ICTをはじめとする先端技術を活用しつつ、マネジメント (計画、整備、管理・運営等) の高度化を図り、都市や地域が抱えるさまざまな課題を解決する。
TAKANAWA GATEWAY CITYは、「100年先の心豊かなくらしのための実験場」となるスマートシティを目指している。
東日本旅客鉄道株式会社 (以下、JR東日本) 様とKDDIは、場所や時間にとらわれない多様な働き方や暮らし方、新しい分散型まちづくりを共創する「空間自在プロジェクト」に取り組んでいる。その一環として開発、提供を始めているのが、離れた拠点間をかつてない“臨場感”や“一体感”でつなぐ「空間自在ワークプレイスサービス」だ。
企業内のコミュニケーションやコラボレーションだけにとどまらず、教育やエンターテインメントなど、多彩な分野での活用価値が示され始めている。
2020年3月に開業した高輪ゲートウェイ駅。現在その周辺では品川エリアの新たなスマートシティとして「TAKANAWA GATEWAY CITY」の建設が着々と進められている。
KDDIもデジタルツインによる新たな分散型まちづくりを目指し、「空間自在プロジェクト」をJR東日本様と共創している。
そのような空間自在プロジェクトのテーマの1つとして、リアルとバーチャルを融合した新しい働き方を実現すべく、JR東日本様とKDDIが共同事業として取り組んでいるのが
「空間自在ワークプレイスサービス」だ。
これは、離れた拠点間を結び空間を越えたコミュニケーションを実現する次世代のサービスだ。
従来のオンライン会議との違いは、“臨場感”や“一体感”にある。JR東日本 マーケティング本部 まちづくり部門 品川ユニット (共創推進) の早川 明希 様は次のように語る。
「離れた拠点同士に互いの空間の実寸に近い映像を4K相当の高画質で投影します。これにより2つの空間がまるでつながっているような視覚効果が生まれます。また高集音マイクと、前方直進性 (指向性) を持った高音質のステレオスピーカーを使っているため、左右の聞き分けができ、相手側に複数のメンバーがいる場合も誰が発言したのか認識しやすいです。このように空間自在ワークプレイスサービスではリアル空間さながらの臨場感でコミュニケーションを行えます」
早川 明希 様
加藤 駿一 様
空間自在ワークプレイスサービスは、すでに社会実装が始まっている。JR東日本 マーケティング本部 まちづくり部門 品川ユニット (共創推進) の加藤 駿一 様は、「駅近くの会員スペースをご利用いただく空間自在ワークプレイスは、高輪ゲートウェイをはじめ、東京や横浜、大阪など計5拠点に設置しており、会員の方々はご契約プランに応じて
ご利用可能です」と語る。
さらに空間自在ワークプレイスサービスではもう1つ、
「空間自在コネクター」も提供中だ。
「空間自在ワークプレイスの設備一式をお客さまの社内に個別導入いただくサービスです。離れた拠点間のオフィスや会議室などをつなぎ、打ち合わせや日常的なコミュニケーションにご活用いただけます」と加藤様は説明する。
JR東日本様とKDDIは空間自在ワークプレイスサービスの事業化を共同で進めている。では、このサービスは実際にどのような活用をされているのだろうか。
KDDI DX推進本部 スマートシティ推進室 プロダクトグループの萩尾 友哉は、空間自在コネクターの導入事例について次のように語る。
「クラウド基盤のフルマネージドサービスを提供している企業さまでは、離れた拠点の執務室同士を空間自在コネクターで常時接続し、気軽にコミュニケーションできる環境を構築しました。これにより、各運用担当者は個人ごとにオンライン会議へ参加する必要がなくなります。
さらに、作業に集中しながらもお互いの状況を把握することが可能となりました」
続けて萩尾はとあるIT企業の事例を紹介した。
「その企業さまでは2拠点でのスクラム開発を進めており、拠点同士の緻密な連携を実現させる必要がありました。従来のコミュニケーションツールでは難しかった細かなニュアンスを伝え合うことなどの課題に対し、空間自在コネクターを導入したことにより、リモートでありながらその場にいるかのような質の高いコミュニケーションを実現できるようになりました」
萩尾 友哉
上述のようなB to B分野における空間自在ワークプレイスサービスの展開は、市場からの認知度の高まりとともに今後さらに加速していくだろう。
石川 遼
そうした中で最近では新たな動きも起こっている。
