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―この数年、カーボンニュートラルという用語がニュースや新聞、ビジネス現場でよく聞かれるようになりました。
そもそもカーボンニュートラルとはどのような取り組みなのでしょうか。
まず前提である気候変動から説明しましょう。
日本では「温暖化」と言われてきましたが、その原因は温室効果ガスということが科学的に特定されています。
温室効果ガスとは、地表の熱を吸収して温室効果をもたらす二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素、フロンガスなどのこと。
これらが温暖化の原因であることは「疑う余地がない」というレベルになっています。
その「温暖化による気候変動を止める」ための目標として「カーボンニュートラル」という言葉が出てきます。
カーボンニュートラルとは、経済活動を行ううえでどうしても排出せざるを得ない温室効果ガスについて、その排出を広い意味でゼロ (ニュートラル) にしようという取り組みです。広い意味とは、温室効果ガスの排出自体をゼロにすることではなく、排出したガスを森林や植物が吸収除去し、全体を差し引きゼロにすることです。
世界では「2050年までにカーボンニュートラルの状態を達成しよう」ということが国際目標となっています。
—なぜ2050年なのでしょうか。
2015年のパリ協定で「2100年までに気温上昇を2度にとどめる」という目標が採択されました。
これは1850年から1900年までの産業革命期の50年間の気温平均値を0度と設定し、2100年にはそこから2度までの気温上昇にとどめるという意味です。
ですがその後、それでも2度の上昇では著しい社会的な打撃が予想されることから、2021年の国連気候変動枠組条約締約国会議 (COP) で「1.5度の上昇にとどめる」という目標に引き上げることが決まりました。
これを達成するためにシミュレーションをしていくと、2050年ごろに世界全体でカーボンニュートラルを達成し、温室効果ガスの排出量のプラスマイナスをゼロにしなくてはならないことがわかりました。
それ以降は排出量より吸収量が多い状態にしなければ、気温上昇を1.5度にとどめられないんです。
そこで国際的に「2050年までにカーボンニュートラル達成」という目標が掲げられ、日本政府もそれに準じている形です。
2050年までのカーボンニュートラルを宣言した国連加盟国は、2019年12月時点で121カ国だったのに対し、現在は140カ国以上となり、加盟しているすべての国のGDPを合計すると世界全体の91%に相当します。
—カーボンニュートラルと同時にグリーントランスフォーメーションという用語もよく聞かれるようになりました。
このグリーントランスフォーメーションとはどのような概念なのでしょうか。
カーボンニュートラルが「気温上昇や気候変動を止める」ということのゴールだとすると、グリーントランスフォーメーションは手段といえます。トランスフォーメーションとは大規模で抜本的な変革を意味しますが、なぜグリーントランスフォーメーションと言われるかといえば、並大抵の努力では2050年のカーボンニュートラルが達成し得ないからです。
達成が難しいその理由は何か。産業革命期以降、経済の急激な成長が起こって社会が豊かになり、それに連れて排出量が増えてきました。さまざまな途上国もこれからまさに経済成長期を迎えようとしています。こうしたことを考えると、これまでの努力では気温変動に太刀打ちできません。
産業のあり方自体を抜本的に変革させない限り、カーボンニュートラルは絶対に達成できない。そこでカーボンニュートラルに向けて企業の事業内容や産業自体を根本から変えていく取り組みを「グリーントランスフォーメーション」と呼んでいます。
—具体的にどのような取り組みなのでしょうか。
温室効果ガスの排出量と吸収・除去量を差し引きゼロにするということは、まずこれまで当たり前のように排出してきた莫大な温室効果ガスの量自体を減らす必要があります。極限まで減らしたうえで、どうしても排出せざるを得ない分と同等の吸収・除去を展開しなくてはなりません。
一例として電力を考えてみましょう。事業に必要な電気を使いながらカーボンニュートラルを達成するには、温室効果ガスの排出量がきわめて少ない電源にトランスフォームすることが不可欠なので、たとえば太陽光や風力発電のような再生可能エネルギーを使うことで「電気を転換する」というやり方があります。
それ以外に「そもそも電気を使わなくても済む状態に変えていく」ということもグリーントランスフォーメーションになります。排出量がゼロ、もしくはきわめて少なくて済むシステムや仕組みを作り出すこともグリーントランスフォーメーションです。
