『クラウド』の基本、そしてビジネスへの活用方法を紹介してきた本シリーズ。最終回はクラウド導入時のポイントについて解説していきます。まず実際にあったクラウド導入失敗事例を見てみましょう。
<ケース1: 社内の要望をとりまとめずに契約・導入を進め、失敗>
●関西のとある学習塾チェーン
大阪府下をはじめ、近県を含めて60の教室を展開する進学指導塾。講師の中にはアルバイト採用の者もおり教育レベルの標準化が求められていました。そこで『クラウド』を活用して講師間で知識・ノウハウを交換できる環境をつくりたいと考え、あるクラウドサービスの契約・導入を進めていました。
すると、これを聞きつけた、総務部からは経費精算を『クラウド』で実施したいという要望、また管理部からも生徒の個人情報を『クラウド』で管理したいという要望が次々に挙がり、必要な機能を追加することに。それに伴い、セキュリティ要件も引き上げなければならなくなりました。
<結果>
結果として、『クラウド』に、プライバシーマークの条件を満たすレベルでの高いセキュリティが必要となり、アクセス権を正社員のみに絞らなくてはならなくなりました。アルバイト講師がアクセスできない事態となってしまい、本来の目的であった、講師間コミュニケーション強化の実現はままなりませんでした。
<ケース2: 導入はしたもののサポート不足で活用されず、失敗>
●愛知のとある居酒屋チェーン
愛知県内で25店舗を展開する、ある居酒屋チェーンでは、従業員のシフト管理や給与計算、また教育用の動画配信やレシピの共有などを行うためにクラウドサービスを導入することにしました。
<結果>
導入後、仕様をよくよく確認してみると、サービスのサポート業務が日中しか実施されないため、夜間のトラブルに対して翌日まで対応ができないことが判明したのです。居酒屋チェーンゆえに深夜帯でも営業は行われており、そのような時に何かしらのトラブルが起きてしまっても、すぐに対処ができず、現場からは多くの不満の声が挙がってしまいました。
夜間サポートは別途有料で受け付けてはくれましたが、コストもかさみ、徐々に使われなくなってしまったとのことです。
このような事態にならないためには、導入時にどのような事に注意すればいいのでしょうか?
まずすべきことは、「何のために導入するのか」を明確にしていくことです。独立行政法人情報処理推進機構 (IPA) によると、クラウド導入により解決できる課題は、「業務効率化」、「ITの負担軽減 (コスト、人的負担含む)」、「ITを活用したビジネス展開」の3つに大別することができるとしています。
まずは、以下のチェックシートを元に、自社に同じような課題がないか確認してみましょう。
業務効率 | □ITで行う業務の効率を上げて間接コストを圧縮したい □社内でバラバラに保有されている情報を集約して有効活用したい □管理業務や間接業務のIT化率を上げて業務効率を改善したい □社外からでも、電子メールやスケジューラーなどを使いたい |
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ITの負担 | □ITの運用や維持管理のコスト (人手や手間) を削減したい □自社で運用しているサーバの運用負担を軽くしたい □専門要員を雇わずに最新のITを活用したい □手間をかけずに情報セキュリティを維持・向上したい □最新の機能を持つソフトウエアを使いたいが、更新するのが面倒だ □バックアップの作業負担やコストを軽減したい |
ITを活用したビジネス | □ITを活かした新規サービスビジネスを迅速かつ安価に開始したい □ITをベースに今展開している事業を、少ない投資で充実・拡大したい □経営管理や業務処理をIT化したい □受発注処理、顧客管理、商談管理等にITを導入したい □連携する企業間で情報共有を図り、新しい付加価値やサービスを開拓したい |
おそらく、複数の課題にチェックが付くことと思いますが、どの課題が最初に解決するべきなのかなど優先順位を付けておくことが重要です。
次に、各課題に対して、どこまでの範囲をどのようなクラウドで解決していくべきなのか、また実際の導入に当たっての運用を決めていくようにします。
IPAの『中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引』では、クラウドサービス導入前に検討すべきことを三段階でチェックすべきだとしています。
No. | 項目 | 内容 |
---|---|---|
(1) | 利用範囲の明確化 | クラウドサービスでどの業務、どの情報を扱うかを検討し、業務の切り分けや運用ルールの設定を行いましたか? |
