日本初の、通信サービスを提供するまでのCO2排出量を実測値 (一次データ) で開示する「グリーンモバイル」の提供など、サプライチェーン全体のカーボンニュートラルに取り組むお客さまを支援します。
―現在、全世界で課題となっているのが気候変動への対応です。気候変動は経済活動に支障が出るだけでなく、自然環境の破滅を引き起こしかねない重大な課題ですが、これを防ぐために国際的にカーボンニュートラルへの取り組みが進んでいます。
このカーボンニュートラルについてKDDIではどのような取り組みを進めているのでしょうか。
まずKDDI単体としては、2030年までに自社の事業活動におけるCO2排出量を実質ゼロにするという目標を掲げています。
具体的には省エネと共に再生可能エネルギーへのシフトを進めていくほか、カーボンニュートラル関連事業も展開していきます。
例を挙げると、2021年に設立した「KDDI Green Partners Fund」(グリーンパートナーズファンド)という取り組みがあります。
これは気候変動問題に対し先進技術で取り組むスタートアップの支援ファンドで、すでにいくつかの企業に出資しています。
その1つであるエネコートテクノロジーズは、薄膜太陽電池の開発に取り組んでおり、従来の太陽光電池に比べて軽量化・薄型でかつ高効率発電を実現するプロダクトを提供しています。このため屋根に重いパネルを取り付けることなく、ビルの壁に取り付けたり、一般住宅であれば空いている場所に取り付けるなど太陽光発電へのハードルが下がるというメリットがあります。
ただ、そうはいっても実際にこうした先進技術をすぐに企業が取り入れられるわけではありません。
そこでKDDIとしては、法人のお客さまに対してこうした環境先進技術をサービスとして提供するべく、両社の間をつなぐという役割も担っています。こうすることで技術の発展も支援し、再生可能エネルギーの企業利用を促進できると考えています。
より詳しい取り組みについては『サステナビリティ統合レポート2022』をご覧いただくと参考になると思います。
—法人のお客さまへカーボンニュートラル推進を支援する背景などを教えてください。
法人のお客さまがカーボンニュートラルの取り組みを加速できるように支援していくことが、社会全体のCO2排出の抑制につながっていくと考えています。
前回の記事でも説明がありましたが、東証プライム市場上場企業に対しては気候関連情報の開示が義務化されており、有価証券報告書の備考欄にその記載をすることが課されています。
カーボンニュートラルの取り組みは、自社が排出している温室効果ガスの直接排出量を指すScope1、電力会社から供給された主に電気の使用に伴う間接排出量を指すScope2、そして調達する資材やサービスや機器、物流、社員の出勤や出張などサプライチェーン全体のCO2排出量を指すScope3があります。
カテゴリ | 活動例 |
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1. 購入した製品・サービス | 原材料の調達、パッケージングの外部委託、消耗品の調達 |
2. 資本財 | 生産設備の増設 (複数年にわたり建設・製造されている場合には、建設・製造が終了した最終年に計上) |
3. Scope1,2に含まれない 燃料及びエネルギー活動 | 調達している燃料の上流工程 (採掘、精製など) 調達している電力の上流工程 (発電に使用する燃料の採掘、精製など) |
4. 輸送、配送 (上流) | 調達物流、横持物流、出荷物流 (自社が荷主) |
5. 事業から出る廃棄物 | 廃棄物 (有価のものは除く) の自社以外での輸送 (注1) 、処理 |
6. 出張 | 従業員の出張 |
7. 雇用者の通勤 | 従業員の通勤 |
8. リース資産(上流) | 自社が賃借しているリース資産の稼働 (算定・報告・公表制度では、Scope1,2 に計上するため、該当なしのケースが大半) |
9. 輸送、配送(下流) | 出荷輸送(自社が荷主の輸送以降)、倉庫での保管、小売店での販売 |
10. 販売した製品の加工 | 事業者による中間製品の加工 |
11. 販売した製品の使用 | 使用者による製品の使用 |
12. 販売した製品の廃棄 | 使用者による製品の廃棄時の輸送(注2)、処理 |
13. リース資産 (下流) | 自社が賃貸事業者として所有し、他者に賃貸しているリース資産の稼働 |
14. フランチャイズ | 自社が主宰するフランチャイズの加盟者のScope1,2 に該当する活動 |
15. 投資 | 株式投資、債券投資、プロジェクトファイナンスなどの運用 |
その他 (任意) | 従業員や消費者の日常生活 |
KDDIはネットワークやモバイルといった通信インフラを始め、ICTソリューションを構成するハードウェアやアプリなど、まさに法人のお客さまが調達するサービス・機器に関わっています。Scope3はユーザーである法人企業の努力ではなく、提供者側がCO2削減に取り組むべきスコープなので、KDDIがCO2排出抑制を進めることはサプライチェーン全体のCO2削減に貢献することになりますし、その取り組みを基に法人企業のカーボンニュートラルを支援していくことで全体の取り組みをスピードアップできると考えています。
—実際にお客さまである法人企業のカーボンニュートラルに対する取り組みはどれくらい進んでいるのでしょうか?
