2026年3月2日、世界最大級のモバイル関連展示会「MWC26 Barcelona」が開幕した。KDDIは未来の街角をモチーフとした展示空間を構成し、通信基盤とAIが街のさまざまなシーンにもたらす価値を紹介した。本記事では、KDDIがMWC26 Barcelonaで提示したこの未来の街を支える「AI/Network Infrastructure」のブースにフォーカスし、講演と展示を通じて示された体験価値と、その裏側を支えるインフラの進化をレポートする。
「MWC26 Barcelona」は、スペイン・バルセロナで開催された世界最大級のモバイル関連展示会である。今年のKDDIブースのテーマは「GATEWAY TO TOMORROW’S LIFE」。未来の東京・高輪をモチーフにした“街角”を舞台に、次世代の社会や暮らしを体験できる展示が展開された。
KDDIのブースでは、通信基盤とAIを軸に事業領域を横断した展示を展開。通信とデータの力が、人々の暮らしや地域社会にどのような価値をもたらすのかを、来場者の視点で体感できる空間が演出された。会場では、データセンターやネットワーク技術をはじめとする通信インフラの進化に加え、モビリティやスマートシティ、リテールテックなど、AIと通信が広げる未来の生活像を多面的に紹介。未来の東京・高輪をイメージした空間の中で、グローバルに広がるKDDIの取り組みと、その先にある社会の姿が示された。
AIの活用が広がる一方で、「AIをいかに安定して使い続けるか」という課題が、社会や産業の現場で顕在化しつつある。その解決の鍵となるのが、基盤となるデジタルインフラの進化だ。こうしたAI時代の基盤をテーマに、ネットワークとデータセンターの両面から講演が行われた。
まず、ネットワークパートの講演に、KDDI総合研究所 無線部門の塚本 優が登壇した。
冒頭で塚本は、AI時代の価値創出を支えるインフラ基盤について、ネットワーク機器の視点から説明。「AIは単なる技術ではなく、社会課題を解決するツールであり、一人ひとりをエンパワーする日常のパートナーと捉えています」と述べ、その実現には、土台となるデジタルインフラそのものが根本的に進化する必要があると語った。
インフラ進化の柱として塚本が挙げたのは、「ネットワーク」と「データセンター」の二つである。ネットワークには、大容量・超低遅延に加え、「いつでも、どこでも」利用できる高い信頼性が求められる。一方、データセンターには、高密度な電力供給や高度な冷却技術に加え、高帯域・低遅延で効率的な多対多接続が不可欠になる。
ネットワーク領域では、これまで世界トップレベルの品質を実現してきた実績に依存するのではなく、手動による最適化から「自己進化するインフラ」へと変革していく方針を示した。従来は、専門家がビッグデータを分析し、手作業でパラメータ調整を行ってきたが、AI時代の要求に対しては限界がある。そこでKDDIは、各基地局に軽量な推論器を割り当て、中枢の学習器が各推論器から収集した「経験」を基に知識を抽出・共有する分散AIアーキテクチャを開発した。
この仕組みにより、学習時間を99%以上削減し、低スループットエリアを25%削減するなど、熟練エンジニアを上回る成果を達成したという。塚本は将来的な展望として、「分散型AIとデジタルツインRANを融合することで、実ネットワークに影響を与えることなく、仮想空間上で集中的なAI学習が可能になります」と語った。さらに信頼性の観点では、障害の根本原因を即時に特定する「復旧支援AIエージェント」を紹介。複数のAIエージェントが連携し、復旧から保守までを完結させる完全自律型ネットワークの将来像を示した。
続いて話題は、データセンターパートへと移る。AIトラフィックの急増やGPU需要の拡大により、従来型のデータセンターでは対応しきれない局面が増えている。AI時代を支えるためには、デジタル世界の中核であるデータセンターそのものを再定義することが不可欠だ。ここで登壇したのは、ソリューション技術運用本部の義経 祥也である。
義経は、AI時代においてはネットワークとデータセンターが一体となって進化していく必要があると強調する。「AIの成長に伴い、より多くのキャパシティが求められています。GPU設置スペースの拡大、高電力密度、そして高度な水冷冷却システムが必要です。同時に、より強力な接続性も不可欠になります。」と語った。
AIトラフィックの増大やGPUサーバーの高発熱に対応するには、高度な水冷技術と高電力密度を前提とした新しい施設設計が必要となる。加えて、AIワークロードは、学習・推論の双方において大量のデータ処理やリアルタイム性が求められ、複数のクラウドやデータセンターをまたいで動作する。
そのため、高帯域・低遅延の多対多接続を通じて、クラウドやデータセンターを接続する「インターコネクションデータセンター」の役割が重要となる。
KDDIは、計算処理を担う「AIデータセンター」と、それらを柔軟に接続する「インターコネクションデータセンター」を両輪で展開し、AI時代の持続的な価値創出を支えていく方針を示した。
世界10カ国・45拠点以上 (注1) で運営するインターコネクションデータセンター「Telehouse」は、主要クラウドやIXとの高い接続性を強みとし、拠点ごとの要件や法規制、気候の違いにも対応できる柔軟性を備えている。国内では、既存工場を転用することで、通常3年を要する建設期間を約6カ月へと短縮し、最新世代のGPU (GB200) に対応したAIデータセンターを開設した。
