2023年2月21日・22日の2日間、オンラインイベント「KDDI SUMMIT 2023」が開催された。
「DXの3つのジレンマを乗り越えるために」と題したこのセッションでは、「危機感」「ビジネス」「人材育成」という3つのジレンマを打破する鍵となる内製化やアジャイルに関して議論を展開し、DX変革を成功に導くためのヒントを探った。
経済産業省が発行した「DXレポート」では、DXを推進する多くの企業が3つのジレンマに直面していると指摘。
デジタル変革をしなければならないが社内で危機感が醸成できず事業創造までたどりつかない「危機感のジレンマ」、
コストを下げたいユーザー企業とリスクを回避したいITベンダー企業が低位安定の関係となりDXに挑戦できない
「ビジネスのジレンマ」、事業会社が開発を内製化したくても人材を採用、維持、育成できない「人材育成のジレンマ」の3つだ。
このセッションでは、KDDI 執行役員であり、KDDI Digital Divergence Holdings株式会社 代表取締役社長の藤井 彰人がモデレーターとなり、さまざまな参加者とのディスカッションを通じ、このジレンマに切り込んでいった。
前半のパネルディスカッションでは、トヨタ自動車株式会社 デジタル変革推進室 室長の泉 賢人 様と
株式会社永和システムマネジメント 代表取締役社長の平鍋 健児 様を迎え、DX推進を事業会社・経営目線で議論した。
トヨタ自動車様では、デジタル変革推進室内にデジタルイノベーションガレージ (DIG) を設置し、ビジネススピードをあげるべくシステムを内製化し、お客さま体験やエンタープライズの領域を中心にDXに取り組んでいる。
「DIGはアジャイルな組織で、さまざまな機能本部の人がデジタル変革推進室に集まってリスキリングを行い、1年~2年の教育期間を経て再度機能本部に戻りデジタル化を推進していきます。なかには機能本部に戻らずDIGにとどまって全社のデジタル化を進めるケースもあります」(泉様)
これに対して藤井は「DIGというCoE (Center of Excellence) 的なエキスパートのチームを置き、各機能本部のデジタル化をサポートしていくということは、大企業がDXを推進するためのヒントになる」と感想を述べ、平鍋様も、現場ごとにアジャイルを進めると孤立してしまいがちだが、「同じ志を持った人が横につながりを持ち、技術的な知識を交換できることが大きなポイントだ」と評価した。
ユーザー企業とITベンダー企業の関係について、日本ではITベンダー企業がユーザー企業から依頼されたシステム要件に応じて成果物を作り、納品することが一般的となっている。米国では事業会社自らエンジニアを抱える内製化が早くから進み、日本でもWebサービスを展開する企業を中心に内製化を進める企業も出始めているが、多くの日本企業ではエンジニアを社内に抱えることが難しいのが現状だ。
平鍋様は、「内製化すべきだと思うが、エンジニアの数や流動性の問題もあります。現在のビジネス構造のなかで、
ユーザー企業とITベンダー企業が同じゴールを目指せるようにする取り組みが大切」と、チーム作りも含めて共創/共育することの重要性を指摘した。
DXを推進するためには、どのようなスキルを持つ人材をどれくらい集めたチームが必要なのか。
経済産業省の「DX推進スキル標準」の作成に携わった泉様は、
「どんな素養があればいいのか、どういう働き方をしなければいけないのか、どんなスキルが必要なのかなどを議論しながら、必要スキルや能力をまとめました」と話す。
「DX推進スキル標準」では、ビジネスアーキテクト、デザイナー、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティ担当者、データサイエンティストという職種が挙げられ、それぞれの技能についても定義されている。
藤井は「チーム1人1人のジョブを明確に定義して、それぞれ得意分野を持った人たちが集まってチームを作るというのは斬新で、DXの進め方の一つのよい例」とコメント。
また、平鍋様は「1社でできなくても外部の人と連携し、複数社で進めるといった新しい形もあるでしょう。
チーミングとビジネスの立ち上げとは非常に密接に結び付いています。スキルを持った人が社内から育つのが一番よいとしても、外部から入ってきてもよいと思います」と語り、泉様も「社内のみの人材では、変革が生まれにくい。
そこに外からの技術、知を取り入れていくことも必要」とDXを進める事業会社ならではの視点で語った。
藤井は「ジレンマを乗り越えるためには、トヨタ自動車様のDIGのような組織を立ち上げることも一案だし、社内外の専門性のある人材を集めたチーミングも一案。DXを成功させたいというパッションを持った人がチームを率いて、実行することがポイントだと思います」と、パネルディスカッションを締めくくった。
セッションの後半は、アイレット株式会社 取締役副社長の平野 弘紀 氏と、
KDDIアジャイル開発センター株式会社 KDDI CCoEリード 兼 三島サテライト オフィス長の大橋 衛 氏が参加し、
DXを推進するエンジニアの維持・育成についてディスカッションした。
アイレットはクラウドインテグレーションのトップベンダーであり、KDDIアジャイル開発センターは豊富なアジャイル開発の実績からお客さまの内製化をご支援している企業だ。両社ともにKDDI Digital Divergenceグループの一員でもある。
「DXを成功させている企業は、どのような企業か」という藤井の問いかけに対し平野氏は、「エンジニアの育成や維持、成長に、明確にコミットしている企業はうまくいっていると感じます。
また、コアな技術の選定や社内への浸透はお客さまが担い、不足しているエンジニアリソースや実働の部分で弊社を
活用していただくなど、丸投げで委託するのではなく、両社で役割分担をしっかり行い並走しているような企業もDXをうまく推進されています」と話す。
また大橋氏は、「エンジニアの仕事をリスペクトし、経営層の方々がエンジニアの技術に対して適切に評価されている企業は
うまくいっていると思います。逆に、エンジニアが単なる作業者のような扱いをされると、何かを変えたい、
社会にインパクトを与えたい、新しいことをやろうと思っているエンジニアのモチベーションを下げてしまいます」と話す。
次に、エンジニアが働き続けたい会社とはどんな環境なのかについて聞いた。
平野氏は「特に意識しているのは社内勉強会やエンジニア同士がナレッジを共有できる環境を用意することです。ノウハウやナレッジの共有が、エンジニアの成長につながっています」、
大橋氏は「成長するために社外の勉強会やコミュニティに参加したり、自分自身が身に付けた技術を社外のSNSやコミュニティで発信できる環境があることも大切だと思います。
また、 “失敗する権利”を与えてくれる企業であれば、エンジニアが失敗を恐れず挑戦し、さらに成長できます」と話す。
最後に、エンジニアに活躍してもらうために大切なこととして、平野氏は「エンジニアに常に刺激を提供できる環境」、
大橋氏は「エンジニアとビジネスを考える人の距離感を限りなくゼロに近づけること」を挙げた。
デジタル技術はどんどん進化し続けており、自社の人材だけでDXを推進していくことは難しいのが現状だ。
藤井は、「KDDI Digital Divergenceグループは、DXに必須となるテクノロジーとエンジニアを兼ね備えたグループ。
今後もお客さまとともにDXを推進していきたい」と話し、セッションを締めくくった。