日本企業が今後のグローバル市場で成功を収めるためには、和魂洋才の精神が鍵となる。伝統的な価値観を守りつつ、IoTや生成AIといった最先端技術を融合させることで、グローバルな市場における新しい競争力を生み出す。
日本企業の強みや未来の可能性について、株式会社ソラコム 代表取締役社長 CEO 玉川 憲 氏に伺った。
グローバル化が進む現代において、日本企業の競争力はどこにあるのか。この問いに対する一つの答えが、「和魂洋才」の精神にある。これは、西洋の技術や知識を取り入れつつ、日本固有の精神や価値観を大切にする考え方だ。「和魂洋才」は、今なお日本企業の強みとなっており、特に国際市場での成功に寄与している。
例えば、IoTや生成AIといった最先端技術の分野においても、日本企業はこの和魂洋才の精神を活かし、独自の価値を生み出している。欧米発のテクノロジーを基盤としながら、日本的な細やかさや品質へのこだわりを融合させることで、世界に通用する製品やサービスを生み出しているのだ。このアプローチにより、日本企業は競争力を高め、国際的な舞台での地位を確立している。
ソラコムは、Amazon Web Services (以下、AWS) というクラウド事業の立ち上げに関与していたメンバーが創業した。我々はAWS立ち上げの経験を活かし、欧米で生まれたクラウドのテクノロジーを使って、クラウドの上に通信コアシステムを構築した。このシステムは業界内で初めて(2016年9月時点)であり、成り立ちそのものが「和魂洋才」の精神を体現していると自負している。
玉川 憲 氏
日本の製造業の強みとIoTの融合は、新たな可能性を秘めている。日本には「ものづくり」の伝統があり、多くの製造業が存在する。これらの企業がクラウドにデータを蓄積し、活用していく過程で、IoT技術の重要性が浮き彫りになった。
自動車や自動販売機、家電などの製品をクラウドに接続するための仕組みが必要とされる中、日本企業はその隙間を埋める独自のソリューションを開発している。西洋から導入されたクラウド技術と、日本の製造業の知見を組み合わせることで、新たな価値を創出している。
この融合は、まさに現代における和魂洋才の実践例といえる。日本の製造業の強みを活かしつつ、最新のIoT技術を取り入れることで、グローバル市場でも競争力のある製品やサービスを生み出しているのだ。
ソラコムを立ち上げるきっかけはいくつかあったが、その中でもIoTに特化しようと思ったのは、クラウドにデータを蓄積し、効果的に活用していくためのよい仕組みが必要だと考えたからだ。自動車や自動販売機、家電などの製品からクラウドにデータを持ち込む際に、まさに製造業が多く存在する日本で足りないピースを埋めているのがソラコムであると考えている。
日本企業の競争力の源泉として、日本的な価値観や文化が挙げられる。誠実さ、調和、倹約主義、チームワークの重視、人間関係の尊重といった要素は、ビジネスの現場でも大きな強みとなっている。
例えば、ある企業では欧米のリーダーシップ理論に日本的な要素を加えた独自のリーダーシップの原則を採用している。「Likeability (好感度)」や「Emotional Mature (感情的に成熟していること)」といった概念を取り入れることで、より人間味のある組織文化を築いているのだ。
このような日本的価値観は、グローバルなチーム運営においても重要な役割を果たす。多様性を尊重しつつ、共通の価値観や目標を持つことで、より強固なチームワークを実現できるのである。
ソラコムのグローバル市場での強みは、日本市場での経験がある。日本の顧客は品質に対する要求が非常に高く、製品やサービスに対して高品質かつ細かいフィードバックを必要とする傾向がある。
この厳しい環境下で評価を受け、熟練のエンジニアチームによって磨き上げられた製品は、海外市場でも高い評価を得られる。日本で培った品質と技術力を武器に、アメリカやヨーロッパ市場に展開し、今ではグローバル売上が会社全体の売上の4割ぐらいまで上がっている。ITの世界において日本発のプロダクトをしっかり販売していくことは、まだまだ好事例が少ない中で、大きなチャンスであると考えている。