(2) | サービスの種類とコスト | 業務に合うクラウドサービスを選定し、コストについて確認しましたか? |
(3) | 扱う情報の重要度 | クラウドサービスで取扱う情報の管理レベルについて確認しましたか? |
(4) | ポリシーやルールとの整合性 | セキュリティ上のルールとクラウドサービスの活用の間に矛盾や不一致が生じませんか? |
第一段階では「クラウドサービスを何に活用するか」「そのためにどのような種類のクラウドサービスを選定するか」を決める必要があるとしています。利用範囲を決めることでそれに見合ったサービスの選定、コストが合うのかといったこともチェックしなければなりません。同時にセキュリティ上のルールなど、安全面でのリスクも把握しておく必要があります。
上記のケース1の場合、この<第一段階 クラウドサービスの利用範囲について>の主に『(1) 利用範囲の明確化』に問題があったといえるでしょう。
そもそも社内で「クラウドで何をするか」について、同意がされていなかったことが大きなポイントです。その結果、色々な部署に言われるがままに、利用範囲が広がっていき、元々の目的のためには使いにくいシステムになってしまったのです。
No. | 項目 | 内容 |
---|---|---|
(5) | 利用管理担当者 | クラウドサービスの特性を理解した利用管理担当者を社内に確保しましたか? |
(6) | ユーザ管理 | クラウドサービスのユーザについて適切に管理できますか? |
(7) | パスワード | パスワードの適切な設定・管理は実施できますか? |
(8) | データの複製 | サービス停止等に備えて、重要情報を手元に確保して必要なときに使えるための備えはありますか? |
第二段階では、クラウドサービスの導入に際しての運用をどうしていくかを事前に決めておくことを推奨しています。
管理責任者は他業務との兼任でも構わないので、クラウドサービスを熟知した担当者をアサインするのが良いでしょう。サービスを利用する従業員全員に利用法や注意点、IDやパスワード管理について周知徹底する必要があるからです。また、万一のサービス停止に備えておくことも重要です。
No. | 項目 | 内容 |
---|---|---|
(9) | 事業者の信頼性 | クラウドサービスを提供する事業者は信頼できる事業者ですか? |
(10) | サービスの信頼性 | サービスの稼働率、障害発生頻度、障害時の回復目標時間などのサービスレベルは示されていますか? |
(11) | セキュリティ対策 | クラウドサービスにおけるセキュリティ対策が具体的に公開されていますか? |
(12) | 利用者サポート | サービスの使い方がわからないときの支援 (ヘルプデスクやFAQ) は提供されていますか? |
(13) | 利用終了時のデータの確保 | サービスの利用が終了したときの、データの取扱い条件について確認しましょう。 |
(14) | 契約条件の確認 | 一般的契約条件の各項目について確認しましょう。 |
上記のケース2の場合、この<第三段階 クラウドサービスの提供条件等について>の『(12) 利用者サポート』に問題があったと考えられます。新しいシステムの導入で、当初は単純なミス、使い方が分からないと入ったことが頻発することが予想されます。店舗の営業時間を考慮して『システムを使う時間』と『サポート時間』の確認をしなくてはならなかったのです。
また、クラウド提供会社からもサポートについての説明がなかったという問題点もあります。居酒屋チェーンという業態を踏まえ、サポートについての説明や提案をしなかったのは『(9) 事業者の信頼性』が低いと言わざるを得ないでしょう。
この『第三段階』は、いわゆる「業者の選定」に関することとなります。自社の業務に関して重要な業務やデータを『クラウドサービス』に委ねることになると考えると、サービス提供元の信頼性はきわめて重要な要素です。契約時の条件についてはもちろん、利用終了時のことまでを踏まえた提案・契約内容になっているかというチェックは必須でしょう。
全6回のシリーズで紹介した「クラウド入門」。クラウドは今後ますます普及していくことが予測されます。そしてきちんと活用すれば必ず会社に良い影響を及ぼすものになるでしょう。
そして、導入成功の過程で大切なのが、信頼できる提供会社を選択することです。世の中に同じような機能を持つクラウドサービスが溢れている中で、自社の課題解決実現のため、信頼できる提供会社を選択することが重要となってきます。
導入のご検討の際には、ぜひ選択肢の一つにKDDIを加えて頂ければ幸いです。
■今回紹介したツール・サービス
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