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マルウェアとは、「悪意のあるソフトウェア」を意味する言葉で、利用者や企業に害を与える目的で作られたプログラム全般を指します。ウィルス、ランサムウェア、トロイの木馬など、さまざまな種類がこの中に含まれます。よく耳にするウィルスは、マルウェアの一種で、ウィルス自身がほかのファイルに入り込み、増やしながら広がっていくのが特徴です。イメージとしては、大きなカテゴリであるマルウェアの中に、ウィルスというグループが位置づけられています。
企業は顧客情報や取引データ、技術資料などの貴重な情報を多く保有しています。これらは攻撃者にとって金銭的な価値が高く、転売や恐喝の対象となります。特に、ランサムウェアによる金銭要求や取引先を経由して感染を広げるサプライチェーン攻撃が増加しています。例えば、ある企業が感染すると、その取引先にも被害が波及し、業務停止や信頼低下につながるケースがあります。中小企業でも被害は他人事ではなく、攻撃者はセキュリティ対策の甘い組織を狙って侵入します。
マルウェアの手口や目的は多岐にわたります。ここでは、企業や個人が特に注意すべき代表的な3つのマルウェアについて、その特徴と被害例を紹介します。
ランサムウェアは感染したパソコン内のデータを暗号化し、復旧のために金銭(身代金)を要求します。営業資料や顧客データが暗号化され、業務が停止するケースも多く、2021年には日本国内で製造業や医療機関が被害を受け、復旧までに数週間を要した事例が報告されています。攻撃者は暗号化解除の「鍵」を売りつけ利益を得る仕組みです。こうした攻撃は業務再開に多大なコストがかかります。
トロイの木馬は、安全そうなファイルやアプリを装って利用者にインストールを実行させるマルウェアです。インストールすると、内部にバックドアと呼ばれる侵入口を作り、攻撃者が遠隔から操作できるようにします。これにより、社内ネットワークの監視や情報の抜き取り、別の攻撃への利用などが可能になります。感染後は端末の操作記録や機密データが外部に流出する危険があるため、注意が必要です。
スパイウェアは、利用者が気づかないうちにパソコン内の個人情報や行動履歴を収集し、外部へ送信するマルウェアです。収集されるのはID・パスワードやクレジットカード番号、閲覧履歴など多岐にわたり、オンラインバンキングのログイン情報を盗み、不正送金に悪用される事例があります。無料アプリのインストール時や不審な広告クリックで侵入することが多く、一度感染すると被害範囲を特定するのが難しくなります。
マルウェアは日常の業務やインターネット利用の中で、さまざまな経路から侵入します。ここでは、特に注意すべき4つの感染経路とその特徴を紹介します。
特に多い感染経路がメールです。業務連絡や請求書を装ったメールに添付されたファイルを開いたり、本文中のリンクをクリックしたりすると感染するケースがあります。こうした手口は標的型攻撃メールと呼ばれ、実在する取引先を名乗るなど、受信者を巧みに騙すのが特徴です。見分けるポイントは、送信元アドレスの不自然な違い、文面の不自然な日本語、開封を急がせる内容などです。
Webサイトの閲覧だけで感染する、ドライブバイダウンロード攻撃も警戒が必要です。これは、正規サイトの広告やスクリプトが不正に改ざんされ、アクセスしただけでマルウェアが自動的にダウンロードされるものです。利用者が特別な操作をしなくても感染するため、被害に気づきにくい点が特徴です。OSやブラウザ、プラグインを常に最新の状態に保ち、不要な拡張機能を無効化しておくことで、攻撃を受けにくい環境を整えられます。
USBメモリや外付けハードディスクを通じた感染も依然として多く見られます。特に外部の取引先や個人が使用したUSBにウィルスが仕込まれている場合、接続しただけで自動的にマルウェアが起動する危険があります。社内で使用するデバイスはウィルススキャンを行い、私物の持ち込みを制限するルールを設けることが重要です。また、社外とのデータ授受はクラウドストレージを利用するなど、より安全な方法への移行も有効です。
ソフトウェアの脆弱性(セキュリティ上の欠陥)を突いた攻撃も増えています。古いOSやアプリを使い続けると、既知の脆弱性を悪用され、外部から不正アクセスを受ける危険があります。特に更新通知を無視したまま放置すると、攻撃者にとって侵入しやすい環境を自ら作り出すことになります。定期的にアップデートを行い、公開された修正プログラム(パッチ)を速やかに適用することが被害防止の基本です。
マルウェア感染時に見られるサインや被害など、次の4つのポイントについて紹介します。