KDDI DX推進本部 スマートシティ推進室 プロダクトグループの石川 遼は「一般のお客さまに対して情報やコンテンツサービスを提供している事業者さまが、常設または一時的に空間自在ワークプレイスサービスを利用するといった、
B to B to Cでの多用途展開が始まっています」と語る。
この流れのきっかけとなったのが、2023年3月25日に栃木県の那須塩原駅高架下でオープンした『エキナカこども食堂』だ。
ここに空間自在ワークプレイスサービスを設置し、子ども向けの英会話教室を週1回のペースで行っている。
早川様は「オンライン会議を利用した英会話講座だと、子どもたちの集中力はなかなか続きません。
しかし空間自在ワークプレイスサービスを使った教室では、東京にいるネイティブの英語講師と同じ空間にいるような感覚で自然に会話できます。
例えば従来の形式なら1人ずつ話さないと音声が聞き取りにくくなりますが、空間自在ワークプレイスサービスなら各々が自由に話しても問題なく、子どもたちの集中力も切れません。子どもたちからはもとより、保護者の方々からもご好評をいただいています」と話す。
こうした教育関連は、空間自在ワークプレイスサービスの多用途展開の中でも特に期待が寄せられている分野だ。
「ダンスやヨガなどのレッスンにも大きな可能性があると考えています。空間自在ワークプレイスサービスを使えば、地方にいる人たちも東京の著名なインストラクターから“等身大”の映像を通じてレッスンを受けることが可能です。これはオンライン会議の小さな画面では決して得られない、新たな体験価値につながっていくのではないでしょうか」と石川は語る。
さらに空間自在ワークプレイスサービスは、エンターテインメントの分野でも多用途展開に向けた大きな可能性を示している。
空間自在ワークプレイスサービスの実証実験の一環として、JR東日本様とKDDIは2023年4月29日と30日の両日にわたり新宿駅東口駅前広場に特設会場を設置。
ボーイズグループ「THE SUPER FRUIT」のメンバーと同じ空間にいるかのようにコミュニケーションができる「ミート&グリート」のイベントを開催した。
「#君フレ空間!-supported by 空間自在-」と名付けられ、当日は100名近いファンがアイドルとのコミュニケーションを通して、新感覚の“推し活”を楽しんだ。
「ファンの皆さまは、空間自在ワークプレイスサービスを活用した今回のイベントで、大画面にほぼ等身大で映し出されたメンバーと会話したり、グッズを持ち込んだり、リアルさながらの空間で思い思いの“推し活”を楽しまれました」(加藤様)
イベントに参加されたファンのアンケート結果は予想をはるかに上回るものだった。
「『大満足』と答えてくださった方が80%超、『やや満足』まで含めれば100%です。また今回のオンラインイベントは無料で開催しましたが、『仮に有料になった場合でも参加したいと思いますか?』という問いに対しても、ほとんどの方が『参加したい』と答えてくださいました」(早川様)
さらにオンラインイベントならではのメリットも明らかになった。
「アーティストとファンがリアルに交流できる場として握手会やサイン会などは行われていますが、アーティストの身の安全を守るために、手荷物の持ち込みの禁止など、厳重なセキュリティ体制を敷かなければなりません。
それに対して空間自在ワークプレイスサービスなら、リアルイベントのようなセキュリティ体制は必要なく、ファンもグッズなどを持ち込んでアーティストの目の前で掲げながら、推し活を楽しめます」(萩尾)
前述した国内での多用途展開に留まらず、さらなる利用価値を高め、海外での活用などコミュニケーションの壁を解決するサービスとしても事業化に取り組んでいる。
「私たちプロジェクトチームが今後注力していきたいのが、空間自在ワークプレイスサービスの海外展開です。
多くの日本企業にとってグローバル化は不可欠の施策であり、海外企業との取引が拡大し、現地法人の設立も進んでいます。
しかし、日本から担当者や責任者が出張を繰り返すことは、膨大なコストが発生してしまいます。
そこで空間自在ワークプレイスサービスを導入いただくことで、コスト削減はもとより、海外の相手とも日常的にリアルに近いコミュニケーションを行うことが可能です。お互いの関係性を深めながら密に会話できます」と石川は語り、空間自在ワークプレイスサービスの事業化を次のステージに進めていく考えだ。