※ 記事制作時の情報です。
CSIRTとは、Computer Security Incident Response Teamの略称であり「シーサート」と読みます。CSIRTは企業や組織内で発生するサイバー攻撃や情報漏えいなどのセキュリティインシデントに対し、専門的かつ組織横断で対応するための体制・組織です。単なる技術部門ではなく、IT、法務、広報、経営層といった多様な部署と連携しながら、被害の最小化と早期収束を目的に活動します。
CSIRTは、標準化されたワークフローに沿って、インシデント対応を段階的に実行します。
このようにCSIRTは、窓口対応から復旧・再発防止までを一貫したワークフローで管理します。対応手順を標準化し、関係部門と連携することで、属人化を防ぎつつ迅速かつ確実なインシデント収束を実現するのが特徴です。
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サイバー攻撃が高度化するなかで、迅速かつ組織的な対応体制の整備は不可欠です。CSIRTは、被害拡大の防止、事業継続の確保、法規制対応を同時に実現するために活動します。
近年、国内外で報告されるサイバーインシデント件数は増加傾向にあります。警察庁の発表によると、令和7年上半期における「警察庁が検知した不審なアクセス件数」は9,085件と引き続き高水準であり、送信元の大部分が海外からのアクセスという状況です。
引用: 警察庁サイバー警察局「令和7年上半期におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」(PDF)
特に昨今では、ランサムウェアによる二重脅迫や標的型攻撃に加え、生成AIを悪用した攻撃が新たな脅威となっています。生成AIの普及により、自然な日本語メールや業務文書を模倣したフィッシングが容易になっており、従業員がそれらを見抜くことは困難です。
こうした環境では、単発的な対応や個々人の判断に頼る方法には限界があります。そのため、専門組織として継続的に判断・対応できるCSIRTの重要性が一層高まっています。
CSIRTは、BCP (事業継続計画) やDR (災害復旧) との運用をつなぐ接続点として機能します。インシデント発生時、IT障害として切り分けるのか、あるいは事業停止リスクとしてBCPを発動するのかを判断し、経営層やIT部門の担当者の橋渡しを担います。
例えばランサムウェア感染時には、CSIRTが技術的な封じ込めと被害評価を行い、その結果に基づいてDR環境への切り替えや業務の優先順位付けといった経営判断を支援します。
こうした活動の成果は、KPIによって可視化することが可能です。代表的な指標として、インシデントを検知するまでの平均時間であるMTTD (Mean Time To Detect) や、復旧までに要した平均時間を示すMTTR (Mean Time To Recover) が挙げられます。
CSIRTによりこれらの指標を短縮することで、売上損失や信用低下を抑え、BCP・DRと連携した安定的な事業継続につながります。
CSIRTの役割は、インシデント発生を防ぐ事前対応 (プロアクティブ) と、発生後に被害を抑える事後対応 (リアクティブ) に大別されます。
SOC (Security Operation Center:ソック) が24時間365日の監視体制でEDRやSIEMなどから不審な挙動を検知し、その情報をアラートとしてCSIRTへ連携します。
この通知を受け、CSIRTはトリアージ (優先度判定) を行い、誤検知なのか即応すべきインシデントなのかを迅速に判断します。対応が必要と判断した場合、通信ログや認証ログを分析し、不審な挙動や侵入経路、影響を受けた端末やアカウントを特定します。マルウェアの関与が疑われる場合は、ファイルのハッシュ値確認や挙動解析を行い、感染拡大の有無を確認することが必要です。
このようにCSIRTは、高度な分析結果に基づいて封じ込めや復旧の判断を行う役割を担っています。
CSIRTは国内外の脅威動向を把握するため、JPCERT/CC (日本のCSIRTで国内のサイバー攻撃情報の収集・分析を行う機関) や業界ISAC、セキュリティベンダーから提供される脅威インテリジェンスを活用します。
これらの情報から、攻撃元IPアドレス、不正ドメイン、マルウェアのハッシュ値などのIOC (Indicator of Compromise:侵害の痕跡・指標) を整理し、SOCやEDR (Endpoint Detection and Response:端末に侵入した脅威やサイバー攻撃を検知・対応するための対策)、ファイアウォールへ展開します。さらに、他社CSIRTとの情報共有を通じて、新たな攻撃手法や被害事例を早期に把握することも欠かせません。
こうした継続的な収集と共有により、検知精度の向上と被害の未然防止を実現します。
CSIRTとSOCは役割が明確に分かれています。
両組織が連携することで、迅速なインシデント対応が可能です。
SOCの主な目的は、不正アクセスやマルウェア感染を早期に発見することです。SIEM (Security Information and Event Management) やEDRを用いて常時監視を行い、異常を検知するとCSIRTへ通知します。
一方のCSIRTは検知後のインシデント対応を担い、システム停止判断や関係部門との調整、対外対応を統括します。
例えば、深夜に不審な通信を検知するのはSOCですが、業務影響を踏まえて対応方針を決定するのはCSIRTです。なお、最近ではJSOCのように、SOC機能を外部委託するケースも増えています。この場合でも、最終的な意思決定と対応責任は自社CSIRTが担い、外部SOCは検知と分析を専門的に支援する立場となります。
