現在ケーブルテレビ事業者に必須となりつつあるのが、Mesh Wi-Fiの提供だ。
KDDIは2020年11月、「ケーブルテレビ事業者向け家庭用Mesh Wi-Fiのレンタルサービス」の提供を開始した。
最新規格Wi-Fi 6のMesh Wi-Fiで宅内における「Wi-Fiのつながりにくい場所」問題を解消するとともに、ケーブルテレビ事業者にとって課題だったWi-Fiのユーザーサポートの難しさを宅内通信環境の「見える化」によって大きく改善。
さらに、レンタルモデルによる機器提供で、入れ替わりの激しいWi-Fi機器の不良資産化を防ぐソリューションだ。
(取材・文:高瀬徹朗・ITジャーナリスト、渡辺 元・月刊ニューメディア編集長)
現在、全国のケーブルテレビ事業者でMesh Wi-FiとWi-Fi 6の採用が進んでいる。
Mesh Wi-Fiには利点が多い (図1)。従来のWi-FiはWi-Fiルーターと中継器を使った構成で、アクセスポイントが変わると手動で切り替える必要があるなど、使い勝手に課題があった。それに対してMesh Wi-Fiは、メインルーターとサテライトルーターに割り振られるSSIDが同一なので、宅内で端末を移動してアクセスポイントが切り替わっても自動でハンドオーバーできる。通信環境が悪化した場合は、最適な通信経路を自動で判別し、切り替える。
図1 Mesh Wi-Fiの仕組みと特長
Mesh Wi-Fiは親機・子機が常時効率的な通信経路を確保し、従来のWi-Fiによる中継器を使ったエリアカバーと比べて「つながりにくい部屋」などの問題が発生しづらい。人の手を煩わせることなく、常に安定した通信が提供されるため、加入者宅の通信品質を向上させると同時に、サポートも効率化したいケーブルテレビ事業者の採用が増えているのだ。
一方、Wi-Fi 6の導入意向はケーブルテレビ事業者だけでなく、一般企業も含めた市場全体の動向となっている。
MM総研が企業に勤務する国内ユーザー1,000人を対象に2019年11月に実施した「IoTの利用・投資動向調査」では、Wi-Fi 6を導入していない回答者のうち、Wi-Fi 6を「すぐに導入したい」という回答は1割強、「導入を検討している」は2割強、「導入コスト次第で検討したい」は4割弱で、これらのWi-Fi 6を導入済みまたは検討している人の合計は全体の7割を超えるという結果となった (図2)。
ケーブルテレビ事業者にとってMesh Wi-FiとWi-Fi 6 の採用は、新規契約者の獲得と解約防止の観点で必須になっていると言えるだろう。
このようなケーブルテレビ業界のMesh Wi-FiとWi-Fi 6へのニーズの高まりに応えるのが、KDDIがNECプラットフォームズ株式会社様とアライアンスを組んで2020年11月にリリースした「ケーブルテレビ事業者向け家庭用Mesh Wi-Fiのレンタルサービス」(図3) だ。
KDDIがケーブルテレビ事業者へのアンケートなどを進めた上で、
①最新規格であるWi-Fi 6への対応、
②ユーザーサポートを簡単にする、
③レンタルによる親機・子機の提供、
の3つの要件を満たすソリューションとして開始した。
Wi-FiルーターなどのWi-Fi 6に対応したMesh Wi-Fi機器とサポート技術は、NECプラットフォームズ様が提供している。
「世に20種類以上のMesh Wi-Fi対応機器が存在する中で、KDDIの掲げた3要件を満たしていたのはNECプラットフォームズ様のみ。
国内メーカーならではの強みとしてアフターフォローの強さやレスポンスの速さもあり、今回の展開において最適なパートナーと考えています」(上殿)
KDDIが掲げた3要件を軸に、「ケーブルテレビ事業者向け家庭用Mesh Wi-Fiのレンタルサービス」の特長を紹介していく。
まずは第1の要件「最新規格であるWi-Fi 6への対応」について。
Wi-Fi 6は速度面での優位性に加え、同時接続性に強みを発揮する。スマートフォンやタブレット端末での動画配信サービスが人気を集めている現状を踏まえると、ご家族が異なる端末で動画などを視聴するといった利用環境に対応する意味でも、Wi-Fi 6の採用が最適と考えた。
使用するWi-Fi 6対応Mesh Wi-Fi機器は、ケーブルテレビ業界以外でも実績のあるNECプラットフォームズ様の製品だ。
「新たな提供形態を構築するというKDDIの考え方も含め、お客さまに安心感を持ってご利用いただける機器の提供に賛同しました。価格面のバランスを考慮し、ストリーム数は現状の最上位である4本 (4×4) ではなく、2本 (2×2) としています」(木下様)
第2の要件「ユーザーサポートを簡単にする」を実現するのは、宅内Wi-Fi環境の「見える化」だ。
「ネットにつながらない、つながっているけれど安定しない、といった加入者からの相談に対して、ケーブルテレビ事業者は基本的に電話で対応しています。しかし、見えない加入者側の状況を会話だけで解決するのは難しく、工事班を派遣するなどの運用負担が発生していました。これを解決するのが、宅内環境の『見える化』です」(上殿)
