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AIの進化によって、サイバー攻撃を取り巻く環境は大きく変わりつつある。急速な環境の変化に対し、株式会社ラック (以下、ラック) が目指すのは、攻撃を受けてから対応するのではなく、新たな脅威をいち早く捉え、防御の仕組みに反映していくセキュリティ運用だ。その中核となるのが、AIと熟練者の知見を組み合わせた新たな監視・運用サービスである。長年サイバーセキュリティを支えてきたラックは、どのように企業の事業継続を支えていくのか。代表取締役社長の村山 敏一 氏に、今後のセキュリティ構想を聞いた。
デジタル技術が事業活動の基盤となるなか、サイバー攻撃は企業の事業継続を揺るがす経営リスクとなっている。
そして、そこに新たな変化をもたらしているのが、AIの急速な進化だ。
複雑な推論やプログラミングまで担う「フロンティアAI」は、開発を加速させる一方、悪用されればサイバー攻撃を高度化させる存在にもなり得る。
実際、村山氏によると、フロンティアAIの登場後、お客さまから多くの問い合わせが寄せられているという。ただし、村山氏自身は、過度に警戒しているわけではない。「システムを設計・構築する段階からセキュリティを意識し、適切に運用できていれば、リスクはある程度抑えられます」と説明する。
一方で、セキュリティ対策を進める際には、現場の運用に即した対策が求められる。例えば、診断のために、プログラムの中身に当たるソースコードを外部へ引き渡すことには、強い抵抗感を持つ企業もある。
また、脆弱性を修正するプログラムである「パッチ」が提供されても、業務への影響を考えると、稼働中のシステムにすぐ適用できるとは限らない。
そこで、ラックが目指すのは、今後どのようなフロンティアAIが登場しても、「ラックに預ければ安心・安全」と思っていただける状態をつくることだ。村山氏は「例えば、ある企業で使われた侵入手法をいち早く捉え、自社の防御オペレーションに適用する。その時間が1カ月なのか、1週間なのか、それとも1日なのかで、価値は大きく変わります。フロンティアAIによって世の中に出てくる脆弱性は無限に近づくかもしれませんが、それをいち早く吸収し、短時間でオペレーションに組み込むことこそが、私たちの役割です」と、ラックが果たすべき役割を示す。
脅威の兆候を捉え、先回りして備える「プロアクティブ」な防衛を実現するには、攻撃の情報を集めるだけでは足りない。得られた情報をもとに、お客さまのシステムでその攻撃を実際に発見し、対処できる仕組みを整える必要がある。この一連の対応を迅速に進めるため、ラックが開発しているのが、今冬リリースを予定している新たな監視サービスだ。情報収集、検知の仕組みづくり、対処の実行を担う3つのAIを連携させ、新たな脅威を把握してから防御に反映するまでの時間を短縮する。
1つ目のAIが担うのは、脅威情報の収集と分析だ。公開情報や購入データ、攻撃者が利用するサイトなどから、脅威情報を高速で収集。そこにラックが日々の監視業務で独自に捕捉した情報も加え、脅威情報を分析して、新たな攻撃への備えに生かしていく。
2つ目のAIは、攻撃の兆候を見つけるための判定ルールをつくる役割を担う。企業ごとに使っている機器やネットワークの構成は異なるため、確実に攻撃を検知するには、それぞれの環境に応じた監視が必要となる。そこで、収集した脅威情報に加え、お客さまのシステム構成などをAIに読み込ませ、その環境に個別に最適化させた「検知ロジック」を自動生成する。
3つ目のAIは、収集した情報と生成した検知ロジックに基づき、脅威の検知から遮断までの対応を自動化する。これら3つのAIを連携させることで、脅威の検知から対処に至る一連のオペレーションを限りなく自動化する。
まさに、このAIたちがやっていることは、ラックのエンジニアたちが長い時間をかけて培ってきた「匠の技」と「オペレーション」の自動化・高速化にほかならない。
