東日本旅客鉄道株式会社 (以下、JR東日本) 様と株式会社ジェイアール東日本企画 (以下、JR東日本企画) 様は2021年4月、KDDIの開発支援のもとでベビーカーレンタルサービス「ベビカル」を始動し、拡大を続けている。ベビカル誕生の経緯と狙いについて、同サービスの企画立案者で事業推進を担当するJR東日本企画の森 祐介 様に話を伺った。
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「ベビカル」は、「予約ができる、外出先でのベビーカーレンタルサービス」で、
が特徴だ。
森 祐介 様
「子育て世代は、外出の際に、荷物が重かったり、エレベーターを探すのが大変だったり、混雑した公共交通機関を敬遠したり、移動するのに時間がかかったり、とさまざまな課題を抱えています。ベビカルは、目的地の最寄りや乗換えのターミナル、ご自宅の最寄りなどいろいろな場所でベビーカーが借りられることで、子育て世代の外出をもっと気軽にするサービスです」と、ベビカルの企画立案者で同事業の推進役を担うJR東日本企画 jeki-X 部長の森 祐介 様は説明する。
ベビカルは、JR東日本様が2018年にスタートさせた新事業創造プログラム「ON1000 (オンセン) 」で採択された事業だ。JR東日本グループ各社から寄せられた1,000件超の応募の中から最終審査を通過し、2019年7月と9月に実施した2度の実証実験を経て事業化が決定された。2021年4月からサービスを開始し、事業運営はJR東日本様とJR東日本企画様が共同出資で立ち上げたJREベビーカーシェアリング有限責任事業組合様が担っている。
森様が部長を務めるjeki-Xは、JR東日本企画様における新事業の立ち上げと推進を担う部署だが、ベビカルを企画立案した時点ではON1000で採択されるとは想定しておらず、また、サービスの企画立案も自分一人の力で成し得たものではなかったと明かす。
「実は、ベビカルを着想したのは私の妻なのです。私がON1000への応募企画について考えていたときに、『駅に必要なのは、ベビーカーレンタルのような、本当にお客さまが必要としているサービス』と、アドバイスされたことがきっかけです。生活者のリアルなニーズが当初から反映されていたことが、採択と事業化につながったのかもしれません」(森様)
ベビカルは、会員制や事前予約、キャッシュレス (クレジットカード支払い) を採用しており、サービス利用者はベビカル専用のWEBサイト上で会員登録や利用予約・キャンセルが行えるほか、料金支払いのクレジットカード決済もWEBサイト上で処理される仕組みになっている。
レンタル料金は1時間250円で以降30分ごとに100円が加算され、12時間以内の最大料金は1,500円 (12時間経過後は30分につき100円が加算) に設定されている (すべて税込み価格) 。
このレンタル料金による売り上げは、加盟店 (貸出場所) と運用元 (JREベビーカーシェアリング有限責任事業組合様) でシェアされる。加えて、加盟店が得られるベネフィットとして、サービス収入だけではなく、子供を持つファミリー層の再訪率が高められるという効果も期待できる。
また、ベビーカーの貸出場所は、有人にて貸出を行う「ベビカルステーション」と無人機材による貸出の「ベビカルスタンド」がある。
ベビカルスタンドは、IoT端末として機能する「係留ポート」を備えたベビーカーの貸出所だ。そこに備わる係留ポートは、KDDIが提供するau 4G LTEネットワークを通じて、KCPS (KDDI クラウドプラットフォームサービス) のクラウドサーバーとつながり、利用者の認証や予約の承認、クレジットカード決済などを行う。利用者は、そのポートのQRコードリーダーに予約コードをかざして読み込ませることで、ICキーの施錠を解き、持ち出すことができる。さらにベビーカーの返却時には、係留ポートにICキーを差し込むことで返却を認識する。子供を抱っこしている状態でも簡単に借用・返却できることがメリットだ。
設置箇所は拡大を続けており、2022年12月時点で112箇所に上っている。
係留ポートの開発からWEBサイトの仕組みづくりに至るまで、ベビカル関連のシステム開発を一手に担ったのがKDDIだ。システム開発パートナーとしてKDDIを選んだ理由として、森様は「安定感」と「実現可能性」の2点を挙げる。
「システム開発のパートナー候補は、KDDI以外にも複数社ありましたが、実現可能性の高いシステム提案をしてくれたのがKDDIです。システム開発に時間的なゆとりはなく、開発パートナーの安定感と実現可能性はとても重要な要素でした」(森様)
実際、KDDIは係留ポートを含むベビカルのシステム開発をほぼスケジュールどおりに完遂し、2021年4月のサービスの立ち上げに貢献した。それができた理由について、KDDI DX推進本部の國吉 宏司は次のように説明を加える。
「ベビカルのシステムのコアは、会員 (利用者) の『会員登録』『予約・認証』『開錠』『決済』の4つです。これらの機能を連携させた仕組みは、JR東日本様に対する他案件への提供を通じて、すでに完成させていました。ベビカルのシステムづくりでは、そのソフトウェア資産を横展開することで開発のスピードアップが図れました。KDDIは、JR東日本様に向けて数多くのシステムをご提供してきましたが、その経験がベビカルのシステム開発でも大いに生かせたかたちです」
國吉 宏司
原 彩夏
一方、ベビカルの係留ポートの開発はKDDIにとっても初の試みだった。そのため、ハードウェア設計などの部分で相応の試行錯誤があったとKDDI ビジネスデザイン本部の原 彩夏は明かす。それでも、IoT端末の設計・開発で卓越した技術スキルとノウハウを持つKDDIおよびパートナー企業の協力により、種々の課題を乗り越えることができたと振り返る。
森様は、今後もベビカルの拡大とともに、事業活動を通じて得られた知見を本業であるマーケティングコミュニケーション領域に有効活用していくことを視野に入れている。
「子育て世代のプラットフォームとしてさまざまな企業様と連携し、新しい価値を提供していきたいです。また、ベビカルを通じて取り組んでいるマーケティング活動、データ分析、CRM、DXは、本業であるマーケティングコミュニケーション領域に活用できると思います。データを分析していくことで、子育て世代がどのエリアに集まりやすいのか、どのような移動行動をとるのかといったことが見えるようになります。また、それらを地域の活性化につなげていくことが可能になります。加えて他データと連携することで子育て世代の実態を把握したり、広告コミュニケーションに応用したり、子育て世代にやさしい街づくりに応用することなどもできるかもしれません。これからは、そうしたデータの有効活用も念頭に入れたサービス強化を図っていきたいです」(森様)
KDDIでは、こうした構想を支えるシステム面での強化に力を注いでいく。
「ベビカルのように社会課題の解決を目指した仕組みの実現と普及に貢献することは、KDDIの使命だと考えています。その使命を遂行できる機会を大切にする意味でも、ベビカルの可能性を広げるシステムの提案・提供に全力を挙げて取り組んでいきたいと考えています」(原)