再生可能エネルギーの1つとして、期待の高まる風力発電。ただし、さらなる活用に向けてクリアすべき課題もある。 その1つが設備の保守点検業務だ。 風力発電機は巨大な建築物であり、点検は高所での作業になる。 経験と知見を要する専門性が高い作業ゆえ人員確保も難しい。 こうした課題解決のため、電源開発はKDDIとともに、 “空の産業革命”ともいわれるドローンを使った 自動点検の実証に取り組んでいる。 ここではその概要や成果について紹介したい。
大雨、猛暑、大型台風の頻発など、急速に進む気候変動――。その一因とされるCO2排出量の削減を図り、いかに持続可能な社会の実現を目指すか。これはSDGsの重要な柱の1つであり、世界共通の課題である。日本政府も温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする「カーボンニュートラル」や脱炭素社会の実現を宣言した。この取り組みに欠かせないのが再生可能エネルギー導入であり、その1つが、風力発電だ。CO2や有害物質を排出せず、風があれば発電できる。
実際、風力発電の設備容量は毎年右肩上がりで増え続け、国際エネルギー機関 (IEA) の発表によれば、2020年は世界の風力発電設備の前年比伸び率が8%と予想されている。日本でも風力発電設備は増加傾向にある。日本風力発電協会 (JWPA) によれば、国内の累計導入は2019年12月末で3,923MW (392.3万kW)・2,414基、発電所数457発電所であり、標準的な原子力発電設備の3個分に相当する。
2018年7月発表、政府の「第5次エネルギー基本計画」では、2030年に実現を目指すエネルギーミックス水準として再生可能エネルギーの比率を現状の約16%から約22~24%を目指すとしており、風力発電への期待も高まる。
風力発電所の増加とともに必須となるのが、設備の保守点検だ。故障や損傷があると、計画どおりの発電ができない。
「ブレード (風車の羽根) の点検は高所作業のため、経験と知見を要する専門性が高い人員に限られます」と電源開発 風力事業部の宇賀塚 学氏は語る。
地上から望遠カメラでの撮影や、ドローンを手動で操作して確認する方法もあるが、ブレード一枚一枚をさまざまな角度から網羅的に撮影しなければならない。1基当たりの撮影枚数は200枚から300枚に及び、撮影画像を技術者が一つ一つチェックしていくのは、大変な手間と時間がかかる。点検作業は比較的風が穏やかな春から夏にかけて実施時期が限られる。また手動操縦のドローンは、作業進捗がパイロットのスキルに左右され、かつ熟練者も少ないため、手配や調整は困難を極める。
風力発電設備の点検作業をより効率的に実施する。この実現に向けて、電源開発はKDDIとの共創で、ドローンを用いた自動点検の実証に取り組んでいる。
具体的には自動撮影が可能なオートフライトソフトを搭載したドローンを使って、遠隔操作によるブレード点検を行う。停止中の風力発電機のブレード中心位置からドローンが自律飛行し、ブレード3枚をそれぞれ4方向から自動撮影する。撮影終了後は画像処理ソフトを使って撮影位置・高度情報を付加し、クラウドにアップロード。AIベースの画像解析ソフトにより損傷箇所を解析する仕組みだ。
すでに、せたな大里ウインドファーム発電所 (北海道) 、苫前ウィンビラ発電所 (北海道) 、南愛媛風力発電所 (愛媛県) の3地点・計47基を対象に、2020年9月1日から同9月30日まで試験運用を実施。一連の作業フローと損傷部識別の正確性などを確認するのが狙いだ。
その結果、自動点検の十分な有効性を確認できたという。
「従来の方法による点検業務は1基だけで最低3時間はかかっていましたが、それが20分程度で済みます。従来手法と比較し、作業時間は10分の1程度と劇的に短縮できました」と宇賀塚氏は語る。
撮影された写真も非常に高精細だ。風の影響を受けて撮影場所がズレたりピントが合わなかったりすると正確な判断が難しくなる。
「当初そのことを懸念していましたが、高所で人が接写した写真と比べても遜色がありません。これは大きな驚きでした」と宇賀塚氏は評価する。
1基当たり数百枚にもなる撮影写真を人が確認するのは大変な手間だが、画像解析ソフトを使えば瞬時に異常を見つけられる。解析精度もベテラン技術者の目視確認に引けを取らないという。
「作業が大幅にスピードアップし、確認の抜け・漏れもありませんでした」と宇賀塚氏は話す。
宇賀塚 学 氏
