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KDDIグループ最大級のビジネスイベント「KDDI SUMMIT 2025」が10月28日~29日に開催された。
本記事では、その中でもAI領域に特化した3つのセミナーをピックアップ。KDDIが自らの実践で磨いたAI活用のリアル、AIエージェントが創る新しい働き方、そしてリテールDXの最前線まで、ビジネスを変えるヒントをまとめて紹介する。
「本当に使えるAIとは何か。これを一緒に考えていきましょう」──“AIが企業変革を加速、KDDIのAI活用事例に学ぶ業務革新のヒント”と題された本セミナーの冒頭でそう語ったのは、KDDI AIビジネス企画部長の浅川 善則だ。
浅川は、KDDIのAI活用への取り組みについて「まずは、私たち自身がAIを使い込むことから始めました」と説明した。KDDIは2023年より、全社員を対象としたAI活用を本格的に推進。自分たちで徹底的に使い、成功も失敗も含めた経験をノウハウとしてお客さまに還元している点が特徴的だ。
具体的なAI活用の事例として、社員自身が業務に合わせたAIアプリを作成し、業務効率化を実現している例が紹介された。 KDDIでは「ELYZA Works with KDDI」を活用し、社員が自ら使いたいアプリを開発。すでに約100種類以上のAIアプリが稼働しており、例えば、報告書作成を支援するAIアプリでは、作業時間を約80%削減する成果を上げた。 さらに、月間600件寄せられる問い合わせ対応では、履歴データをもとにAIが傾向分析を行って、お客さまニーズを自動抽出することで、年間約750時間の業務時間の削減につながったという。
前半パートの最後にはKDDIのAI実践が生み出す“展開サイクル”についても紹介された。
パートナー企業さまと共創→KDDI社内で使い倒す→お客さまへ提供する→フィードバックをもとに改善する。
浅川は「共創したものを社内でとにかく使いこみ、継続的にフィードバックと改善を繰り返し、そのノウハウをお客さまに提供していく。このサイクルを回すことが重要だと考えています」と強調した。
本セミナー後半では、株式会社ELYZA 代表取締役 CEO 曽根岡 侑也氏、株式会社フライウィール 代表取締役 CEO 横山 直人氏が加わってのトークセッションが行われた。テーマは、企業がAI活用で直面する「三つの壁」だ。
まず、AI活用の一つ目の壁は、「多くの場合がAIの導入によって損益改善までは達成できない」ことだ。 曽根岡氏によると、多くの企業でAI導入により個人の生産性は向上している一方、PL (損益) 改善まで到達している企業は約5%にとどまっている現状を示した。曽根岡氏は、改善策として「まずはノンコア業務から始め、AIを現場で使いながらフィードバックループを回し、改善し続ける“学習可能なシステム”を構築すること」の重要性を挙げた。
次に二つ目の壁として「社内データがAIで使える状態になっていない」ことだ。 横山氏は、多くの企業でデータが部門ごとに分断され、意味付けや属性が曖昧なまま蓄積されている点を指摘した。解決策としてはデータをAIが迅速、高精度、そして安全に利用できるように整備されたAI-Readyなものにすることを挙げ、非構造データの整理、散在するデータの統合などのデータ整備と適切なガバナンスが大事になってくるとAIの新時代に向けてのポイントを語った。
そして三つ目の壁は「セキュリティとガバナンスの確保」である。AI活用の範囲が広がるほど、データ保護や情報管理への懸念が大きくなり、導入判断の障壁になりやすい。企業が抱えるジレンマについて「AI活用は不可避だが、機密データを外部ツールに預けることには抵抗のある企業が多い。だからこそ、セキュリティを担保したAI活用基盤の整備が鍵になる」と浅川は語った。
AI活用基盤の整備例として、KDDIでは、AI開発・利活用原則やAI開発ガイドラインを策定し、安心してAIを活用できる環境整備を進めている。また、通信事業者としての強みを活かし、閉域網 (KDDI Wide Area Virtual Switch 2) とConata Data Agentを直結させることで、機微な社内データをインターネット外に出すことなくAI利活用できる「KDDI Conata Data Agent」を提供している。