それでも、「最後の砦」を守るのは人だ。
ここまで聞くと、AIが進化すれば、セキュリティ運用のすべてを任せられるようにも思える。しかし、村山氏は、AIを取り入れても、人の知見が欠かせないと考えている。「ラックには、攻撃者の思考回路を把握している熟練者もいます。通信技術者がプロトコルを見れば異常を検知できるように、『これは攻撃ではないか』という違和感や直感を持てる」と村山氏は語る。通信の仕組みや攻撃者の考え方を理解しているからこそ、わずかな不自然さに気づける。こうしたセキュリティの「匠」の知見が、ラックの強みだ。このような直感や違和感を、村山氏は、今のAIには持てない力だと表現する。この長年蓄積してきた熟練者の知見をAIに取り込み、人の判断と組み合わせることが、ラックならではの価値につながると考えている。
攻撃を見つける精度を高め、対処を高速化する。その先で、ラックが守ろうとしているものは何か。村山氏が一貫して示すのは、「お客さまのビジネスを守る」という姿勢だ。
村山氏は「お客さまのビジネスに貢献するには、まず私たち自身がお客さまのビジネスを理解しなければなりません」と語る。金融と製造業では、業務もシステムの使い方も異なる。ITの構成だけでなく、それが事業とどう結びついているのかまで深く把握してこそ、事業を止めないために本当に必要なセキュリティを提案できる。お客さまが、ITを通じて自らのビジネスを実現するなかで、セキュリティは、その大切なビジネスを支える欠かせないパーツなのである。
さらに、セキュリティを一社だけの問題として捉えるのではなく、サプライチェーン全体で考える必要性にも触れた。取引先の生産やサービスを止めないためにも、自社の企業価値の損失を防ぐセキュリティ投資の重要性はますます高まっている。これまで利益を生み出す投資が重視されてきた一方で、今後は損失を防ぐための投資にも、より大きな価値が置かれるようになっている。大企業が取引先にも対策を求める動きが広がれば、中小企業にとっても、セキュリティは事業継続に直結する課題になるという。
お客さまのビジネスを理解し、システムの設計・構築から日々の監視・運用まで一貫して安全性を支える。このような支援を、より多くの企業に届けるための基盤となるのが、KDDIとの連携だ。
具体的には、KDDIのネットワークサービスに、ラックの監視・運用を組み込み、通信とセキュリティを一体で提供する構想だ。
お客さまが運用にかける負担を減らし、安心してネットワークを利用できる環境を目指す。村山氏は、この構想を「セキュリティが通信に溶け込むようなサービス」と表現する。ネットワークの利用と一体でセキュリティも提供されれば、お客さまの運用負担を抑えながら、安心して業務に取り組める環境に近づく。さらに、KDDIグループのネットワーク、システム開発、セキュリティの力を組み合わせることで、設計から日々の運用に至るまで一貫した支援を実現していく。
また、KDDIとの連携で目指すのは、国内のお客さまへの提供拡大だけではない。ラックは、KDDIとの連携を通じたグローバル展開も重要な柱の一つに位置付けている。すでにシンガポールにSOCを設けており、 今後は日本の製造業のサプライチェーンが広がる地域へと広げていく考えだ。ラックは、東南アジア地域で市場調査を実施し、現地のお客さまの課題やニーズを踏まえて進出先を検討している。
これからもラックは新たな脅威に対応するため、サービスや開発体制を進化させていく。そのなかでも、変わらず大切にしているものがある。「市場環境や脅威環境が変わっても、お客さまビジネスの成長に貢献するという考えは普遍的です。これは私の中で20年以上変わっていません」と村山氏は改めて想いを語る。
AIの進化に匠の知見を掛け合わせ、KDDIグループとの連携を通じて、国内外の企業へ届ける。ラックはセキュリティを通じて、お客さまが安心して事業を続け、成長していける環境の実現を目指している。