SOCとCSIRTが効果的に機能するためには、平時からの連携設計が重要です。
まず、検知した事象をどの段階でCSIRTへ通知するかを、エスカレーション基準として明文化します。次に、初動対応や調査開始までの時間をSLAとして定め、対応遅延を防ぎます。さらに、アラート内容、影響範囲、推奨対応を記載する共有フォーマットを統一することで、判断の遅れを抑制可能です。
加えて、月次レビューや定例会議を通じて検知状況や対応結果を共有し、連携プロセスを継続的に改善していく姿勢も重要です。
CSIRTの構築は、計画から運用改善までを段階的に進めるのが基本です。
初期構築フェーズは特に失敗しやすく、プロジェクト全体の成否に直結します。そのため本章では、重要度の高い「プロジェクト立ち上げ」と「体制構築と役割定義」について詳しく解説します。
CSIRT構築でまず取り組むべきは、目的と到達目標を明確にすることです。「なぜCSIRTを作るのか」を明確にし、初動対応時間の短縮や被害抑制といった具体的な目標を設定しましょう。
次に、情報システム部門を中心に、法務、広報、総務、経営層などの関係部門からメンバーを選定します。これは技術対応だけでなく、契約確認や対外説明が必要となるためです。プロジェクト全体のスケジュールについては、体制設計、手順書作成、訓練実施を段階的に配置します。
また、緊急時に誰が判断し、誰が指示を出すのかといった意思決定フローを事前に決めておくことで、混乱のない対応が可能になります。
CSIRTの体制は、組織規模や人員に応じて設計します。主な活動形態は以下の3つです。
集中型は専任チームが対応を一元管理し、判断スピードの最大化を図る形態です。分散型は各部門に担当者を配置することで、現場に近い情報を迅速に集められる点が特長です。統合型は集中型と分散型の両者を組み合わせ、平時は集中管理、有事は部門連携を強化します。
具体的な役割としては、全体を統括する責任者、技術的な調査を行う分析担当、社内外の調整を行う連携担当などを配置するのが通例です。こうした役割を明確にしておけば、経験の浅い担当者が関わる場合でも、迷わず行動できる体制を整えられるでしょう。
CSIRTを機能させるためには、組織的な土台づくりが欠かせません。特に重要なポイントは以下のとおりです。
CSIRT構築において経営層の理解と支援を得るためには、サイバーリスクを経営視点で可視化することが重要です。
例えば、情報漏えいが発生した際の売上損失や業務停止期間、ブランド価値低下などを試算した資料を準備します。さらに、CSIRT未整備時と整備後の想定損失額を比較・提示すれば、投資対効果を客観的に証明できるでしょう。
加えて、定期的にリスク評価レポートを共有し、CSIRT活動を経営判断と結び付けることで、継続的な支援を得やすくなります。
CSIRTの活動は、自社内だけの対応で完結するものではありません。他社CSIRTやセキュリティベンダー、JPCERT/CCなどの専門機関と連携することで、より高度な対応を実現できます。
平時から連絡窓口を定め、緊急時の連絡手段や報告・共有するタイミングをルール化しておくことが重要です。情報共有にあたっては、開示情報の範囲や匿名化ルール (個人や企業が特定されないよう加工・制御するための取り決め) をはじめ、情報の取扱レベルを事前に定義しておきます。
日常的な演習や勉強会を通じて関係性を構築しておけば、実際のインシデント対応をスムーズに進められます。
CSIRT導入のメリットは、組織全体のセキュリティ対応力が向上する点です。
CSIRTを導入すると、インシデント発生時の初動対応が大きく改善されます。
対応手順や判断基準が事前に整理されているため、検知から対応開始までの時間を短縮できます。例えば、インシデント検知までの平均時間を示すMTTDや、復旧に要する平均時間であるMTTRの大幅な短縮が可能です。ある調査によれば、CSIRTに取り組んでいる企業は未対応の企業と比較して、被害額や復旧時間を80%~90%削減し、再発率も70%程度低下させたとのことです。
初動が早まることで、感染端末数や情報漏えい範囲を限定できるだけでなく、調査や復旧にかかるコストも抑えられます。さらに、属人的な対応から組織的な対応へ移行できるため、より安定したセキュリティ運用を実現可能です。
CSIRTをBCPやDRと連携させれば、インシデント発生時でも事業継続を前提とした判断と復旧が可能になります。迅速かつ適切な対応は、お客さまや取引先への影響を軽減し、信頼関係の維持にも貢献するでしょう。
さらに、法令やガイドラインに沿った対応を組織的に実施できるため、行政指導や罰則リスクの低減にもつながり、長期的な企業価値の維持を支えます。
サイバーインシデントが多発する現代の企業活動において、CSIRTは不可欠な組織です。SOCによる検知とCSIRTによる対応を分担・連携することで、被害の最小化と早期収束を実現できます。
構築には、明確な目的設定や経営層の理解に加えて、適切な権限設計や外部組織との連携が欠かせません。自社に適したCSIRT体制の整備が、事業継続性の向上と顧客信頼の維持につながります。
ただ、体制整備には専門的な判断が求められる場面も多く、「これで十分だろうか」と不安を抱くケースもあります。こうした不明点を解消し、より確実に体制を強化するためにも、専門家の知見を参考にすることは一つの有効な手段です。
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