日本が持つ「和魂洋才」の精神と優れた技術力を活かす、通信とAIが社会基盤となる時代の新たなビジネスプラットフォーム「WAKONX (ワコンクロス) 」。この記事では、日本企業が持つ独自の強みを、デジタル化やAIとの共存によってどのように未来へつなげていくのか、また、グローバルな競争でどのように存在感を高めるのか、代表取締役執行役員副社長の桑原 康明が語る。
電子機器や自動車といった世界中の主要製品に使用される部品において、多くの日本企業が圧倒的なシェアを誇っていることをご存知だろうか。
世界において日本企業の主要半導体部材のシェアは半数を超えており、これらの部品は、私たちの日常生活を支えるさまざまな製品に組み込まれている。例えば、スマートフォンやテレビなどの高品質なスクリーンには、日本製の偏光フィルムや輝度フィルムが使用されている。
桑原 康明
これらの日本製部品は、インテルのCPUのようにラベルで認知されることはない。いわば「JAPAN Inside」として広く認知されることなく、密かに世界中の製品に組み込まれているのである。グローバルなサプライチェーンにおいて、日本企業が多くの重要な部品を提供しており、日本メーカーの部品供給がなければ、現代人の日常生活は一日も成り立たない。つまり、日本の技術力が世界の製造業を支える重要な役割を果たしているのだ。
この「JAPAN Inside」の成功は、日本企業が得意とする技術分野で選択と集中を行い、自社の技術を活かせる市場で圧倒的な地位を確立してきた結果である。さらに、これらのニッチ市場は競合が少ないため、高い価格設定が可能であり、企業の収益性向上にも貢献している。
1990年代から2020年代にかけて、日本の製造業における付加価値生産性は80兆円から110兆円に増加している。就業人口が1,400万人から1,000万人に減少していることを考慮すると、生産性は2倍になっているといえる。
つまり、日本の産業は効率性を高め、少ない労働力で高い価値を生み出す体制を築き上げたのである。「失われた30年」として語られることの多い日本の過去数十年だが、実際にはこの期間においても日本は静かなる進化を遂げ、変化に対応してきたのだ。
また、日本は「タイトな文化」を持つ国である。タイトな文化とは、社会規範や秩序が重視される文化であり、公共の場での行動に対してルールが設けられている。たとえば、列に並ぶ、公衆の面前では静かにする、ゴミの分別を徹底するなどのルールである。
このような「タイトな文化」を持つ国では、ビジネス面での変化が遅くなる傾向があり、日本も急激な変化を経験することはなかった。しかし、30年にわたり秩序を保ちながら慎重かつ確実に技術を発展させ、進化してきた。こうした「静かな進化」により、日本は「JAPAN Inside」という形で、世界のサプライチェーンにおいて揺るぎない地位と勝つための構造を確立している。
日本の「失われた30年」は、決して停滞の時代ではない。秩序を保ちながらゆっくりと改革を進め、時代の変化に応じて安定して勝てる構造を築いてきたのだ。日本のよさを守りつつ、静かに変化をしてきた30年だったと言える。
過去30年間にわたり、日本は独自の進化を遂げてきた。そのベースにあるのは、古くから受け継がれてきた「和魂洋才」の精神である。和魂洋才とは、外国からの文化や技術を柔軟に取り入れつつ、それを日本の特性に融合させ、新たな価値を創造することだ。
この精神は、明治維新以降、急速に進んだ西洋化や高度経済成長を支える力となった。たとえば、憲法や自動織機などの西洋の制度や技術を取り入れることで、日本は短期間で経済と技術の飛躍的な発展を遂げたのである。特に1950年代の高度成長期には、自動車やバイク、エレクトロニクス製品、さらには半導体産業など、さまざまな分野で日本企業が世界トップの地位を獲得している。