宅内Wi-Fi環境を可視化できなかった従来のサポートでは、ケーブルテレビ事業者はWi-Fi機器に詳しくない加入者からの問い合わせに対して、原因が分からないまま工事班を派遣せざるを得なかった。工事班が加入者宅に行ってWi-Fiがつながらない原因を調べたところ、Wi-Fiルーターの電源が入っていなかった、といったことも実際にある。
それに対して本サービスは、加入者からの相談に応じてケーブルテレビ事業者のコールセンター側から宅内のWi-Fi環境を目で見て把握することができる。親機・子機の接続状態や電波強度の状況、それぞれにぶら下がるデバイスとの接続状況・電波状況などを文字通り「一目で」把握でき、問題点を容易に特定、解決することが可能になる。結果的にコールセンターと現場担当者の双方の負担を軽減できるわけだ。
この宅内Wi-Fi環境の「見える化」を可能にしているのが、NECプラットフォームズ様のケーブルテレビ事業者向け保守管理ソリューション「NetMeister Home」だ。
「『NetMeister Home』はクラウド統合型管理となっているため再起動やバージョンアップなどもクラウド側で対応でき、ケーブルテレビ事業者に最適なソリューションに仕上がっていると考えています」(中村様)
「NetMeister Home」の宅内Wi-Fi環境に関するトップ画面は、上部に親機・子機の構成やぶら下がりデバイスの数、電波強度などがわかるトポロジマップ、下部に管理する機器・デバイスの一覧が提示される構成 (画面写真1)。
電波は強度によって強い順に緑色⇒橙色⇒赤色と色付け表示される (画面写真2・3) など、一画面の中でわかりやすく、サポートに必要な情報のみに絞って視覚化している。
PC画面に「見える化」された宅内Wi-Fi環境のトップ画面。
上部のトポロジマップにはMesh Wi-Fiの親機・子機の接続構成や電波強度、下部のデバイス一覧には各機器のMACアドレスや電波強度などがわかりやすく表示されている。
各デバイスの別の詳細情報も表示できる。
写真は子機の1台の情報画面。
上位ネットワークとの接続の電波強度が、あまり良好ではない橙色で表されている。
電波強度は強さによって3色に色分けされているので一目でわかる。
画面写真2の子機の位置を移動したところ、上位ネットワークとの接続の電波強度は、良好であることを表す緑色に変わった。
電波強度の表示はリアルタイムに切り替わるため、宅内での現場サポートが容易になる。
現場担当者が契約者宅に出動することなく、契約者がコールセンターの電話サポートを受けながら自分で子機を移動して問題解決することもできる。
特にMesh Wi-Fiの場合、親機・子機の接続構成状況やデバイスがどのアクセスポイントに接続しているかなどの状況が重要となるため、「見える化」することで電話サポート対応は劇的に改善する。
トップ画面下部の管理装置一覧は通常、一部デバイスを除きMACアドレスで表示されるが、加入者側が任意で名前を変更することも可能。
「パパのPC」「長男のスマホ」といった名付けがそのまま画面表示に反映され、状況をより把握しやすくなる。
「対応するオペレーターにとって必要十分な情報を提供することが狙い。掲載できる情報は多くありますが、中でも必要な情報を絞りつつ、状況把握のしやすいデザインを目指しました」(前田様)
そして第3の要件は「レンタルによる親機・子機の提供」だ。
通信機器の進化は速く、そのスピードについていきながら加入契約者の親機・子機を入れ替えるのは、ケーブルテレビ事業者の負担が大きい。
そこでKDDIは従来の売り切り方式ではなく、月額レンタルプランを導入した。
加入者に最新の機器を気軽に提供できるようになるメリットはもちろん、ケーブルテレビ事業者も在庫のルーターを抱え込む必要がなくなり、加入者から戻ってきた機器の管理や整備作業も不要。機器に対する保守コストもかからず、ケーブルテレビ事業者のプロビジョニング作業の多くを削減することができる。
「常に最新サービスをご提供したいというKDDIの考えに同調できたことに加え、メーカーとしても環境に優しいエコの観点から極めて有効であると判断しています。基盤部分は再利用できますし、筐体のリサイクルも可能。廃棄物をなるべく減らしていくというNECグループの理念にも合致します」(永井様)
本サービスでレンタルされるWi-Fi 6準拠のMesh Wi-Fiルーターとしては、「インテリアとしても映えるよう」洒落た筐体デザインの据え置き型タイプを用意。
筐体アップデートも加入者より相談を受けた際に、ケーブルテレビ事業者のオペレーターから案内できるほか、遠隔でアップデート作業を行うことも可能な機器だ。
「KDDIでは、2020年9月からのプレリリース期間から全国のケーブルテレビ事業者に機器の貸し出しを行っており、管理画面の見やすさなどを含めご好評いただいており、管理ツールの使い方についてもわかりやすい、という声をいただいています」(上殿)
「ケーブルテレビ事業者向け家庭用Mesh Wi-Fiのレンタルサービス」は新時代のWi-Fiサービスと呼ぶに相応しいソリューションだ。
ケーブルテレビ事業者の新たな無線ソリューションとして、よりよい顧客サービスの提供につながることが期待される。
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