KDDIとアクセンチュア株式会社 (以下アクセンチュア) によって設立された株式会社ARISE analytics (以下ARISE analytics) は、最先端のデータ処理・分析技術を有するアナリティクスカンパニーだ。データサイエンティストを350名以上 (2021年度4月時点) 抱え、分析設計・モデル構築・高度化から、基盤構築・運用、分析人材育成まで、企業のさまざまな分析業務をワンストップで支援する。同社の強みや、ソリューション、人材育成などについて代表取締役社長の家中 仁 氏に話を聞いた。
KDDIのデータドリブン経営を支援する会社として2017年に設立されたARISE analyticsは、設立から5年が過ぎ、現在、KDDIグループ企業の支援や、グループ以外の企業へもソリューションを提供するなど事業を拡大している。
同社はもともと、2010年代からKDDI社内でスマートフォン向けに提供されるさまざまなサービスの分析業務を行っていたチームが前身となっている。このチームをアクセンチュアが社外から支援し、関係が深まるなかで、さらにデータ活用を進化させる新しい取り組みも進めていこうとKDDIが85%、アクセンチュアが15%の出資比率で設立されることとなった。
ARISE analyticsの事業領域は、マーケティング支援、AI/IoT、新規事業支援、DX支援と多岐にわたる。マーケティング領域では、au/UQ mobile /povoなどKDDIの主要モバイルブランドの解約防止、通信利用量拡大施策の支援をはじめ、KDDIが提供するさまざまなサービスのデータ分析を行い、お客さま一人ひとりに最適なサービスを提供することに寄与している。
AI/IoTの領域では、各種センサーから取得されたデータを活用した設備の故障予兆や画像解析により、点検、不審者検知などの業務支援を行っている。また、ヘルスケアなどの新規事業領域でのデータ活用支援や、店舗とオンラインのデータを横断的に活用した顧客体験の変革支援、それらを実現、実行するためのDX人財育成などを支援している。
家中 仁 氏
家中氏は、同社の今後に大きく影響するプロジェクトとしてKDDIにおける「カスタマ―サポート変革プロジェクト」を挙げる。
「このプロジェクトでは、コールセンターへの入電をいかに減らしていくかが大命題となっていました」
同社ではまず電話による問い合わせ目的の見える化を行った。これにはBERT (Bidirectional Encoder Representations from Transformers) という自然言語解析のアルゴリズムを用いて、KDDIが持つさまざまなコールセンター・データを学習させることで、少量のデータでも高精度で顧客の問い合わせ目的を抽出できるモデルを開発した。
これにより、約8割近くの問い合わせは、お客さまがどのような目的で電話をかけてきたかが見える化され、チャットの場合だとさらに高い精度で見える化できるようになった。
次に、問い合わせ目的ごとにWeb、チャットなどのデジタルチャネルでの完結率、どのチャネルに最初に問い合わせされたかを見える化。Web、チャットへアクセスされたお客さまが多いものの、デジタルチャネルでの完結率が低い問い合わせについては、どの部分の説明、ご案内がお客さまに伝わりにくいのかを深堀りしていった。
こうした取り組みのなかで、「請求内容を遡って確認したい」という問い合わせが多いことが判明し、従来よりも過去の内容を遡れるようにする改善を行った。また、「なぜ請求額が高いのか」についてWebだけでは分からず、問い合わせされるお客さまが多いことから、Web上で過去数カ月の料金の推移と、内容を把握できるように改善を図った。
このような取り組みにより、お客さまの問い合わせ負荷を軽減し、不満を解消すると同時に、コールセンターの問い合わせ数を削減することが、カスタマーサポート業務の変革につながる、と家中氏はいう。
「コールセンターのデータ分析をする企業は我々以外にもたくさん存在します。そうしたなかで強みとなっていることは、KDDIが有する膨大なデータを取り扱いながら、ともに改革を進め、ノウハウを蓄えてきたことにあります。KDDIと試行錯誤を繰り返し、成果を出してきた経験が、当社をさまざまなケースに対応できる会社に成長させてくれました。だからこそ、自信をもってKDDIグループ以外のお客さまとも一緒に課題解決していくことができます」
