このページはJavaScriptを使用しています。JavaScriptを有効にして、または対応ブラウザでご覧下さい。

KDDIとELYZAの提携で進む―日本語特化LLM開発と生成AIの社会実装

KDDIとELYZAの提携で進む―日本語特化LLM開発と生成AIの社会実装

大規模言語モデル (以下、LLM) を活用した生成AI社会実装加速するため、新たにKDDIの一員となった株式会社ELYZA (以下、ELYZA) 。同社今後、2024年5月にKDDIが始動した、“日本デジタル化をスピードアップ”するためのAI時代ビジネスプラットフォーム「WAKONX」において、重要役割を果たすことが期待されている。本記事では、ELYZAのこれまでの歩みと、KDDIとの提携によるこれからの展望について詳しく紹介する。

  • 記事内部署名役職取材当時のものです。


業務提携の背景:市場の喫緊の課題である生産性向上の解決

現在日本少子高齢化による労働力不足深刻化しており、社会全体生産性向上喫緊課題になっている。特にデジタル技術活用したビジネスモデル変革が求められており、生成AI活用による業務効率化生産性向上実現期待される。しかし、現在LLMの領域で大きく先行しているグローバルAIモデルでは、本格的課題解決に至らないケースも出てきており、日本企業に適したソリューション提供急務だといえる。

また、生成AIを単なる実証実験 (PoC) で終わらせず、実際業務現場への導入、そして運用定着させるための支援ツールニーズ急速に高まっている。このような社会背景を踏まえ、KDDIとELYZAは本提携を通じ生成AIの社会実装力を高め、企業自治体対象生成AIを用いた課題解決促進していくという。


KDDIとELYZAの出会い
~資本業務提携、ELYZAはKDDIの連結子会社に~

ELYZAは、東京大学松尾研究室からスピンアウトしたAIカンパニーで、国内においてLLMの研究開発および社会実装牽引する存在だ。同社ビジョンは、LLMの社会実装を通じて業務効率化や新しい価値創造目指すこと。2023年8月には日本語公開モデルでは最高水準商用利用可能な70億パラメータ日本語LLM「ELYZA-japanese-Llama-2-7b」を開発。2024年3月には、日本語性能グローバルモデル匹敵する、国内最高水準 (注1) の700億パラメータのLLMを開発した。

ELYZAのLLM研究開発の歩み

2019年からLLMの研究開発を行い、成果を都度公開してきた


KDDIとELYZAの出会いは、偶然ではない。ELYZAの代表取締役である曽根岡 侑也氏KDDI Digital Divergence Holdings代表取締役藤井 彰人は、10年以上前から交流があり、KDDIグループとはさまざまな接点があった。
2023年5月、KDDIとELYZAの提携具体的に動き出す。曽根岡氏当時のことをこう振り返る。

  • ※ 外部リンクに遷移します。
曽根岡 侑也氏の写真
株式会社ELYZA
代表取締役

曽根岡 侑也氏

「2022年ぐらいまでは単独でIPO (注2) をすることを目指していたので、大企業グループ入りや提携をすることは考えていませんでした。そんな中、テキスト生成AIサービス存在世間で広く認知されるようになり、このLLM、大規模言語モデル世界において資本計算インフラも揃っていることが非常重要になってきたわけです。研究開発力だけで勝つというよりは『お金の力』も含めて、継続的事業を作っていかなければならない。この大きなゲームチェンジに対して我々は、大企業のみなさんとのパートナーシップを組む道もあると考えるようになりました」

そして2024年3月18日、株式会社ELYZAとKDDI株式会社、KDDI Digital Divergence Holdings株式会社資本業務提携締結。KDDIは43.4%、KDDI Digital Divergenceは10.0%のELYZAの株式保有し、ELYZAはKDDIの連結子会社となった。ELYZAはKDDIグループ支援を受けながら、将来的スイングバイIPOを目指すという。

【コラム】スイングバイIPO

スイングバイとは、宇宙の専門用語で宇宙探査機が惑星の重力を利用して加速するということを表現した言葉。KDDIグループでは、スタートアップが大企業のサポートを得て成長し上場を目指すことを、スイングバイIPOと呼んでいる。2024年3月には、KDDIグループの株式会社ソラコムがこの「スイングバイIPO」により東京証券取引所グロース市場へ新規上場した。
※ 外部リンクに遷移します。
  • 注1) 2024年9 ELYZA社 調べ
  • 注2) IPO (Initial Public Offering) …証券取引所を通じて自の株を投資家に売り出し、誰でも自に売買できる状態にすること

本提携による協業内容

今回提携により、ELYZAとKDDIグループは、日本語特化したLLMの研究開発をさらに加速させることを目指す。
今後、KDDIグループ大規模計算基盤とELYZAの研究開発力を組み合わせることで、オープンモデル活用した日本語汎用LLMの開発一層推進される予定だ。

