本セミナーでは、生成AIに企業内データを連携させることで一歩先の業務効率化・生産性向上を実現する手法と、社内で生成AIの導入・活用を推進するためのステップについて、KDDIの社内取り組み事例を交えてご紹介します。
生成AIによる業務変革を自ら実践し、その知見を法人のお客さまに提供する――。
そんなKDDIの取り組みが、スタートから間もなく1年を迎える。これまでの成果と、見えてきた課題、将来の展望について、プロジェクトを推進する2人のリーダーに聞いた。
KDDIが「生成AIの社内利活用」のプロジェクトを始動したのは、2023年4月。
前年後半からChatGPTが世界的に注目されるようになり、新たなキーテクノロジーの1つとして開発や利活用が進むことを予期してのことだった。
そこで、まずは社内で実証実験を重ねて知見やノウハウを蓄え、いずれソリューションとして法人顧客に提供することを目指した。
「かつてデータサイエンティストとしてAIに携わっていましたが、その立場から見てもChatGPTの登場は非常に革命的な出来事でした。一部の専門家しか利用できなかったAIが、誰でも使える簡単な“道具”となり、衝撃は大きかった。早く波に乗らないと、時代に取り残されてしまうのではないかという危機感すら覚えました」
そう語るのは、プロジェクトを統括するKDDI 経営戦略本部 Data&AIセンターのセンター長、木村 塁だ。
木村 塁
木村が率いるData&AIセンターは、KDDIグループ全体におけるAI導入やデータ利活用を推進する部署だ。同センターが中心となって「KDDI Gen.AI CoE」(略称:KGA) というバーチャル組織が設けられ、プロジェクトを推進することになった。
まずKGAは、社内利活用の実証実験において「トップダウン」と「ボトムアップ」の2つの観点からアプローチを進めるという方向性を定めた。
トップダウンの観点では、各部門の本部長クラスをプロジェクトオーナーとして任命し、既存のシステムと生成AIを連携させ、業務効率化や生産性向上を目指した。
「バックオフィス部門・CS部門などオペレーション業務が多い部門を中心に、生成AIの利活用によって業務の工数がどれだけ削減できるのかの検証を進めています。」(木村)
一方、ボトムアップの観点では、KDDIグループの社員1万人が生成AIを利用できる環境を整えた。社員が様々な業務で生成AIを使う中で、効率化に結び付く活用方法を自ら発見していくアプローチだ。
この生成AIの“民主化”は、想定以上の効果をもたらし、KDDIの法人サービスへとつながっていく。
ここからは、KDDIの社内版ChatGPT「KDDI AI-Chat」を活用したボトムアップのさまざまな活用事例と、それがもたらした成果を詳しく紹介する。
「弊社では『KDDI AI-Chat』という、万全なセキュリティを施したChatGPTの社内版を開発し、グループ全体で約1万人の社員が自由に使えるようにしました。さらに、全社員を対象として、プロンプトエンジニアリング (生成AIに適切な指示や質問を与えるための技術) を学ぶための研修も実施しています。」と木村は語る。
部門や担当の異なる社員が、それぞれの日常業務に当てはめながら試行錯誤を重ねることで、さまざまな活用例が生まれているようだ。
「かつては1日がかりだったプログラミングが、2~3時間で済むようになったという声も届いていますし、集計が難しい自由記述方式のアンケートの調査結果が効率よくまとめられたという活用例もあります。よい活用例が横展開され、そこからさらなる活用のアイデアが生まれるという好循環を期待しています」(木村)
社員による利活用の輪を広げるため、KGAは生成AIを使った業務効率化を競い合う「社内コンテスト」も実施している。
木村によると、エントリーされる候補の中には、意外な使い方をしている活用例も多いそうだ。
「例えば、面接の日程調整に生成AIを活用した例がありました。どちらかといえば生成AIには苦手な作業ではないかと思っていたのですが、プロンプト (問い掛け) に工夫を凝らせば、意外とできるものなのだという発見がありました」(木村)
生成AIに企画や文案などのアイデア出しをしてもらうという事例もある。複数のペルソナ (架空の人物像) を設定し、それぞれの立場から問いを投げ掛けると、多様な答えが得られることが分かってきた。
