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ファシリティマネジメント (以下、FM) とは、企業が所有するファシリティ (土地・建物・構築物・設備など) を単に維持管理するのではなく、経営戦略の一環として最適に活用する経営管理活動です。
ファシリティは、経営資源である「ヒト・モノ・カネ」に続く「第4の資源」とされ、効率的かつ効果的に運用することで、コスト削減や生産性向上、資産価値維持といった成果が期待できます。
FMの詳細については、こちら。
従来の施設管理の目的は、建物や設備を安全に維持する「維持保全」でした。一方で、FMはファシリティを経営資源と捉え、経営戦略の視点から活用する点が大きな違いです。
| 項目 | 施設管理 | ファシリティマネジメント (FM) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 設備の維持・修繕 | 経営戦略に基づく最適活用 |
| 視点 | コスト削減中心 | 経営効率化・価値創造 |
| 業務範囲 | 保守点検・修理 | 計画立案・環境改善・資産活用 |
| 成果 | 安全性確保 | 生産性向上・資産価値維持 |
プロパティマネジメント (以下、PM) とFMは混同されやすい概念ですが、その目的と視点は大きく異なります。PMは賃貸収益や売却益の最大化を目指し、不動産の資産価値を高めることに重点を置きます。一方、FMはオフィスや工場を利用する従業員や組織のために、ファシリティの利用価値を最大化することが目的です。
つまり、PMが投資家やオーナー視点での不動産経営を重視する活動であるのに対し、FMは企業活動を支える基盤づくりを重視する利用者視点の活動です。この違いを理解することが、施設の役割を最大限に活かす鍵となります。
| 項目 | プロパティマネジメント (PM) | ファシリティマネジメント (FM) |
|---|---|---|
| 主な目的 | 不動産の資産価値最大化 | 利用者視点での利用価値最大化 |
| 対象 | 不動産全般 (投資物件など) | 企業活動を支える施設 (オフィス・工場・研究施設など) |
| 視点 | 投資家・オーナー | 利用者・経営戦略 |
| 成果 | 賃料収益・売却益の増加 | 生産性向上・働きやすさ改善 |
FMが注目される背景には、バブル崩壊以降のコスト削減を中心とした「経営効率化」「従業員の生産性や満足度を重視する働き方改革」「環境負荷低減や社会的責任を意識したESG経営の浸透」があります。
バブル崩壊以降、多くの企業は固定費削減を迫られ、施設運営においても効率化の視点が求められるようになりました。特に、老朽化した建物や設備への対応は避けられず、光熱費の抑制や修繕費の最適化が大きな課題です。FMは、こうしたコスト削減圧力に応える手段として重要性を増しています。
働き方改革を推進するうえで、職場環境の改善は生産性や従業員満足度の向上に不可欠な要素です。
近年は、座席を固定せず柔軟に働けるフリーアドレスや、仕事内容に応じて働く場所を選べるABW (Activity Based Working) が導入され、快適性と効率性を両立するオフィスづくりが注目されています。
企業の社会的責任が強く求められる中、FMは環境 (E)、社会 (S)、ガバナンス (G) を意識したESG経営の実現に欠かせない役割を担っています。
例えば、省エネ設備の導入や廃棄物削減、再生可能エネルギーの活用などを通じて環境負荷を低減し、持続可能な経営基盤を支える取り組みとして注目されています。
FMの目的は、ファシリティを経営資源として最大限に活用することです。この戦略的な活動を通じて、企業はコスト最適化、生産性向上、資産価値の維持・向上の効果を得られ、企業競争力の基盤を強化できます。
FMが目指すのは、単なる削減ではなく、運用コスト全体の最適化です。まず、エネルギー使用の見直しを通じてコストを抑制します。高効率な空調やLED照明への更新は、光熱費削減に直結する代表的な手法です。
また、修繕費の抑制と安定化も重要な課題です。ファシリティの劣化状況を定期的に点検し、予防保全を実施することで、突発的な修繕費を抑えられます。長期的な視点で計画的に投資することが、結果的にコストの安定につながります。
さらに、利用されていない会議室や倉庫といった遊休スペースを共有オフィスや貸出に活用すれば、維持費の削減と同時に新たな収益を生み出すことが可能です。
快適で機能的な職場環境は、従業員の知的生産性や定着率に大きな影響を与えます。空調や照明などの基本的な設備に加え、集中スペースと交流スペースをバランスよく配置することで、働きやすさが向上します。
特に、オフィスレイアウトの工夫は効果的です。動線を整理したり、フリーアドレスやオープンスペースを導入したりすることで、部門を超えたコミュニケーションが活性化し、組織全体のパフォーマンス向上につながります。
ファシリティは時間の経過とともに劣化しますが、適切な維持管理と計画的な修繕を行うことで長寿命化を図れます。これにより、不動産としての資産価値を高め、企業の経営基盤を安定させることが可能です。
特に重要なのが、長期修繕計画の策定です。劣化状況を踏まえて修繕の時期や内容をあらかじめ計画すれば、突発的な費用発生を防ぎ、予算を効率的に配分できます。結果として、ファシリティの価値を維持しながら持続的に活用できる環境が整います。
FMは、次の4つのステップで導入を進めます。
