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国内産業の追い風と期待される大阪堺AIデータセンター KDDIがこだわる“国内”の意義とは
これからのAI活用で無視できないデータセンターの現在地

国内産業の追い風と期待される
大阪堺AIデータセンター
KDDIがこだわる“国内”の意義とは

本稿は、「ITmedia ビジネスオンライン」に掲載された記事転載しています。>

生成AIの急成長に伴い、GPU市場拡大しており、高性能セキュアなAIインフラへの関心度も高まってきている。中でも注目されるのがAI向けのデータセンターだ。2025年10月28日、29日に開催されたKDDI主催イベント「KDDI SUMMIT 2025」では、KDDIのAIデータセンター戦略現在地パートナーとのディスカッションも交えて明かされた。

  • ※ 記事内の部署名、役職は取材当時のものです。


KDDIが推し進めるAIデータセンター戦略の価値とは?

堀 純二の写真
KDDI
ビジネス事業本部
プロダクト本部長
堀 純二 氏

登壇したKDDIの堀 純二 氏は、“つかえるAI”を顧客提供するための取り組みを紹介した。その一つが、AI活用継続的フィードバック改善だ。同社は、さまざまな業務生成AIを取り入れており、その成果製品サービスの形で顧客還元している。

このようなAI開発力を高めるには、AIインフラ整備が欠かせない。そこで同社はAIインフラ回りのサービスに力を入れ、新設する大阪府堺市のAIデータセンターを2026年1月から稼働させる。AI開発運用不可欠なGPUリソースを「GPU as a Service」として広く提供する予定だ。

国内企業多様なAIニーズ見据えて、さくらインターネットハイレゾと共に「日本GPUアライアンス」を2025年10月に設立した。堀氏は、その意図を次のように語った。

弊社のGPU as a Serviceに、さくらインターネット生成AI向けクラウドサービス高火力』、そしてハイレゾのGPUクラウドサービス『GPUSOROBAN』を併せて、お客さまのニーズに応じたGPUリソース供給していきます」

しかし、AIの“要”となるデータセンターの建設はますます困難になっている。続いて登壇した同社桜井 敦史 氏は、各国でAIデータセンターへの投資過熱する一方で「最先端のGPUサーバに適した、大規模データセンター新設するには幾つものハードルを乗り越えなければならない」と指摘した。

「AIデータセンター整備には大規模電力確保課題になっています。さらにわれわれが導入する最先端のGPUサーバ稼働させるには、空気で冷やす冷却技術では追い付かず、水でサーバを冷やす『水冷技術』が必須であり、既存データセンタースペックでAIのインフラ整備することが困難になってきています。また建設コスト高騰人材不足影響建設期間長期化する中、いかに早期に立ち上げるかが大きな課題になっています」

桜井 敦史の写真
KDDI
先端技術統括本部
先端技術企画本部
サービスプラットフォーム企画室長
桜井 敦史 氏

こうした課題クリアするため、KDDIは2025年4月にシャープ運営していた大阪府堺市にある旧液晶工場を買い取った。工場時代大規模電力施設冷却施設転用することで、従来3年以上期間を要するデータセンター建設を、わずか半年という短期間で立ち上げることに成功した。

大阪堺データセンターの写真
大阪堺データセンター

この新データセンターは、パフォーマンスの面でも注目度が高い。高い計算能力を持つGPUサーバ「NVIDIA GB200 NVL72 by HPE」を設置し、高度計算能力水冷技術でその性能フル発揮させる。さらには、KDDIがこれまで大手通信キャリアとして育んできた広帯域高品質ネットワーク技術を惜しみなく投入し、「通信のつなぐ“チカラ”を進化させてAIのインフラと掛け合わせながら、パートナーの皆さまと共に日本ビジネスと暮らしをアップデートしたい」と桜井氏抱負を語った。


国内データセンターで Google の生成AIモデルを利用可能に

続くパネルディスカッションでは、新AIデータセンター実現に当たって重要パートナーとなった Google Cloud とNVIDIAからキーパーソンを招いて、堀氏桜井氏を交えた4人で意見交換が行われた。ポイントになったのが、自国提供することで他の国・地域法令などの影響排除する「ソブリン性」の視点だ。

KDDIの新AIデータセンターでは、Google の生成AIモデル Gemini をオンプレミス環境利用できる Gemini on Google Distributed Cloud (GDC) のトライアル運用が2026年2月にスタートする予定だ。これによって、日本企業組織はいわゆる「デジタル主権」を保ったまま Gemini を安全利用できるようになる。

このような動きは日本だけではない。安全保障経済競争力観点から、さまざまな国が自国でAIの開発サービス提供を行う「ソブリンAI」の取り組みを強化している。KDDIの新AIデータセンターで Gemini on GDC を提供する意義について、グーグル・クラウド・ジャパン渕野 大輔 氏は次のように語った。

