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「スターリンク (Starlink)」とは、米国の宇宙開発企業SpaceX社が提供する衛星インターネットサービスです。従来の地上回線が届きにくい山間部や離島でも、高速かつ安定した通信環境を実現できる点が注目されています。
電源とアンテナキットがあれば短時間でインターネットに接続できる手軽さも評価され、現在は個人利用に加え、法人・自治体での導入も進んでいます。
関連ソリューション:スターリンク (Starlink)
「スターリンク」は、高度約550kmの低軌道衛星 (LEO) を数千基単位で地球の周囲に配置し、地上から常に複数の衛星と通信できるよう設計されています。このような多数の衛星を連携させる技術を衛星コンステレーションと呼び、地球全体をカバーすることで切れ目のない通信を実現する仕組みです。
ユーザーは専用アンテナ (Starlinkキット) を設置し、衛星からの電波を受信します。アンテナは自動で最適な衛星を選び、SpaceXの地上局を経由してインターネットへ接続します。この仕組みにより、光回線に近い通信品質を衛星経由で提供可能です。
「スターリンク」は、従来の静止衛星通信よりもはるかに高速・低遅延な通信を実現しています。2025年10月時点でStarlink公式の「サービス提供状況マップ」(注1) を確認すると、東京都周辺では下り約214〜343Mbps、上り約30〜55Mbpsの通信速度が表示されています。この数値は一般的な固定回線やモバイル通信に近い水準です。
この高速通信を支えるのが、低軌道を周回する衛星群による短距離伝送です。衛星と地上局の距離が短いため、データの往復時間が減り、動画視聴やオンライン会議でも安定した品質を保てます。地方や山間部などでも、光回線に迫る快適な通信が可能です。
「スターリンク」の大きな特長は、従来の静止衛星通信とは異なり、低軌道 (約550km) を周回する多数の衛星で通信を行う点です。静止衛星は高度約36,000kmに位置するため、通信距離が長く遅延が大きくなりやすいことが課題でした。
一方、「スターリンク」は衛星と地上局の距離が短いため、遅延を大幅に削減できます。通信速度や安定性の面でも、固定回線に近い品質を実現しています。両者の主な違いを以下の表にまとめました。
| 比較項目 | スターリンク (低軌道衛星) | 従来の衛星通信 (静止衛星) | 固定回線 (光回線) |
|---|---|---|---|
| 高度 | 約550km | 約36,000km | 地上 |
| 通信速度 | 下り約100~200Mbps 上り約25Mbps |
下り約10~50Mbps | 下り1Gbps前後 |
| 遅延 | 約30〜40ms | 約600ms前後 | 約10ms前後 |
| 通信安定性 | 高い (天候の影響が少ない) | 低い (雨・雲の影響あり) | 非常に高い |
| 主な用途 | 山間部・離島・災害時・インフラ未整備地域など | テレビ中継・海上通信・緊急用 | オフィス・家庭利用 |
(2025年10月現在)
「スターリンク」の衛星通信に関する法人向けサービスはこちら
「スターリンク」は、これまで通信が難しかった場所でも高速で安定した接続を可能にし、災害時や臨時利用にも柔軟に対応できる点が魅力です。ここでは、「スターリンク」のメリットを4つ紹介します。
「スターリンク」は、地上の通信インフラに依存しないため、山間部・離島・海上など固定回線が届かない地域でも安定した通信が可能です。地上局と低軌道衛星を経由して接続する仕組みにより、地形や距離に左右されずに利用できます。
その特性から、建設現場やイベント会場など、一時的なネットワーク構築が必要な場所でも活用が進んでいます。通信環境の確保が難しい現場でも、即座に業務や配信を開始することが可能です。
「スターリンク」の現場利用を紹介する関連記事は以下をご参照ください。
「スターリンク」は、衛星通信でありながら下り平均150Mbps・上り25Mbps以上の通信速度を実現しています。低軌道衛星の活用により遅延はおおむね30〜40msに抑えられ、オンライン会議や動画配信も快適に行うことが可能です。
一般的な光回線 (下り1Gbps前後・遅延10ms程度) と比べても体感速度の差は小さく、地上設備に依存しない利点を活かして安定した通信を提供します。災害時や移動先でも、業務継続に必要な通信品質を確保できます。
「スターリンク」は、地上インフラに依存しない通信手段として、BCP (事業継続計画) におけるバックアップ回線として有効です。災害時に光回線や携帯ネットワークが途絶しても、衛星経由で通信を確保できるため、情報共有や業務継続を支援します。
また、停電や基地局障害が発生してもアンテナ電源さえ確保すれば通信可能で、通信途絶リスクを大幅に低減可能です。自治体や企業では、緊急時の対応体制強化に向けた導入が進んでいます。
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導入事例:株式会社日本取引所グループ様
「スターリンク」は、アンテナキットを設置するだけで利用を開始できる手軽さが特徴です。専用アプリを使って衛星との接続状態を確認し、アンテナの角度を自動調整すれば、数十分で通信できるようになります。
光回線のように宅内工事や配線作業を行う必要がなく、設置場所さえ確保できれば即日利用が可能です。そのため、建設現場や臨時オフィスなど、短期間で通信環境を整えたいケースにも適しています。
