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経営層を説得し、ゼロトラスト予算を確保するには?
ゼロトラストブログ vol. 17

経営層を説得し、ゼロトラスト予算を確保するには?

2024 9/30
「せっかくゼロトラスト計画を作成したのに、経営層に納得してもらえない!」そんな経験はありませんか?企業がゼロトラストに取り組むうえで、社内IT担当が困っていることの一つが「予算の確保」です。KDDIとしても企業のゼロトラスト推進をご支援していく中で、費用対効果を示せず予算取りに苦慮されているお客さまの声をよく耳にします。ゼロトラストは複数の製品を組み合わせてセキュリティを高度化していく考え方なので、取り組みを進めていくとコストが膨らみがちです。また、導入後のセキュリティ効果の可視化・検証が難しく費用の妥当性を示しづらいことも、予算の確保が難しい理由の一つです。
本記事では、ゼロトラスト環境の構築に必要な予算を確保するための経営層へのアプローチについて、ゼロトラスト推進部の北島が4つのポイントを踏まえご説明いたします。本記事をご覧いただくことで、ゼロトラストを上申する際の一助となれば幸いです。

ポイント① 現状リスク
自社にどれほどのセキュリティリスクがあるのか?

セキュリティ観点から企業経営影響を与えるリスク説明することで、意思決定必要情報経営層へ示すことが可能です。現行環境におけるセキュリティリスクと、そのリスク顕在化した場合発生し得る影響を、自社セキュリティインシデント発生したことを想定したシナリオをもとに定量的定性的整理することで、ホラーストーリーセキュリティ対策必要性説明します。

定量的な影響評価

リスク定量的説明する方法の一つとして、自社セキュリティインシデント発生した際に想定される損害額想定シナリオをもとに算出する方法があります。JNSA (NPO日本ネットワークセキュリティ協会) の「インシデント損害額調査レポート第2版」(注1) によると、セキュリティインシデント発生した際に想定される損害以下6つの要素構成されます。

これらの各要素について、自社セキュリティインシデント発生した際の想定シナリオをもとに損害額算出することができます。インシデント発生した際の影響具体的金額を示すことで定量的説明できるため、ゼロトラスト製品導入費用対効果説明しやすくなります。

損害種別 概要
1. 費用損害 (事故対応損害) インシデント対応にかかる費用
2. 賠償損害 個人情報漏洩などによる損害賠償金
3. 利益損害 システム停止などによる事業中断における利益損失
4. 金銭損害 ランサムウェアの身代金やビジネスメール詐欺への支払金などの金銭支払
5. 行政損害 個人情報保護法やGDPR (EU一般データ保護規則) 違反により課される制裁金
6. 無形損害 風評被害や株価下落、無形資産などの価値の下落

定性的な影響評価

他社セキュリティインシデント事例参考に、自社発生し得る影響想定シナリオをもとに定性的に考えます。自社展開する事業の中で社会的影響の大きい事業 (人命社会インフラに関わる事業など) や、主力製品を取り扱う事業ランサムウェア被害などによりストップすることを想定すると、事業会社自体への影響の大きさをアピールできます。

<他社セキュリティインシデント事例>

  • 大手通信会社セキュリティ管理体制不備により発生した内部不正責任を取るため、社長退任
  • 大手食品会社ランサムウェア被害により財務会計システム復旧不可能となり、決算報告が数カ月遅延
  • 大手自動車メーカー部品仕入れ先のランサムウェア被害により、国内全工場稼働停止

<定性的影響一例>

  • 物流システム停止によるサプライチェーンへの影響波及
  • 金融システム停止によるユーザー口座取引停止
  • 医療関連製品生産停止による人命への影響
  • 研究データ競合へ漏えいすることによる企業競争力低下

ポイント② 期待効果
ゼロトラスト導入によるポジティブな影響は何か?

ゼロトラスト導入必要性説明するうえで、セキュリティリスクのようなネガティブ影響のみで経営層納得させることは容易ではありません。
そこで、ポジティブ影響として、ビジネス観点期待される効果説明必要となります。ポジティブ影響説明することでゼロトラスト導入によるセキュリティ観点以外メリット理解してもらうことができます。

ゼロトラスト導入によるビジネスへの期待される効果の一例

期待される効果 概要
ステークホルダーへの説明責任遂行とブランドイメージの向上 高度なセキュリティを実装することで企業の安全性をステークホルダーに担保でき、企業のブランドイメージの向上につながります。
多様な働き方の実現による従業員満足度の向上 いつでもどこでもセキュアに働ける環境の実現により、従業員満足度が向上します。さらには、人材流出防止にもつながります。
外部からの人材獲得 企業のブランドイメージの向上、多様な働き方の実現により、外部から人材を獲得しやすくなります。
ITインフラの柔軟性向上によるDX推進の加速 ゼロトラスト導入によりデータに対するアクセス制御や監視が強化されるため、企業はデータの利活用がしやすくなり、データドリブンなビジネスが促進されます。
データセンター (DC) 撤廃やオフィス縮小によるコスト削減 ネットワーク機器やセキュリティ製品、サーバーをクラウドに移行することによりオンプレミス資産を削減しDC撤廃が可能になります。また、働き方の多様化により出社人数が減少することで、オフィスの縮小が可能になります。
M&A・企業合併などのビジネス拡張の後押しによるビジネススピードの向上 ネットワークをクラウドベースで構築することにより、M&Aや合併といったビジネスの拡張を促進し企業のネットワーク統合が行いやすくなります。

ポイント③ 他社比較
他社はどの程度ゼロトラストに取り組んでいるのか?

