デジタルツインによって、現実世界のリアルタイムなシミュレーションや監視が可能となり、業務を効率化できる。
また、デジタルツインを設計や製造段階で導入して各種試験を実施することで、コスト削減や製品開発時間の短縮につながる。
多くの企業がDXを見据え、データドリブンの事業運営を目指しているが、その取り組みのほとんどがPoC (概念実証) の段階で頓挫しているのが実情だ。
この課題を解決すべく、KDDI、KDDI Digital Divergence Holdings (以下、Divergence HD) 、フライウィールの3社が2023年3月に資本業務提携した。KDDIが保有するauビッグデータ (注1) とDivergence HDグループが強みとするクラウド・アジャイル開発などのデジタル技術、そしてフライウィールが提供する汎用的なデータ活用プラットフォーム「Conata (コナタ) (TM) 」(以下、Conata) およびプロフェッショナルサービスを融合し、データ活用を強力に推進することで、世界から遅れをとっている日本のDXやデータ活用に一石を投じたいと考える。
――企業のDX推進のカギともいえる「データ活用」ですが、日本企業における取り組みの現状、課題をどのようにお考えですか。
横山 データを分析することで得られたファクト (事実) やインサイト (洞察) を、日々の業務に組み込んで意思決定やアクションに生かすこと。
これを私たちはデータ活用と呼んでいますが、そのレベルまで至っている日本企業は残念ながら少ないのが現状です。
さまざまなプロジェクトに着手しても、多くの企業がPoCで立ち止まっています。
横山 直人 氏
藤井 彰人
藤井 経済産業省が2022年7月に公開したDXレポート2.2にも「デジタルを省力化・効率化ではなく、収益向上にこそ活用すべき」と記されており (注2) 、データ活用はDXのコアとなります。ところが多くの企業は、データアナリストやデータサイエンティストを育成、または採用すれば何とかなると思い込んでいるようにも見受けられます。
もちろんデータ分析は大切ですが、より重要なのはその先の「実務で何をするのか」であり、そこまで踏み込めていないことが課題の根本にあります。
横山 AIへの取り組みにも同様の傾向が見られます。現状の可視化や予測を行うモデルづくりのステージまでは進むのですが、いざそのAIモデルを実務に落とし込もうとする段階で立ち止まってしまうのです。費用対効果が見いだせないまま立ち消えになってしまうケースが少なくありません。
実際、AIモデルの運用・保守は容易ではありません。実務を通じて学習を重ね、効果を検証し、精度を高めていくサイクルを繰り返すことで、ようやくコスト削減や収益向上などのインパクトをもたらすことができます。
藤井 まさにそのとおりで、実務でのPDCAサイクルを確立できないため、依然として役職の上位者や発言力の大きいベテラン社員の意見に頼ることになり、 “勘と経験”の世界から脱却できずにいます。
――そうしたデータ活用の課題解決に向けて、フライウィールではどのような価値を提供しているのでしょうか。
横山 データ活用プラットフォームConataと、これをベースとしたプロフェッショナルサービスを提供しています。
Conataには大きく2つの特長があります。
1点目はデータのインポートです。従来の一般的なデータ分析プラットフォームで扱われてきた正規化・構造化されたデータだけではなく、お客さまから寄せられた問い合わせやクレーム、SNSに投稿された商品のレビューなど、クレンジングされていないテキストをはじめとする非構造化データについても、独自技術によって取り込んで学習し、価値に変えることができます。
Web検索やオンライン広告の世界において、GAFAMなどのビッグテック企業が実践してきた意味解釈や言語理解などの技術を、Conataは根幹部分に採用しています。これにより、データの整備、前処理に多くの時間を費やしていた担当者が、本来重点をおくべきデータ活用や効果検証、精度を高めていくサイクルに時間を費やせるようになるのです。
2点目は、データ活用の柔軟な汎用化による負荷軽減です。これまでのデータ活用では、ECサイトでのレコメンド機能やマーケティング活動でのキャンペーンなど、目的に合わせてデータを整備する必要があり、多大な工数を費やしていました。
これに対してConataはデータの“持ち方”を変え、多様な用途に簡単に適用することができ、スピード感をもったデータ活用を実現します。
実際にご利用いただいたお客さまからは、他社と比べてデータの整備が必要なく、ありのままのデータを提供するだけで、短い期間のうちに次々にデータ活用が実現できるということで、驚きの声をいただいています。
――具体的にどんな形での意思決定が可能となるのか、詳しく教えていただけますか。
横山 お客さまの業務データをはじめとする多様なデータをConataに投入し、デジタルツインとして再現した空間上で現実のビジネス活動をシミュレーションすることで、その結果をアクションに反映できるようになります。
