デジタルトランスフォーメーション (DX) とは、その名の通り、企業のビジネスがデジタルによって変革され再構築されることである。そのDXが注目される中、デジタル化を推進する「通信インフラストラクチャ」がビジネスの根幹を左右する中核であることは自明だ。KDDIは人口カバー率99%を超える20万以上の基地局と、全国津々浦々と世界各国をつなぐグローバルネットワークを24時間365日維持することを使命とし、さまざまな対策に取り組んでいる。技術統括本部 運用本部長の奥山 勝美がKDDIのインフラ運用について語った。
奥山 勝美
――通信は「豊かなコミュニケーション社会の発展に貢献する」ことを理念とするKDDIの根幹にあるアイデンティティだと思いますが、奥山本部長から見て通信とはどのようなものであるとお考えでしょうか。
もともと通信は、離れた場所にいる相手とコミュニケーションするための手段として発展してきました。現在では生活のいたるところでデジタル化が進み、膨大なデータのやり取りがされるようになったことで、通信はあらゆるビジネスや生活を支える基盤となっています。意識はしないが、なくてはならない“空気”のような存在として、通信はこれまで以上に重要性を増しているというのが私の認識です。
――その通信を長年提供してきたKDDIの強みと特徴はいかなるところにありますか。
KDDIは固定通信、移動体通信、グローバル通信の3つをすべて手がけている国内唯一の通信キャリアであり、3つの通信を1社で扱える総合力が強みであると考えています。無線基地局の建設を例に出せば、移動体通信のノウハウだけではなく、固定通信のノウハウも組み合わせて建設を進めることで、効率的なエリア構築を進めることができます。KDDIは他社に先駆け2014年3月に4G LTE (800MHz帯) の実人口カバー率99%を達成しましたが、これも異なる通信を1社で扱う当社ならではの強みが発揮された結果と考えています。
――KDDIの通信を支える運用本部のミッションをお聞かせください。
我々の最大のミッションは“どんな事態が起きても通信を止めないこと”です。「通信は“空気”のような存在」という表現もしましたが、ビジネスのお客さまにとってはさらにその重要性は増します。ビジネスにおいて流れる情報が血液だとすると、情報を流すための通信は血管といえるわけで、それが途絶えることは企業にとっての死活問題です。ですから、通信を止めないことは我々が何よりも重視すべき最重要ミッションに位置づけています。
――“通信を止めない”というミッションをお持ちのKDDI運用本部ならではの対応をされた事例はありますか。
2017年7月に起きた九州北部豪雨災害における対応事例を紹介します。KDDIは移動通信3キャリアの中で、最も早くエリア復旧を成し遂げました。自衛隊に協力を要請して機材を被災現場近くの河原までヘリで届けていただき、そこから人力で川を渡って仮設の基地局を設営するなど、多くの苦労を乗り越え復旧にあたりました。普段は熾烈な競争を繰り広げている3キャリアも災害時には一致協力して復旧にあたりますので、最初に復旧したau携帯を貸し出すなど、ほかのキャリアの復旧も後押ししました。通信が復旧すると道路などのライフラインの復旧も早まったと感じており、社会に貢献する通信の大きな力を改めて感じました。
――相当な経験を積んでいないと、そこまでの対応は困難ですね。
その通りです。KDDIは障害対応訓練に注力してきましたが、近年はさらに取り組みを強化しており、昨年は全国各地で合計数万件にも及ぶ訓練を実施しました。
内容としては、例えば設備故障が発生した際に、復旧現場への駆け付けから通信設備の交換作業完了までに要した時間をストップウォッチで測り、担当者から管理職までが競い合うといった厳しいものです。今のこの瞬間も、おそらくどこかで訓練が行われているはずです。
――そこまで徹底して訓練をされていることに驚きました。訓練は主に災害を想定したものなのですか。
災害だけではありません。日々の運用にも支障をきたさないため、機器のトラブルやオペレーションミス、日常的な設備点検など、さまざまな事態を想定した訓練をしています。“通信を止めない”ために必要なことは何か、ということを念頭に置いて訓練を繰り返しています。
――デジタル化の進展によって、通信に対するお客さまのニーズはますます多様化・高度化していくことが予想されます。運用監視の視点からは、今後どういった価値を提供していきたいとお考えですか。
KDDIが目指す運用監視のあり方として、迅速な障害対応にとどまらず、「お客さまの体験価値」を基準とした運用監視に取り組んでいきたいと考えています。これまではKDDIの通信設備を見て通信状態を監視し、問題に対処してきましたが、今後はそれだけでは不十分です。今やお客さまにとって、通信はつながることが当たり前であり、その満足度をさらに高めるための運用監視を行う必要があると考えています。
例えばネットワークの輻輳で通信速度が遅くなる事象や、設備故障になっているもののアラームが出ない「サイレント障害」という問題があります。お客さまに満足いただくためには、こうした問題にも対応していく必要があり、それが可能な運用監視ができるような仕組みや体制を構築中です。
「KDDIの直接的なお客さまだけでなく、
お客さまの先にいるお客さまや取引先、消費者に対して、
高信頼の通信サービスをお届けしなければなりません。」
――従来とは比較にならないほど高度な運用監視になりそうですね。
まさに、その通りです。IoTの浸透により企業は個人や法人を問わず、さまざまなエンドユーザーに対してサービスを展開する時代となりました。お客さま体験価値を向上するためには、当社の通信設備からIoTデバイス、ひいてはエンドユーザーという、ネットワークの末端に至るまで高信頼かつ安全な通信を提供する必要があります。人の場合は不満があればご申告いただけますが、IoTでつながっているデバイスは、仮に不具合が発生しても申告はありません。こうした通信の状況をすべて把握するには、全国各地に約20万ある基地局が発するアラートや通信状況をリアルタイムに収集して複合的に分析していく必要があります。これらの膨大な情報を人がすべて対応するのは不可能なため、AI (人工知能) などのテクノロジーも積極的に導入しながら、自動化を進めていきたいと考えています。
――運用監視の自動化が進むと、技術者はどのような役割を担っていくのですか。
自動化を目指すといっても、運用監視のあらゆる判断やオペレーションをすべてシステムに任せるわけではありません。ミッションクリティカルなビジネスやサービスを支えている通信については、お客さま固有の業務や用途などをしっかりと理解したうえで緊密なコミュニケーションをとり、状況に即した適切な対応を行わなくてはなりません。逆にいえば、運用現場の技術者たちにそうした“お客さまフロント”としての役割に全力を挙げさせるために、自動化のアプローチがあります。
「運用本部の技術者たちはもはや“裏方”ではありません。
KDDIのビジネス最前線に立ってお客さまの声を聞き、
お客さまの本業への貢献を担っていきます。」
――KDDIが掲げる「お客さまの挑戦を全力でサポートする」という考え方が、通信の運用という現場でも徹底されているということですね。
おっしゃる通りです。これまで多くのお客さまは、通信の信頼性や可用性、業務継続性を担保するため、データセンターに引き込む通信回線をキャリアダイバーシティで冗長化するなど、多額のコストとリソースを投じて対策を施してこられました。
しかし今後、お客さまはIoTのような「通信をベースにビジネスをどう発展させるか」というDXに挑戦されます。お客さまには通信の課題をまったく意識することなく、「すべてKDDIに任せておけば大丈夫」と安心して、お客さま本来の挑戦に専念していただけるよう、運用本部として新たな体制づくりとノウハウの標準化を進めていきます。
――KDDIの運用本部の挑戦が、お客さまビジネスのさらなる貢献につながっていくことを感じることができました。ありがとうございました。