大企業については、Scope1、2は取り組む施策の検討が済んでいるところも加えると約90%が取組みに着手していると言えるかと思います。
一方、範囲が莫大に広くなるScope3まではなかなか手が回っていないというのが現状かと思います。Scope3は範囲が広いうえ、自社だけの努力ではCO2排出を削減できないというのも一因となっています。Scope2もやはり電力会社に委ねてしまうところはあるので、「どうやってScope2、Scope3に取り組むべきか考えなくてはならない」という声もお聞きします。
—大手企業ではカーボンニュートラルへの取り組みが進んでいるけれど、達成までのハードルはやはり高いのですね。
中小企業の取組みとしてはいかがでしょうか。
報告義務があることや対策に人手がかけられるという点で、現在は大手企業が先行している状態です。
前回の記事でもあったように、まずは大手企業が先行して蓄積した知見をScope3でサプライチェーン内に展開するという流れになると思います。
やはり企業の規模が大きければ大きいほど、使用する電力や機器、サービスも大きなものになりますし、その分会社としてカーボンニュートラルに取り組む体制の構築が早いので、全体的な取り組みは速く進んでいる感があります。
—カーボンニュートラルに取り組む企業に対し、KDDIはどのようなソリューションを提供しているのか教えてください。
大きくは二つあります。一つは、従業員の出張や通勤に関わるCO2排出量を削減すること。もう一つはCO2排出量の削減と可視化を実現するモバイル料金プランの提供です。先に前者についてお話します。
こちらは安全で快適なリモートワーク環境を提供することにより、Scope3で定義されている従業員の出張や通勤に関わるCO2排出量を削減することです。安全なリモートワークを実現するための手段として、KDDIではゼロトラストといわれるセキュリティソリューションを提供しています。
ゼロトラストとは、従来のように社内のネットワークやシステムと社外との境界を分けることなく、強固な認証基盤とエンドポイントの端末やネットワークのセキュリティなどを組合せ、データを安全に利用するためのソリューションです。
これにより、リモートワーク時に場所に縛られずに安全に業務を進められます。
また、KDDIはオンラインミーティングのサービスとして、Microsoft Teamsや Webex Meetings、Zoom、空間自在ワークプレイスなどのサービスも提供しているので、出張することなくリモートでのミーティングを進めることも可能です。
—なるほど。実際にカーボンニュートラルに向けてゼロトラスト、そしてリモートワークを導入する企業も増えているのでしょうか?
