インターネット黎明期から中小企業向けのITサービスを提供してきた株式会社KDDIウェブコミュニケーションズ (以下、KDDIウェブコミュニケーションズ) 。レンタルサーバー、ホームページ作成サービス、農業IoTと、サブスクリプションモデル (定額モデル) のサービスを基本とし、グループ内でも独自の立ち位置を築いてきた。その経営方針にはどのような思いが込められているのか。同社代表取締役社長 山崎 雅人 氏と代表取締役副社長 高畑 哲平 氏に話を聞いた。
経済産業省が「デジタルトランスフォーメーション (DX) を推進するためのガイドライン」を発表してから約4年――。
企業の “競争力維持・強化” を謳ったDXは、コロナ禍を契機に一気に認知度を高め、ビジネスの世界を席巻した。しかし、大企業がDXを積極的に進めている一方で、デジタルの恩恵を享受している中小企業はそれほど多くはないだろう。
総務省が国内の企業を調査・分析した「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究」(2021年) のデータにも、その差が歴然と表れている。DXの取り組みについて「実施していない、今後も予定なし」と答えた企業を規模別にみると、大企業では約4割、中小企業は約7割という結果に。
2021年度版「中小企業白書」では、デジタル化の課題を「資金不足」とする企業が全体の2割を占めており、格差の要因が浮彫りになった。
山崎 雅人 氏
「IT導入が進んでいない中小企業も少なくありません。それはつまりDXのスタートラインにも立っていない状況を意味しています」。
そう話すのは、KDDIウェブコミュニケーションズの代表取締役社長 山崎 雅人氏。これまでに中小企業向けのクラウドホスティング事業、ウェブサービス事業などを展開し、IT導入を後押ししてきた。いずれのサービスも低コストから利用できるサブスクリプションモデルを採用。その根底には「世界の60億人に1円で利用できるサービスを」という経営方針が息づいている。
『誰でも利用できるサービスで世界中に幸せを届けたい』という思いが当社の事業の出発点。それが現在の中小企業向けのサービスにつながっています」(山崎氏)
その代表例ともいえるのが1997年に始動したレンタルサーバーサービス「CPI」だ。サーバーを自社運営するのが主流だったインターネット黎明期において、月額数千円で利用できるレンタルサーバーは当時画期的だった。ユーザーは初期投資を抑えられ、将来の予算も立てやすくなる。必要な期間を過ぎたら容易に解約できるのも大きな魅力だった。
「見方を変えれば、サブスクは事業者にとって売り上げを試算しやすいモデルでもあるわけです。軌道に乗りさえすれば『今月もたくさんの契約をとらなくては!』とひっ迫することもなくなります」(山崎氏)
高額なサービスに依存したビジネスモデルであれば、一件の解約が組織の痛手になりかねない。KDDIウェブコミュニケーションズでは、一件ごとの売上を少額に設定しているので解約のリスクを低減できる。
同社代表取締役副社長 高畑哲平氏は、サブスクリプションモデルの本質に「顧客志向」を見出す。
「サブスクはご入会いただいてからが勝負。ユーザーが快適にサービスを利用できるように、常にアップデートを繰り返しています。サービスにもよりますが、ユーザーの継続利用期間は3年から5年ほど。10年以上利用していただいているユーザーもいます」
KDDIウェブコミュニケーションズのサービスが中小企業から支持を得ているのは、コスト面だけにとどまらない。専門知識を備えていないユーザーでも気軽に操作できるサービスを取り揃え、IT導入の裾野を広げている。
「『ITで明日のビジネスにある当たり前をつくる』も我々のスローガン。オーブントースターくらい直感的に操作できるサービスを理想としています。それを追求すると、自ずとシンプルな設計になっていく。機能を絞り込むとユーザーからの問い合わせも減るので、コンタクトセンターの負担軽減にもつながります」(山崎氏)
その方針を色濃く反映しているのが、2009年にリリースしたホームページ作成サービス「ジンドゥー」だ。最大の売りは、クリック&タイプの操作だけでウェブサイトを開設できること。所要時間はほんの数十分。基本的な機能を押さえた無料プランと、目的別に多彩な機能を備えた有料プランを用意している。サーバー契約などの煩雑な手続きも不要で、ブラウザ上ですべてが完結する。
「インターネットが普及した2000年代、IT導入を検討するユーザーからの問い合わせが急増しました。
中には『サーバーってなに?』といった初歩的な内容も多く、そういったノウハウのない方たちに向けたサービスも必要だと考えたのです。役員からは『無料のプランで大丈夫なのか?』と猛反発を受けましたが、それでユーザーが幸せになってくれるなら、事業者としても本望ですよね」(高畑氏)
高畑 哲平 氏
高畑氏の狙いどおり「ジンドゥー」は瞬く間に普及し、2022年6月時点で国内に200万ユーザーを抱えるまでに成長している。極力シンプルなかたちで需要に応えていく姿勢が、結果的に多くのユーザー獲得につながった。
2021年には、農業IoTサービス「てるちゃん」で第一次産業に本格的な参入を果たす。
ルーターとセンサーで構成された「てるちゃん」を畑やビニールハウス内に設置すると、離れた場所にいても、温度・湿度・照度を必要なタイミングで確認できる。また、異常が検知されたら、生産者の電話やメール、SNSに通知が送られる。
沖縄県内では今でもアナログな農業管理が根づいており、聞けば、温度計の数値だけを頼りにしている農家もいるとのこと。世にある農業IoTサービスはどれも費用が高額なので、小規模な農家が手にできるものではなかったのです」(高畑氏)
自立した農業経営を促すため、月額料金は破格の税込990円に設定 (導入には機器の購入27,500円〜が必要) 。現在は、沖縄県外の農業にも広がりを見せており、北海道から九州まで日本全国に広がっている。
20年以上に渡り、中小企業に寄り添ってきたKDDIウェブコミュニケーションズだが、大企業と中小企業の情報格差は思うようには埋まらない。山崎氏は「むしろ溝が広がっている」と懸念を示しながらも、次の一手を模索している。
「近年は技術の進化が想像以上に早い。スキルのある人だけが独走して、そこからこぼれ落ちた人は置いてきぼりになっている状況です。企業のDXにおいてはその構図が顕著に表れる。我々は、中小企業の “はじめの一歩” を丁寧に支えてきましたが、今後はもっと踏みこんだ領域にまでサービスを広げていきたいです」
2022年7月、KDDIウェブコミュニケーションズは、KDDIグループのKDDI Digital Divergence Holdingsの傘下に移管。クラウド構築専業のアイレットや、アジャイルやスクラム導入支援のScrum Inc. Japanといったグループ子会社と連携して、DX支援・開発における “明日の当たり前” を追求する。