KDDIはケーブルテレビ事業者にFTTH対応エリアの中規模集合住宅のインターネットサービスを高速化するソリューションとして、G.fastを提供している。G.fastは既設の棟内2Wメタル線 (電話導線) を活用し、上下総和1Gbpsのサービスを実現する。大規模な棟内工事を行わずに光サービスと同等の高速サービスが可能だ。 KDDIが提供するG.fastを導入してインターネット加入世帯の急増と解約防止で高い効果を上げている古河ケーブルテレビ株式会社 (茨城県) の事例をレポートする。
( 取材・文:渡辺 元・月刊ニューメディア編集長、写真:広瀬まり )
図 : KDDIが提供するG.fastの概要
古河ケーブルテレビは2020年9月、KDDIが提供するG.fastシステムを中規模分譲集合住宅4棟の合計約320世帯に導入した。現在そのうちの約100世帯がインターネットサービスに加入し、G.fastを通したインターネットを利用している。2021年4月には、新たに2棟の中規模集合住宅の合計約300世帯でも施工を予定している。
古河ケーブルテレビの設立は2017年。ケーブルテレビ株式会社 (栃木市) が子会社の古河ケーブルテレビを設立し、これまで古河市でサービスを行っていた別のケーブルテレビ事業者の事業を分割吸収して引き継いだ。旧事業者の施設は老朽化していた上、回線は450MHz仕様のHFCで、双方向運用は一部地域のみという状態だった。古河ケーブルテレビが旧事業者から事業を引き継いだ当初、約5,500世帯の利用者の多くは電波障害対策で低価格の同軸再送信を利用しており、多チャンネル、インターネットの加入者は非常に少なかった。テレビの多チャンネル加入は800世帯弱、インターネット加入は約450世帯で、毎月のように解約があり加入世帯の減少が続き、会社の存続ができない状況だった。
事業を引き継いだ古河ケーブルテレビの親会社であるケーブルテレビ株式会社は、全国でも早期にFTTH化を実施してきた。古河ケーブルテレビ株式会社 代表取締役 小林康行氏は、ケーブルテレビ株式会社でFTTH化に携わってきた実績がある。古河市でもFTTH化を進めるため、古河ケーブルテレビの社長に任命された。小林社長のもと、古河ケーブルテレビはFTTH伝送路を設計・敷設し、2019年にFTTHサービスを開始した。そこからわずか3年後の2022年までに、同軸ケーブル伝送を停止し、すべての利用者をFTTHサービスに移行させる計画だ。そのため、戸建て住宅のFTTH化と巻き取りを進めると同時に、4~12世帯程度の小規模集合住宅には親会社のケーブルテレビ株式会社が採用していたHCNA (HomePNA) を導入した。
そこで課題として残ったのが、中規模集合住宅のインターネット高速化だ。60世帯程度の中規模集合住宅ならHCNAの導入も可能と考え検討したが、HCNAは低い周波数帯しか使えず200Mbpsと速度が遅い。ブースターが多段になり、混合・分波を繰り返さなければならないという問題もある。世帯数の多い中規模集合住宅や大規模集合住宅へのHCNA導入はさらに困難だ。
また、古河ケーブルテレビのエリア内の中規模集合住宅は、1980年代ごろのバブル期に建設され30年近く経っているマンションが多い。世帯主は30代~40代のころにマンションを購入し、現在60代~70代になっている。その人たちは固定電話をあまり使わなくなった今でも契約している。そのため中規模集合住宅に導入するシステムは、インターネットだけでなく固定電話のサービスも提供できる必要がある。
しかし、HCNAは電話の認証が取れていない。これらの問題点から、HCNA導入は無理だと判断した。
そこで、別の方式を検討した。各戸へ光ファイバーを直接配線する方式は、専用線から光スプリッタなどで分配して各戸に配線することになるが、配管通線や曲がり部分への配線を考慮すると、加入者がある程度増えた段階で一軒一軒工事するのは困難だし、費用もかかってしまうため断念。C-DOCSISなどDOCSISを利用した集合住宅対応の方式については、旧事業者の中規模集合住宅でのインターネット加入者が数十件にとどまっていて、回線はDOCSIS 1.1を使っていたため、DOCSISの継続利用も断念した。