やはりリモートワーク自体はコロナ禍の外出制限で進んだというのが事実です。その後、業務継続に向けてハイブリッド環境を整えていったという流れです。
ただ、きっかけはどうであれ、リモートワークの浸透が、カーボンニュートラルにも効果があることは事実です。
後追いになってはいますがこれまで働き方改革や感染対策の文脈で進んできたリモートワークやハイブリッドワークに、もう1つカーボンニュートラルという文脈が加わったことで、働き方を柔軟にする事が企業にもたらす価値がより高まっていると思います。
KDDIではサービスを提供するだけでなく、その後の運用フェーズに入った後で運用状況を見ながら使い勝手を改善していく提案をオペレーションのなかで対応させていただくことを重視しています。そうした意味で、よりお客さまの目的に合った導入を実現できると思います。
—もう1つのカーボンニュートラルに向けた取り組みを教えてください。
法人のお客さまを対象に、CO2排出量の削減と可視化を実現するモバイル料金プランの提供を開始しました。
これはScope3に関わる取り組みです。少々複雑なので、少し詳しく説明しましょう。
KDDIが提供しているモバイルやイントラネット、インターネットなどのICTサービスにおいては大量の電力を使用しています。
そういった中、再生可能エネルギーの発電事業や自社設備への直接供給をすること、基地局スリープによる電力の削減など、さまざまな手段を講じてオフセット (相殺) に取組んでいます。
前述したように、Scope3におけるCO2排出量の算出・削減については自社の活動範囲外にまたがるので非常に難しいのですが、現在は国が定める単位と算出方法によって「目安が示され、それをもとに企業は算出をしています。本来であれば、インフラやサービスを提供する企業側から実際のCO2排出量を提示すればいいのですが、現状では数値の公開は行われておりません。
今回の本プランは、KDDIが実際に電力をグリーン化していくことでCO2排出を削減し、その分をオフセット (相殺) することで、利用企業のScope3の排出量削減に貢献するといったものになります。
なお、どんなに電力のグリーン化を進めても排出量をゼロとすることは非常に困難です。たとえばモバイルサービスの基地局を建設したり、ネットワークに必要な鉄塔を作るという際には何らかのCO2排出があるので、こうした部分は削減できないものとして残ります。ただ、基地局の運営に必要な電力量はグリーン化によりオフセットして出すことができるので、結果としてより少ない数値をお客さまに提示することができます。
—なるほど、自社努力でどうにもできないScope3の調達部分の数字を示すことで、Scope3の取り組みが進むわけですね。
企業の方からの期待は大きいですね。
Scope3は大企業でもなかなか着手できない分野です。相手に対してカーボンニュートラルを求めることは非常に難しく、そこがScope3の取り組みが進まない要因になっていますが、こうした取り組みががScope3の第一歩になることを期待しています。
—カーボンニュートラルのソリューションを展開するに当たり、KDDIの強みを教えてください。
第1に、KDDIグループにはエナリスという電力事業会社がおり、再生可能エネルギーを利用する取り組みを進めています。
こうした電力ソリューションを提案できると共に、第2としてICTサービスを提供しているサービスプレイヤーであるという特徴があります。これにより、私たちの取り組みそのものがお客さまのScope3の削減につながります。カーボンニュートラルのソリューションをワンストップで提供できるところが他社にはない強みになります。
他のキャリアやインフラ事業者を含め、Scope3に関わる1次データは公開されておりません。
そのため前述した通り、国が基準を示して各企業がCO2排出量を計算しているのですが、今回KDDIが先駆けて自社の排出量を算出し、1次データとして公開することで、国内のインフラサービス事業者がカーボンニュートラルにおける1次データを公開するようになることを期待しています。それによりScope3の取り組みもより進んでいくでしょう。
こうした取り組みが社会のカーボンニュートラル推進の活性化につながることを期待しております。
—最後にカーボンニュートラルに取り組む企業にメッセージをお願いします。
KDDIではICTサービスを通じ、法人顧客の事業のDX化を支援してきました。
この従来のICTサービスに、さらにカーボンニュートラルという価値を折り込んで、DX化を進めることで、社会の持続的成長に貢献していくことができます。
こうしたソリューションを通じお客さまのカーボンニュートラルの実現と企業活動の両面を支援してまいります。