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レガシーシステムとは、過去の古い技術や仕組みで構築され、現在の業務要件やセキュリティ基準に十分対応できなくなったシステムの総称です。具体的には、メインフレームやオフコン (オフィスコンピューター) といった旧世代のハードウェアや、現在では使われなくなったプログラミング言語で開発された業務システムなどが該当します。
これらのシステムは、長年の運用によって複雑化・肥大化し、改修や機能追加が困難になっているケースが少なくありません。「時代遅れのIT資産」とも言い換えられ、企業の競争力を低下させる大きな要因とみなされています。
長く使われてきたシステムがレガシー化するのは、単に技術が古くなるからではありません。組織の運用体制や過去の改修の積み重ねなど、さまざまな要因が絡み合って発生します。ここでは、その代表的な3つの要因を解説します。
システムがレガシー化する大きな要因の一つが、度重なる改修による構造の複雑化です。事業環境の変化に対応するため、場当たり的に改修や機能追加を重ねていくと、処理同士の依存関係が複雑に絡み合い、全体構造を把握しづらくなります。
結果として、わずかな変更でも予期せぬ不具合が発生しやすくなり、システム改修のリスクとコストが増大します。例えば、20年前に導入した販売管理システムに度重なる改修を行った結果、データ連携の不整合が頻発し、新機能追加に大きな工数がかかるといったケースが典型例です。
システムを理解できる人材や資料が失われることも、レガシー化を加速させる要因です。開発当時の技術者が退職し、設計書や仕様書といったドキュメントが十分に整備されていない場合、システムは内部構造が分からない「ブラックボックス」状態になります。
その結果、残された担当者は仕組みを十分に理解できないまま運用を続けることになり、障害発生時の原因究明や改修が困難になります。軽微な修正であっても影響範囲が読めず、対応に時間がかかるため、次第に「触ること自体がリスク」と認識されるようになります。
レガシー化の背景には、システム刷新に対する経営判断の先送りもあります。システム刷新には多額の投資や一時的な業務負荷が伴うため、「まだ動いているから」という理由で抜本的な見直しが後回しにされるケースは少なくありません。
しかし、この判断によって問題は解消されるどころか、応急的な改修が積み重なり、システムの老朽化と複雑化がさらに進行します。その結果、数年後にはより大規模で困難な刷新プロジェクトを余儀なくされ、経営リスクが一層高まるという悪循環に陥ります。
レガシーシステムを使い続けることは、業務効率の低下やコストの増大に留まらず、事業継続そのものを脅かす深刻なリスクを内包しています。ここでは、企業が直面する具体的なリスクを解説します。
レガシーシステムは、運用ノウハウが特定の個人に集中する「属人化」を招きやすいという深刻なリスクを抱えています。これは、組織の知的資産であるべき情報が、公式な記録ではなく個人の記憶の中にしか存在しない状態にほかなりません。
この状況下で担当者が離職すれば、システムの仕様や運用ノウハウは完全に失われます。残された従業員ではトラブル対応もままならず、最悪の場合、業務が停止し事業継続が不可能になる事態を招きます。
古い技術で構築されたレガシーシステムは、その維持管理に多額のコストがかかります。専門技術を持つエンジニアの確保が難しく人件費が高騰するほか、老朽化したハードウェアの保守費用も経営を圧迫します。
さらに、複雑化したシステムは障害が発生しやすく、一度トラブルが起きると原因究明や復旧に時間がかかり、業務停止による経済的損失は甚大なものになりかねません。維持するだけでコストがかさみ、IT予算を新たな投資に振り向けられないという悪循環に陥ります。
レガシーシステムの処理速度の遅さは、従業員の生産性に直接的な影響を及ぼします。例えば、日次や月次のデータ集計に長時間かかる「バッチ処理 (注1)」の間、従業員は作業を中断せざるを得ません。この待ち時間が日常的に発生することで、業務効率は著しく低下し、結果として不要な残業代の増加につながるケースもあります。
また、直感的でない操作画面や複雑な業務フローは、従業員のストレスを増大させ、モチベーションの低下を招く要因にもなるでしょう。
ビジネスを取り巻く環境は常に変化しており、法改正や新たなビジネスモデルへの迅速な対応が求められます。しかし、柔軟性に欠けるレガシーシステムでは、こうした変化にスピーディーに対応することが困難です。
例えば、2024年1月から本格施行された電子帳簿保存法のように、法制度の変更に伴うシステム改修が必要な場合でも、レガシーシステムでは対応に多大な時間とコストを要します。結果として、ビジネスチャンスを逃したり、法令遵守ができなかったりするリスクが生じます。
レガシーシステムで利用されているOSやミドルウェアは、メーカーのサポートが終了している場合が少なくありません。サポートが終了すると、新たな脆弱性が発見されても修正プログラムが提供されず、サイバー攻撃の格好の標的となります。
新型のマルウェアやランサムウェアへの抵抗力が著しく低下し、情報漏えいやシステム停止といった深刻な事態を招く危険性が高まります。
経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」は、日本企業が直面している現在の経営課題です。2026年現在、保守人材の不足やシステム障害の増加といった問題はすでに表面化しており、レガシーシステムからの脱却は待ったなしの状況となっています。