マルウェアに感染したパソコンは、さまざまな異常を示します。次のような兆候が見られたら、感染の可能性を疑いましょう。
✓起動や動作が急に遅くなった
✓ブラウザを開くと不審な広告やページが自動で表示される
✓覚えのないアプリやツールが勝手にインストールされている
✓ファイル名が勝手に変更されている、または開けなくなっている
✓セキュリティソフトが突然無効化されている
✓謎のエラーメッセージや警告画面が頻発する
これらはマルウェアが内部で活動しているサインです。特に「ウィルス検出」などの偽警告を表示して、有料ソフトを購入させようとするスケアウェアも存在します。異常を感じたらインターネット接続を切り、速やかにシステム管理者やセキュリティ担当へ報告しましょう。
企業が受ける甚大な被害企業がマルウェアに侵入されると、想像以上の打撃を受けます。中でも重大なのは、顧客情報や取引データといった機密の漏えいで、いったん信用が揺らぐと回復には長い時間がかかります。ランサムウェアではデータが暗号化され、システム停止によって工場や店舗の稼働が止まり、事業が一時中断することもあります。さらに、復旧や原因調査には多額の費用が発生し、経営への負担は避けられません。漏えいに個人情報が含まれていれば、個人情報保護法に基づく損害賠償や行政処分を受ける可能性もあります。こうした一次被害に加え、ブランド価値の低下といった二次的な影響が長引くことも珍しくありません。だからこそ、日ごろからの予防と迅速な初動対応の整備が何より重要です。
マルウェアの脅威を防ぐには、日常的な意識と組織的な対策の両立が欠かせません。ここでは、企業が実践すべき5つの基本対策を紹介します。
セキュリティソフトは、マルウェアから企業のシステムを守る第一の防御線です。ウィルス検知や不正アクセスの遮断に加え、最近ではAIによる未知の脅威検出も行われます。導入するだけでなく、運用を継続的に行うことが重要です。特に「パターンファイル」と呼ばれるウィルス定義データを常に最新の状態に保つことで、新たな脅威にも対応できます。また、定期的なフルスキャンを実施して潜在的な感染を早期に発見することも効果的です。法人向けセキュリティソフトでは、複数端末を一括で管理できる機能も備わっており、運用負担を軽減できます。さらに、クラウド型のセキュリティサービスを導入すれば、社外の端末やリモート環境でも一貫した保護を維持でき、最新の攻撃手法に合わせて自動的に防御内容が更新される点も大きな利点です。
関連サービス: セキュリティ
古いOSやアプリを使い続けると、セキュリティ上の欠陥(脆弱性)が悪用されるリスクが高まります。開発元は脆弱性を発見すると修正プログラム(パッチ)を配布しますが、適用を怠ると攻撃者の標的になりやすくなります。特に、OSやWebブラウザ、業務で利用するアプリは、常に最新の状態を保つことが基本です。自動更新設定を有効にすることで、更新漏れを防ぎやすくなります。また、使用していないソフトを削除しておくことも有効です。最新バージョンを保つことは、攻撃の入り口を減らす簡単で確実な対策のひとつです。さらに、アップデート適用の記録を管理台帳で残すことで、社内全体の更新状況を可視化し、運用上の抜けや遅れを防ぐことができます。
マルウェアの多くは、社員の操作ミスがきっかけで入り込みます。だからこそ、システム面の対策だけでなく、利用する人の意識を高める取り組みが欠かせません。不審なメールを安易に開かない、見覚えのないURLをクリックしないといった基本的な注意が、感染防止に直結します。なかでも効果的なのが、実際の攻撃に近い形で行う「標的型メール訓練」です。定期的に実施することで、従業員が危険な兆候に気づく力が養われます。また、社内のセキュリティポリシーを分かりやすくまとめ、新入社員研修や定期的な勉強会に組み込むと、組織全体の意識を底上げできます。内容は最新の攻撃手口や実際に起きた被害事例を取り入れながら更新し、一人ひとりが自分の業務と結びつけて考えられるようにすることが大切です。
社内システムでは、すべての従業員が同じ権限を持つことはリスクにつながります。そこで重要なのが「最小権限の原則」です。従業員一人ひとりに対し、業務を遂行するうえで必要な範囲のアクセス権限だけを付与するという考え方です。例えば、経理担当が開発用データベースにアクセスする必要はなく、開発担当も経理システムに触れる機会もありません。権限を最小化することで、業務外の情報閲覧や誤操作を防げます。
また、マルウェア感染など不正侵入が発生した場合にも、攻撃者がシステム内を自由に移動できないため、重要データや他部門への侵入が阻止されるのです。さらに、定期的に権限を見直し、退職者や異動者のアカウントを削除することも欠かせません。こうした仕組みをIT部門と連携して整備することで、安全で透明性の高い情報管理体制を維持できます。