また、「KDDI GPU Cloud」では、GB200環境のトライアル提供を開始。ネットワークやストレージに加え、NVIDIA AI Enterpriseまでを含む構成で、学習用途のAIを支えている。さらに、閉域環境においてソブリン性を備えた Gemini on GDC (Google Distributed Cloud) のトライアルも実施しており、お客さまからのフィードバックを踏まえた本格展開を検討しているという。
義経は講演の締めくくりとして、「インターコネクションデータセンターとAIデータセンターの間で生まれるこの好循環こそが、KDDIならではの強みです。これらを組み合わせることで、世界をつなぎ、AI時代の持続的な成長を支えていきます」とメッセージを述べた。
AIの普及はビジネスに新たな可能性をもたらす一方で、サイバー攻撃の高度化・自動化も加速させている。セキュリティにおける「守り」の在り方そのものが問い直される中、KDDIはAI時代に求められるセキュリティの姿を提示した。ランサムウェアの多層化やAIを悪用した攻撃の増加により、従来の防御モデルだけでは対応が難しい局面が増えている。こうした課題を背景に、講演の後半では、セキュリティ分野のエンジニアである武居 美佳が登壇し、AI時代のセキュリティを「インテリジェンス」で支えるKDDIグループの取り組みを紹介した。
武居はまず、KDDIグループの立ち位置について、「通信にとどまらず、AIやデータ、デジタルトランスフォーメーションまでを含むエコシステムを持つ企業グループ」であると説明した。そのうえで、通信ネットワークやデータセンターなどのインフラを担うKDDI、先端技術の研究開発を担う株式会社KDDI総合研究所(外部サイトへ遷移します) 、そしてセキュリティオペレーションを担う株式会社ラック(外部サイトへ遷移します) の三社が連携し、グループ間のシナジーを発揮することで高度なサイバーセキュリティ基盤を構築できる点を示した。
近年のサイバー攻撃は「産業化」が進み、RaaSの普及やAPTグループと犯罪組織の連携により、サプライチェーン全体へ被害が及ぶケースも増加している。さらに、AIの活用によって攻撃手法は無限に生成・変化し、既知のTTPに基づく防御の有効性は低下しつつある。こうした状況に対し武居は、被害を最小限に抑えるには、脅威の兆候を捉え、迅速かつ能動的に対応するためのインテリジェンス強化が不可欠だと強調した。
KDDIが推進する脅威インテリジェンス開発プラットフォームでは、多様なチャネルから脅威情報を継続的に収集・分析し、「実行可能なインテリジェンス」へと変換。さらに運用で得た知見を再分析し脅威インテリジェンスに反映し続けることで、脅威予測や未然防止につなげている。
世界規模の通信基盤に加え、地域特有の課題解決を担う現地法人とスタッフ、KCipher-2やRocca-Sといった世界トップクラスの暗号アルゴリズムを生み出してきた研究開発の知見を有するアナリスト、そして24時間365日のセキュリティオペレーションを一体として機能させることで、持続的かつ高度な防御体制を実現している点が、KDDIグループならではの強みだ。
武居は最後に、「サイバー攻撃が世界的に高度化・複雑化し、脅威の範囲が拡大する中で、ネットワークとセキュリティを統合し、グローバルな視点とローカルな価値を両立できること。それこそが、私たちが提供できる最大の価値だと考えています。」と語り、講演を締めくくった。
「AI/Network Infrastructure」の展示ブースでは、通信の高度化やAI活用が進む中で、データセンター・ネットワーク・セキュリティがどのように進化していくのかが紹介された。その中の一つが、ネットワーク運用の高度化をテーマとした「Intelligent Operations for Network」である。
本展示では、AIによるネットワーク運用の高度化を体感できるデモンストレーションが行われた。スクリーンに障害発生のアラートが表示されると、「復旧支援AIエージェント」(注2) が即座に起動し、サービスや設備情報を統合的に分析。障害の検知から原因特定までを自律的に実行する。さらに「保全AIエージェント」と連携することで、復旧手順の作成や設備の切り離し、保全作業までを自動化。AIエージェント同士の連携により、ネットワークが短時間で正常な状態へ復旧する様子が示された。
なお、「復旧支援AIエージェント」は2026年2月に商用導入され、すでに運用を開始している。また、「保全AIエージェント」についても2026年度中の導入を予定しており、KDDIはネットワーク運用のさらなる高度化と自律化を着実に推進していく。
今回の講演と展示を通して示されたのは、AI時代の社会を支える通信基盤の進化である。データセンター、ネットワーク運用、セキュリティといった基盤技術は、AIの活用を支える土台となる。KDDIがMWC26 Barcelonaで提示したのは、これらの技術が人々の暮らしや社会の体験をどのように変えていくのかという未来像だ。KDDIが掲げる「つなぐチカラ」の進化が、これからの社会や暮らしにどのような変化をもたらすのか。今回のMWC26 Barcelonaで示されたのは、AI時代の社会を支える側としての確かな立ち位置と、その先に広がる未来の姿だった。