非常に広い概念なので、いまお話しした以外の分野でもグリーントランスフォーメーションは必要になります。
—非常に困難な目標であるカーボンニュートラルですが、世界ではどのような動きをしているのか教えてください。
先ほども説明したように、世界のGDPの91%を占める国々でカーボンニュートラルは国家目標として掲げられています。
これはつまり、「各国の産業でグリーントランスフォーメーションをしていかなければならない状況になっている」と言い換えることができます。それは言うなれば、新たな産業革命を興すということです。使うエネルギー、素材、ビジネスの提供の仕方や物流も変えていくレベルの革命です。
そのためには資金が必要です。そこで日本を始めとする各国では、研究開発のための政府補助金や減税措置などで対応しようとしていますが、当然それだけでは足りません。金融機関や投資家が持っている民間資金がグリーントランスフォーメーションに向かうよう、環境整備や支援、規制を作っているのが大まかな流れです。先進国だけでなく途上国でも同じような動きが始まっています。
—日本での取り組み状況はいかがでしょうか。
日本でカーボンニュートラルという言葉が大きく広がったきっかけが、2020年10月に当時の菅義偉首相が行った所信表明演説です。多くの方にとって予見しなかったタイミングで、「我が国は、2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします」と表明。
これを機に各省庁の政策が一斉にカーボンニュートラルに傾き、企業のカーボンニュートラル宣言も2020年10月から急激に増えました。それまであった地球温暖化対策推進法という法律も改正され、2050年のカーボンニュートラルが明記されました。
これによりカーボンニュートラルを目指すことが日本政府の責務となり、各省庁からの新政策が加速しました。
2022年4月に再編された東証プライム市場の上場企業に対して求められている気候関連情報の開示もその一環です。
この開示ルールにより気候関連財務情報開示タスクフォース (TCFD) に基づく開示が求められるようになりました。
—具体的に企業がカーボンニュートラル達成に向けて行うべき取り組みのなかで、Scope1、Scope2、Scope3というキーワードがあります。これはどのようなものなのでしょうか。
国際的に定められているGHG (Greenhouse Gas) プロトコルのことで、原材料調達から製造、物流、販売、廃棄など一連の事業プロセス全体から発生する温室効果ガスの排出量を定義したものです。これは世界共通です。
Scope1は自社が排出している温室効果ガスの直接排出量です。
自社で燃料を燃やしてエネルギーを得ている際の直接排出がScope1に当たります。
Scope2は自社で使っている電気・熱です。電力会社から供給された主に電気の使用に伴う間接排出です。
そしてScope3がScope2以外の取引先からの間接排出です。
非常に範囲が広いので15のカテゴリに分類されていますが、原材料の調達であったり、従業員の通勤や出張であったり、商品の輸送や加工、購入した製品やサービスなど、取引先すべてにまたがる排出量を指します。
カテゴリ | 活動例 |
---|---|
1. 購入した製品・サービス | 原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達 |
2. 資本財 | 生産設備の増設 (複数年にわたり建設・製造されている場合には、建設・製造が終了した最終年に計上) |
3. Scope1,2に含まれない 燃料及びエネルギー活動 | 調達している燃料の上流工程 (採掘、精製など) 調達している電力の上流工程 (発電に使用する燃料の採掘、精製など) |
4. 輸送、配送 (上流) | 調達物流、横持物流、出荷物流 (自社が荷主) |
5. 事業から出る廃棄物 | 廃棄物 (有価のものは除く) の自社以外での輸送 (注1) 、処理 |
6. 出張 | 従業員の出張 |
7. 雇用者の通勤 | 従業員の通勤 |
8. リース資産(上流) | 自社が賃借しているリース資産の稼働 (算定・報告・公表制度では、Scope1,2 に計上するため、該当なしのケースが大半) |
9. 輸送、配送(下流) | 出荷輸送(自社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、小売店での販売 |
10. 販売した製品の加工 | 事業者による中間製品の加工 |
11. 販売した製品の使用 | 使用者による製品の使用 |
12. 販売した製品の廃棄 | 使用者による製品の廃棄時の輸送(注2)、処理 |
13. リース資産 (下流) | 自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働 |
