1988年の創設以来、システム開発とソフトウェア技術のエキスパート集団としてKDDIグループの事業の発展に貢献してきた
株式会社KDDIテクノロジー (以下、KDDIテクノロジー) 。同社はKDDIグループが力を注ぐ「スマートドローン事業」のシステム開発においても中心的な役割を担っている。その取り組みについて、KDDIテクノロジーのシニアエキスパートとしてスマートドローンプロデューサーの任にあたっている松本 直也 氏に話を聞いた。
「スマートドローン」の事業は、KDDIが2016年から手がけるプロジェクトで、
2022年4月からはKDDIスマートドローン株式会社 (以下、KDDI スマートドローン) が本事業を引き継いでいる。
そのスマートドローン事業の立ち上げ当初から参加し、ドローンの「運航管理システム」のフロンドエンド部分の開発をはじめ、運航管理システムによる各種ドローン機体の制御を可能にする「SDPF DEVICE SDK (KDDI SmartDrone Platform DEVICE Software Development Kit) 」(以下、SDK) の開発などを担ってきたのが、KDDIテクノロジーである。
このうちSDKは、ドローン機体メーカーが、自社の機体とスマートドローンの運航管理システムとの接続を確立する作業 (=組み込みソフトウェアの開発作業) を簡素化・合理化・標準化する仕組みだ。運航管理システムは、多数の機体に対応していることを強みの一つとしているが、KDDIテクノロジーが開発したSDKはその強みを生む源泉となった。
一方、運航管理システムは汎用のタブレットやPCに対応したシステムであり、モバイル通信を使った遠隔自律飛行・長距離飛行を実現する仕組みである。
これはスマートドローン事業において、2022年12月5日施行の改正航空法で可能となったドローンの「レベル4飛行 (有人地帯における補助者なしの目視外飛行) 」を実現するうえで中核を成すシステムとなっている。
そうした運航管理システムの開発は、数多くの開発案件を手がけてきたKDDIテクノロジーにとっても初の試みだった。
同社でスマートドローンプロデューサーを務める松本 直也 氏はその取り組みを「何もないところから価値ある仕組みを“ゼロ”から作り上げるプロジェクトでした」と振り返り、こう続ける。
松本 直也 氏
「ドローンの目視外自律飛行自体が新しい試みです。
そのため、ドローンの運航管理にどのような機能が必要になるかの大枠のコンセプトは描けても、そのコンセプトをシステムとしてどう実現すべきか、あるいは、どのようなデザインのシステムに落とし込むべきかのゴールが見えていませんでした。
そのため、運航管理システムのフロントエンド開発は、試行錯誤と仮説検証の連続となり、相応の苦労がありました。しかし、弊社が創設のころから培ってきたモバイルシステムの設計・開発の経験とノウハウ、技術力を駆使することで、ドローンの運航管理に必須となる機能、性能上の要件を満たすことができました」
スマートドローンの運航管理システムは、「飛行ルートの作成」から「飛行予約」「 (飛行の) モニタリング」「クラウドへの撮影画像などの保存」といった一連のドローン操作を行うための仕組みである。
本システムには、以下に示すような機能が備わっている。
こうした機能の実装にあたり、KDDIテクノロジーが追求したことの一つが簡便な操作性だ。
例えば、飛行ルートについては、タブレット上のタッチ操作だけで誰でも簡単に作成できるように設計されている。
また、ルートの作成時に人口集中地区 (DID:Densely Inhabited District) (注1) を地図上に重ね合わせて、ユーザーに注意喚起する仕組みも備わっている。加えて、飛行させるドローン機体の特性に合わせて遠隔操縦の設定項目が自動で切り替わる機能も実装されている。
「スマートドローンの運航管理システムは、ドローン操縦の熟達者や運航管理の専門家に向けたものではなく、ドローン操縦や運航管理の未経験者でも、直感的に扱えるようにすることが大切でした。
そのため、操作性やユーザーインターフェース (UI) の分かりやすさには徹底してこだわりました」(松本氏)
運航管理システムは継続的な機能・性能の強化、拡充、改善が進められており、KDDIテクノロジーではアジャイル開発の体制のもとでその作業にあたっている。
また、アジャイル開発の体制はKDDIテクノロジー内に閉じられたものではない。KDDIスマートドローンはもちろんのこと、ドローンからクラウドサービスに送られる位置情報やカメラ映像の管理・伝送などを司るバックエンド部分の開発を担当するKDDIグループのアイレット株式会社 (以下、アイレット) ともアジャイル開発の体制を組み、密接に連携している。
「運航管理システムに限らず、ITシステムはフロントエンド部分とバックエンド部分が表裏を成して機能します。
そのため、フロントエンドの開発チームと、バックエンドの開発チームが密接に連携しながら、開発に取り組むことが重要です。
その観点から弊社では、KDDIスマートドローン、ならびにアイレットとアジャイル開発の体制を組み、高い頻度の定期ミーティングを重ねながら、1週間に1度の短サイクルで新機能のリリースや機能の改善を図っています」(松本氏)
KDDIテクノロジーでは現在、AI (人工知能) の研究開発にも力を注いでおり、AI技術をスマートドローンの事業でも活用している。特に、「点検」「監視」の領域におけるAI画像認識技術の役割は大きい。
「弊社のAI画像認識の技術を使えば、ドローンが撮影した建設物・インフラの映像から、劣化した箇所やクラックを高い精度で、かつ迅速に抽出・特定することが可能となります。また、スタジアムなどの監視映像を通じ、大勢の人の中から不審な動きをしている人間や指名手配犯をリアルタイムに抽出・特定することもできるようになります。弊社のAI画像認識技術はドローンを使った点検、監視以外のところでもすでに多くのケースで、その高い精度をご評価いただいています。
スマートドローンでの活用が、これからさらに進むものと期待しています」(松本氏)
KDDIテクノロジーではいま、KDDIスマートドローンが機体メーカーに向けて提供している「ドローン専用通信モジュール」の開発にも携わっている。
このモジュールは、ドローン機体のモバイル通信品質の向上や運航管理システムへの接続を容易するためのものだ。
さらに、KDDIテクノロジーでは、スマートドローンの事業を通じて培ってきた技術を、他の事業領域でも有効に活用することも可能だと松本氏は言う。
「運航管理システムの開発で得た技術、ノウハウやドローン映像をAIで解析する技術は、ロボットの自律運転などに応用できるでしょう。スマートドローンの事業領域においても、これから成すべきことは数多くありますが、この事業での経験は、弊社の他の事業の発展にも貢献することになると確信しています」