横山 小売業を例にとると、店舗にて売上や利益に影響を及ぼす指標が数多くあるなかで、機会損失を防ぐために注視しなければならないのが、例えば欠品率です。これだけを重視しゼロにしようとすれば、店舗で過剰な在庫を持たなければならず利益は下がってしまいます。そこで商品ごとに欠品率・実倍率・過剰在庫率など複数の指標の最適化が必要となります。
Conataを使えば機械学習で構築した需要予測モデルに基づいたシミュレーションをダッシュボード上で簡単に実行できます。店舗別・商品別・日別であるべき在庫数を出力し、実績との比較評価や商品を追加・入れ替えすることによる店舗全体での売上や回転率の変化が即座に画面に反映されるため、担当者はこの結果を見ながら適切なタイミングを判断し、発注指示を行えます。
このシミュレーションは現在庫との差分を自動的に補充発注することや、キャンペーン施策のコスト効果の判断など、マーケティング活動、店舗全体での将来需要を把握することでのメーカー・卸との調達活動にも応用することが可能です。
藤井 実務におけるデータ活用のPDCAサイクルを、何度も繰り返し、かつスピーディーに回していける仕組みを実現することこそ、お客さまへの価値提供につながると考えています。
横山 意思決定やアクションにデータを活用するためには、PDCAサイクルを回すことが本当に重要です。
フライウィールでは、Conataとともに、データ活用を策定するコンサルティングやユーザーインターフェース (UI) 、管理コンソールの開発、既存システムとの接続などもご支援し、企業がデータ活用を行い、PDCAサイクルを回すためのトータルソリューションを提供しています。
――フライウィールは、KDDI、Divergence HDと資本業務提携を結びKDDIグループの一員となりましたが、その経緯についてお聞かせください。
横山 KDDIグループとの資本提携は、もちろんフライウィールにとっても大きなメリットがあります。企業間データ連携によって、個々の企業単位で不足しているデータを補い合うことが可能となるのです。
先ほどConataを用いたデータ活用のユースケースとして、小売業における欠品率のシミュレーションを紹介しましたが、KDDIが保有しているスマートフォンユーザーの人流情報や位置情報、決済情報などのauビッグデータを、個人情報保護を大前提としつつConata上で利用することができれば、より高精度な需要予測モデルに基づいたシミュレーションが可能となります。
藤井 これまでもKDDIグループでは、位置情報ビッグデータ分析ツール「KDDI Location Analyzer」の提供や人流分析を行うGEOTRA社の設立など、auビッグデータを活用したお客さまの価値向上を目指してきましたが、これらのソリューションとConataが融合することで、より広範なデータ活用領域でシナジーが発揮されます。
――すでに3社が共同で取り組んでいる事例をご紹介ください。
横山 あるお客さまとともに、屋外広告の効果数値化を目指したプロジェクトを進めています。
屋外広告ではこれまで成果報酬型の広告料課金ができず、「看板1枚あたり1カ月いくら」といった課金しかできませんでしたが、KDDIが持つauビッグデータを組み合わせれば、どのような年齢層の、どのような興味関心を持った人たちが、何人くらいその広告を目にしたのかという効果をリアルタイムに測定し、可視化することが可能となります。
さらに将来的には、その場にいる人たちの属性を瞬時に判断して、デジタルサイネージに表示する広告を切り替えたり、広告スペースを売買したりする、いわゆるプログラマティックDOOH (Digital Out Of Home) 広告の実現も視野に入れており、屋外広告のビジネスモデル変革やマーケティング領域における新たな価値創造を目指しています。
――お客さま企業のDXやデータ活用、さらには社会全体のデータ活用に向けて、今後の展望や目指している理想の姿をお聞かせください。
横山 引き続きデータ活用のPDCAをスムーズかつ高速に回す取り組みにより、お客さまのDXの活用に伴走し、データドリブン経営の実現のためご支援していきたいと考えています。
DXやデータ活用に課題を感じていらっしゃる方はぜひフライウィールにご相談ください。
さらに、個人情報やプライバシーを最大限保護しつつ、KDDIグループが持つauビッグデータ、デジタル技術と相乗効果を生み出しながら、企業が安心してデータ活用できる世界を作っていきたいと思います。
藤井 auビッグデータを活用したお客さまビジネスの価値向上と業界横断のソリューション提供は、KDDIの注力領域の一つであるDXの中核をなすものです。フライウィールがKDDIグループに加わったことで、このビジネスにさらなる弾みがつきます。KDDIグループは通信キャリアならではの中立的な立場から、よりオープンにデータをつないでいく基盤を作り、“オールジャパン”として産業や社会の活性化を図るべく、新時代のデータ活用・データ管理の在り方を追求していきます。