欧州のGDPRのような法規制対応するためにも、海外ではデジタル主権重要性が叫ばれています。日本にはまだGDPRのような強力法規制はありませんが、ビジネス継続性システムレイテンシデータ効率的ローカル処理などの観点から、海外パブリッククラウドではなくKDDIのAIデータセンターのように自国でAIワークロード処理する重要性クローズアップされています」

渕野 大輔 氏の写真
グーグル・クラウド・ジャパン
カスタマーエンジニアリング
技術統括本部長
渕野 大輔 氏

店舗や工場などに Google Cloud と同等の環境を実現

GDC のユーザーは、安全保障観点システムソブリン性を必須とする政府機関などが多いが、民間企業組織による導入着実に増えている。特に店舗工場などにエッジデバイスとして GDC を設置し、アプリケーションやAI、データ分析などのワークロード安全かつ効率的ローカル処理したいというニーズが増えていると渕野氏は語った。

マクドナルド店舗に GDC を導入して、クラウドとの通信ダウンしてしまってもローカルオペレーション継続できる仕組みを実現しています」

こうした Google Cloud の取り組みに対して、桜井氏から「オンプレミスクラウドを使い分けるハイブリッドクラウド環境が当たり前になりつつありますが、GDC はこうしたハイブリッド運用において何かアドバンテージはあるのでしょうか」という質問が飛んだ。

渕野氏は「 GDC はハードウェアレイヤーアプリケーションレイヤーの間にコンテナ基盤を挟むことで、環境ごとのハードウェアの違いを吸収しています。このコンテナ基盤オンプレミスの GDC とパブリッククラウドの Google Cloud の間で共通化されているため、ユーザーワークロードオンプレミスクラウドの間で自由に行き来させることができます」と答え、ハイブリッドクラウド運用における同社の強みを強調した。


世界のテレコム事業者とソブリンAIを推進するNVIDIA

田上 英昭 氏の写真
エヌビディア
ストラテジックアカウント本部
テレコム営業部長
田上 英昭 氏

前述の通り、KDDIのAIデータセンターにはNVIDIA GB200 NVL72が設置される。エヌビディア田上 英昭 氏によると、NVIDIAは世界各国ソブリンAIの要請に応えるべく「ソブリンAIプロバイダー」とのパートナーシップ強化しているという。その多くが、KDDIのようなテレコム事業者によって占められていると同氏説明した。

テレコム事業者国家重要インフラを担っていることから、国家戦略であるソブリンAIの担い手としてふさわしいと考えられます。すでに高速ネットワーク網や大規模データセンター保有していることが多く、複雑システム管理に関する専門知識にも長 (た) けており、優れたソブリンAIプロバイダーになり得ます」

田上氏は、こうした活動を通じて実現目指ソブリンAIが備えるべき要件として、経済成長安全保障への貢献と「文化保存」を挙げた。

日本であれば、特有文化倫理観商習慣反映させたAI基盤であることが重要だと考えています。弊社CEOのジェンスン・フアンも、来日するたびに『日本文化商習慣生成AIに学習させることが重要だ』と発言しています。そのための施策推進する上でも、KDDIとのパートナーシップは極めて重要です」


一般企業のAI活用を促進する上でもソブリンAIは重要な鍵を握る

各国パートナーソブリンAIに取り組むNVIDIAでは、日本のAIインフラ整備有望視していると田上氏は述べた。

「国がAIインフラ整備積極的支援する方針を打ち出しており、GPUクラウドプロバイダーに対する資金援助発表されています。この政策高市政権でも継続すると見られており、日本ソブリンAIの動きは政府強力コミットメントの下でより加速するのではないかと考えます」

安全保障経済政策といった国家レベルの“大きな”問題意識だけでなく、一般企業レベルにおいても海外クラウドAIサービス安易利用にはセキュリティリスクが伴うため、ソブリンAIの重要性が増しているという。最近になってクラウドAIサービス利用に伴う「情報海外流出」のリスク一般層認知されるようになり、今後情報漏えい対策観点からもソブリンAIの価値が高まるだろうと同氏指摘した。

桜井氏も「企業におけるAI利用一定レベルに達すると、『本当はこのデータをAIで使いたいが、情報漏えいが怖いからやめておこう』という意識が働くようになり、AIの活用ブレーキがかかってしまいます。こうした制約を取り払って国内のAI普及に弾みをつけるためにも国内データ安全管理し、通信事業者として長年通信秘密』を厳守してきた弊社の取り組みが重要になるはずです」と見解を述べた。

最後堀氏は、Google およびNVIDIAとの強力パートナーシップの下、AIデータセンター実現に至ったことについて、「AIのトレンド変遷は極めて速いため、もはや1社の投資だけでは追い付けないのが実情です。そこで両社のようなパートナー企業との連携を深めて、日本のAI産業発展により一層貢献していきたいと考えます」とコメントし、セッションを締めくくった。

国内外企業を巻き込んでAI活用未来を切り開こうとするKDDIの動きに、今後注目したい。