また、横山氏はフライウィールが提供する、企業が契約するクラウド環境内に“AI-Ready”なデータ活用基盤を直接構築できるサービスもあわせて紹介しながら、安全性と利便性を両立したAI活用の重要性を示した。
セッションの締めくくりとして、曽根岡氏は次のようにメッセージを送った。
「先ほどご紹介したとおり、AI活用で成果を出せている企業は全体の5%しかないというデータがあります。つまりその5%に入ることで、残り95%の企業に対して優位性を持つことができます。そのためには、“学習可能なシステム”をどう構築していくかが重要となります。KDDI、ELYZA、フライウィールには、それぞれ実践で蓄積した知見がありますので、ぜひ頼っていただきたいと思っています」
続いて横山氏は「AI活用は小さく始め、早期に成果を生み、経営判断につなげていくアプローチが有効です。ELYZA WorksやConata Data Agentは、まさにその“最初の成功事例づくり”に役立つソリューションですので、ぜひ活用していただければと思います」とAI導入の進め方について述べた。本セッションでは、AI活用が直面する具体的な“三つの壁”と、それを乗り越えるための実践的なアプローチが示された。さらに、企業のAI導入を後押しするサービスも紹介され、これからAI活用を本格化させたい企業にとって、多くの示唆と実践のヒントが得られる内容となっていた。
本セッションには、株式会社PKSHA Technology AI Knowledge & Communicationカンパニー 池上 英俊氏と、アルティウスリンク株式会社 事業企画統括本部 副統括本部長の藤原 昌也氏が登壇した。
両社は2025年9月、バックオフィスBPO (業務アウトソーシング) 領域において、高機能AIエージェントとBPO運用を一体化した新しいBPOサービスの提供準備を開始したことを発表している。AIの専門家である池上氏とBPO領域におけるAI事業を企画推進する藤原氏の二人が、AIエージェントが業務にどのような変革をもたらすのか、そして“人×AI協働”の働き方がどのように実現していくのかについて、具体的なデモを交えながら語った。
冒頭のテーマは、「AIのプロフェッショナルは2030年の働き方をどう描くか」だった。池上氏は、2030年には「人を雇用する代わりにAIを生成し業務を行う働き方が浸透している可能性がある」と指摘した。例えば、企業間での請求・入金確認といった煩雑な業務を、担当者同士ではなくAIエージェントがやり取りすることが一般的となる可能性があり、これに対応できない企業との取引は非効率と捉えられ、取り残されるリスクが懸念される。一方で、対応できる企業側にはビジネス拡大のチャンスが広がるとも考えられる。
続いて、現場で進むAIエージェント活用の最新事例が紹介された。金融バックオフィス領域では、データ入力や書類読取などの業務をすでにAIが支援しているという。
また、社員自身が簡単に“自分専用のAIエージェント”を作れる世界観も紹介された。音声ファイルを読み込ませると、わずか数十秒で要約レポートを作成するAIエージェントをその場で生成するデモが行われ、現場起点のAI活用が加速する未来が、具体的にイメージできるものだった。
一方で、AI導入時の課題として浮かび上がったのは、どの業務にAIを適用すべきか、導入後の運用・改善をどう行うかという点である。その解決策として池上氏は「業務全体を可視化し、BPR (ビジネスプロセス・リエンジニアリング) を適切に実施すること」、そして「業務フローや手順を文章化し、AIエージェントに組み込むこと」を挙げ、単にAIを導入するだけでなく、プロセス設計や継続的な改善が不可欠であり、BPR含むBPOと組み合わせることで合理性や効果を高められると語った。
藤原氏は、お客さまデータをどのようにAIエージェント上で活かすか、導入後のケアも含めBPOと合わせて伴走支援させていただきたいという。
セッション終盤では、クライアントとの打ち合わせ議事録から、ソフトウェア開発の要件定義書を自動生成するデモも行われた。議事内容を踏まえて仕様書やデザイン案が作成されるなど、要件定義からシステム構築までのプロセスをAIエージェントが担うことで、価値創出までのスピードアップ化が示された。