KDDIは電源開発とともに2019年4月ごろから設備点検の高度化に向けた取り組みを進めてきた。
「当社のプラットフォームやドローン関連の技術や知見と電源開発様の設備点検に関する現場ノウハウを融合させ、設備点検の新しいカタチをつくりたい。そのような思いで、最新のドローンを活用した自動点検をご提案したのです」とKDDIの開居 泰昌は経緯を述べる。
なぜ共創パートナーとしてKDDIが選定されたのか。
その理由について、電源開発 デジタルイノベーション部の田中 克郎氏は次のように述べる。
「KDDIは技術力やケイパビリティが高く、ドローンはもちろんのこと、その遠隔操作を支えるネットワーク、画像データを蓄積するクラウド環境、解析用のソフトウェアまでワンストップで提供できる。モバイル通信による自律飛行や遠隔監視制御を実現するための『スマートドローンプラットフォーム』を展開し、さまざまな革新にも取り組んでいます。そうした観点から、新しい価値創出をともに目指せると考えました」
田中 克郎 氏
杉山 豪 氏
モバイル通信やドローン提供エリアのカバレッジの広さも大きな選定ポイントとなった。なぜなら風力発電設備は全国に展開しているからである。
「実証プロジェクトはもちろん、実用化する場合も電波状況を気にせず、全国どこでも安心して利用できます」と電源開発の杉山 豪氏は話す。
点検作業中は風力発電機の稼働を止めなければならず、季節要因や人員手配などの理由から実施時期も限られる。
「キックオフから実証実施まで1カ月程度しかありませんでしたが、KDDIはその期限内に必要な全ての機材やインフラを用意し、3地点・計47基の点検作業を実施できる環境を整えてくれました。おかげで実証はトラブルなく順調に進みました」と杉山氏は続ける。
今回の実証によって、電源開発では、点検業務の革新に向けた手応えをつかみつつある。
「オートフライト技術を利用すれば、ドローンの高度な操作技術がなくても、簡単な設定でブレードを点検できます。限られた人員で作業できるので、スケジュール調整や人員手配もやりやすくなるはずです」と宇賀塚氏は期待を寄せる。
高所でのロープワークによる近接撮影の頻度削減につながれば、人員確保の負担も軽減する。また、落雷などの緊急時でも、ドローンの自律飛行とAIによる画像解析が可能となれば迅速な点検が期待できるだろう。
開居 泰昌
今回はブレードの点検が中心であったが、タワーを含めた風力発電機全体を撮影できることも分かった。活用次第で、より幅広い箇所を点検できる。
「点検作業の高度化・効率化により、発電設備の稼働率も上がることで、安定的な電力供給が可能になり、事業継続性の向上につながります」と田中氏はメリットを述べる。
また、風力発電設備の容量拡大に向けて、今後洋上での風力設備の建設がポイントとなる。恒常的な風の発生が期待でき、地上建築物との干渉もなく、設備も大型化できるからである。しかし、海岸から数キロも離れている設備もあり、現場に行くだけでも一苦労で、作業の難易度も増す。
「洋上風力発電設備の拡大を見据え、電源開発様とともに実証実験を重ね、さらに高度化したドローン点検の開発やデータ循環 (分析) によるリカーリングモデルなどを一緒に考えて点検作業の品質向上を図っていきたいです」と開居は話す。
さらにKDDIは5G通信や4K映像の活用、AIの高度化にも取り組んでいる。
「モバイル通信を5G化し、リアルタイム画像の取得や点検箇所を4Kで撮影すれば、より高精細な画像でAI解析を行えます。損傷箇所の把握だけでなく、故障する前にリスクを予測する予防保全も可能になるでしょう。また、無人の風力発電設備における巡回監視としてもドローンを使用した自動フライトや遠隔操縦における活用が期待できます。その実現に向けて、スマートドローンプラットフォームを軸に、今後も電源開発様とともに進めてまいります」とKDDIの鈴木 真理子は話す。
電源開発もKDDIとの共創に大きな期待を寄せている。
「将来的にはドローンの無人自動操縦による設備点検を実現したい。さらに自社の点検ノウハウを活用・発展させ、AIによる画像解析の内製化も目指します。また他産業への外販も視野に、KDDIとの共創で設備点検を高度化するソリューション開発を進めていけたらよいと思います」と田中氏は話す。
鈴木 真理子
風力発電事業の拡大に弾みをつけた電源開発。今後もKDDIとともにドローンを活用した自動点検の実用化に向けた検討を進め、重要な社会課題であるカーボンニュートラルの実現に貢献していく構えだ。