また、和魂洋才の影響は文化の分野にも及んでいる。漫画やアニメ、ゲームといったコンテンツ産業は、もともと海外から生まれたものが日本独自の形式で発展を遂げ、現在では世界的に大きな影響力を持つまでになった。さらに、日本食もその好例である。カレーやラーメンは、インドや中国から取り入れた料理だが、日本独自のアレンジが加えられ、今では「日本食」の一つとして世界中で愛されている。
この和魂洋才の精神は、現代のビジネスシーンにおいても大きな影響を与えている。たとえば、日本のコンビニエンスストアは、アメリカ発祥のビジネスモデルを日本独自のサービス精神と融合させ、その圧倒的なホスピタリティ、いわば「Japan CX (カスタマーエクスペリエンス) 」によって、日本を訪れる世界中の人々から称賛されている。
こうして日本が培ってきた「和魂洋才」の精神は、技術のみならず、文化や社会全体にわたる強みとなり、さまざまな分野において、世界の中で独自の地位を築く要因となっているのだ。
日本の強みを活かし、さらなる発展を遂げるためには、「リアル × デジタル × X」という新しい方程式が重要になってくる。ここでの「X」とは、各企業や組織が持つ独自の強み、すなわち「真髄」を指す。
この「真髄」は、単なるコアコンピタンスではなく、日本の文化や精神に根ざした、他国では容易に模倣できない独自の価値である。たとえば、日本企業の多くが持つ「おもてなし」の精神や、細部へのこだわり、高品質な製品・サービスを提供する能力などが挙げられる。
リアルとデジタルの融合は、すでに多くの分野で進んでいる。たとえば、IoTの分野では、日本の文化的背景が独自の強みとなっており、日本の「森羅万象」の考え方、つまりあらゆるものに魂が宿るという思想は、実はIoTの概念と親和性が高い。
また、AIの時代においても、日本には大きなチャンスがある。日本人は50年以上前から、アニメや漫画を通じて、ロボットやAIと共に成長するイメージが身近にあった。この文化的背景が、AIと人間の共生に対する前向きな姿勢につながっている。
日本企業の強みは、高い技術力とプロダクトを使って、いかにお客さまの課題を解決するかという点にある。AIやIoTなどの新技術を活用する際も、単に効率化を図るだけでなく、いかに人間の生活を豊かにし、社会に貢献できるかを考えることが重要だ。
この「リアル × デジタル × X」の方程式を実現するためのプラットフォームとして、KDDIは「WAKONX」を立ち上げた。WAKONXは、業界の協調や企業間の共創を支援し、日本企業のデジタル化を加速させることを目的としている。
WAKONXのコンセプトは、デジタル化やAI化を単なる無機質な効率化ではなく、日本ならではの「血の通った」やり方で実現することだ。細部へのこだわりと効率化の両立、デジタルとおもてなしの掛け合わせ、そして日本企業が持つ「和の力」を共有し、みんなで世界に挑戦することを目指している。
日本企業は、「JAPAN Inside」として世界の製造業を支え、和魂洋才の精神で独自の価値を生み出し、静かに着実な進化を遂げてきた。そして今AI時代を迎え、日本独自の強みはさらに重要性を増している。WAKONXは、これらの日本の強みを活かし、AIと人間が共生する新たな社会の実現を目指している。
「あらゆる企業に眠っている和の力を共有知に。
和の力でみんなが進化し、ビジネスが加速する。
その先、みんなで世界に挑む。
和から始まるワクワクが、この国の人々を新しい風景へ連れて行く。」
日本企業にはDNAレベルで刻まれている「和魂」があり、勝つための"何か"、すなわち「真髄」が必ずある。それを見出し、磨き上げ、和の力で世界に挑むことで、日本はAI時代においても輝き続けることができるだろう。WAKONXは、そんな日本企業の飛躍を支援するAI時代のビジネスプラットフォームである。
「日本の30年は決して失われてなんかいない ——」
KDDIは、ワクワクする「日本発」を目指し、これからもさまざまなパートナーと共に歩んでいく。