経営層競合がどのような取り組みを行っているのかを特に気にしているため、同業他社の取り組み状況説明すると効果的です。
他社ゼロトラスト取り組み状況共有し、他社比較した自社の立ち位置明確にすることで、何をどこまで実施すればよいかを経営層アピールできます。
他社比較した自社の立ち位置明確にするためには、以下の3点の情報提示すると効果的です。

1. 他社のセキュリティ関連費用

そもそも自社セキュリティ関連費用が少ない場合他社のIT予算全体におけるセキュリティ関連費用割合提示することで、セキュリティ関連費用増額必要性訴求できます。
JUAS (一般社団法人 日本情報システム・ユーザー協会)  が発行した「企業IT動向調査報告書2024」(注2) には、売上高別のIT予算に占める情報セキュリティ関連費用割合掲載されているので、参考にするとよいでしょう。

2. ゼロトラストツール導入率

他社ゼロトラストツール導入率提示することで、自社の立ち位置明確化できます。
2023年度にKDDIが実施した企業500社を対象としたアンケートでは、ゼロトラスト関連ツール導入状況今後導入予定について調査しました。「既に導入済み」の回答で最も割合が高かった項目は「EDR」で27.0%、次いで「MDM」(22.4%)、「IDaaS、IAM」(16.8%)という結果になりました。

2023年度調査(全体 (n=500) )の表
図1:ゼロトラスト関連ツールの導入状況/今後の予定 (注3)

3. 競合のゼロトラスト取り組み状況

競合の取り組み状況意識する経営層は多いため、競合の取り組み事例提示すると効果的です。競合のIR資料掲載されているセキュリティの取り組み方針や、ベンダー企業開示している導入事例参照されることをおすすめします。

ポイント④ コスト計画
ゼロトラスト導入によりコストがどう増減していくのか?

経営層意思決定をしてもらうためには、ゼロトラスト導入メリット他社の取り組み状況を示したうえで実際にかかるコスト算出し、費用妥当性を示す必要があります。
ゼロトラスト導入と聞くと単純コスト増加するように思われてしまいますが、導入されるゼロトラストツール従来オンプレミス機器と置き換わることで、コスト削減される場合があります。ゼロトラスト移行において導入するツールが何と置き換わるのかを整理し、増加していくコスト減少していくコストとを試算することで、単純コスト増ではないことを説明できます。

ゼロトラスト導入によって置き換わるコスト要素の一例

ゼロトラスト移行前 ゼロトラスト移行後
境界型セキュリティ機器 (プロキシサーバー (注4) やFirewall (注5) など) SWG (注8)
VPN機器 (注6) SDP (注9)
Active Directory (注7) IDaaS (注10)
セキュリティ監視運用要員 SIEM (注11)・SOAR (注12)

ゼロトラスト導入によるセキュリティ関連費用変遷の一例

セキュリティ関連費用(億円)はゼロトラ移行前からゼロトラ移行後の間では、オンプレがクラウドより割合が多くなるため、全体でみると4億円増のみになる

これら4つのポイントについて、自社経営層が特に意識しているポイント考慮したうえでストーリー立てて説明していく必要があります。

また、NIST (米国国立標準技術研究所) のサイバーセキュリティフレームワークなどの権威付けされたフレームワーク公的機関ベンダー企業発行したレポートデータなどを活用し、根拠づけて説明していくことでより妥当性のある報告ができます。

  • 注4) インターネットアクセスする際に、ユーザーウェブサイトの間に立ってデータ中継するサーバー
  • 注5) ネットワーク外部脅威から守るために、不正アクセスブロックするシステム
  • 注6) インターネットを通じて安全データ送受信するために、仮想的専用回線を作る装置
  • 注7) ユーザーコンピューター情報一元管理し、アクセス権を制御するためのシステム
  • 注8) Secure Web Gateway。インターネットへのアクセス監視し、悪意のあるサイトコンテンツブロックするセキュリティ装置
  • 注9) Software Defined Perimeter。ネットワーク境界ソフトウェア定義し、認証されたユーザーだけがアクセスできるようにする技術
  • 注10) Identity as a Service。クラウド上でユーザー認証アクセス管理提供するサービス
  • 注11) Security Information and Event Management。セキュリティ情報イベント収集分析し、脅威検出するシステム
  • 注12) Security Orchestration, Automation, and Response。セキュリティインシデントに対する対応自動化し、効率的処理するためのプラットフォーム

最後に

弊社ではゼロトラスト移行に向けた次期ITインフラ構想策定から、それらの内容経営層報告するための上申支援までを実施しております。次期ITインフラ構想策定では現状課題・リスクを洗い出したうえで、段階的ゼロトラスト移行に向けた構成検討ロードマップ策定実施いたします。上申支援ではお客さまの経営層が特に意識されている観点考慮したうえで、ストーリー立ててゼロトラスト必要性訴求する資料作成します。

ゼロトラストを推進していきたいが何から始めればよいのかわからない」「ゼロトラスト計画策定したものの経営層理解が得られず前に進めない」などのお困りごとがあれば、弊社までお声がけいただけますと幸いです。

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執筆者プロフィール

北島 佳奈 (きたじま かな)
2020年にKDDIへ新卒入社後、ゼロトラストを中心としたITインフラのコンサルティング業務に従事。大手事業会社向けにゼロトラスト計画策定や上申支援などを実施。

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