そもそも「2025年の崖」とは、同省が2018年に公開した「DXレポート」で指摘した問題です。このレポートではレガシーシステムが残存し続けた場合、2030年までに年間最大12兆円の経済損失が生じうると試算されていました (注2)。
この予測が現実のものとなりつつある今、レガシーシステムの刷新は、企業が今後も持続的に成長していくための喫緊の経営課題といえるでしょう。
レガシーシステムから脱却するためのアプローチは、一つではありません。既存システムの状況や経営戦略に応じて最適な手法を選択することが、刷新を成功させる鍵となります。ここでは、その代表的な3つのアプローチを解説します。
既存のIT資産を最大限に活用し、段階的にシステムを現代化したい企業にとって、モダナイゼーションは有効なアプローチです。
モダナイゼーションとは、既存のIT資産 (ソフトウェアやデータ) を有効活用しながら、最新の技術や設計思想に基づいてシステムを刷新する手法です。代表的な手法として以下の3つが挙げられます。
| 手法 | 概要 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|
| リプレイス | 既存システムを、同等機能を持つパッケージ製品などの新システムへ置き換える方法。 | 開発期間が短く、コストを抑えやすい。最新機能を利用できる。 | パッケージ仕様に合わせるため、業務側の運用変更が必要になる場合がある。 |
| リホスト | アプリケーションはそのままに、ハードウェアやOSなどの基盤のみを新環境へ移す方法。 ※「マイグレーション」とも呼ばれ、本記事の5-2で詳述。 |
アプリケーションの改修量が少なく、リスクが低い。 | アプリケーション自体が抱える課題は解決されない。 |
| リライト | 業務ロジックは同じまま、新しい言語やアーキテクチャでプログラムを作り直す方法。 | 既存業務を維持しながら最新技術へ移行できる。保守性も向上。 | 開発工数が大きく、コストも高額になりやすい。 |
マイグレーションとは、前述したモダナイゼーションの一手法である「リホスト」と実務上ほぼ同義で使われる言葉です。特にアプリケーションの変更は最小限に、インフラの老朽化や保守コストといった課題解決に焦点を当てる際に、この呼び方が用いられます。
つまり、システム全体を刷新する広範なモダナイゼーションの中でも、特に「IT基盤の引っ越し」という側面に特化したアプローチがマイグレーションである、と理解すると分かりやすいでしょう。
利用者の操作性や業務フローを変えることなく、ハードウェアの老朽化や保守コストの増大といったインフラ課題をピンポイントで解決できる点が、マイグレーションの大きなメリットです。
インフラ運用の負荷を軽減し、ビジネスの柔軟性や拡張性を高めたい企業には、クラウドプラットフォームの活用が適しています。サーバーやネットワーク機器を自社で保有・運用 (オンプレミス) せず、IaaSやPaaSなどの基盤を利用するアプローチです。
基盤をクラウド化することで、ハードウェアの老朽化や保守切れといったインフラ起因の課題から解放されます。さらに、ビジネスの成長に合わせてリソースを柔軟に拡張できるほか、最新のセキュリティ対策がサービスとして提供されるため、自社の運用負荷を大幅に軽減できる点も特長です。レガシーシステムからの脱却において、現在特に採用が進んでいるアプローチの一つといえます。
関連サービス: KDDI クラウドプラットフォームサービス
ここからは、実際にクラウドサービスを活用してレガシーな業務プロセスからの脱却を実現した企業の事例を紹介します。
あるITサービス企業は、長年の事業拡大に伴い、継ぎ足しで構築してきた社内ネットワークが複雑化・老朽化していました。その結果、システムの処理速度の低下や運用管理の負担増大、さらには大規模なリモートワークへの対応が困難になるなど、数多くの課題を抱えていました。
そこで同社は、このレガシーなIT基盤を抜本的に改革するため、KDDIのクラウドサービスを導入。オンプレミスで稼働していたサーバー群を「KDDI クラウドプラットフォームサービス」へ移行するとともに、ネットワーク全体を刷新しました。
これにより、通信速度は大幅に向上し、セキュアで快適なリモートアクセス環境を実現。また、システムの運用をKDDIに集約したことで、情報システム部門の管理負担も大幅に軽減され、柔軟な働き方を支えるIT基盤の近代化に成功しました。
本記事では、レガシーシステムの定義から、それがもたらすリスク、そして「2025年の崖」との関係性について解説しました。レガシーシステムを放置することは、コストの増大やセキュリティリスクを招くだけでなく、DX推進を妨げ、企業の競争力を低下させる要因となります。モダナイゼーションやクラウド活用といった手法を通じてレガシーシステムから脱却することは、もはや先送りできない経営課題です。まずは自社のシステムの現状や課題を整理し、最適なアプローチを検討することから始めてみてください。将来のビジネス成長に向けた第一歩として、計画的なIT基盤の刷新に取り組むことが重要です。
KDDIでは、国産のクラウドプラットフォームサービス「KDDI クラウドプラットフォームサービス (KCPS)」を提供しています。KDDIの閉域ネットワークサービスとの接続を強化し、オンデマンドで柔軟なネットワーク構築を実現します。システムの刷新やクラウド移行をご検討中なら、ぜひKDDIにご相談ください。国内運用・柔軟な構成でクラウド移行を支援します。