最後に、池上氏は今後の展望として「業務プロセスは国によって異なる。だからこそ、日本企業の文化や業務特性に合ったAIエージェント活用を広げていきたい」と述べた。藤原氏は「業務プロセスにおけるAIエージェント+BPOのベストプラクティスを、お客さまと共に作り上げていきたい」としてセミナーを締めくくった。
本セッションには、KDDI ビジネスイノベーション推進2部 小坂 智香、櫻井 陽太が登壇。
流通・小売業界を取り巻く構造課題と、KDDIが挑む次世代店舗のDX最新事例が紹介された。
まず、小坂はセミナー冒頭で流通・小売業界を取り巻く課題として、少子化・人口減少に伴う“働き手不足”と、お客さまニーズの多様化・オンラインでの消費行動の加速により激化した”顧客獲得競争”の2つを指摘した。KDDIはデータとAI・通信・クラウド基盤などを組み合わせ、KDDIとパートナー企業のアセットで共創した価値をプラットフォーム化し、お客さまの投資負担を抑えた形でのDXを支援、さらにそこで得たデータとKDDIが保有するデータを掛け合わせ、店舗独自の付加価値創出と差別化を後押しすることで課題の解決を支援するという。
「我々が描く理想の姿は、店舗出店計画から店舗運営まで一気通貫した支援です」と語った小坂は、実際の事例として、GPSの位置情報データを基にリアルな商圏を把握可能な「KDDI Retail Data Consulting 実勢商圏 (外部サイトへ遷移します)」の情報を活用した出店計画から店舗づくり、店舗運営までの一気通貫した支援の様子を、デモを通して説明。ロボットによる品出し支援や、AIグラスによる作業サポートやAIグラスが撮影した画像から作業内容や時間をAIが分析することで業務の可視化、改善検討が手軽にできるなど、“新しい形での店舗運営”が次々と紹介された。
後半は、櫻井より中古車販売業界向けに開発された「KDDI AIデジタルプライスボード」の紹介が行われた。
本デバイスはSIMカードを内蔵することで、車一台ごとに紙の差し替えが必須だった価格表示を電子化、屋外の展示場に設置可能な耐熱性を有し、1年間充電不要 (注) で管理の手間もなく、遠隔かつ自動更新で運用できるようにしたもので、年間1,900時間以上の作業時間削減が可能となる見込みだ。また、AIによる市場との価格乖離に対するアラート機能も搭載しており、価格入力の作業ミスや相場感の読み違いによる収益損失の防止にも役立つ。
KDDIは、AI・データ・通信基盤を掛け合わせた“店舗運営の一気通貫支援”によって、流通・小売業界の現場変革に挑み続けている。店舗の省人化と差別化を両立し、創出した時間とデータを「顧客体験の向上」へ転換する。 WAKONX Retailが描く未来の店舗像はすでに動き始めており、次世代リテールの標準モデルとなる可能性を大きく感じさせるセッションとなった。
展示ブースでは、通信×AIや現場のDXなどが体感できるソリューションが並んでいた。単なるプロダクト紹介ではなく、「実際の現場でどのように使われ、どんな価値を生むのか」を来場者が具体的に想像できる構成が印象的だった。
AI領域の展示ブースで目を引いたのは、イベント内のセミナーでも紹介されていた価格更新業務の手間を大きく削減する「KDDI AIデジタルプライスボード」だ。電子ペーパーデバイスにSIMとバッテリーを内蔵し、遠隔から価格情報を自動反映。さらに、AIによる誤入力検知が加わることで、効率化だけでなく“ミスが起きない運用”を実現しており、来場者からの注目を集めていた。
KDDI SUMMIT 2025では現場で成果を生む“使えるAI”の姿が明確に示された。 KDDIが自ら実践して磨いてきたAI活用の知見、AIエージェントによる新しい働き方、WAKONX Retailが描く次世代店舗など、AIが実装フェーズに入っていることを実感できる内容となったのではないだろうか。
今回のセミナーで提示されたAI活用の戦略やノウハウを、多くの企業における今後のDX推進に役立てていただきたい。
通信×AIで生まれる新しい価値は、すでに現場で動き始めている。