バックアップは、企業がデータを守るための最後の砦といえる存在です。ランサムウェアによりファイルが暗号化されても、別に保存しておいたデータがあれば業務を止めずに復旧へ進めます。中でも広く用いられているのが「3-2-1ルール」です。3つのコピーを作り、2種類の媒体に分け、さらに1つは別の場所に置いておくという方法で、トラブル発生時の安全性が高まります。クラウドストレージと外付けドライブを併用すれば、障害や災害にも柔軟に備えられます。自動バックアップを設定し、定期的に復元テストを実施して、いざという時に確実に使える状態を維持することが重要です。加えて、バックアップデータ自体を暗号化して保管しておけば、仮に外部に流出したとしても簡単に内容を読み取られにくくなります。
感染が疑われる場合は、初動対応の速さが被害拡大を防止の鍵です。初動を誤ると復旧に時間とコストがかかるため、あらかじめ手順を定めておきましょう。実際の対応を3段階のフローで解説します。
端末に異変を感じたとき、使い続けるのは危険です。マルウェアはネットワークを通じて広がるため、まず行うべきは「通信を止める」措置です。LANケーブルを抜く、Wi-Fiを無効にする、BluetoothやUSB接続をはずすなど、端末が外部とやり取りできない状態にします。こうした初動が遅れると、社内サーバーや共有フォルダにまで影響がおよび、ランサムウェアの場合は重要データが次々と暗号化されてしまうおそれがあります。隔離したら、ログや操作履歴が消えないように電源は切らずにそのまま維持します。
端末を切り離したら、次は被害がどこまで及んでいるかを確認します。異常が発生した時間や影響を受けたファイル、直前の操作内容などを整理し、通信履歴も可能な範囲で確認します。状況がまとまったら、情報システム部門やセキュリティ担当へ速やかに報告します。発生日時や端末名、表示された症状を伝えることで調査が進めやすくなります。顧客データや外部システムに影響が出る可能性がある場合は、経営層や広報部門にも共有し、早めに対応方針を固めておくことが重要です。
被害状況を把握したら、専門ツールを使ってマルウェアを駆除します。多くのセキュリティソフトには駆除機能が備わっており、検出された脅威を安全に削除できます。ただし、完全に除去できない場合や感染が深刻な場合は、システムの初期化やOSの再インストールが必要になることもあります。駆除後はバックアップからデータを復元し、正常に動作するかを確認します。また、感染経路を特定して同じ原因による再感染を防ぐことも大切です。定期的な監査と対策見直しを行うことで、被害を最小限に抑えつつ、将来的なリスクにも備えられます。
自社に適したセキュリティサービスを選ぶときは、次の3つのポイントを確認しましょう。
1つ目は保護範囲です。守る対象が端末だけなのか、ネットワークやクラウドまで含むのかによって、必要なサービスは変わります。攻撃手口は年々複雑になっているため、広い範囲を保護できる仕組みを選ぶと安心です。
2つ目は運用体制です。セキュリティ対策は日々の監視や分析が欠かせません。24時間監視やインシデント対応を提供するマネージド型サービスであれば、専門部署がなくても安定した運用ができます。
3つ目がサポート体制です。問い合わせ窓口の対応時間や日本語サポートの有無も確認ポイントになります。導入支援が含まれるサービスなら運用開始もスムーズです。
これらを基準に検討することで、適したサービスを見つけやすくなります。
関連サービス: KDDI マネージドセキュリティサービス
マルウェアは日々進化を続けており、企業や個人を狙った攻撃も巧妙化しています。感染を防ぐには、技術的な対策だけでなく、社員一人ひとりの意識改革も欠かせません。日常のセキュリティ教育、システムの更新、バックアップ体制などを継続的に整備することが、効果的な防御になります。もし感染が疑われた場合は、慌てず冷静に初動対応を行うことが重要です。組織として明確な手順と責任体制を定め、平時から備えておくことで、万一の際も被害を最小限に抑えられます。
マルウェアや多様化するサイバー攻撃にしっかり備えるには、専門的な知識と継続した運用が欠かせません。KDDIでは、端末・クラウド・ネットワークを一体的に守る「マネージドゼロトラスト」を提供し、企業の環境に合わせた最適な防御設計を行っています。導入後の監視や運用も専門チームが担うため、負担を感じることなく対策を進められます。初めてのセキュリティ強化でも、専任スタッフが寄り添いながらサポートします。