「このような時に、メタル線を利用したG.fastをKDDIから提案されました」と小林社長は導入のきっかけを説明する。G.fastはHCNAより高速の上下総和1Gbpsで、電話サービスも提供可能。施工は既設の棟内2Wメタル線を活用するため、光ファイバー直接配線より簡単で低コスト。DOCSISの技術は使わない。古河ケーブルテレビは検討を行った結果、HCNA、光ファイバーの直接配線、C-DOCSISのいずれの問題も解決できるG.fastの導入を決定した。
また、G.fastは放送サービスを同軸ケーブルに、通信サービスをメタル線へと回線を物理的に分離できる。「高度ケーブル自主放送など新しいサービスで周波数の利用が今後も増え続けることを考慮すると、回線を物理的に分離するという点でもG.fastにはメリットがあります」 (小林社長) 。
古河ケーブルテレビが導入した中規模集合住宅のG.fastの配線がどのような仕組みになっているか見ていきたい。
すでにG.fastの運用を始めている4棟の中規模集合住宅は各棟60~90世帯。この規模の中規模集合住宅では、1階のMDF (主配電盤) に親機を設置すれば、上階の世帯まですべて1段構成で配線できる (図) 。KDDIが提供するG.fastで使用しているNEC製の親機「VC1602G」は16ポートで、1台の親機から16世帯にサービスを提供可能だ。
さらに加入者が増えた場合はどうするか。VC1602Gは3段カスケード接続が可能で、16ポート×3段=48世帯にサービスを提供できる。マンション管理組合の理事会からは、「それでも全世帯が利用できないのでは」と言われたという。
しかし90世帯の中規模集合住宅で、他社のVDSLに加入している世帯もある中で、1台の親機が半数の世帯に対応できれば充分で、理事会にも理解を得られた。
そして「加入営業を開始した当初は、4棟の中規模集合住宅のそれぞれにG.fastの親機を1台ずつ設置していきました。多くのお客さまにご加入いただけそうな集合住宅には、2台目を追加で設置していきました」 (小林社長) 。古河ケーブルテレビならではの工夫も施した。「あらかじめ棟内配線を先行させるといった準備をして、必要に応じてすぐにカスケード接続ができるようにしました」 (古河ケーブルテレビ株式会社 営業技術課 主任 門倉智之様) 。
今のところ、3棟に2台ずつ、1棟に1台の親機を設置している。KDDIが提供するG.fastは3段カスケード接続ができることによって、このような融通がきくのだ。逆にもし加入者が減少していく場合には、親機の設置数を減らして加入者が増加している集合住宅に移設すればいい。「元々KDDIが提供するG.fastの親機は価格がそれほど高額ではありませんが、このように需要予測や営業状況を見ながら親機をカスケード接続してポートを有効活用できるのが優れています」 (小林社長) 。
2021年4月に導入する集合住宅は、約220世帯と約60世帯の中規模集合住宅だ。特に前者は28階建てのタワーマンション。この場合は階数が多いため、3段構成に分けて配線する。「低層階、中層階、高層階にMDFがあり、そこにそれぞれVC1602Gを設置します。干渉が発生しないことはすでに確認済みです。建物の構造にもよりますが、このように多段階構成でG.fastの親機を設置できれば、中規模集合住宅だけでなくタワーマンションにも導入できます」(小林社長)。
VC1602GはWebブラウザのGUIで設定できるのも特長だ。「今回の導入に当たっては、他のメーカーのG.fastも検討しました。しかし、そのメーカーの親機は、コマンドラインインターフェースでしか設定できませんでした。また、一つの設定がいろいろな部分に影響するため、設定方法が非常に複雑でした。それに対して、VC1602GはコマンドラインインターフェースだけではなくGUIで設定ができます」(門倉主任) 。 設定画面は日本語で、設定が非常にやりやすいのがVC1602Gの特長だ。
G.fastの工事については、「G.fastの親機の設置経験がある施工業者などにお声掛けして調査・施工をやっていただきました。安心して工事を進めることができています」 (小林社長) 。