コンテストの実施によって、「こんな使い方もあるのか!」という驚きが社内に広がり、「もっと創意工夫を凝らしてみよう」という意識が根付くことを木村は期待しているようだ。
生成AIの社内利活用を促すには、関連する知識やスキルを備えた人財の育成も不可欠だ。 KDDIは、DX人財を育成するための社内大学「KDDI DX University」を運営しているが、そのカリキュラムの一つとして生成AI専門研修を新設した。
先ほど紹介した全社員を対象とする基礎研修だけでなく、より専門的な知識やスキルが習得できる学習機会も設け、生成AI人財の幅に厚みを持たせていきたい考えだ。
これらの施策によって、現在では全社員の7割以上が業務で生成AIを活用するようになっている (注1) との結果も出ている。
~あらゆる法人向けサービスに生成AIを溶け込ませたい~
繰り返し述べてきたように、KGAによる「生成AIの社内利活用」プロジェクトは、得られた知見やノウハウを法人顧客にソリューションとして提供することを目標としている。
法人の顧客との接点として、それらの知見やノウハウを提供する役割を果たしているのが、KDDIのソリューション推進本部だ。
「社内利活用の成果を基に、お客さまごとに適した生成AIの活用方法を提案する一方、お客さまが抱える課題や使い方に関する相談をKGAにフィードバックして、解決策を一緒に検討しています」と語るのは、KDDI ソリューション推進本部 クラウドサービス推進部 副部長 兼 ゼロトラスト推進部 副部長の政木 孝正 である。
ソリューション推進本部は、法人顧客向け生成AIソリューションの第1弾として、2023年9月に米マイクロソフト社の
生成AIサービス「Azure OpenAI Service」をリリースしている。KDDIが社内用として開発・利用して得た知見を生かし、お客さまのサービス導入や活用を支援していく。
政木 孝正
「社内利活用で効果が確認されたプロンプトをテンプレート化するなど、プロジェクトの成果がパッケージングされています。KDDIの専用回線とセットで提供しているので、安全・安心にご利用いただけるのもメリットです」(政木)
2024年2月には、顧客の企業内データを取り込み、生成AIと連携させる支援を新たに開始した。(注2)
KDDIでは、「生成AIそのものをサービス化する」だけではなく、「既存の通信サービスに生成AIを組み込んで提供する」ことにも挑戦している。
具体的には電話の音声データをAIがテキスト化する「KDDI Voice Viewer」というサービスがあり、そこでテキスト化された内容を生成AIが要約するという新しい機能の提供も始まっている。
プロジェクトのスタートから間もなく1年が経過しようとしているが、「これまでの取り組みを通じて、見えてきた課題もいくつかあります」と木村は明かす。
例えば、既存システムに生成AIを連携していく取り組みでは「対象となる既存システムがいずれも大掛かりなので、生成AIを組み込む作業も大規模なものにならざるを得ない」という。
経理や購買、人事などのシステムは、いずれも基幹系なので、アドオン (機能の追加) によって不具合が生じることは許されない。しかも、組み込み作業が大掛かりになれば、開発コストもかかる。「ROI (投資対効果) を高めるためにも、生成AIを組み込むことで大きな業務改善が期待できるシステムを選別し、優先順位付けをしながら開発を進めていくのが望ましいということが分かってきました」と木村は語る。
また、PoC (概念実証) を重ねる中で、既存の業務をどこまで生成AIに任せられるのか、という点も見えてきた。
「技術の進歩とともに、生成AIで実現できることはどんどん増えていくはずですが、現時点での『できること』『できないこと』をしっかりと見極め、使い分けることも重要だということが分かりました。こうした知見も、当社がお客さまにソリューションを提供する際に役立てたいと思っています」(木村)
「社内プロジェクトの成果を速やかに反映しながら、なるべく多くのサービスやソリューションをリリースしていきたい。
ゆくゆくは、あらゆる法人向けサービスに生成AIを溶け込ませ、無意識のうちに利活用できる環境を提供するのが目標です」と政木は語る。
木村も、「生成AIは、人財不足という日本の社会課題を解決する手段の一つとして、今後ますます活用が広がるはずです。課題解決に貢献するため、KDDIは生成AI利活用の知見やノウハウをさらに蓄積し、より多くのソリューションの開発に努めていきます」と抱負を語った。