14. フランチャイズ | 自社が主宰するフランチャイズの加盟者のScope1,2 に該当する活動 |
15. 投資 | 株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用 |
その他 (任意) | 従業員や消費者の日常生活 |
—Scope3の範囲は非常に広いですね。
そうなんです。自社の努力だけではどうにもならない、他社の排出量まで含めた削減策が必要になります。
しかも報告ルールではScope1、2、3の排出量を算出して開示しなくてはなりません。
そこで現在日本政府が排出量の算出方法を提示しています。
ただ自社から見たときはScope3でも、その事業者にとっては自分自身のScope1、Scope2になります。
現在はプライム市場上場企業のみに報告義務が課されていますが、サプライチェーン全体で取り組むべき問題ですから、自社の排出量を把握・開示することはどの事業者にとっても必要なことだと思います。
—現在企業はどのように取り組んでいるのでしょうか。
基本的にはScope1と2をまずセットで算出し、次にScope3の算出という順番で行い、現状を把握することから始まります。
その後に、排出量を削減できるところを見極めていきます。
—カーボンニュートラルの取り組みにあたって理想的な進め方があれば教えてください。
まずはScope1、2、3それぞれで排出量の算出を行い、どの順番で削減を進めていくか優先順位を付けます。
その際は排出量が多い分野で、そのための対策やソリューションが見えているところから手を付けていくことが効果的です。スケジュール感としては、日本政府が掲げている「2030年までに『2013年の排出量と比べて46%削減』」が目安になりますが、この目標は全事業者が対象なので、大企業は先んじて取り組む必要があります。ですので、大企業は政府目標より高い数値目標を立てて進めていくとよいでしょう。
では具体的にどうやって削減を進めていくべきか。そこで特に期待されているのがITやデジタルの活用です。
—ITの活用はカーボンニュートラル達成にどのように貢献できるのでしょうか。
たとえばテレビ会議を導入して通勤や出張の負荷を減らせば、電車やタクシーなど移動に伴う排出量を減らすことができます。紙文書を電子化すれば、紙の調達に関わる製紙工場や印刷工場の間接排出量を減らせます。もちろん電気を使うことになるのでゼロにはなりませんが、実際に移動するよりはるかに削減効果があります。このようにITを活用することで削減できる領域は多数あるのです。
またITサービスを提供する企業に目を向けると、通信も含めて電気消費量は増えていきます。それをカーボンニュートラル化していくには、サービスを提供する際の電気そのものを再エネ化して排出量を削減していったり、あるいは再エネの循環を回して排出量をゼロに近づけるという状況を目指すことになります。そこまでをワンセットとしてカーボンニュートラルのソリューションとなるでしょう。
—コロナ禍で加速したリモートワークや働き方改革がカーボンニュートラルにつながるわけですね。
そうですね。感染症対策としてのリモートワークではなく、カーボンニュートラルという文脈からその効果について理解が進んでいるのが現状だと思います。人が移動する時、徒歩や自転車以外の手段だと莫大なエネルギーを要することになります。リモートワークで移動を減らせば大きな効果が期待できます。実際、米国では二酸化炭素排出量を削減するため2010年ごろからテレビ会議の活用が進んできました。
電子署名の導入もカーボンニュートラルの一環といえます。コロナ禍で進んだ電子署名ですが、請求書1つだけで考えても、紙の出力や配送などで大量のエネルギーを消費するので、電子署名に置き換えることでその分の排出量を削減できます。
—カーボンニュートラルの達成においてデジタルの力が期待されているんですね。
IT化については排出量の見える化やリモートワークなどさまざまなレベルがありますが、近年特に進化が進んでいるのがAIの領域です。ここまでいくと削減の領域が一気に広がると見られています。
たとえば電力についてもAIを使ってデータセンターのサーバーを最適に動かし削減につなげるといったことが期待されていますし、工場の製造ラインで排出される過剰な熱などもコントロールできるかもしれません。物流の効率化、需給予測の精緻化なども非常に大きな削減効果が望めます。デジタル化やAIとカーボンニュートラルは非常に相性がいいんです。
いずれにしろ、ITを使わず大規模な排出量削減を行うことは不可能でしょう。ITがそこで果たす役割は非常に大きいと考えています。
企業のデジタル化やリモートワークが社会貢献につながるのですね。貴重なお話ありがとうございました。
後編では、KDDIが実践するカーボンニュートラルの取り組みについてご紹介します。