ターボ冷凍機で冷却された冷水は青色の配管を通じてCDU (冷却分配装置) へ供給される。CDUから各GPUサーバーへ冷水を供給することで、GPUを効率的に冷却している。GPUの冷却により温まった水は赤色の配管を通じてターボ冷凍機へ戻り、再び冷却される循環構成となっている。なお、GPU以外の一部コンポーネントについては空冷方式を併用している。
2026年1月22日、KDDIは大阪堺データセンターの開所式を開催した。本施設は、日本のデジタル社会を支え、産業競争力強化に貢献するための基盤として構築されたAIデータセンターである。開所式当日は、KDDI代表取締役社長・松田 浩路によるプレゼンテーション、AIデータセンターの心臓部であるサーバールームを始め、安定稼働を支える数々の設備の披露も行われた。本記事では、開所式当日の様子を振り返りながら、大阪堺データセンターが担う役割と、その先に見据えるAI社会実装の姿をレポートする。
開所式の冒頭、KDDI 社長の松田 浩路が挨拶に立った。松田はまず大阪堺データセンターの役割に触れ、「本施設は経済産業省のクラウドプログラムに認定されました。国内のAI開発基盤を安定して供給することを目的としており、日本の産業競争力の向上に貢献していきたいと考えています」と述べた。
KDDIは国内外に多数の通信センターやデータセンターを展開しており、「社会インフラを担う事業者として、通信基盤とAI基盤の両輪で日本のデジタル社会を支えていきたい」と語った。
続いて、堺市副市長の本屋 和宏 様が堺市を代表して挨拶を行った。本屋様はまず、堺市の歴史と都市ビジョンに触れ、「堺市は、古代には世界遺産の百舌鳥・古市古墳群が築造され、中世は国際貿易都市として『黄金の日々』と称されるほど繁栄しました。現在『未来を創るイノベーティブ都市』を掲げ、人や企業を引きつける都市として、未来を創る挑戦を積極的に進めています」と紹介した。
その上で本屋様は、大阪堺データセンターが生成AIや大規模言語モデル対応の最新GPUサーバーを備える、AIデータセンターであることに触れ、「日本や堺市の産業構造にとって、大きな転換点になる」と強調した。「多様な製造業や学術・研究機関が集積する堺において、本AIデータセンターがあらゆる分野にイノベーションをもたらす拠点となることに期待を寄せている。これを好機として、企業との更なる連携を図り、地域経済の活性化やブランド力向上につなげていきたい」と結んだ。
松田のプレゼンテーションの冒頭では、大阪・堺が16世紀に「東洋のベニス」と称され、海外の先進技術によって日本の発展を支えてきた歴史に触れた。その上で、そうした地で本AIデータセンターをいち早く披露できる喜びと、堺市への感謝を述べた。
2000年代後半から、この場所にはシャープ株式会社の液晶パネル工場が立地し、月約4万枚もの液晶カラーフィルター基板を生産する拠点として稼働していた。KDDIは2025年4月、シャープから工場建屋や冷却設備などの貴重なアセットを継承し、最新世代のAIサーバー導入に着手。水冷方式に対応したサーバー群を急ピッチで構築し、既存設備を活用することで、サーバー構築を含めてわずか1年足らずでの稼働開始を実現している。
松田は、本AIデータセンターを建設して終わりではないことを強調し、「具体的なAIソリューションを開発して、日本の産業に貢献することが我々の役割だと考えています。AIの社会実装にこだわっていきたい」と述べた。今回の液晶工場からの設備継承は前例のない挑戦であり、多くの協力があってこそ実現できたとし、「パートナー企業との協働によって極めて短期間で本AIデータセンターを立ち上げることができました。これは日本にとっても、世界に誇れることです」と語った。さらに、こうしたパートナー企業と共に市場開拓に挑めることへの大きな期待を示した。KDDIはインフラからサービスまで一気通貫でAIの社会実装を推進していく方針だ。
続いて松田は大阪堺データセンターの特長を解説した。まず立地面では、大阪の中心部から約15kmという近距離に位置し、AIの学習、さらには推論においてますます重要となる低レイテンシー (低遅延) での通信が可能となる。また、ハザードマップ上8.5mほどかさ上げされているため高潮などの影響が受けにくく、地理的なレジリエンスも確保されている。こうした立地条件の上で、NVIDIAやHPEの協力のもと、業界トップクラスの計算能力を誇る最新世代のGPUサーバー「NVIDIA GB200 NVL72 by HPE」を、国内でも先頭集団の一角として導入できたことを紹介した。