G.fastは性能面でも優れている。
古河ケーブルテレビが先行的に導入した4棟約320世帯では、これまで十数世帯が旧事業者から30Mbpsのケーブルインターネットに加入していたが、それ以外のインターネット利用世帯のほとんどは、約100Mbpsの大手通信事業者のVDSLを利用していた。その利用者からは、インターネットの速度が出ないというクレームがマンション管理組合に寄せられていた。ケーブルインターネットから大手通信事業者のVDSLに乗り換える加入者も多かった。
それに対して、G.fastは上下総和1Gbpsと高速だ。実際にはVDSLとの干渉があるためその帯域を避ける必要があるが、「それでも上り下りを合わせて800Mbpsが可能です。古河ケーブルテレビでは下り8:上り2の割合で帯域を振り分けており、従来のVDSLよりはるかに高速で、充分戦っていけます」(小林社長) 。
中規模集合住宅への導入では、マンション1階のMDFにG.fastの親機を設置して、シャフト内の配線を10階以上まで上げ、そこから横に配線して各戸に接続している。棟内回線の距離が長くなる高層階では、親機から各戸までの回線の長さは約100mになるため多少の速度低下はあるが、「実際にお客さま宅でスピードを計測すると、下り300~500Mbpsはコンスタントに出ています」(門倉主任)。このくらいの速度が出ていれば、加入者に「上り下り合計800Mbpsのベストエフォートで、条件によって多少速度が遅くなる」という案内で充分理解してもらえる。実際に加入者から「通信速度が遅い」といった声はない。管理組合の理事長にも「インターネットが速くなった」ととても喜ばれているという。
G.fastを導入した効果は大きい。旧事業者のころからケーブルインターネットの解約が増えていたが、G.fast導入後はケーブルインターネット加入者の解約は1件も出ていないという明らかな効果が現れている。さらに、導入した320世帯のうち、旧事業者時代からの加入者約20世帯に加えて、約80世帯が他社のVDSLから乗り換えてケーブルインターネットに新規加入した。合計で100世帯以上のケーブルインターネット加入者を獲得できた。
「ほとんどのメーカーでは、VDSL装置が生産終了になっています。そのため今後、VDSL加入者が古河ケーブルテレビのG.fastによるインターネットサービスに乗り換えてくださることにも期待しています」 (小林社長) 。
古河ケーブルテレビでは集合住宅の規模、棟内の配線状況、入居者の年齢層、賃貸物件か分譲物件か、といったことを考慮してインターネットの棟内設備の方式を選択している。規模に関しては、基本的に60世帯未満の小規模集合住宅には、通信速度はあまり速くなく電話の利用もできないが、設備投資を低コストに抑えることができるHCNAを導入する。
一方、60世帯以上の中規模集合住宅には、「G.fastを主軸にして導入を進めていく」 (小林社長) という方針だ。2021年4月にG.fastを導入する2棟の集合住宅にも、インターネットサービスだけでなくKDDIのケーブルプラス電話などの電話サービスもセットで提供する。「G.fastでインターネットとセットにすることによって、電話サービスのご加入が増えることにも期待しています」 (小林社長) 。
他の通信事業者のG.fastが先に導入された集合住宅には、干渉の問題があるため後からケーブルテレビ事業者がG.fastで参入することはできない。古河ケーブルテレビは他の通信事業者に先んじて中規模集合住宅をG.fastで押さえ、他の通信事業者がVDSLからG.fastに切り替えるのを抑止する考えだ。「1棟目の導入で良い結果が出なかったら2棟目以降の導入はなかったかもしれませんが (笑) 、うまくいったため今後も中規模集合住宅への導入を続けていこうと思います。
今後も該当する集合住宅には次々にG.fastの導入を実施していきます」 (小林社長) 。FTTH化に力を入れている古河ケーブルテレビにとって非常に重要な中規模集合住宅のインターネット高速化に向けて、小林社長がG.fastに寄せる期待は大きい。
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