さらに、日本企業特有の「細部へのこだわり」や「品質第一」の姿勢は、グローバル市場でも差別化の要因となっている。これらの強みを活かしつつ、現地のニーズに合わせたローカライズを行うことで、日本企業は世界市場での存在感を高めてきた。
生成AIの登場は、テクノロジー業界に大きな変革をもたらしている。この分野では現在、基本モデルの開発において欧米企業が先行しているが、日本企業にとっても大きなチャンスがある。
特に、AIを各産業で実用化し、人々の役に立つ形で活用していく段階において、日本の技術力が活きてくる。IoTと生成AIを組み合わせた新しいアプリケーションの開発など、日本企業の得意分野で独自の価値を生み出せる可能性が高い。
例えば、IoTのデバイスであるカメラから画像を取り込み、倉庫でヘルメットを被っていない人をAIで分析し、検知したら警告ランプを点灯させたり、誰かが転倒したら自動的に緊急電話をかけることができる。従来こうしたシステムは、特定のシチュエーションに対してコストをかけて学習させる必要があったが、今やほとんどのことがAIの学習で可能になる世界が見えてきている。このようにIoTとAIを融合させた革新的なソリューションの開発が進んでいる。
これらの技術は、労働力不足や高齢化といった日本社会の課題解決にも貢献し、さらにはグローバル展開に向けた大きな可能性を秘めていると言える。
日本は「課題先進国」と呼ばれることがある。少子高齢化、労働力不足、環境問題など、日本が直面する課題の多くは、将来的に他の先進国も直面することが予想される問題だ。
この状況は、日本企業にとって大きなチャンスでもある。日本国内で開発された課題解決型のソリューションは、同様の問題に直面する他国でも需要が見込まれる。つまり、日本の社会課題に取り組むことが、そのまま世界市場を見据えた製品開発につながる。
例えば、IoTやAIを活用した省人化技術、高齢者向けのサービス、環境負荷を低減する製品など、日本発のイノベーションが世界に貢献する可能性は大きい。日本企業にとって、自国の課題解決を通じて培った技術やノウハウを、グローバル市場で展開していくチャンスなのだ。
グローバル展開を進める中で、チーム作りの重要性が増している。日本企業の強みの一つは、チームワークを重視する文化だ。この文化をグローバルな環境でも活かすことが、成功の鍵となる。
具体的には、企業のビジョンやミッション、それに加え、欧米と日本のよいところを合わせたリーダーシップカルチャーを、国籍や文化の異なるダイバーシティの高いメンバーと共有することが重要だ。日本的な「和」の精神を大切にしつつ、多様性を尊重する。このバランスを取ることで、グローバルに通用する強いチームを作り上げることができると考える。
また、採用の段階から企業理念に共感する人材を集めることも重要だ。単なるスキルだけでなく、企業の価値観に共感し、チームの一員として貢献したいと考える人材を集めることで、より強固な組織を築くことができる。
和魂洋才の精神は、現代のグローバルビジネスにおいても大きな意味を持つ。日本の伝統的な価値観や強みを活かしつつ、最新のテクノロジーや海外の知見を取り入れることで、日本企業は新たな成長の機会を見出している。
IoTや生成AIといった最先端技術の分野でも、日本企業の細やかさや品質へのこだわりは大きな武器となる。さらに、日本が直面する社会課題への取り組みは、世界に通用するソリューションの開発につながる可能性を秘めている。
グローバル展開を進める中で、日本企業には自社の強みを再認識し、それを活かす戦略が求められる。同時に、多様性を受け入れ、グローバルな視点を持つことも重要だ。この両者のバランスを取ることで、日本企業は世界市場でさらなる飛躍を遂げることができるだろう。
日本の企業には、自らの強みを活かしつつ、世界の変化に柔軟に対応する力がある。和魂洋才の精神を現代に活かし、新たな価値を創造していく。それこそが、日本企業の進むべき道であり、世界に貢献する方法なのだ。