高度な計算基盤を支える要として、冷却技術の強みについても触れた。液晶工場時代から整備されていた冷却設備を最大限に活用し、水冷方式によって1ラック当たり空冷の約15倍もの冷却能力を実現している。この高性能な冷却システムを建物全フロアに展開できるため、将来的にも当施設で大規模なAIサーバー増設が可能である。
次に、ソブリン性への対応についても説明した。今後、企業の持つ機微なデータや専門知識を学習して生成されるAIエージェントが企業の労働力そのものになっていく中で、自社のAIデータセンター内で完結して処理できることが、通信で実績をもつKDDIだからこその大きな強みになると言及。具体例として、世界的な最先端AIモデルである Gemini をデータが流出しない形で活用できる点を挙げ、このソブリン性を備えたAI基盤としての意義を強調した。
プレゼンテーションの後半では、AI活用の具体例として製薬業界の事例が紹介された。製薬企業にとって患者さんに最適な形で医薬品を提供することが大きな目標であり、そのためには患者さんの治療経過やペイシェントジャーニーを深く理解する必要がある。その鍵となるのが、さまざまな患者さんの治療、投薬効果、経過などが記録されている電子カルテデータだ。しかし、電子カルテデータの絶対量がまだ不足しているうえ、医師の所見・症状の記録形式が統一されておらず、必要な情報の抽出が難しいという課題がある。KDDIとグループ会社である医用工学研究所 (MEI) はこの課題に取り組み、全国の医療機関と連携して約470万人分の電子カルテデータ (注1) の蓄積・分析に取り組んでおり、2026年度には1,000万人分への拡大を目指して大規模データ基盤の構築を進めている。
「こうした医療データ基盤に加え、この度開所したAIデータセンターで開発する医療特化型のLLMモデルを組み合わせることで、電子カルテデータの処理を飛躍的に効率化できると考えています」と松田は説明した。例えば、1,000人分の電子カルテデータを手作業で分析するには約2カ月かかるが、LLMを活用すれば、わずか3日程度で10万人分のデータ分析が可能になるという。これにより単なる省力化に留まらず、患者さんごとのペイシェントジャーニーの解像度が高まり、医師の所見や症状記述などの情報から希少疾患や難病の兆候を見出すことにもつながると期待される。松田は、「こうしたAI技術を組み合わせたサービスを、製薬企業に提供していきます。Gemini やELYZAなどの先端モデルを組み合わせ、電子カルテデータの保管・管理からAIモデルの学習・推論まで、医療用垂直統合型AIサービスとして提供することで、本AIデータセンターのソブリン性を生かした医療AIプラットフォームが実現できると考えています」と述べた。
このほか、NVIDIA GB200 NVL72をクラウドサービスとした「KDDI GPU Cloud」のトライアルも開所式当日から開始しており、製薬業界以外にも、すでに製造業界や金融業界などさまざまな業界から本AIデータセンターの活用に関する引き合いが寄せられている。「とにかく最先端のGPUを使いたい」「ソブリン性がほしい」など、法人のお客さま、スタートアップ企業からのさまざまなニーズに対応していく考えだ。
最後に松田は、「大阪・堺の地を起点として、AIの社会実装を進めていきます。今後の展開に期待してください」とメッセージを送った。
開所式後には、大阪堺データセンターの施設内を巡る見学ツアーが行われた。AIデータセンターを支える中核設備を間近で確認できる機会として、参加者の関心を集めた。
大阪堺データセンターの稼働開始は、KDDIがAI時代に向けた国内AIインフラ整備と社会実装を本格化するうえで象徴的な一幕と言える。堺市からは本AIデータセンターが地域の産業構造転換を促し、あらゆる分野にイノベーションをもたらす拠点となることへの期待が寄せられていた。その期待に応えるべく、KDDIは通信とAIという二つの基盤で日本のデジタル社会を支え、「この堺から始まる」という言葉どおりAIの社会実装を力強く推進していく。
このAIデータセンターが、これからどのような新たな価値を創出していくのか。今後もKDDIは、日本の産業競争力を後押しすべく、さまざまなパートナー企業とともに挑戦を続けていく。