リソースを戦略的業務へ集約し、グループのDXを推進。
KDDIは、パーソルワークスデザイン株式会社 様 (以下、パーソルワークスデザイン) と業務提携して宮崎県宮崎市内に「ソリューションヘルプデスクセンター」を開設した。お客さまのネットワーク環境を運用・監視するだけではなく、近年の需要を捉えて、エンドユーザー向けのヘルプデスクも受託する。センター開設の経緯や事業の強み、そして当センターの特長、中枢機能となる「KCS (Knowledge Centered Service) (注)」について、両社の担当者に話を聞いた。
2021年10月、宮崎県宮崎市の中心地にKDDIの新たな拠点「ソリューションヘルプデスクセンター」が開設された。場所は、宮崎駅から徒歩数分のビル。オフィスの窓からはるか彼方に太平洋を一望できる好ロケーションだ。
同センターが担うのは、お客さまのIT運用サポートである。ネットワーク環境やデータセンターなどの運用・監視を請け負うほか、コンタクトセンターやヘルプデスクとしてエンドユーザーからの問い合わせにも対応する。
1,300㎡を有するオフィスの中心部には、ヘルプデスクの核となるオペレーションルームを据えた。オペレーター用デスク約160席が整然と並び、フロアから一段高いひな壇スペースでは、マネージャーの職位を持つ者が司令塔となって業務を見守る。24時間365日稼働しており、システム障害や自然災害といった危機的状況下においても、お客さまを完全サポートする体制を構築した。
そのほか、会議室やリフレッシュルーム、サテライトオフィスも併設する。それぞれの施設には、ウィズコロナ、アフターコロナを見据えたワークスペースコンセプトを導入。ソーシャルディスタンスを確保しつつスムーズに業務を遂行できるよう配慮されている。
さらに、アクリル板が不要となる飛沫防止機能を備えた会議用テーブルや、腕・肘でドアを開閉できるレバーハンドルアタッチメントなど、さまざまな手を尽くして感染リスクの低減に努めている。
藤田 秀臣
「ワークシーン分類やゾーニングコンセプトは、KDDI虎ノ門オフィスのコンセプトを継承しています」と話すのは、KDDI ソリューション事業本部 ソリューション推進本部 マネージドソリューション部 部長の藤田 秀臣。同センター設立の経緯をこう振り返る。
「KDDIの受託業務の一つに、ネットワークマネージメントサービスがあります。従来はお客さまのネットワーク環境を運用・監視する業務が主だったのですが、リモートワークやワーケーションなど働き方の多様化により『エンドユーザーからの問い合わせにも対応できないか』という要望が増えてきました。
つまり、”企業の情報システム担当者止まり”だったサポートの範囲が、エンドユーザー (従業員) の端末にまで必要とされるようになったのです。そういった需要の高まりを受けて誕生したのが、ソリューションヘルプデスクセンターとなります」(藤田)
同センターをKDDIとともに運営しているパートナーが、パーソルワークスデザインだ。総合人材サービスを提供するパーソルのグループ企業で、ヘルプデスクサービスやコールセンターサービス、BPO (Business Process Outsourcing) サービスといったさまざまな業務のアウトソーシングに対応している。
問い合わせ業務をアウトソースできると、お客さまにどのような価値がもたらされるのか。パーソルワークスデザインのヘルプデスクサービスの責任者を務める、エンタープライズ推進部 部長の木村 雅史 様はこう分析する。
木村 雅史 様
「エンドユーザーの問い合わせは年々多様化・複雑化しています。お客さまのなかには、専任部署によるヘルプデスクを設けているケースもありますが、件数も多く対応に忙殺されます。そうすると当然ながら本来人材リソースを割くべき本業が疎かになるでしょう。このような課題を解決するのが、我々の役目。ただの業務委託ではなく、お客さまの事業計画を踏まえてサポートするのが理想です」(木村)
パーソルワークスデザイン エンタープライズ推進部 課長の岩切 直史 様によると「社用パソコンのアカウント申請、ネットワークの不具合、アプリケーションの操作方法など、問い合わせは実に多種多様」だという。こうした些細な問い合わせが積み重なり、やがては企業全体での業務スピードを鈍化させてしまうことになりかねない。
「業務提携する上で最大の決め手になったのが、パーソルワークスデザイン様が推進するKCS運用でした」と藤田。KCSとは「Knowledge Centered Service」の略称で、近年注目を集めているナレッジ活用プロセスの一つである。
