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日本のビジネス界には、和魂洋才と呼ばれる精神が根付いている。これは、西洋の技術や知識を取り入れつつも、日本流に調整し、独自の価値を創り出す姿勢を意味する。この和魂洋才を実践するためにどのような工夫が必要で、どのように日本市場での競争力が生まれるのか、株式会社フライウィール 代表取締役 CEO 横山 直人 氏に伺った。
日本企業が西洋の技術を取り入れる際、単に海外のアルゴリズムやテクノロジーをそのまま適用するだけでは不十分である。
重要なのは、日本の市場特性や現場の習慣に即した形で技術を導入することである。
和魂洋才の本質は、海外から得た技術を日本の現場に合わせて丁寧に調整し、実際に業務で活用できる仕組みを作り上げることにある。単に高度な予測アルゴリズムを実装するだけでは課題は解決しない。ユーザーが日常的に使いやすく、業務改善につながるサービスとして昇華させることが重要なのである。
この「地道な」アプローチこそが、日本企業の強みであり、和魂洋才の真髄といえる。海外の先進技術を機械的に導入するのではなく、現場の実情を深く理解し、実践的に活用できる形に仕上げていく。そこには、日本企業ならではの細やかな配慮と工夫が込められている。
技術は単なる道具であり、それをいかに使いこなすかが最も重要である。日本企業は、海外から得た技術を形式的に導入するのではなく、現場の声に耳を傾け、実際の業務プロセスに溶け込ませる努力を続けている。この姿勢こそが、和魂洋才の本質的な価値であり、日本企業の競争力の源泉なのである。
経営に関する意思決定をする際、日本と海外の企業では判断基準が異なる。海外企業ではKPI (注1) に基づく経営が進んでおり、これにより効率的な目標管理が可能となっている。一方で、日本企業は経験や勘に頼った判断が依然として多く、データの活用度という点では遅れが見られる。
日本企業の成長のためには、和魂洋才の精神にのっとり、現場のリーダーや経営層がデータを駆使して意思決定を行う環境を整えることが必要だ。
KPIの設計に関しても、日本企業の特徴が浮き彫りとなる。日本企業は短期的な売上だけでなく、顧客のライフタイムバリュー (以下、LTV) を重視する傾向が強い。どのようにして顧客を「よいお得意さま」にするか、またファンになってもらうかを意識した中長期的な視点が根付いている。
横山 直人 氏
このようなLTVの観点を指標設定に入れ、データ分析を通じて長期的な成長を目指すことが日本企業における独自の成長戦略である。
製造業や物流業界でもデータ活用が進んでおり、とりわけサプライチェーンマネジメント領域は変革の最前線にある。
特に物流分野においては、ECの普及に伴う配送量の増加や人手不足といった課題が深刻化しており、データ活用が革新のカギとなる。災害時には、支援物資を輸送するため、在庫や配送ルートの情報を即座に把握し、最適な対応を図ることが必要であり、経験や勘に依存するのではなく、シミュレーションと予測に基づいた意思決定が求められている。
また、日本企業がデータを用いた効率的なサプライチェーンの構築を目指す際には、単なる技術導入にとどまらず、現場の業務や習慣に合わせた細やかな調整が不可欠である。例えば、TSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ様の在庫管理における返本率の低減を目指す場合、単に予測アルゴリズムを導入するだけでは不十分だ。現場の担当者が日常業務で無理なく活用できるように、操作性や利便性に配慮したシステム設計が求められる。
このように、日本の商習慣に根ざした「和魂洋才」の姿勢こそが、サプライチェーンマネジメントにおける日本企業の競争力を支える柱となる。データと現場の知識を組み合わせた取り組みは、今後もサプライチェーンの効率化において日本企業が独自の価値を発揮するための勝ち筋となるだろう。
和魂洋才の背景には、日本企業特有の「地域への理解」がある。地域に根付いた商習慣や需要を読み取る力は、日本企業が持つ独自のインサイトだ。例えば、秋の運動会シーズンにはゴザの需要が高まるといった、地域の風習に根ざした販売戦略は、日本企業が強みとするところである。
この強みは、グローバル展開を目指す日本企業にとって重要な差別化要因となる。海外のビッグテックで活躍した経験を持つ人材が、その知見を日本市場向けにカスタマイズすることで、独自の価値を生み出せるのだ。
また、日本企業は現場との密接な連携を重視する。クライアントの現場チームと一体となって課題解決に取り組む姿勢は、日本企業ならではのアプローチだ。この「寄り添う」姿勢が、グローバルプラットフォーマーにはない強みとなっている。
顧客の課題を解決し、新しい価値を生み出す際、新しいテクノロジーであるAIはどのように活用すべきだろうか。AIの進化によって、ビジネスにおけるさまざまな業務が効率化され、将来的にはAIが人に代わってあらゆる業務を行う未来が想像される。しかし、テクノロジーはあくまで「手段」であり、主役は「人間」であるべきだと考える。
特にクリエイティブな分野では、人間の感性や発想力が大切だ。人間が生み出す「無駄なもの」に面白みがあり、それが新たな価値となる。そうした感覚を損なわず、補助する役割としてAIを活用すべきなのだ。
また、日本人とAIの相性は良好と考えられる。日本人は変化を恐れる傾向があり、過去には海外からの危機によって変化を強いられることも多かった。AIはその変化の必要性を客観的に示してくれる存在であり、日本人にとって新たな変化の契機となり得る。
人間とテクノロジーの関係に明確な答えはないが、その「余白」を探求することに面白さがある。人間が果たすべき役割とAIが担うべき領域の使い分けは、今後さらに明確化されていくだろう。
技術は手段である。目指すべきビジョンが存在し、それを実現するためにテクノロジーが用いられる。日本が培ってきた「和魂」には、他国の技術や考え方を日本独自の価値に昇華させ、活用する姿勢が根付いている。技術と人間が共生し、互いを補完することが日本の強みであり、未来の創造においても重要な要素である。
和魂洋才の実践は、日本企業が今後グローバルで競争力を持つための重要な鍵である。データを活用し、日本流にアレンジし、現場で実際に役立つサービスに昇華させる。こうした取り組みを通じて、日本企業は世界市場でも一歩先んじた価値を提供できる。
日本の企業がグローバル市場で戦い続けるためには、日本の商習慣や文化を尊重しつつも、世界の最先端技術を取り入れる姿勢が欠かせない。特に、法規制の観点や、日本独特のデータの持ち方といった課題はあるが、それをグローバル展開しているビジネス形態に合わせてデータ処理することができるという点が、我々の強みである。こういったアプローチが日本企業の勝ち筋であり、和魂洋才の精神を活かした競争力の源泉と考える。
このように、和魂洋才の実践は日本の独自性を活かした競争優位を築き、未来への成長を支える柱となるだろう。