以下では、それぞれのステップについて詳しく解説します。
FMの第一歩は、利用状況を正しく把握することです。調査対象には、電気・空調などのエネルギー使用量、オフィスや会議室のスペース効率、さらには職場環境に対する従業員満足度を含めます。
エネルギーメーターや利用状況ログによる定量データの収集に加え、アンケートやヒアリングを通じて従業員の意見を把握するといった調査方法が有効です。また、現地調査を通じてファシリティの老朽化やレイアウトの課題を確認することで、改善に向けた課題を明確にできます。
現状調査で明らかになった課題を基に、改善計画を立てます。ここで重要なのは、すべての課題に同時対応するのではなく、費用対効果を踏まえて優先順位を付けることです。例えば、省エネ設備の導入など効果がすぐに表れる施策は早期に着手し、大規模修繕のように費用がかかる施策は中長期で進めます。
短期・中期・長期の視点を取り入れることで、即効性のある改善と将来を見据えた投資をバランスよく行えます。これにより、持続的に経営効率を高める実行性のある計画を策定することが可能です。
改善計画を実現するためには、まず責任者の設定が欠かせません。総務部門だけではなく、経理や情報システム部門など複数の部署が関与するため、役割分担を整理し、連携体制を整えます。
また、専門的な知見が求められる場合は、外部コンサルタントやアウトソーシングの活用も有効です。例えば、省エネ設備の導入や建物診断といった専門領域は外部の力を借りることで精度が高まり、効率的に実行できます。組織内外のリソースを組み合わせ、計画を着実に進めることが成果につながります。
FMの取り組みを定着させるには、KPI (重要業績評価指標) を設定し、定期的に効果を測定します。光熱費削減率や修繕コストの低減率、従業員満足度スコアといった数値を用いれば、改善の成果を客観的に評価できます。
その結果を基に、次の計画へ反映する「PDCAサイクル」を回すことで、取り組みを継続的に進化させられます。単発の改善で終わらせず、効果測定と改善を繰り返すことで、長期的に安定した経営基盤の構築につながるでしょう。
「認定ファシリティマネジャー (CFMJ) ※ 外部サイトに遷移します」は、公益団体が認定する民間資格です。日本ファシリティマネジメント協会 (JFMA)、日本プロパティマネジメント協会 (NOPA)、建築・設備維持保全推進協会 (BELCA) の3団体が協力して認定・運営しています。
この資格では、FM統括マネジメント、計画・運営、財務分析・評価、プレゼンテーション能力に加え、社会性・人間性・企業性・施設・情報といった多岐にわたる専門知識が問われます。施設を単なる建物として管理するのではなく、経営・環境・人材・コストの各観点から企業価値を高める知識体系を習得していることを証明するものです。
資格を取得すれば、専門性を客観的に証明でき、キャリア形成の大きな武器となります。体系的な知識を習得することで、業務改善の提案に説得力が増し、転職や関連部門での信頼性向上にもつながるでしょう。
また、専門家として業務遂行力を認められると、経営層や関係部門からの評価を得やすくなり、プロジェクトリーダーや新規施策の担当といった責任ある役割を担う機会も広がります。
FMを成功させるには、以下の3点が重要です。
FMを実行するには、予算の確保や全社的な協力体制が不可欠であり、そのためには経営層の理解を得ることが最優先です。FMを単なるコスト削減策ではなく、経営課題の解決や企業価値向上に直結する取り組みであると示すことで、経営陣の支持を得やすくなります。
例えば、生産性向上やESG経営の推進といった全社的なテーマと結び付けて提案すれば、経営層からの強いコミットメントを引き出すことが可能です。
FMは総務だけで完結せず、経理や情報システムなど多くの部署が関わります。部門ごとに目的や関心が異なるため、強固な連携体制を築くことが成功の鍵となります。
具体的には、定期的な情報共有会議を設け、設備更新やコスト削減の進捗を確認する仕組みづくりが有効です。また、役割分担を明確化し、部門横断で迅速に意思決定できる体制を整えることで、効率的にFM施策を実行できます。
FMの成果を客観的に把握し、取り組みを継続させるには、事前にKPI (重要業績評価指標) の設定が欠かせません。目的が曖昧なままでは改善効果を示せず、次の施策につなげるのが困難となります。
具体例としては、エネルギー効率を示す「光熱費削減率」や、修繕コストの削減額といった定量的指標があります。さらに、従業員満足度アンケートのスコアや定着率の変化といった定性的指標も活用することで、多角的に効果を評価し、改善に活かせるでしょう。
ファシリティマネジメント (FM) は、従来の施設管理を超え、経営資源としての価値を最大化する取り組みです。コスト削減や生産性向上、資産価値の維持・向上といった効果が期待でき、企業の競争力強化に直結します。
導入に際しては、現状把握から計画、実行、改善までを着実に進めることが求められます。さらに、経営層の理解や部門間の連携、効果測定を徹底することで、継続的な成果と安定した経営基盤の構築が可能です。
KDDIは、オフィス構築においてファシリティとICTの両面からお客さまに最適なソリューションをご提供します。お客さまの課題やニーズに対して、レイアウトの設計・デザインから、ネットワーク・ICT・内装を含めたオフィス構築を一気通貫でご支援します。ICTを組み込んだオフィス設計構築が可能で、拡張性や柔軟性を持たせやすく、将来的な技術の進歩や働き方の変化にも対応が可能になります。