例えば、自社ウェブサイトの問い合わせや会員登録で集めたお客さま情報、展示会やセミナーのアンケート結果や分析データ、自社のお客さまの購買履歴や行動履歴などが、このデータに含まれる。
その中でもauをはじめとする通信キャリアが集めているファーストパーティデータのことをキャリアファーストパーティデータという。自社で直接収集した情報で収集場所を特定できることから、信憑性の高い貴重なデータといえる。
ウェブサイトにおけるサードパーティCookie規制や広告IDの利用許諾必須化など、データ活用に関する規制が強化されるに伴い、今まで実現できていたマーケティング手法の継続が難しくなると予想されている。
そうした中でSupershipとKDDIが推進しているのが、キャリアならではのファーストパーティデータを活用したOMO (Online Merges with Offline:オンラインとオフラインの融合) をはじめとしたソリューションの共同展開である。
これによってマーケティング施策を、より顧客に最適化された形で実行できるようになる。
Supershipはデジタルマーケティングに欠かせない存在だ。同社ならびに同社の持株会社であるSupershipホールディングスを中心としたSupershipグループが設立されたのは2015年。アドテクノロジーやデジタルマーケティング、インターネットメディアの分野で事業を開始したKDDIのグループ会社だ。
自らのパーパス (存在意義) を「ミライリアルの幸せを、デジタルの力で創る」と定義し、データとテクノロジーで新たな価値を生み出す企業となることを目指している。例えば複数ブランドを展開する⽇⽤品メーカーに対して、コミュニケーション戦略の構築から実⾏まで一気通貫したデータドリブンな枠組みを開発することで、デジタルマーケティングを包括的に⽀援。また自動車業界に対しても、MaaS領域における⼤規模プローブデータの分析/システムを構築するなど数多くの実績を上げてきた。
そして社会全体にてデジタルトランスフォーメーション (DX) への機運が高まる中で、KDDIとの関係性も変化してきている。
これまでSupershipの主軸事業は「マーケティングテクノロジー事業」であり、多くの企業のデジタルマーケティングを支援してきた。特に親会社であるKDDIに対してはハウスエージェンシーという立ち位置にあり、主にauブランドのデジタルマーケティングやデジタルプロモーション全般を担ってきた。マーケティングテクノロジー事業は引き続き、Supershipの収益基盤であることに変わりないが、成長領域はもう一つの事業領域である「データイネーブラー事業」にシフトしてきている。
Supershipの小林氏はこう語る。
「この『データイネーブラー事業』とは企業が持つデータや顧客接点の価値を、キャリアファーストパーティデータと当社の高度なデータ利活用技術で最大化することを企図するものです。KDDIとの関係性は、新しいビジネスやサービスを共創し、お客さまのDX推進をご⽀援していくパートナーへと進化しています」
さらにKDDI の麻生は、「私たちデータマネジメント部がハブとなり、両社間の橋渡しやさまざまなプロジェクトでの連携を担っています」と語る。
小林 賢太朗 氏
SupershipとKDDIの象徴的な取り組みの一つとして注目すべきが、OMO (Online Merges with Offline) ソリューションの共同展開である。Supershipのデータテクノロジーおよび分析⼒、KDDIの決済サービスといった両社の強みを生かした、⼩売店舗と消費財メーカーにおける販売促進DX⽀援がその具体例だ。
大手消費財メーカーは消費者に対して自社商品の認知度を高め、購買意欲を喚起するためにTV広告をはじめとする膨⼤な広告・販促費を使用している。しかし、どのような消費者がその広告の影響を受けて商品を購入していったのか効果測定が難しい。さらに購買データなどが自社に蓄積されないため、一過性のフロー型マーケティング施策に留まるという課題があった。このため店頭販促の多様化や個人の嗜好に合わせたコミュニケーション設計などきめ細やかな施策を打つことができず、DXの遅れにつながっていた。先のOMOソリューションは、この課題を解決したのである。
SupershipとKDDIは消費者と消費財メーカー、⼩売店舗をつなぐオンライン/オフライン統合ストック型マーケティングプラットフォーム提供を開始した。これにより消費財メーカーはau PAYで支払いを行った消費者について、自社商品の購買データをダイレクトに取得し、より詳細な販促の効果測定や購買分析を行うことが可能となる。⼩売店舗側での購買施策などと併せてデータを継続的に蓄積し、効果的な販促活動につなげられるよう⽀援をしていく。
麻生 大亮
個人情報保護の観点からサードパーティCookieによる情報の取得や利用が制限されるCookieレス時代が秒読み段階に入った。それを先取りすることで、OMOソリューションはさらに進化している。
「Cookie以外のIDで適切な顧客同意に基づくデータを管理・活⽤する新たなニーズが⾼まっており、私たちキャリアで保有しているファーストパーティデータの強みを⽣かしたソリューション開発が求められています」(麻生)
このデータを活用することで、企業は効率的なマーケティング施策が可能になり、顧客である消費者としても、より自身のニーズに合致した情報提供を受け、高い顧客体験が得られるようになる。
「KDDIの持つファーストパーティデータを基軸とし、マーケティングや販促、データ分析/AI活用などの分野で先行するSupershipのさまざまなプロダクトやサービス群を組み合わせることで、オンライン/オフラインを横断した360度のカスタマーエクスペリエンス (CX) の提供が可能となります。これはお客さまのDX実現や事業創造につながっていきます」(小林氏)
こうしたコンセプトのもと、SupershipとKDDIの両社が2021年4月1日より共同事業として運営を開始したのが「KDDI Message Cast」だ。SMS (ショートメッセージサービス) を利用した安心安全かつ、双方向コミュニケーションを促進するメッセージ送信サービスである。
SMSは携帯電話契約者本人に直接送信され、アプリのインストールなどが不要であることから到達率が高いという特徴があり、アプリケーションを利用する際の「二段階認証」や督促通知などの「重要なお知らせ」を目的に、近年では法人企業による利用が増加している。さらには、自治体や医療機関などによる利用も増え、社会インフラとしての認知も進んでいる。
「KDDI Message Cast」はSupershipとKDDIが共同運営することによって、OMOを支える基盤となる。例えば趣味嗜好などでセグメント化された消費者に対して直接メッセージを配信する、次世代の販促・マーケティングツールとなるのだ。
「Supershipは、KDDIのファーストパーティデータを活用したSMSセグメント配信などの新機能開発を行います。データドリブンなマーケティング施策にも活用いただけるサービスとしてアップデートしていきます。加えて既存顧客に向けた販促アプローチについても、一貫性をもったデータテクノロジーとシステム管理によってシームレスに支援していきます」(小林氏)
もともとSMSは開封率80〜90%、クリック率も約15%(Supership社調べ)とメールやDMと比べて読まれやすく、なおかつ本⼈確認性の高いメディアであり、企業と消費者間のコミュニケーション解消に大きく寄与する。SupershipとKDDIの両社は、この双⽅向SMSを最大限に活⽤したOMOソリューションにより、マーケティングやコミュニケーション業務の変革をさらに強力に後押ししていこうとしている。