ARISE analyticsが、外部企業にソリューション提供しているケースにはどんなものがあるのか。
「ある鉄道会社さま向けに、機器の故障予兆検知システムのPoCをご支援しています。設備点検要員不足により、従来の方法では点検時間が間に合わなくなります。そのため、故障の予兆があるところから優先的に点検を行う仕組みづくりをお手伝いしています」(家中氏)
予兆検知はセンサーを使い、振動や温度を検出、それらのデータを取り込み、予兆を判定する。それ以外にも、監視カメラから取得した画像データを用いて、工場内に放置された荷物を検知、衝突事故防止のアラートを出すシステム構築支援を行い、高い評価を得ている。
さらに、今後はコールセンター向けに開発したモデルとならんで、店舗向け商圏分析、売上ポテンシャル分析モデルの外部への提供を考えているという。
「これはauショップでの取り組みによりノウハウを積み上げているものです。売上ポテンシャル分析には、人流や商圏のさまざまな特徴を学習させたアルゴリズムを活用しています」(家中氏)
単純に売り上げだけを比較しても、各店舗において外部、内部の要素に細かな違いがあるため、原因がどのようなものかを突き止めることは難しい。しかし、モデルにさまざまな店舗のデータを学習させることで、店舗ごとの細かな差異を吸収し、本来の弱点が明確になる。このモデルで分析を行うことで、各店舗の課題が見える化され、売上改善につながることが期待でき、店舗を多数持つ業種、業態のオペレーション改善、売上拡大に役立つだろう。
ARISE analyticsのアナリティクス・ソリューションに活用されるデータの設計/管理やアルゴリズム開発、基盤構築などを担うのが、データサイエンティストだ。
同社では、データサイエンティストを派遣社員、業務委託社員を含めると350名以上抱えている。これだけの規模を抱える企業は日本においても数少なく、データサイエンティストの育成にも多様なノウハウを持っている。
また、社員が“働きがい”を感じるには、「健康実感」「成長実感」「貢献実感」の3点が重要であり、これらが満たされることで生産性も上がるとの考えから、同社はさまざまな施策を展開している。そのバロメーターとして10の指標を作成し、それによって‟働きがい“の3つの柱の見える化を行っている。
「1年に1度合宿形式でリーダーシップ研修を行い、自身の今後のキャリアについて考えてもらいます。その上でこの1年で何をするのかを明確にしてもらい、他の社員に宣言することも行っています。また、金曜の午前中は自己研鑽のための時間と定め、ミーティングなどをいれないルールを設けています。人材の育成や管理においても、数値化し、見える化を行うことで問題点を明確にし、早期に解決できるようにしています」(家中氏)
こうした取り組みが、働きがいのある会社研究所より2022年まで2年連続で「働きがいのある会社」ランキングでベストカンパニーに選出、健康優良法人に2022年まで3年連続で認定などの成果につながっている。
家中氏は今後の展望について、ここまでさまざまなプロジェクトで培ってきたノウハウを展開していくことに加え、5Gの活用にも力を入れていきたいと話す。
「5Gの利用が本格化すると、一般のスマートフォンユーザーだけでなく、低遅延、多接続という特色を生かし、さまざまな企業向けサービスの開発も加速します。これまで手掛けてきた分野だけではなく、5Gを使うことでより便利になるソリューションをご提供していきます。その際は、KDDIグループ、そして他の企業さまとも積極的にコラボレーションをし、迅速に市場に投入できる体制を構築していこうと考えています」
データの重要性が叫ばれる今日、AIや機械学習といった高度な専門知識を的確に投入することが不可欠になる。そうしたなか、多数のデータサイエンティストを抱え、KDDIの事業を通じてデータアナリティクスのノウハウを蓄積してきたARISE analyticsは、ますます存在感を増していくはずだ。