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IoTセキュリティとは、IoTデバイス(機器)や接続するネットワーク全体をサイバー攻撃から守る取組です。デバイス、ネットワーク、クラウドの各層で安全性を確保することが、サービスの信頼性と継続性を支える基盤となります。
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昨今ではスマート家電や産業用ロボット、医療機器など、さまざまなデバイスがIoT化されネットワークに接続しています。総務省の「情報通信白書 令和7年版」(注1)によると、世界のIoTデバイス数は2024年に約420.4億台に達しており、今後も増加する見込みです。
その一方で、セキュリティ面の設定や対策が不十分なまま利用されるケースも少なくありません。同白書では、サイバー攻撃関連通信全体の約3割をIoTデバイスが占めており、不正アクセスによる違反事件の検挙件数も増加傾向にあると示唆されています。
IoTデバイスはサイバー攻撃の標的となりやすいため、その対策としてIoTセキュリティが注目され、企業においても導入や強化の動きが加速しています。
IoTセキュリティは、従来のITシステムとは管理構造や運用体制が大きく異なります。以下に「管理対象」「ライフサイクル」「ネットワーク環境」のポイントをまとめました。
| ポイント | 従来のITセキュリティ | IoTセキュリティ |
|---|---|---|
| 管理対象 | PC・サーバーなど限定的 | 家電・センサーなど多岐にわたる |
| ライフサイクル | 数年で更新 | 10年以上稼働する機器も多い |
| ネットワーク環境 | 社内ネットワーク中心 | 公衆ネットワーク・5Gなど広範囲 |
このようにIoTは対象が広く、ライフサイクルも長いため、従来のITセキュリティでは対応できない点に注意が必要です。
IoT機器が増えるほど、サイバー攻撃の入口も増加します。ここでは、家庭・企業それぞれで起こりうる脅威と、実際に発生した被害事例を紹介します。
身近なIoT機器も、設定や管理を怠るとサイバー攻撃の標的となりかねません。初期設定のまま使用したり、ソフトウェア更新を放置したりすると、脆弱性を突かれるおそれがあります。例えば、スマートスピーカー「Amazon Echo」やネットワークカメラ「TP-Link Tapo」では、脆弱性を突かれ不正アクセスによる盗聴や乗っ取りのリスクが報告されています。
攻撃者にIoTデバイスへの侵入を許してしまうと、家庭内Wi-Fiを経由してほかのデバイスに侵入し、個人情報の窃取や遠隔操作を行うこともあるでしょう。
このように、IoTデバイスが日常生活と密接に関わっているため家庭内ネットワーク全体を守る意識が重要です。
企業におけるIoT機器の脅威は、業種ごとに形を変えます。製造業では、生産ラインのIoTセンサーが攻撃を受け、産業用IoT機器がマルウェアに感染すると設備停止に陥り生産ロスが発生します。
また、医療業界ではIoT医療機器が不正操作されると、患者データ流出や生命の危険にもつながりかねません。物流・小売業では、在庫管理システムが改ざんされ、誤配送や信用失墜の原因となることも考えられます。
IoTデバイスの安全性は、企業の事業継続(BCP:Business Continuity Plan)に直結する経営課題として捉えるべきです。
2017年、マルウェア「Mirai(ミライ)」による大規模DDoS(分散型サービス妨害)攻撃が世界中で発生しました。この攻撃により監視カメラやルーターなどのIoT機器が感染し、ボットネット(遠隔操作ネットワーク)を形成。標的となったWebサービスは一時的に停止し、X(旧Twitter)やAmazonなどに大規模な障害をもたらしました。
Miraiの被害が拡大した原因は、初期パスワードのまま運用されたことや、ID・パスワードをハードコーディング(プログラム上に直接記述すること)していたIoTデバイスが多数存在していたことです。
このようにIoTセキュリティの対策を怠ると、私たちの生活や企業の経営活動に甚大な被害が発生するリスクがあります。
総務省と経済産業省が策定した「IoTセキュリティガイドライン」(注2)では、以下の5つの指針に基づくライフサイクル全体での対策が求められています。
「方針」の策定では、企業を守るために、組織的なセキュリティ方針を明文化し、全社員が共通の認識を持つ必要があります。特にIoTは、IT部門だけではなくさまざまな部門が関与するため、部門横断的な体制構築が不可欠です。経営層がIoTセキュリティに関するリスクを経営課題として捉え、リソースを適切に配分することが、継続的なセキュリティ向上につながります。
また「方針」では、社員や退職者による「内部不正」が潜在する可能性を認識し、適切な対策を検討することも重要です。悪意を持つ場合はもちろん、ミスがあっても自社の安全を脅かすことがないように注意しましょう。
「分析」では、システム全体を俯瞰し、どの資産を守るべきかを明確にします。
まず、IoTデバイスが扱うデータや制御対象の中から「守るべきもの(重要資産)」を特定します。次に「ネットワークにつながること」によるリスクを想定し、社内外ネットワーク、クラウド、他社システムなどとの接続点を洗い出しましょう。そのうえで、一部の機器が侵害された場合にほかの領域へ波及する「連鎖リスク(感染拡大リスク)」を評価します。
また、IoTデバイス特有の物理的リスク(センサー破壊や端末の不正持ち出し)にも注意が必要です。さらに、過去のインシデント事例などから攻撃の傾向や対策事例を学び、自社環境で起こり得るシナリオに落とし込みます。