多くの利点を持つ「スターリンク」ですが、利用環境やコスト面では注意すべき点もあります。ここでは、導入前に理解しておきたい主なデメリットを紹介します。
「スターリンク」は、衛星とアンテナが直接電波をやり取りするため、建物・樹木・看板などの遮蔽物があると通信が不安定になる場合があります。特に衛星の位置が低い角度にあるときは、わずかな障害物でも電波の途切れが発生しやすくなります。
安定した通信を確保するには、空が広く見渡せる屋上や高台など、360度に近い範囲で視界が開けた場所への設置が理想です。専用アプリを使えば、衛星の通過範囲を確認し、最適な設置位置を簡単に特定できます。
「スターリンク」は高品質な通信を提供しますが、導入費用や月額料金は従来の固定回線よりやや高めです。ただし、衛星通信としてのコストパフォーマンスは非常によく、ギガバイト (GB) 単価では安価の部類に入ります (インマルサットやイリジウムと比較した場合)。さらに、2025年6月9日にプランが改定され、主要な用途である陸上向けの料金はより安くなっています。
衛星通信ながら低コストで、固定回線とほぼ同じ速度を体感できるのが特徴です。
費用面での負担はありますが、地上回線が届かない地域や災害時にも通信を維持できる仕組みは、事業継続を支える有効な手段といえます。
料金プランはこちら
KDDIでは、利用環境に応じて4種類の「スターリンク」関連サービスを展開しています。スマートフォン向けから海上通信まで、あらゆる業種・拠点で活用が可能です。
| サービス名 | 利用方法 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| au Starlink Direct | 衛星通信対応スマホを設定後すぐ利用可能 |
・圏外エリアでスマホ通信 ・災害時対応 |
・地上ネットワーク不要 ・対応機種のみ利用可 |
| Starlink Business | 固定拠点にStarlinkキット設置、工事不要 |
・山間部 ・離島 ・BCP対策 |
・下り最大220Mbps、 遅延数十ms ・国内/海外/海上対応プランあり |
|
Starlink Business 海事向けプラン |
船舶/港湾にアンテナ設置 海上で高速通信 |
・海上業務 ・観光船Wi-Fi ・港湾通信確保 |
・海上対応 ・高速/低遅延で業務効率化 |
| au Starlink Station | Starlinkでauエリアを構築 | 山間部や島しょ地域でauエリア拡張 | 不感地帯でモバイル通信環境構築 |
(2025年11月現在)
これらのサービスを活用することで、地上回線が届かない地域でも安定した通信環境を確保できます。
「スターリンク」は、地上回線の整備が難しい地域や現場でも安定した通信を実現できることから、さまざまな業界で導入が進んでいます。ここでは、建設業や海上業務など、実際に活用されている事例を紹介します。
建設業界では、山間地や仮設現場など通信環境が整っていない地域での連絡や図面共有が課題でした。光回線の敷設は手間とコストが大きく、紙の資料を持ち運ぶ負担もありました。
こうした課題を解消するため、低軌道衛星を利用する「Starlink Business」を導入。衛星アンテナを設置・設定するだけで、短時間で回線を構築できるうえ、工事終了後に別の現場へ移設も容易です。高速かつ低遅延の通信の確保により、クラウドや施工管理アプリの利用が可能となり、タブレットで必要な図面や書類を確認できるようになりました。
また、ウェブカメラを使って現場の映像を事務所や支店から確認し、遠隔で安全指示や打ち合わせを行えるようになり、業務効率と安全性が向上しました。現在は通信品質や操作性を踏まえ、緊急用回線として全拠点への展開を検討しており、BCP (事業継続計画) の強化につながると期待されています。
導入事例:株式会社大林組様
海洋上の船内ではインターネット利用に制約があり、通信速度の遅さから業務のデジタル化が進んでいませんでした。また、乗組員が快適に通信できる環境を求める声も多く、労働環境の改善が課題となっていました。
そこで「Starlink Business 海事向けプラン」を採用し、低軌道衛星による高速・低遅延の通信回線を船上に構築。短期間で運用を開始し、従来の衛星通信では実現できなかった高品質なネットワークを確立しました。
導入後は陸上と同等の通信環境が整い、クラウド活用や大容量データの送受信が可能となりました。入出港時の連絡や手続きが円滑になり、業務の効率化が進んでいます。
さらに、洋上でも家族や友人とのチャットやメールが可能となり、乗組員の満足度も向上しました。今後はこの通信基盤を活かし、ワーケーションや船内エンターテインメントなど、新たなクルーズ体験の拡充へと発展していく見込みです。
「スターリンク」は、地上の通信インフラに依存せず、低軌道衛星による高速・低遅延通信を実現する次世代のインターネットサービスです。山間部や離島、海上など、従来の回線では接続が難しかった場所でも安定した通信を確保でき、災害時のバックアップ回線としても活用が広がっています。
今後は、BCP対策や遠隔業務の効率化を重視する企業にとって、事業継続とDX推進を支える重要なインフラとなるでしょう。
KDDIでは、企業や自治体向けにさまざまな「スターリンク」のプランをご用意しています。工場や建設現場、離島や山間部などのインターネット環境が不安定な場所や、災害時の通信確保など、ニーズに合わせた最適なサービスをご提案します。
「スターリンク」を活用し、遠隔地や高速通信が求められる場面での事業展開や、新たなサービスの創出など、さまざまな事業の可能性を支援します。