「ナレッジ」は、社員一人ひとりが得たノウハウや経験則などを可視化した情報を意味する。社内の集合知という意味では、FAQ (Frequently Asked Questions) と機能が似通っているが、ナレッジは基本的に社内向けの情報として共有される。
「例えば、UPS (無停電電源装置) に不具合が起こったとします。この場合、エンドユーザーが『UPSに不具合が起こりました』と問い合わせてくるのは稀です。大体が『黒い箱がピーピー鳴っている』とか『ランプがチカチカ点滅している』といった抽象的な質問でしょう。こうした生きた言葉をナレッジベース化することで、問い合わせ対応の精度が飛躍的に向上するのです」(木村)
パーソルワークスデザインは、このナレッジをKCSという運用方法で、コールセンターやヘルプデスクに採用。エンドユーザーからの問い合わせとその対応方法を生きた言葉でナレッジベース化することで、オペレーターの経験差による対応品質のばらつきを解消し、属人化しないサポート体制を構築する。このナレッジを活用するにあたっては、オペレーターたちにあるルールを設けているという。
「ルールとは、経験が長いベテランのオペレーターでも、必ずナレッジベースを検索することです。
もしヒットしなければ、適宜対応方法を追加登録してもらいます。そうすることで、対応方法の均一化とともにノウハウがどんどん蓄積していきます」(木村)
“対応方法が分からないオペレーターのために検索し登録する”。この献身的なマインドこそKCS運用の真髄といえる。ナレッジベースへの追加登録に上長承認は不要とし、オペレーターたちによって、常にフレッシュな情報が更新される。
岩切 直史 様
KCS運用を導入することによって、テクニカルスキルのないオペレーターでも一カ月程度の研修で立派な戦力になっている。
「ベテランオペレーターほど、最初はKCS運用に反発しがちでした。しかし、ナレッジベースが充実すればベテランの方の負担も軽減されます。その有用性を一度体験すると理解を示してくれます。地元出身の私が言うのもなんですが、宮崎県民は正直者で従順な性格なのです (笑) 。これはKCSに最適なホスピタリティ精神といえるでしょう」と岩切は話す。
藤田も「KCSは、画期的な概念です。センターをご利用いただいている当社のお客さまから、『以前の委託業者よりもエンドユーザー(問い合わせした方)の満足度が向上した』というお声をいただきました」と、手応えを感じている。
齋藤 広治
2021年12月現在、本ソリューションヘルプデスクセンターを利用している事業者は、およそ20社。製薬会社、運輸業、ガス提供会社……と、業種は実に多彩だ。こうしたジャンルを選ばない展開こそ、KCS運用最大の強みといえる。
現在は、一次対応のヘルプデスクをパーソルワークスデザインが、ネットワークの運用・監視をKDDIが担当。
同センターを統括する、KDDI ソリューション事業本部 ソリューション推進本部 マネージドソリューション部の齋藤 広治は、2社の連携についてこう話す。
「2社の得意とするサービスを一元的に提供することは、お客さまにとっても魅力的に映るのではないでしょうか。ネットワークの不具合はトラブルシューティングに即した対応方法が主流で、ナレッジ化の充実はまだまだ試行錯誤を重ねる必要があります。それだけに、このセンターには大きな可能性を感じています」(齋藤)
開業からおよそ数カ月、早くもノウハウ・スキルの融合が始まっている。KDDI マネージドプロセス開発グループ マネージャーの川田 嶺は、オペレーター向けのテクニカル研修の講師を務めた。
「ネットワークにまつわる研修を行いました。皆さん、非常に真面目で密の高いコミュニケーションがとれました。KCSが根づいたヘルプデスクに私たちのノウハウが交わることで、さらなる高みを目指していければと考えています」(川田)
木村は、次世代通信テクノロジーと知のプラットフォームの融合は、我々にしかできないことと強調する。「2年後には、オペレーションセンターの席がすべて埋まっているはず。KDDIはグローバルに展開しているので、ゆくゆくはKCSを北米やアジアなどのセンターにも導入できるといいですね」と、展望を語った。
川田 嶺
それを受けて、藤田も「グローバルに目を向けると各国拠点は、業務プロセスやシステムが独立していて、連携がとれているとは言い難い。このセンターで実績をつくってKCS運用を“面”で広げていきたいですね」と意気込む。
同センターでは、利用検討中のお客さまを対象にしたオンラインセミナーも実施。ソリューションの提供のみならず、問い合わせ対応をアウトソーシングすることの重要性についての発信も積極的に行っていく。
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