また、各企業業界業務特化した領域特化型LLMの開発にも取り組む。これにより、海外汎用LLMでは対応しきれない課題解決し、業界企業ごとのニーズに応じたカスタマイズを行う。柔軟カスタマイズ可能国産LLMは、小型モデル開発や、消費電力コスト低減レスポンス速度向上などが実現できるほか、機密性の高い情報を取り扱う状況下においても活用しやすくなるという。

さらに、KDDIはKDDI Digital Divergence Groupのクラウドアジャイル開発データ活用などの技術と、ELYZAが持つ汎用および領域特化型LLMの開発力や、PoC (概念実証) に留まらない生成AIの現場実装力を活かし、生成AIを取り入れたDX支援サービスやAI SaaSの提供強化する。生成AIを組み込んだAI SaaSの共同開発共同販売を通じ、より多くの企業自治体での生成AIの本導入を広げていく予定だ。


国産LLMはなぜ必要か
~日本らしい戦い方とは~

日本市場国産LLMが求められる背景の一つには、グローバルモデルよりも、日本語特化モデルの方が出力の速さと効率面メリットがあるからだという。例えば、グローバルモデルでは通常出力を1~2回の処理生成できるのに対し、日本語で「大規模言語モデル」の出力を得るためには10回以上処理必要になる。余計計算リソース消費しないためにも、国産モデルにこだわる必要性があるという。

国産LLM「ELYZA LLM」のウェブインターフェース

また、日本市場では日本法律生活根差した文化的知識重要になる。例えば、著作権に関する問題など、法制度が国ごとに異なる状況下でも、生成AIがその違いを正確理解対応できれば、よりきめ細かい業務にも対応可能になる。
曽根岡氏一例として「法律事務所がLLMプレイヤーと組み、日本本当に使えるサービス開発すれば非常価値が高い」と述べ、専門性の高い領域事業者がLLMを導入することで、より高度サービス実現期待できるとの見方を示す。

実際に、ELYZAは明治安田生命保険相互会社コミュニケーションセンターでの生成AI導入事例公表している。ELYZAが手掛けたのは、電話対応後の「アフターコールワーク」と呼ばれる対応記録作成業務自動化するサービスだ。このプロジェクトでは、日本語特化した生成AIが、明治安田生命過去応対メモ学習し、通話テキストデータから自動的応対メモ作成する。年間約55万件人手で行われていた作業時間を約30%削減できる見込みだ。

KDDIはELYZAと連携することで「スピード感を持った」展開にも期待を寄せる。曽根岡氏は、その一因独自データセットを生み出す「データファクトリー」の存在があるという。LLM開発に欠かせないのが多種多様データだが、ELYZAは「自前データを作り、AIに学習させるフィードバックループ」を確立している。曽根岡氏は「スピードという意味では、適切かつクオリティの高いデータをどんどん作っていける体制一番大きなエンジンになる」と語る。

また、「日本らしい戦い方」として、ELYZAはアジア圏のマイナー言語対応する戦略採用する。英語から日本語へのトランスファー成功させた実績をもとに、次はベトナム語やインドネシア語などへの対応視野に入れている。「非英語圏」を数多対象とした独自の戦い方について曽根岡氏は次のように語る。

日本が勝てるかという点ですが、個人的活路があると思っているのがアジア圏のマイナー言語への対応です。我々のアプローチ英語のみしか話せない人を、日本語も喋れるようにしたものです。要は英語から日本語トランスファーさせることをしたのですが、次はベトナム語やインドネシア語にも対応できると思います」


「スイングバイIPO」が変える共創の形

ELYZAとKDDIグループは、本提携によりオープンモデル活用した国産LLMの開発加速させるとともに、特定業界業務特化した領域特化型LLMの開発にも取り組む。

ELYZAがKDDIグループに加わることは、ゴールではなく、新たなスタートラインに立ったに過ぎない。曽根岡氏は「今回グループ入りは目標ではなく、あくまで手段である」と強調している。曽根岡氏今回提携に関して次のように話した。

今回資本業務提携本当成功するかどうかは、今後数年間にわたる我々の努力次第だとは思います。やはりご一緒する背景にあった『スイングバイIPO』というコンセプトの通り、ご一緒するのがゴールでは全くありません」

KDDIも、今回提携に関してはLLMの性能向上を超えた、生成AIによる社会変革を生み出す機会として捉えている。自社内生成AIを導入することで、社員の働き方を革新する実験台としての役割を果たし、その成果を広く社会展開していく。

改めて曽根岡氏は、今回連携展望を次のように語った。

「我々自身、強く意識していることは二つあります。一つ目に、大手通信事業者の一つであるKDDIのお力をお借りできるという状況になったので、国内No.1の大規模言語モデル、LLM生成AIの開発者、そして社会実装の担い手に確実に近づけていくことです。二つ目は今回の取り組みの中で、グループ入りをさせていただいた形になりますが、ELYZAらしい文化を捨てることなくコラボレーションを進めていきたいです。世の中にしっかりと貢献する、本当にAIの社会実装において継続的かつ、長期的に使われるためにやるべきことは全部やる。このスタイルは変えることなく進んでいきたいと思っています」

関連する記事は「MUGENLABO Magazine」にも掲載しております。


関連記事