェーン末端が狙われることで、組織全体被害波及するリスクも高まるため、ベンダーとの連携方法役割分担安全面から見直必要がある。

加えて、バックアップ保護重要論点として示された。単にバックアップを取るだけでなく、攻撃者の手が届かない安全状態保持しておくことが、復旧成否左右する。


再発防止策と対策の限界を理解する

ある被害事例では、侵入から発覚までに長期間を要していたことが明らかになった。ログが残されておらず、初期侵入の特定が困難だった点も課題として挙げられている。
再発防止策としては、多要素認証の徹底、権限管理の厳格化、従業員教育の重要性が示された一方で、それぞれの対策には限界があることも強調された。
技術的対策は万能ではなく、「何を防げて、何を防げないのか」を正しく理解したうえで、組み合わせて運用する姿勢が求められる。


求められる人材と組織のあり方

講演のまとめとして、インシデント対応予防を支える人材像整理された。
重要なのは、特定の「万能個人」に依存するのではなく、複数人役割分担し、組織として対応力認知力を高めていくことだ。セキュリティは単なる技術課題ではなく、組織文化人材を含む経営課題であり、経営層現場一体となって取り組む必要があるという認識が、参加者間共通理解として共有された。

講演後第二部では、LACのコンサルタントファシリテーターとなり、4~5名程度グループで、多岐にわたるセキュリティ対策内製化・アウトソース線引きを、ワークシートを用いて共有。それぞれのメリット課題を交え、正解のないテーマについて、参加者同士でのディスカッションを通して考察を深めた。

会議室で多くの参加者が座っている様子。スクリーンにはタイムテーブルのスケジュールが表示されている。参加者同士が議論や資料の確認をしている場面。
ディスカッションの様子

全体を通じて、参加者間存在した共通認識は「セキュリティは単なる技術問題ではなく、組織文化人材を含む経営課題である」という点でした。

  1. ガバナンスコンプライアンスグローバル・サプライチェーン化により複雑さが増している
  2. 人材不足慢性的で、外部委託内部ナレッジ蓄積バランス戦略必須
  3. 経営層従業員教育業界を問わず大きな鍵
  4. サプライチェーンへの対応は、今後もっとも重要テーマのひとつとなる

第一部講演第二部ディスカッションを通じて、「(セキュリティ対応状況調査において) 海外拠点からの書面回答実査内容乖離があることが散見される」、「セキュリティ教育マンネリ化が起きている」、「サプライチェーン制度はどこまで対応すべきなのか悩ましい」、参加者間で、多くの悩み、課題論点共有された会となった。