これらの分析を体系的に行うことで、より現実的かつ効果的なセキュリティ対策を立案できます。
「設計」では、個々の機器だけではなく、それらをつなぐネットワークやデータを処理・保存するクラウド環境、さらには連携対象のアプリケーションなどシステム全体としても安全性を確保することが重要です。各IoTデバイス単体に対する防御と同時に、ネットワーク全体としての堅牢性が確保できる構成を意識します。
次に、異常検知時は他社システムや外部ネットワークなど「つながる相手」へ影響や迷惑を及ぼさないよう、通信制御やアクセス制限を設計段階で組み込みます。さらに、安全・安心を実現するために、全体設計の整合性を保ち、不特定多数と接続しても安全を維持できる構造を構築することも重要です。
IoTシステムの「構築・接続」では、IoTデバイスの機能や用途に応じて適切なネットワークへ接続し、不要な外部通信を遮断します。初期設定時には、デフォルトパスワードの変更や不要機能の無効化を徹底し、攻撃されるポイントを減らすことが重要です。さらに、デバイス認証やユーザー認証を導入し、正規の利用者・機器のみがアクセスできるよう制御します。
これらの構築・接続段階での対策が、運用以降のセキュリティ基盤を支えることになります。
IoT機器は長期稼働が前提となるため、製品の出荷・リリース後も「安全・安心な状態」を維持することが重要です。まず、運用段階ではベンダーから提供されるファームウェア更新情報を定期的に確認し、必要に応じて更新を行います。また、サービス提供者はIoTデバイスの一般利用者に「つながることによるリスク」を理解してもらうことで、不注意による被害を防止できます。
IoTシステムに関わるすべての関係者(製造者、通信事業者、利用者)が自らの役割を認識し、協働して安全を維持する体制を築くことが不可欠です。さらに、脆弱なIoTデバイスや旧型製品を把握し、利用者へ注意喚起を行うことも、社会全体のセキュリティレベルを高めるうえで重要な取組となります。
本章では、IoTセキュリティの向上に有効な5つの具体策を紹介します。
IoTデバイスの多くは購入時の初期パスワードのまま利用されており、不正アクセスの格好の標的となります。攻撃者はインターネット上で公開された既知のパスワードリストを悪用し、容易に侵入を試みます。
そのため、初期設定時にパスワードは英大文字・小文字・数字・記号などを組み合わせた複雑なものへ変更するほか、デバイス証明書(電子的な身元証明)を用いた認証を導入することが重要です。さらに、ユーザー認証とデバイス認証を組み合わせた多要素認証(MFA)を採用すれば、なりすましや不正接続のリスクを大幅に低減できます。こうした多層的な認証体制が、IoT環境の安全性を根底から支えます。
IoTデバイスはデータを頻繁にやり取りするため、通信経路の安全確保が重要です。通信内容が暗号化されていない場合、攻撃者による盗聴やデータ改ざんのリスクが高まります。これらを防ぐために、TLS(Transport Layer Security)やSSL(Secure Sockets Layer)といった暗号化プロトコルを導入し、送受信データを保護します。特にIoTデバイスは性能が限られるため、軽量暗号(低リソース環境向け暗号技術)を採用することで、セキュリティと性能の両立が可能です。
IoTネットワークでは、一台のIoTデバイスが侵害されただけで、ほかのデバイスはもちろん企業内部のネットワークへ波及するリスクがあります。そのため、ネットワーク分離(IoT専用ネットワークの構築)を行い、業務システムや個人端末とは明確に分けて運用することが重要です。さらに「最小権限の原則(必要最小限のアクセス権のみ付与する考え方)」を適用し、必要な権限のみを付与することで、被害の拡大を防げます。
また、アクセスログを定期的に確認し、不審な通信や接続を早期に検知できる体制を整えましょう。アクセス制御はIoT環境の“防波堤”として機能する重要な仕組みです。
IoTデバイスは設置後に長期間稼働するケースが多いですが、古いソフトウェアのまま放置されると攻撃者の標的となります。そのため、ファームウェアやOSのアップデートを継続的に管理し、脆弱性が発見された際には、速やかに修正版を配信できる体制を構築することが重要です。
また、自社でも脆弱性診断ツールを活用し、セキュリティ状態を定期的に確認しましょう。更新状況を記録・監査することで、運用管理の透明性を高められます。
サイバー攻撃や情報漏えいなどのセキュリティインシデント(事故)は、完全に防ぐことが難しいため「起きたあとにどう対応するか」が重要です。CSIRT(Computer Security Incident Response Team:セキュリティ対応専門チーム)を設置し、検知から報告、分析、封じ込め、復旧までのプロセスを標準化することが求められます。
また、定期的にインシデント対応訓練を行い、関係者間の連携手順を確認しておくと、実際の発生時にも迅速に対応できます。
IoTの活用が進む一方で、サイバー攻撃の標的は家庭から企業まで広がっています。「導入して終わり」ではなく、設計・構築・運用のすべての段階でセキュリティを意識することが重要です。IoTデバイスの多様化が進む今こそ、組織全体でセキュリティ方針を共有し、継続的に点検・改善していく取組が求められます。小さな対策の積み重ねが、結果的に大きな被害を防ぎ、安心してIoTを活用できる社会を実現します。
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